事実を整える

Nathan(ねーさん) 法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

「武漢マンションでアルコール消毒後エアコン爆発」デマ:動画は重慶・句容市のもの

武漢市のマンションでアルコール消毒後にエアコン爆発というデマ

「武漢マンションでアルコール消毒後エアコン爆発」という動画が立て続けに拡散されていますが、デマなので気を付けましょう。

「武漢のマンションでアルコール消毒後エアコン爆発」動画

武漢市のマンションでアルコール消毒後にエアコン爆発というデマ

2月7日に投稿されたこのツイートでは、大要「武漢で家全体をアルコール消毒後エアコンをつけたら爆発した。アルコール消毒はしないでください」という説明書きがなされています。

当該マンションの動画は1月1日の重慶のもの

A massive fire broke out in a residential building in Chongqing on New Year’s Day,

重慶消防署によると、元旦に重慶の住宅で大規模な火災が発生しました。

動画に映されているマンションが燃えたのは、今年の1月1日に重慶で発生した火災の様子でした。この記事の段階では原因は判明していません。

武漢市消防も、以下のようにフェイクニュースであることを指摘しています。

武漢市のマンションでアルコール消毒後にエアコン爆発というデマ

weiboより

句容市のマンションの火災も武漢のものとして拡散

 「武漢マンションでアルコール消毒後エアコン爆発」という説明の動画は他にも出回っていますが、これも既に武漢市消防によって否定されています。

実際には2月5日に句容市で発生した火災であると指摘されています。

武漢市のマンションでアルコール消毒後にエアコン爆発というデマ

weiboより

以上

エアロゾル感染は空気感染=飛沫核感染と別:飛沫感染と何が違うのか

バカボン君さんによる写真ACからの写真

結論から言うとエアロゾル感染と空気感染は別です。

ただ、医学界の中でも用語法の混乱があるようです。

※追記:新たに「マイクロ飛沫」というワードも出てきたので本エントリをブラッシュアップした記事を作りました。

中国公式保健部「新型コロナウイルスはエアロゾル感染も」

中国 新型コロナウイルスはエアロゾル感染

http://www.nhc.gov.cn/xcs/zhengcwj/202002/d4b895337e19445f8d728fcaf1e3e13a/files/ab6bec7f93e64e7f998d802991203cd6.pdf

 

 

BBCの中国語版によると、「中国の公式保健部は2月8日に、新型コロナウイルスがエアロゾル感染経路には「エアロゾル感染」も含まれることを確認した」としています。

武汉肺炎:中国确认新冠病毒经空气通过气溶胶传染 - BBC News 中文魚拓

原文は以下にある上記画像部分です。

关于印发新型冠状病毒肺炎诊疗方案(试行第五版 修正版)的通知_其他_中国政府网

新型冠状病毒肺炎诊疗方案(试行第五版 修正版)

※追記:上記画像の「尚待明确」は「未だ明確ではない」と読めないでしょうか?「エアロゾル感染」について説明してるのはあくまでもBBCの記事であって、国民健康衛生委員会総局の文書はエアロゾル=气溶胶については上記画像部分しか言及してません。

その前の文は「呼吸器からの飛沫と接触伝播が主な伝播経路」とあります。

※追記2:やはり未定義か

气溶胶传播,国家卫健委最新解释是“尚待明确” - 国内 - 新京报网

对于新冠肺炎的主要传播途径,今日,国家卫健委官方微信公号“健康中国”发布的文章中表示:“气溶胶和粪—口等传播途径尚待进一步明确。

新型コロナウイルス肺炎の主な伝播経路については、国民健康福祉委員会の公式WeChatアカウント「健康中国」が発表した記事において本日、「エアロゾルと糞口の伝播経路についてはさらに明確にする必要がある」と述べた。

9日上午,国家卫健委新公布了《关于印发新型冠状病毒肺炎诊疗方案(试行第五版 修正版)》。其中显示,经呼吸道飞沫和接触传播是主要的传播途径。气溶胶和消化道等传播途径“尚待明确”。

9日の午前、国立保健医療委員会は、「新型コロナウイルス肺炎の診断と治療(第5改訂版)」を新たに発表しました。呼吸の飛沫と接触伝播が主な伝播経路であることが示されています。エアロゾルと消化管の経路は「まだ定義されていません」。

エアロゾル感染と空気感染(飛沫核感染)の違いは水分を含むか

エアロゾル感染と空気感染(飛沫核感染)の違いは水分を含むかです。

飛沫核感染=空気感染の定義

飛沫核とエアロゾル感染

http://www.showa-u.ac.jp/sch/pharm/frdi8b0000001sb0-att/a1437547184715.pdf

飛沫と飛沫核の違いは水分があるか無いか、直径5μm(ミクロン)未満の粒径か否かであると説明されます。

飛沫の周囲が蒸発することで飛沫核となります。

この飛沫核を吸い込むことで感染するのが飛沫核感染、通称「空気感染」と言われています。医学書などでは飛沫核感染の方が用いられている気がします。

エアロゾルの定義

エアロゾル感染と空気感染

https://pub.nikkan.co.jp/uploads/book/pdf_file572fd6b8727a4.pdf

これに対してエアロゾル(aerosol)とは「分散相は個体または液体の粒子からなり、分散媒は気体からなるコロイド系」などと定義されます。

簡単に言えば空気中に安定して分散および浮遊している小さな液体又は固体粒子です。

飛沫核は水分が無いとの説明であるのに対してエアロゾルは水分を含んでいるということ、飛沫は5μm以上だがエアロゾルは5μm未満であるということが、(感染症学においては)前提のようです。

これ以上は界面化学に踏み込むので細かい説明は省きますが、気になる人は上記画像のリンク先を読むといいんじゃないでしょうか。

典型例は「加湿器の細かい霧」です。

レジオネラ症はレジオネラ属菌に汚染されたエアロゾルを吸入することによって感染(エアロゾル感染)することもあり、注意喚起されています。
参考:レジオネラ症 厚生労働省

小括:水分を含むか、5ミクロン未満か

  • 飛沫:水分で覆われている5μm以上の粒子
  • 飛沫核:水分を含まない5μm未満の粒子
  • エアロゾル:水分を含むが5μm未満の粒子

おそらくこれは確定的な定義ではないでしょうが、概ねこのように理解されています。

そのため、我々一般人としては飛沫とほぼ同じと捉えて良いでしょう。

国立感染症研究所のウイルス学,免疫学の研究者である峰宗太郎氏も以下指摘してます。

追記5:なお、微生物学者からは患者から発生する飛沫・飛沫核と、それ以外のものも含むエアロゾルを単純に区分けしないように注意喚起されています。

飛沫感染が主な感染経路でありエアロゾル感染は特殊な状況でのみ発生

エアロゾル感染と空気感染、飛沫核感染

https://square.umin.ac.jp/fittest/pdf/ft_text.pdf

感染症予防必携 第3版では、「医療現場で飛沫核感染を生じる可能性があり、注意すべきは、加湿器のようなエアロゾール(エアロゾル)発生装置の水の中で病原体が増殖した場合であろう。」などと説明されている通り、エアロゾル感染はかなり限定的な環境でなければ発生しないとみて良いでしょう。

この場合には空気感染用の対策をするように指示が書かれている所もあります。

そのため、クルーズ船などで発生している新型コロナウイルスの集団感染を考えるに際しては、接触・飛沫感染が主な感染経路であり、エアロゾル感染があるとしても稀であると考えられます。

ところで、上記説明文や画像には飛沫核感染(空気感染)の文脈でエアロゾル感染が記述されているのが分かります。

はい。実はエアロゾル感染が飛沫感染か飛沫核感染かは政府・医療機関の説明でも分かれているのです。それが(本質的ではない)混乱を呼んでると思います。

空気感染(飛沫核感染)=エアロゾル感染という分類をしてる記述

エアロゾル感染と空気感染の違い

厚生労働省

 

医療施設等における感染対策ガイドライン 厚生労働省

感染対策について 国立国際医療研究センター

インフルエンザの不顕性感染者が感染源となる頻度|Web医事新報|日本医事新報社

感染対策手技③ ノロとエアロゾル感染 誠愛リハビリテーション病院

感染対策としての呼吸用防護具 フィットテストインストラクター養成講座テキスト,フィットテスト研究会

飛沫核感染の A 型インフルエンザウイルス伝播様式に於ける重要度

学校において予防すべき感染症の解説 公益財団法人 日本学校保健会

感染症について 福山市

これらのページではエアロゾルによる感染を空気感染の一部として記述されています。

これらの中には「エアロゾル=飛沫核」という記述も見られますが、それは既存の分類方法が飛沫か飛沫核かしか存在せず、その振り分けの基準として「全体が5ミクロン未満の大きさか」という点を重視したものと思われます。

※追記:上記予想は当たってました。 

Respiratory Protection for Healthcare Workers: A Controversy

In spite of the distinction made between droplet and airborne transmission, current knowledge of aerosols indicates that there is no clear line differentiating droplet and airborne transmission, as currently defined, on the basis of particle size.

液滴と空中伝播の区別にもかかわらず、エアロゾルの現在の知識は、粒子サイズに基づいて現在定義されているように、液滴と空中伝播を区別する明確な線がないことを示しています。

これが公的な用語法の定義として扱われているため、どうしてもエアロゾル≒飛沫核と書かざるを得ないのだろうと思います。 

そして後述しますが、"transmission"=「伝播」と"infection"=「感染」の用語法にも混乱が見られるようです。

飛沫感染=エアロゾル感染という分類をしている記述

エアロゾル感染は空気感染と同じ?

日本救急医学会

感染経路 日本救急医学会・医学用語解説集

文京区 感染経路について

IASR 28-6 インフルエンザ,感染制御

これらのページではエアロゾル感染=飛沫感染と分類した記述になっています。

これは「水分を含むか含まないか」という点を重視したか、エアロゾル感染し得るとしても主な感染経路は飛沫感染であるという理解なのかもしれません。

「エアロゾル感染」を独立した感染経路と扱っている記述は見ることはありません。

エアロゾル感染はインフルエンザでも注意喚起されている

インフルエンザの不顕性感染者が感染源となる頻度|Web医事新報|日本医事新報社

エアロゾル感染は新型コロナウイルスに特徴的なものではなく、インフルエンザ等の他のウイルスでも起こり得るものだということです。

ところで、記事冒頭に紹介したBBCチャイナではエアロゾル感染についての項目で、集団伝染病の予防のためにかなり注意するよう書かれています。

武汉肺炎:中国确认新冠病毒经空气通过气溶胶传染 - BBC News 中文

气溶胶传染与飞沫传染途径的不同之处在于传播距离。飞沫和接触传染,都是在近距离范围内发生,而气溶胶的传播距离远,增加了无接触感染的风险。

エアロゾルと液滴の伝送の違いは、伝送距離です。飛沫と接触感染は近距離で発生しますが、エアロゾルは長距離を移動するため、非接触感染のリスクが高まります。

避免空气和接触传播:家庭成员要避免接触可疑症状者身体分泌物,不要共用个人生活用品

空気や接触による感染を避ける:家族は、疑わしい症状のある人の体からの分泌物の接触を避け、個人の日用品を共有しないでください。

どうも中国と日本とで、エアロゾル感染に対する危機感というか捉え方に温度差があるのが気になります。

もしかしたら、そもそも中国側の発信がおかしいのかもしれません。

追記3:冒頭に追記したように、BBCの中国語版の誤訳の可能性。上記「エアロゾル感染」の説明文は、中国国民健康衛生委員会総局の文書にはありません。

追加4:誤訳ではなく、BBCは上海市の記者会見ベースで書いており共産党中央の発表と齟齬があるという可能性があります。 

日本語でのtransmissionとinfectionの用語法の問題か

エアロゾル伝播と感染

国立国際医療研究センター

"transmission"や"infection"を日本語で用いるときに体系的な整理をしてこなかった。

どうも、そういう事情が伺えました。

なので、用語法が医学界においても混迷しているという事が言えます。 

まとめ:エアロゾル感染と空気感染は別と捉えて良い

  1. エアロゾル感染と空気感染は別
  2. しかし、おそらくエアロゾル感染(エアロゾル伝播)は日本における医学的扱いが定まった用語ではない
  3. そのため各所で説明にブレが生じている

エアロゾル感染が空気感染(飛沫核感染)か飛沫感染のどちらに分類されるのか?という点はあまり本質的ではなく、エアロゾル感染がどのような場合に生じるものなのか、我々が気を付ける点は何か?の方が重要ですし、思考経済としても合理的です。

エアロゾル化するのはどのような場合なのかを考えれば、エアロゾル感染があり得るとしても、これまでと行動は変える必要は無さそう、ということになりそうです。

ただ、この考え方も更新されないとも限らないので、一般人としては情報を注視していくことが必要でしょう。

以上

 

ウイルス感染症以外にマスクの効果はあるのか?喉の乾燥・花粉症・PM2.5など

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「感染者以外はマスクをする必要が無い」

これって本当なんでしょうか?

ウイルス感染症以外に喉の乾燥・花粉症・PM2.5に対するマスク効果について書いてあるものについて調べました。

ウイルス等の感染症拡散対策・予防としてのマスクの効果

新型ウイルス マスクの予防効果ある? ない? | NHKニュース

ウイルスなどによる感染症予防、拡散防止策としてのマスクの効果としては、感染者からの拡散防止効果が一定程度認められます。

ただ、非感染者にとっての予防効果は、科学的に有意な結果は無いということになっています。

しかし、そこから「感染者以外はマスクをする必要が無い」と言われると、モヤモヤを感じる人が多いんだろうと思います。

私たちがマスクをする理由は何も感染症対策に限った話ではないのですから。

花粉症対策にはマスクは有効と厚生労働省も

マスクの効果

厚生労働省

的確な花粉症の治療のために

マスクの着用も有用です。通常のマスクに湿ったガーゼを挟み込むだけ
でも効果があります。花粉症用のマスクでは、かえって息苦しい感じがす
ることもあるようです。

花粉症環境保健マニュアル 環境省

外出時の服装やマスク、メガネなどで花粉を防ぎ、帰宅した時には家の中に花粉を持ちこまないようにしましょう。

花粉症対策の用途としてのマスクは有効であるということが厚生労働省や環境省のページにあります。市井のお医者さんも「ある程度」の効果があると言っています。

※花粉症は感染症ではありません。

花粉症にマスクって効くの?医師おすすめの“効果的なフルーツ”も | 女子SPA!

正しいマスクの着け方は、花粉症対策にも有効

――花粉症の予防や対策として、もっとも効果的な方法を教えてください。

大谷義夫先生(以下、大谷)「花粉症は、目や鼻から花粉が入らなければある程度症状を抑えられるので、いちばんはマスクとゴーグルです。高性能マスクを正しく着用すれば、9割以上花粉をカットすることができるとされています。

高性能ではないものだとどうなのか?

これについて、マスクの内側(マスクと顔の間)と外側を浮遊する0.3マイクロメートル以上の微粒子を測定して「漏れ率」を算出した民間実験をした記事がありました。

(2ページ目)マスクでは風邪も花粉も防げない?買うだけお金の無駄 プリーツ型も立体型もダメ | ビジネスジャーナル

「プリーツ型」の場合は7銘柄が80%以上の漏れ率で、そのうち3銘柄は90%を超えていました。残りの2銘柄も65%を超える漏れ率

「立体型」はどうでしょうか。6銘柄のうち4銘柄が60%を超える漏れ率で、そのうち3銘柄は80%を超えていました。そして、残り2銘柄はそれぞれ約60%、約40%の漏れ率という結果でした。

市販のものであっても、立体型であれば「半減」くらいの効果が期待できそうです。

私の個人的な経験上も、マスクをしているからといってシーズン中に花粉症の症状が出ることは防ぐことはできませんが、ある程度の花粉吸引を防ぐ効果は実感しています。

環境省はインナーマスクをするとかなり防げるらしいが

インナーマスクの花粉対策効果

環境省

インナーマスクの花粉対策効果

環境省

ちなみに花粉症環境保健マニュアル 環境省では、「インナーマスク」をすると「花粉除去率」が99%らしいです。

しかし「花粉除去率」が何なのか、どの実験結果から引っ張ってきたのかがまったく書いていないため、本当に信じて良いのかわかりません。

実際の使用感で見極めればよいんじゃないでしょうか。

花粉などの捕集性能を謳ったマスクについて

花粉などの捕集をうたったマスク(発表情報)_国民生活センター

5.消費者へのアドバイス
1)マスク自体の花粉の捕集性能は、素材の違いにかかわらずいずれの銘柄でも高く、それらの性能を生かすには、マスクが顔にフィットしていることが重要である

2004年の報告ですが、花粉などの捕集性能を謳った市販マスクについて、そのような性能を謳ってないマスクと比べて捕集効果に差は見られないとの結果が出ています。

それよりもマスクが顔にフィットしているかが重要だと指摘しており、先述の「漏れ率」の実験とも整合性がありそうです。

黄砂PM2.5に対するマスクの効果

日本医師会:健康の森 「PM 2.5」防ぐことはできるの?

マスクを着用する事で、PM2.5の吸入を減少させることが出来ますが、インフルエンザや花粉症などの対策に用いる一般用マスクでは様々な性能のものが市販されていて、PM2.5への効果は様々です。一方、医療用や産業用の高性能な防じんマスク(N95※1やDS1※2以上の規格のもの)の場合は、微粒子捕集効果の高いフィルターを使っているため、PM2.5の吸入を減らす効果があります。
ただし、その際も顔の大きさに合ったものを選んで空気がもれないように着用しないと十分な効果が得られません。また、空気の流れが制限されるために運動すると息苦しくなります。

黄砂の影響が強いPM2.5に対するマスクの効果は、市販のものであっても無いよりはマシくらいの効果はありそうです。

着用してないマスクそれ自体のPM2.5の捕集能力については以下の論文があります。

PM2.5とマスク 明星敏彦

マスクは防塵マスクと比べて性能は低いもののサブミクロンの粒子に対して95%以上の粒子捕集能力を持っていることが分かる。

PM2.5は粒子が小さいのでフィルタの間を抜けるというコメントは間違いである

なお、この論文でもマスクの捕集効果は医療機関が使うようなものでない限りあまり差はないということにも触れています。ちなみに捕集効果は構造の密度ではなく静電気力によるものだと書かれています。

喉の潤い、乾燥対策にも有効

睡眠時マスクによるかぜ症状の軽減効果 川本 将浩・猪原 秀典

経験学的に,マスクは上気道の保温保湿や周囲への感染予防に有意義であるので,清潔に注意して用いることが勧められている。
  今野らは経皮的に頸部気管腔に刺入した微細熱電対の結果から,外気の寒冷乾燥の程度が強いほど,また鼻呼吸よりは口呼吸,安静呼吸よりは深呼吸の際にマスクの効果が大きいと報告している.しかし,その保温保湿効果が生態にもたらす作用については解明されておらず,マスクが臨床的にどの程度の効果があるのかを調査した報告は筆者の知る限りない.本研究の結果,日中だけでなく就寝時にもマスクを装着していたほうが,かぜ症状は早期に軽減することがわかった.

耳鼻咽喉科医による1つの研究結果としては、ウイルス感染予防ではなく、一般的なかぜ「症状」に対する軽減効果はある、という結果が出ているものがあります。

この論文の価値・重みについてはわかりませんが、少なくとも経験学的にマスクによる保湿効果があるということは認められていることが分かります。

 

まとめ:感染症予防に焦点が当たりすぎ

この時期(2020年1~2月)のマスメディアの記事やお医者さんのSNSアカウントの発信では、新型コロナウイルス等の感染症の感染拡大・予防のためにマスクは有効か?という文脈でのみ語られ、それが当然の前提として書かれています。

しかし、どうやら一般人の中には「感染症」についての効果とは思わず、凡そ漠然とした「マスクの効果」を考えているので、そうした発信に何だかモヤっとしているのだろうと思います。

実際、冒頭に引用したNHKニュースに対するはてなブックマークのコメントでは感染症予防効果についてのみ言及している発言に対して苛立ちを覚えている人が多数います。

これから花粉症の季節なのですし、一般的なかぜ「症状」との関連でもマスクの効果を語るべきなんじゃないでしょうか。

以上

イギリスも日本を「汚染国」指定:ほか台湾,タイ,シンガポール、韓国など

イギリスも日本、台湾、タイ、シンガポール、韓国など「汚染国」指定しました。

イギリス政府も日本など「汚染国」指定

Coronavirus: latest information and advice - GOV.UK

2月7日に更新された新型コロナウイルスに関するイギリス政府のページ

中国
タイ
日本
大韓民国
香港
台湾
シンガポール
マレーシア
マカオ

過去14日間にこれらの地域のいずれかから英国に戻り、咳、発熱、息切れの症状が現れた場合は、インフルエンザのときのように屋内にとどまり、他の人との接触を避けること、NHSに電話して直近でこれらの国々に旅行したことを伝えるよう要請しています。

※「汚染国」などという表現はしていません。

「汚染国」認定の基準は何か

BBCが保健省の説明を記述しており「これらの国は、新型コロナウイルスの影響を受けた地域からの飛行機旅行の量、他の旅行ルートや報告された症例数によって特定されたものであり、リストは審査中」とのことです。

欧州疾病予防管理センターSituation update – worldwideのデータによると2月7日時点の感染者数は以下です。

アジア:中国(31 217)、日本(86)、シンガポール(30)、タイ(25)、大韓民国(24)、マレーシア(14)、台湾(16)、ベトナム(12)、アラブ首長国連邦(5)、インド(3)、フィリピン(3)、カンボジア(1)、ネパール(1)、スリランカ(1)。
アメリカ:アメリカ(12)およびカナダ(7)。
オセアニア:オーストラリア(15)。
ヨーロッパ:ドイツ(13)、フランス(6)、イギリス(3)、イタリア(3)、ロシア(2)、ベルギー(1)、フィンランド(1)、スペイン(1)、スウェーデン(1)。

これを見るとこのまま感染が拡大すればアメリカ、オーストラリア、ドイツ、ベトナムも「汚染国」認定される日も近いのではないかと思います。

以上

731部隊細菌戦を事実認定した裁判:中国人集団国賠訴訟について

「731部隊細菌戦」を訴訟上事実認定した中国人集団国賠訴訟について。

731部隊細菌戦国家賠償請求の中国人集団訴訟

東京地方裁判所判決 平成14年8月27日 平成9(ワ)16684

731部隊細菌戦国家賠償請求訴訟についてWEB上で見れる判決は上記です。

結果は中国人原告らが敗訴です。

その後はウィキを見る限り(731部隊細菌戦国家賠償請求訴訟 - Wikipedia)、東京高裁は(平成14年(ネ)4815号)で原告控訴棄却、最高裁は上告棄却・上告不受理決定がされています。

リンク先から見れる文書はちょっとだけ長いですが、判決文そのものは18ページで終わります。それ以降は原告の主張や被告の主張です。なので、一般的な判決文の体裁とは少し趣が異なります。

細菌戦の事実を認定「ペストノミを空中散布」

東京地方裁判所判決 平成14年8月27日 平成9(ワ)16684 (PDF13頁)

(イ) 1940年(昭和15年)から1942年(昭和17年)にかけ
て,731部隊や1644部隊等によって,次のa,f,g,hのとおり中国各地に対し細菌兵器の実戦使用(細菌戦)が行われた。
a 衢県(衢州)
(a) 1940年(昭和15年)10月4日午前,日本軍機が衢県上空に飛来し,小麦,大豆,粟,ふすま,布きれ,綿花などとともにペスト感染ノミ(小袋に入ったものもあった。)を空中から撒布した。当日午後には,県知事の指示で,住民を総動員して散乱している投下物の収集・焼却が行われた。
(b) 10月10日以降,上記の投下物のあった地域で病死者が出始め(ただし,その病気がペストかどうかは確認されていない。),同じころからネズミの死体が続々と発見されるようになった。11月12日にペスト患者が初めて確認され,投下物のあった地域においてペスト患者が多発した。
衢県で11月12日以降に発生したペストは,日本軍機が投下したペスト感染ノミがネズミにペストを流行させ,これがヒトに感染したものと考えるのが合理的である。

731部隊細菌戦国家賠償請求の中国人集団訴訟では、東京地裁が細菌戦の事実を認定し、「ペストノミを空中散布」と言っています。

以降、他の地域におけるペストによる死者数を認定し、ペスト散布との因果関係を肯定しています。

ただ、その背景には以下の事情があります。

反証無し、民事裁判上の事実認定

東京地方裁判所判決 平成14年8月27日 平成9(ワ)16684 (PDF12頁)

 (3) そこで,上記(2)の前段の判断基準に基づき本件における国会の立法不作為の違法の有無を検討することとするが,その前提として,必要な範囲で,原告らの主張する本件細菌戦の事実の有無についてみておくこととする。
ア この点については原告らが立証活動をしたのみで,被告は全く何の立証(反証)活動もしなかったので,本件において事実を認定するにはその点の制約ないし問題がある。また,本件の事実関係は,多方面に渡る複雑な歴史的事実に係るものであり,歴史の審判に耐え得る詳細な事実の確定は,最終的には,無制限の資料に基づく歴史学,医学,疫学,文化人類学等の関係諸科学による学問的な考察と議論に待つほかはない。しかし,そのような制約ないし問題があることを認識しつつ,当裁判所として本件の各証拠を検討すれば,少なくとも次のような事実は存在したと認定することができると考える(認定に供した証拠は,省略。)。

被告(国)らは反証活動をしなかったとあります。

別紙4に「被告の主張」があるのですが、法律の適用がないことを主張するのみで、細菌戦の事実については反証していませんでした。なぜこんな異例の争い方をしているのかは謎です。

しかし、細菌戦の事実は「争いの無い事実」とはなっていなかったことから、裁判所が訴訟における事実の存否の判断を下したということです。

その上で、中国人らが敗訴したのは日中共同声明によって日本国の国際法上の国家責任が無くなったため、日本国に請求して満足をえることは出来なくなったからという理由でした。

日本政府はいわゆる細菌戦を否定も肯定もせず

その後の日本政府ですが、いわゆる細菌戦を肯定したことはありません。

衆議院議員服部良一君提出七三一部隊等の旧帝国陸軍防疫給水部に関する質問に対する答弁書

というより、この答弁書では「時間がかかるから調べていない」と言っているにとどまります。否定も肯定もしていないということでしょう。

ちなみに文部省の教科書検定において731部隊の記述について全部削除する必要があるとの修正意見を付し、右削除を合格の条件としたことが争われた事案で最高裁が「七三一部隊に関しては、本件検定当時既に多数の文献、資料が公刊され…七三一部隊の存在等を否定する学説は存在しなかったか、少なくとも一般には知られていなかった」と判示しているが、これは歴史学上の正しさを担保したわけではなく、単に文部大臣の裁量判断の考慮事項として学界においてそういう状況であったと認定しているに過ぎない。

まとめ:歴史的事実と訴訟上の事実

731部隊による細菌戦を語る際に、中国人集団訴訟における裁判所の事実認定が持ち出されることはあまりないように思います。

それは、あくまでも原被告が提出した証拠資料に基づく訴訟上の事実認定に過ぎず、歴史的事実を明らかにしたものと捉えることはできないという考えが細菌戦の存在を認める論者にもあるからだと思われます。

以上

731部隊「丸太=マルタ」の初出はハバロフスク裁判公判記録:森村誠一悪魔の飽食ではない

f:id:Nathannate:20200207012545j:plain

公判記録七三一細菌戦部隊 不二出版

「丸太=マルタ」の初出はハバロフスク裁判の公判記録です。

731部隊の川島清・柄澤十三夫が人体実験の被験者を「丸太=マルタ」と証言

ハバロフスク裁判公判記録七三一細菌戦部隊:柄澤十三夫の供述「丸太」

公判記録七三一細菌戦部隊 不二出版

丸太」という表現の初出はハバロフスク裁判の公判記録において記述されている、被告人柄澤十三夫の供述調書と被告人川島清の公判証言です。
※戦時中のメモ等に書かれているという指摘がありますが、それが事実でも公になったのはこちらが早いのではないでしょうか。

人体実験の被験者を隠語で「マルタ」と呼んでいたという証言があります。

一応、公判証言の方が重みがあると一般的に考えられているので「川島証言」の方が取り上げられると思います。

この公判記録は1950年に【外国語図書出版所モスクワ】つまり当時のソ連の国営出版社(国の宣伝機関)が世界各国に向けて各言語で同時出版しています。

※「丸太」というのは公判記録ー七三一細菌戦部隊 (1982年)の不二出版の表現だが、後述のように英語版と意味に齟齬が無い。

ハバロフスク裁判公判記録七三一細菌戦部隊:川島清の公判証言「丸太」

公判記録七三一細菌戦部隊 不二出版 川島清証言

ハバロフスク裁判公判記録の英語版では"logs"

ハバロフスク裁判被告人川島清の証言"logs"

ハバロフスク裁判の公判記録を記述した資料は各国語で書かれており、英語版では"logs"となっています。

これは直訳すると「丸太」を意味します。

出典:Materials on the Trial of Former Servicemen of the Japanese Army Charged with Manufacturing and Employing Bacteriological Weapon

ハバロフスク裁判の性質

ハバロフスク裁判の性質について。

ハバロフスクとはソ連極東の地方であり、戦後、十五万人以上の日本人を抑留した最大の抑留地でした。

ハバロフスク裁判とは、1949年12月25日から12月30日までの6日間に、主に関特演(関東軍特種演習)や関東軍防疫給水部(いわゆる七三一部隊)などに関して抑留日本将兵を裁いた軍事裁判を指します。

感覚的には東京裁判を酷くしたようなもので、弁護人の接見も無いような状況でした。

そもそも日本兵のシベリア抑留は国際法とポツダム宣言の規定に違反する不法な長期抑留でした。簡潔にまとまっている評価としては以下が手っ取り早いと思います。

NHK,これでいいのか 旧ソ連のフェイク裁判を鵜呑み「731部隊」特番を斬る! | Web「正論」|Seiron

ソ連軍による日本人731部隊捕虜の「教化」の可能性

ハバロフスク裁判の日本人731部隊捕虜である被告人や証人については、ソ連軍による「教化」が行われていたことを指摘する声があります。

この点はここでは詳述しないが取り急ぎ長勢了治氏の月刊正論2018年5月号を参照。

731部隊の人体実験の被験者の遺骨が見つかっていない

奇妙なことに、731部隊による人体実験が行われたとするならば、被験者の遺骨があることが想定されるのですが、現在までにそのような遺骨が発掘されたことはありません。

戦後、ソ連が支配した地域であればそれは容易だったはずであるにも関わらず。
※ハバロフスク裁判においても遺骨についての記述があるのか…(現在個人的に精査中)

そのため、1989年 に新宿区の旧陸軍軍医学校跡地に建設予定の国立感染症研究所建設現場で人骨が発見された後、2010年に厚労省が発掘調査をしたことがニュースになるほどです。
参考:旧陸軍軍医学校跡地、謎の人骨を発掘調査 厚労省 :日本経済新聞

参考:"日, 731희생자 의혹 유골 발굴키로" : 네이버 뉴스

しかし、その後も日本政府はペスト菌を散布したりしたという意味の細菌戦を示す資料は確認されていないと答弁書を閣議決定しています。

衆議院議員服部良一君提出七三一部隊等の旧帝国陸軍防疫給水部に関する質問に対する答弁書

戦後学界の研究は信用ならない

戦後、日本では公職追放・教職追放が行われました。

これによりアメリカやソ連(共産圏)にシンパシーを感じるものが大量に研究・教育現場に入り込んでいきました。そのため、戦後における戦前の日本軍関係の歴史研究は全面的に信用するわけにはいきません。

日本軍全体で見れば、人体実験があったか無かったかで言えば、在ったと言う方向になると思います(帝銀事件捜査中における伴繁雄証言など多数存在する)(ソ連による人体実験もあったという認識は必要)。

しかし、ハバロフスク裁判についてはソ連による支配の影響下に置かれた人間による証言である可能性が極めて高いものであり、そこでの発言を「史実」とすることはできません。

これに対しては、731部隊の捕虜に対してはアメリカ側による尋問調査が行われており、そちらと齟齬が無いという事から内容に真実性があると言う者が居るが(たとえばこれ)ソ連側の影響が取り除かれていたのかどうかについての考察がまったく無く、とても学術的な論考をしているとは思えない。

ちなみに文部省の教科書検定において731部隊の記述について全部削除する必要があるとの修正意見を付し、右削除を合格の条件としたことが争われた事案で最高裁が「七三一部隊に関しては、本件検定当時既に多数の文献、資料が公刊され…七三一部隊の存在等を否定する学説は存在しなかったか、少なくとも一般には知られていなかった」と判示しているが、これは歴史学上の正しさを担保したわけではなく、単に文部大臣の裁量判断の考慮事項として学界においてそういう状況であったと認定しているに過ぎない

まとめ:森村誠一の悪魔の飽食だけではない

731部隊については森村誠一の悪魔の飽食によって有名になっただけに、それを論難しさえすれば良いと考えている者が多いが、まったく不十分です。

特に「丸太=マルタ」については、初出のハバロフスク裁判の正当性が問題視されるべきであって、それに取り組まない限りはソ連とその思想を継承した者たちの掌の上で踊っているだけに過ぎません。

以上