事実を整える

Nathan(ねーさん) 法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

タミフルの副作用による異常行動(飛び降り)の因果関係と10代使用制限:抗インフルエンザウイルス薬

抗インフルエンザウイルス薬であるタミフルと、副作用による異常行動(飛び降り)の因果関係と10代使用制限について。

タミフルの10代使用制限は解除済み

「タミフル」の10代使用制限を解除 ─異常行動への注意喚起は継続[医療安全情報UpDate]|Web医事新報|日本医事新報社

厚生労働省は21日、抗インフルエンザウイルス薬7剤の添付文書改訂を日本製薬団体連合会に指示した。
「タミフル」(一般名:オセルタミビル)については、服用後の異常行動による転落死事例を理由に10代への使用を「原則として差し控える」としていた「警告」の記述を削除する。インフルエンザ罹患時には、薬の種類や服用の有無に関係なく異常行動が発現するという、厚労省研究班の調査報告に基づく判断。

タミフルの10代使用制限は2018年8月21日に解除済みです。 

薬 生 安 発 0821 第 1号平成30年8月21日 厚生労働省医薬・生活衛生局医薬安全対策課長

なお、タミフル以外の抗インフルエンザウイルス薬については、年代別の制限はありませんでした。

抗インフルエンザウイルス薬の添付文書

タミフルの副作用による異常行動(飛び降り等)との因果関係

タミフルの副作用による異常行動(飛び降り等)の因果関係については、従前から慎重な評価が加えられてきましたが、前記の厚生労働省通知の直前には以下の決定がありました。

抗インフルエンザウイルス薬の安全対策について 平成30年7月13日 医薬安全対策課

○ 平成 21 年以降の非臨床研究及び 10 年に及ぶ疫学研究の科学的な知見を総括し、以下の事実から、タミフル服用のみに異常行動と明確な因果関係があるとは言えないことが確認された
・ 抗インフルエンザウイルス薬の処方の有無、種類にかかわらず、インフルエンザ罹患時には異常行動が発現
・ タミフル及び他の抗インフルエンザウイルス薬ともに、発現頻度は10 代と 10 歳未満とで明確な差はない
○ インフルエンザ罹患時に異常行動が発現していることを鑑みれば、タミフルを含め、薬剤と異常行動の因果関係の否定も困難であり、因果関係は未だ不明と言わざるをえないが、タミフルのみ積極的に 10 代患者の原則使用差し控えの予防措置をする必要性は乏しい。
○ 今後は、タミフルの 10 代患者のみに強い注意喚起を継続するのではなく、いずれの薬剤の服用時も含め、インフルエンザ罹患時の患者全般に幅広く異常行動のリスクがある旨の注意喚起を強め、より一層医療関係者、保護者への周知徹底を図るべきである。

薬剤と異常行動の因果関係の否定も困難 」という文言があるように、「因果関係が否定された」とは言えませんが「明確な因果関係があるとは言えない」という結論が出ています。
※「因果関係が否定される」と言い切られることは非常に稀。

また、10代の患者へのタミフル使用が差し控えられていましたが、それ以外の年代には使用が差し控えられていなかったということも分かります。

そのうえで、インフルエンザ罹患時には薬剤の服用をしているかどうかは関係無く、異常行動のリスクがあるとして、注意喚起がなされています。

議論の経過と関連研究については以下で報告されています。

タミフルと異常行動等の関連に係る報告書 薬事・食品衛生審議会 医薬品等安全対策部会 安全対策調査会

抗インフルエンザウイルス薬と異常行動の検索結果について

現状、抗インフルエンザウイルス薬と異常行動と関連付けられるものとしてタミフルが有名ですが、後者で検索すると「異常行動」や「副作用」がサジェッションに上がることがあり、検索結果も2007年の厚労省の「警告」文書が上位表示されるなど、情報が更新されていません。

この事は厚労省に意見しましたが、反映されるとしても時間がかかるかもしれません。

「10代へのタミフル解禁後に異常行動が増加したからタミフルが原因だ」というデマについて

検索すると「10代へのタミフル解禁後に異常行動が増加したからタミフルが原因だ」というデマを書いているページがありますが、以下を引用していたので見ていきます。

平成29年度第8回薬事・食品衛生審議会薬事分科会医薬品等安全対策部会安全対策調査会 資料

タミフル解禁による異常行動の増加というデマ

タミフル解禁後の2018/2019シーズンは、インフルエンザの流行が過去10シーズンでピーク時患者が最も多く、患者数が2番目に多かったという事情があります。

しかし、重度の異常な行動の報告数は4番目でした。

異常行動の服用薬別の報告件数では、タミフル(オセルタミビルリン酸塩)とその他の薬、そして服用無しとでは特に違いはないということが分かります。

それぞれの母数を考慮した評価においても、これは変わりません。

タミフル等の数字だけをみても、異常行動等の割合が意味のある増え方をしている事実はありません。

タミフルと異常行動の因果関係

令和元年10月29日令和元年度第9回安全対策調査会 抗インフルエンザウイルス薬の副作用発現状況の推移

デマページは「医師が報告を控えているだろう」とかなんとか書いていますが、まぁ、そうするインセンティブなんて何も無いので、意味の無い妄想です。

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京都の12歳~15歳ワクチン接種の町に「接種やめろ」と電凸を呼びかけたアカウント

ワクチン電凸

悪質な行為。

京都の12歳~15歳ワクチン接種の町に「接種やめろ」

「子どもへのワクチン接種やめろ」電話殺到 12~15歳に接種の町に「殺すぞ」脅迫も、業務に支障|医療・コロナ|地域のニュース|京都新聞

 町によると、朝から「子どもへの接種はリスクがある」「接種をやめるべき」などと問いただす電話が相次いだ。3回線あるコールセンターはパンク、町は30分後にコールセンターの電話を止めた。

 電話は午後5時までに97件あり、全て町外からだった。メールは36件、ファクスは8件だった。20~30分間応対することもあり職員から「仕事にならない」との声も出た。中には「人殺し」「殺すぞ」など悪質なものもあった。町は京都府警宮津署に相談した。

 接種が報道された6日午後以降、会員制交流サイト(SNS)などで、町の子どもへの接種に反対する書き込みが相次いでいた。町の電話番号を記載し、抗議の電話を促す内容も見られた。

京都の自治体で12歳~15歳に対してワクチン接種が可能になった町に対して「接種やめろ」 と抗議をする者が相次ぎ、脅迫もあったようです。

COVID-19ワクチン『コミナティ筋注』日本における添付文書改訂について

SNSで自治体の番号を書いて抗議を呼びかけたアカウントですが、以下が悪質です。

電凸を呼びかけたアカウント

魚拓

https://www.facebook.com/permalink.php?story_fbid=2822974371301200&id=100007659943223

このアカウントは脅迫をしたわけではありませんが、自治体電話番号を載せて他のアカウントにも抗議を呼びかけており、当該ツイートは数百リツイートされ拡散され、これに看過される者も出ています。

これが悪戯による業務妨害として軽犯罪法違反になるかは分かりませんが、一般的に見て悪質な行為であると言えます。

自治体住民ではない者が希望者の機会を奪っている

ワクチン接種は任意です。

したがって、自治体住民のうちの希望者が接種をするための回線に、子どもでもなく、その親でもなく、自治体住民でもない部外者が電話をして「やめろ」と言うことは、まったくその資格が無い行為です。

その行為を、自分だけでなく、SNSを通じて不特定多数の者にも呼び掛けています。

後述しますが、通常の判断能力があれば間違えることのないワクチンに関する認識に関して、この者は曲解してもいますから、妨害の故意が認められるでしょう。

よって、「意見を言っているだけだ」「誤解に基づいてるから悪くない」という言い訳は通用しません。

ですから、あとは捜査機関が立件するほどのものと考えるかどうかという程度問題だと言えます。

回線がパンクしてコールセンターが止まったということは、本来、ワクチン接種を希望する者が予約をする機会を奪ったわけで、およそ正当性などありません。

ワクチンデマに基づく正当性の無い妨害行為

また、この行動に至った認識も異常なものです。

当該アカウントは「新型コロナは20代以下の死亡者は居ない」と言うが、感染者はそれなりに存在し、それが媒介者となって他人に感染伝播させます。
新型コロナの後遺症が残る可能性もある

集団免疫を獲得するためのワクチン接種であり、そのためには人口のうち高い割合の人間が接種する必要がある。この際に死亡者が出ない年代だからといって接種しないと、その親祖父母世代を殺す可能性が高くなる。

子供は感染しても死なないかもしれないが、子供に親や祖父母を殺させるのは良いことなんだろうか?

新型コロナワクチンは(ファイザー製)、感染予防・発症予防・重症化予防・死亡予防の効果が認められています。

また、「新型コロナワクチンは死亡者85名」などと、厚労省の副反応疑い報告を引っ張ってきていますが、これは現時点では副反応による死亡の因果関係が認められていません。因果関係があるということををただちに意味しないということは他の資料から明らかです。

また、死因等から、将来的にも認定される可能性はないだろうと推測されています。

日本では1日に3000人が死んでいますから「ワクチン接種の後」だからといって軽々に因果を認めるのはおかしい。

https://www.mhlw.go.jp/content/10906000/000784439.pdf

本当にワクチンで死亡するなら、イスラエルはワクチンによる大量の死者が出ているはずですが、そういう事実は一切ありません。

「治験中」というのもアメリカにおける緊急承認で正式承認が未だ、という話です。

それも今夏に正式承認されますし、日本においては既に正式承認されており、日本では法的な意味において「治験」は終了しています。

第Ⅳ相試験はワクチン接種が社会実装後も継続審査される類のものなので、これが終わっていないからといって「ワクチンの効果はわからない」とはなりません。

既に10億回以上打たれているワクチンで「効果がわからない」と言うなら、他のワクチンも、ワクチン以外のものも、「効果は永遠にわからない」となります。

適切な喩えは思い浮かびませんが、「遺伝子組み換え食品は身体に悪いから」と言って食品メーカーに「生産をやめろ」と言ったり「生産をやめるよう電話して呼びかけましょう」と喧伝するようなものではないでしょうか。

ワクチンデマに基づく正当性の無い妨害行為を放置してはダメでしょう。

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本多平直「50歳の自分が14歳と同意性交で捕まるのはおかしい」「12歳と20歳代でも真剣な恋愛がある」

本多平直議員、中学生との性交を正当化

立憲民主党の本多平直議員の発言のヤバさと気持ち悪さについて。

立憲民主党の本多平直「50歳の自分が14歳と同意性交で捕まるのはおかしい」

「14歳と同意性交、捕まるのはおかしい」立憲議員発言:朝日新聞デジタル

複数の関係者によると、5月10日に開かれたWTで本多平直衆院議員(56、比例北海道ブロック)が「例えば50歳近くの自分が14歳の子と性交したら、たとえ同意があっても捕まることになる。それはおかしい」と発言した。同月下旬のWTでも「12歳と20歳代でも真剣な恋愛がある」「日本の『性交同意年齢』は他国と比べて低くない」との趣旨の意見を述べたという。

「複数の関係者」ではなく、具体的な名前が出て事実関係を認めました。

立民、性交同意年齢めぐる「50歳が14歳と」発言削除 - 産経ニュース

寺田学座長はWT後、記者団に、50代議員が5月10日の会合で「成人と中学生が真摯(しんし)な恋愛関係になった場合、性交をすることは自然なことで罰するのは望ましくない」と主張する中で、「50歳近くの自分が14歳の子と性交したら、たとえ同意があっても捕まることになる。それはおかしい」と発言した事実を認めた。

「50歳近くの自分が14歳と同意性交で捕まるのはおかしい」

以外にも

「12歳と20歳代でも真剣な恋愛がある」

という発言をしていたというのは驚きです。

性交と年齢に関する現行法上の規制を確認します。

刑法・児童福祉法・青少年保護育成条例上の年齢制限

大阪府青少年条例「18歳未満とは真剣交際以外は処罰対象」は間違い - 事実を整える

刑法上では、強制わいせつ・強制性交等・準強制わいせつ及び準強制性交等・監護者わいせつ及び監護者性交等の罪について、13歳未満の者に対しては同意が無いものとみなす扱いが為されています。

では、13歳以上は?というと、児童福祉法や各地方自治体の青少年保護育成条例なんかの名前が付いている条例で、別途18歳未満の者との「淫行」や「淫行をさせる行為」の禁止が規定されています。

児童福祉法

第四条 この法律で、児童とは、満十八歳に満たない者をいい、児童を左のように分ける。

省略

第三十四条 何人も、次に掲げる行為をしてはならない。
六 児童に淫行をさせる行為

東京都青少年の健全な育成に関する条例

第二条 この条例において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。

一 青少年 十八歳未満の者をいう。

(青少年に対する反倫理的な性交等の禁止)

第十八条の六 何人も、青少年とみだらな性交又は性交類似行為を行つてはならない

では、「淫行」とはどういう意味なのか?について、福岡県の条例での話ではありますが、その他の条例でも妥当すると考えられている有名な最高裁判決があります。

最高裁判所大法廷 昭和60年10月23日判決 昭和57(あ)621 福岡県青少年保護育成条例違反事件

本条例一〇条一項の規定にいう「淫行」とは、広く青少年に対する性行為一般をいうものと解すべきではなく、青少年を誘惑し、威迫し、欺罔し又は困惑させる等その心身の未成熟に乗じた不当な手段により行う性交又は性交類似行為のほか、青少年を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱つているとしか認められないような性交又は性交類似行為をいうものと解するのが相当である。けだし、右の「淫行」を広く青少年に対する性行為一般を指すものと解するときは、「淫らな」性行為を指す「淫行」の用語自体の意義に添わないばかりでなく、例えば婚約中の青少年又はこれに準ずる真摯な交際関係にある青少年との間で行われる性行為等、社会通念上およそ処罰の対象として考え難いものをも含むこととなつて、その解釈は広きに失することが明らかであり、また、前記「淫行」を目して単に反倫理的あるいは不純な性行為と解するのでは、犯罪の構成要件として不明確であるとの批判を免れないのであつて、前記の規定の文理から合理的に導き出され得る解釈の範囲内で、前叙のように限定して解するのを相当とする

「心身の未成熟に乗じた不当な手段or自己の性的欲望を満足させる対象と扱う」

これらが認定される場合に罪となることを判示しています。

「婚約中の青少年又はこれに準ずる真摯な交際関係」があれば処罰対象ではない、とは言えますが、「それらが無ければ処罰対象である」という関係ではありません。

本多平直「成人と中学生が真摯な恋愛関係の性交を罰するのは望ましくない」は現行法上正しい

したがって、本多平直議員が「成人と中学生が真摯(しんし)な恋愛関係になった場合、性交をすることは自然なことで罰するのは望ましくない」と言っている部分は、現行法上の理解としてはただしい「ことに」。

もっとも、「50歳近くの自分が14歳の子と性交したら、たとえ同意があっても捕まることになる。それはおかしい」という部分は、本当に真摯な恋愛関係があると言えるのか?という話になってしまいがちであり、不要な例示だと思います。

「12歳と20歳代でも真剣な恋愛がある」は現行法上アウト

他方で、本多平直議員は「12歳と20歳代でも真剣な恋愛がある」とも発言していたと朝日新聞が報じていますが、これは現行法上アウトなので、「刑法改正しましょう」という信念が無ければ言っちゃダメな発言です。

もちろん、法的な観点では無く、素朴な概念上はそうした状況もあり得るでしょうが、法的には「真剣な恋愛」は無いものとされ、処罰対象です。

性交同意年齢は判断能力の未熟な青少年を性的に保護するために設けられたものですから、それを否定するなら相応の根拠を論じるべきでしょう。

結局、本多平直議員は現行法体系のことなんて何も知らずに、漠然とした感覚で発言していただけだったということだと思います。

そこに信念なんて無いし、国民生活に対する思慮ではなく、もっぱら自己の欲棒から現実が離れているのが嫌だっていう性質の発言としか思えません。

性交同意年齢については現行法上の規制の運用と現在の改正議論を踏まえて発言するのが大前提であって、本多議員のようにお気持ちだけ論じると言うのは、立法論としてもアウトなわけです。

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丸川珠代NEJM論文に「事実誤認や誤解」報道の解説:プレイブックと科学的根拠

丸川珠代とNEJM論文、プレイブック

『丸川珠代大臣がNEJM論文に「事実誤認や誤解」と反論』

という報道、認識が誘導されている人らが見受けられたので、整理します。

丸川珠代NEJM論文に「事実誤認や誤解」報道

丸川五輪相 米医学誌に反論「明確な事実誤認や誤解、一方的な認識がある」
5/28(金) 10:21配信 デイリースポーツ

丸川珠代五輪相(50)が28日、閣議後の定例会見を行い、医学界で最も権威を持つ医学誌と称される「ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン(NEJM)」が、東京大会での新型コロナウイルス対策をまとめたプレーブックについて「科学的な根拠に基づいていない」と批判したことについて「明確な事実誤認や誤解、一方的な認識がある」と、反論した。

東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会担当大臣の丸川珠代議員が、東京五輪での新型コロナウイルス対策をまとめたいわゆる「プレイブック」について、NEJM(The New England Journal of Medicine)で掲載された論文が問題点を指摘したことにつき記者に問われた際に「事実誤認や誤解」と反論したと報道しています。

丸川オリンピック担当大臣の会見録とNEJM論文

丸川議員の「反論」は、令和3年5月28日の閣議後定例記者会見における記者からの質問に対する回答においてなされました。記者からは「アメリカの医学誌」とだけ。

東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会推進本部

対象となるNEJM論文は【Protecting Olympic Participants from Covid-19 — The Urgent Need for a Risk-Management Approach
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMp2108567

筆頭著者のAnnie K. Sparrow, M.D., M.P.HのTwitterアカウントは以下。

プレイブック:アスリート・チーム役員公式プレイブック第2版

プレイブック」とは

アスリート・チーム役員公式プレイブック 2021年4月 第2版】のことです。

政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長に対する質疑と答弁においても「プレイブック」につき言及があり、6月に最終版たる第3版が発行される予定です。

NEJM論文は「科学的な根拠に基づいていない」という批判ではない

NEJM論文、東京五輪のプレーブック批判に対して丸川珠代が事実誤認

https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMp2108567#figures_media

NEJMの当該論文ではデイリースポーツ記事にあるような「科学的な根拠に基づいていない」という言い方ではなく、"not built on scientifically rigorous risk assessment"=「科学的に厳密なリスク評価に基づいてない」であったり、"not informed by the best scientific evidence"=「最高の科学的証拠に基づいてない」という記述があります。

「甘い」とは言ってるが非科学的とは言っていないわけです。

論文の指摘の「まとめ」的な表は上掲。

彼女らの考える「ベストプラクティス」からは、現状のプレイブックでは不十分である、という指摘です。

さて、ここまでの前提で、丸川議員の反論の妥当性を検討していきます。

丸川珠代「事実誤認や誤解に基づく指摘」

(記者)
 先日、アメリカの医学誌が、4月に公表したプレイブックバージョン2を見て、科学的リスクに基づいていないですとか、感染対策が不十分だという指摘があります。この件について大臣の受止と、またバージョン3はいつごろお示しになる予定か、分かる範囲で教えていただければと思います。
(大臣)
 ありがとうございます。このご指摘の論文は、もう既に皆さん、取材でお読みいただいていると思いますけれども、私どもがきちんと読ませていただきましたところ、明確な事実誤認や誤解に基づく指摘が見受けられます。
 まず、明確な誤認についてですが、論文ではアスリートへの検査頻度が明確ではないとしていますが、プレイブックには、アスリートに対しては、原則として毎日検査を実施するということが明示してあります。
 また、WHOの協力を得るようにと指摘をされておりますが、プレイブックは、五者協議に参加している我々も含めたメンバーに加えて、WHOも参加するオールパートナーズタスクフォースというグループの知見も得て作成をされております。
 また、文中、試合中選手は携帯電話を持っていない、ウェアラブルをつけるべきだというご指摘がございますけれども、私どもが理解している限りで言いますと、オリンピックの競技というのは衆人環視のもと、全ての競技が何らかの形で映像に収められます。これ、OBSが作業されますが。こういう形で進められますので、このご指摘はあまり合理的ではないのではないかと思っております。
 また、誤解や一方的な認識に基づいた指摘ということで申し上げます。論文では、NBAやNFLのような、アメリカのプロスポーツにおける対応をスタンダードとして、これと比較をする形で優劣を指摘されております。
 しかしながら、IOCのバッハ会長が19日に開催された、IOC調整委員会の冒頭挨拶で指摘をされましたように、コロナ禍においても、世界の様々な国で430を超える国際大会が開催をされ、5万4,000人を超えるアスリートが参加し、無事に大会が開催されております。こうした様々な大会の経験をもとに、東京大会の準備を進めているところです。
 さらに、論文では、先日公表されたプレイブックバージョン2の内容について指摘をしているということでございますが、先ほど申し上げたような事実誤認がございますのと、プレイブックは、最終版を6月に公表することにしております。
 ですので、まだ検討途上の内容についてご指摘になっているということを、書いておられる側が理解をされていないのだろうと思います。
 一方、論文がおっしゃっているのは、東京大会の中止を求めるものではなく、東京大会を開催するための緊急の行動が必要だという趣旨で書かれているものと認識をしております。
 この論文は医学界でも権威のある専門誌に掲載されたものと承知をしておりますが、先月28日に公表した変異株等にも対応した、追加的な対策を含めて科学的な知見をさらにブラッシュアップして、6月のプレイブックに反映したいと考えております。
 国内外の専門家の皆さまに、こうした東京大会における対策の内容が正確に伝わるように、丁寧に説明をしてまいりたいと思います。

「アスリートへの検査頻度が明確ではない」「WHOの協力を得るように」について

丸川珠代とNEJM論文、プレイブック

丸川珠代とNEJM論文、プレイブック

「アスリートへの検査頻度が明確ではない」については、プレイブックに明らかに「原則として毎日検査が実施」などの記載が確認できます。

よって、「事実誤認」という指摘は正当です。

これは「科学的事実」に対するものではなく、プレイブック上の記載に関する事実に対するものなので、容易に言及できたのでしょう。

とはいえ、このプレイブックの記述ですが、項目立てが上手くない印象です。

大会前キャンプ・入国時・大会時といったフェイズ毎に分かれて記述され、それぞれのページは色分けが為されていますが、それによって記述の見落とし、「明確ではない」という認識が生まれたのではないかと思ってしまいます。

「WHOの協力を得るように」に対しては、丸川大臣は「プレイブックは、五者協議に参加している我々も含めたメンバーに加えて、WHOも参加するオールパートナーズタスクフォースというグループの知見も得て作成をされております。」としています。

これは外から見えない部分かもしれないので軽く指摘する程度で良いでしょう。

「ウェアラブルをつけるべき」に対する丸川大臣の誤認

NFL COVID-19 PROTOCOLS

「スマートフォンではなくウェアラブル端末による追跡をするべき」に対して。

丸川大臣は「文中、試合中選手は携帯電話を持っていない、ウェアラブルをつけるべきだというご指摘がございますけれども…オリンピックの競技というのは衆人環視のもと、全ての競技が何らかの形で映像に収められます。これ、OBSが作業されますが。こういう形で進められますので、このご指摘はあまり合理的ではないのではない」という認識ですが、これは論文の主張を誤認しています。

論文は、ウェアラブルについて「試合中」という限定はしていません。

前掲表でも「スマートフォンよりもウェアラブルの方が有効だ」という主張ですから必然的にそうなるし、その際に参照しているのがアメリカNFLにおける手法ですから。

NFL COVID-19 Protocols | NFL Football Operations魚拓

「誤解や一方的な認識に基づいた指摘」:NFL基準、検討中の内容についての指摘

また、丸川大臣は「誤解や一方的な認識に基づいた指摘」として、論文は「NBAやNFLルールとの比較をしているだけ」「検討中の内容についてのご指摘」としています。

確かにこの部分はAnnie K. Sparrow 氏の言うNFLやNBAのプロトコルに合わせるべき必然性はないですし、最終版ではないのはそうですが、「誤解や一方的な認識に基づいた指摘」という表現をわざわざ使うのはちょっと疑問です。

こんな角が立つ言い方をする必要は無いと思うのですが。

もっとどっしりと構えてた方が良いんじゃないか、と思います。

丸川大臣はNEJMに寄稿して反論すべきか?⇒NO

「NEJMは権威のある雑誌だから…」 という書き方をする医師がそれなりに見受けられて残念だったのですが、「権威ある専門誌に掲載される論文」にも種類があります。

たとえば、LancetではのNYTモトコリッチの記事をベースに日本で中国人差別があったとする内容の論文がありました。

これは科学的研究を内容とするものではないのみならず、【「#中国人は日本に来るな」がツイッターでトレンドになっている】という虚偽の事実を記述している記事をベースにした不当なものです。

今回のNEJM論文も、科学的研究内容そのものではなく、「プレイブック」の記述に関するものですから、取り扱いとしては厳格なものではないでしょう。

形式面で捉えると、「NEJM論文で批評されたらNEJM論文に寄稿して反論せよ」というのが通常は妥当するにしても、今回の話は政策的判断が関与するものですから、敷衍して考えることはできない。科学的事実の正誤を争うものではないのだから、反論する意義が希薄。

実質面で捉えると、改訂が予定されている2版の内容を前提にした批判文書についていちいち論文化して反論する意味は無い。改訂時に参考にすれば足りる。

したがって、「丸川大臣はNEJMに寄稿して反論すべきか?」という問いについては、明確に"NO"ということになります。

まとめ

  • NEJM論文は「甘い」とは言ってるが非科学的とは言っていない
    ⇒デイリースポーツ記事や質問した記者の使用した言葉の認識に引っ張られるな
  • 丸川大臣の反論は事実誤認については正当なものがあるが、それ以外の点で丸川大臣の側の誤認がある
  • さらに他の点では疑問視される言動があるのではないか⇒角の立つ言葉
  • 丸川大臣がいちいちNEJMに寄稿して反論する必要はないし、それは無駄

こんなところでしょう。

当該論文には尾身教授も言及した「選手以外の関係者の規律をどうするか」も指摘していて、極一部の事実誤認を理由に否定されるべきものではないと思います。

メディアは無用な対立を煽る傾向にありますが、大臣や専門家、読者らはそういうものに引きずられないようにしたいものですね。

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マナー講師爆誕:里見宏「流れ作業で注射はワクチン打つ態度ではない」

ワクチンを打つ態度:里見宏、ワクチンマナー講師

ワクチンのマナー講師爆誕

里見宏「流れ作業で注射はワクチン打つ態度ではない」

魚拓

里見宏 氏が「流れ作業で注射する姿は人にワクチンを打つ態度ではない」「人権意識など全くない」とツイート。

ワクチン接種のマナー講師が爆誕しました。

なお、Facebookでも同様の投稿が見つかります。

https://www.facebook.com/hiroshi.satomi.39/posts/4129533923801783

公衆衛生学博士、国立予防衛生研究所の里見宏

里見宏|プロフィール|HMV&BOOKS online

1947年生まれ。公衆衛生学博士。国立予防衛生研究所食品衛生部に勤務。

上掲の説明がいつのものか不明ですが、Twitter上のプロフィールと合わせて、公衆衛生学博士、健康情報研究センターの里見宏 と特定可能でした。

里見宏「コロナワクチンは本当に有効かどうかもわからない」

魚拓

里見宏 氏は「コロナワクチンは本当に有効かどうかもわからない」とも言及。

アンチワクチンの方でした。

「栄養状態と自然治癒力」というワードがあるあたり、そういう界隈の人間ですね。

異次元の住人なので、説得は無理でしょう。

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