事実を整える

Nathan(ねーさん) 法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

【Colabo弁護団】中川弁護士への懲戒請求書記載の暇空茜の住所を仁藤夢乃の訴訟で流用:個人情報保護法・弁護士倫理違反?

懲戒されると思う

中川弁護士への懲戒請求書記載の暇空茜住所を第三者訴訟で流用

【Colabo弁護団】暇空茜=水原清晃の住所・個人情報の入手方法は弁護士倫理違反?中川卓弁護士への懲戒請求から? - 事実を整える

暇空茜氏から中川弁護士に対する懲戒請求書に記載されている暇空氏の住所を第三者の訴訟で流用されたのではないか?という疑惑があり、その件でも別途懲戒請求が為されていましたが、本当に流用していたことが確定しました。

しかも、この「住所トラップ」すら不要だったようです。

つまり、堂々と「流用しても適法だ」という解釈なのだから、提訴記者会見の際にそう答えれば良かったのに、と思います。「適法な」という普通の表現ではなく「的」というふんわりワードを法曹が使うというのは、やはりそういうことだったのかぁと。

個人情報取扱事業者による個人データの違法な第三者提供に当たるか

個人情報保護法

(第三者提供の制限)
第二十七条 個人情報取扱事業者は、次に掲げる場合を除くほか、あらかじめ本人の同意を得ないで、個人データを第三者に提供してはならない。
一 法令に基づく場合
二 人の生命、身体又は財産の保護のために必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるとき。
~省略~

【懲戒請求書に記載されている懲戒請求者の住所を、自己が訴訟提起するためではなしに、他人の代理人として当該懲戒請求者に対する別件訴訟提起の際の相手方の特定のために利用する行為が、個人情報保護法に反する違法か。】という問題。

自己が訴訟提起する場合には適法の先例がありますが、本件はそうではありません。

  1. 個人情報取扱事業者が
  2. 個人データを
  3. 第三者に提供
  4. 法令に基づく場合又は「人の生命~保護のため必要」
  5. 「本人の同意」を得るのが困難

これらの要件の検討をしていきます。

著作権法コンメンタール<改訂版>I【電子書籍】などの著者でもある小倉秀夫弁護士が書いた懲戒請求書の写しの交付と個人情報を参照或いは反論しつつ書いていきます。

1:Colabo弁護団、中川卓弁護士は個人情報取扱事業者か

まず、Colabo弁護団・中川卓弁護士は個人情報取扱事業者と言えるのか。

個人情報保護法16条2項では以下定義されています。

2 この章及び第六章から第八章までにおいて「個人情報取扱事業者」とは、個人情報データベース等を事業の用に供している者をいう。

小倉弁護士によれば

懲戒請求書の写しの交付と個人情報

そもそも弁護士が、個人情報取扱事業者にあたるかということが問題となります。正直、コンピュータの検索の機能が向上したため、弁護士の通常業務についていえば、個人情報データベースを組んで利用する必要は必ずしもなく、したがって、個人情報データベースを組んでいる弁護士は必ずしも多くないと思います。強いていえば、年賀状用の住所録くらいしかデータベース化していない弁護士って結構多いと思います。この場合、個人情報データベース等を事業の用に供していると言えるのかという問題が生じます。

このような見立てであり、中川弁護士らが個人情報データベース等を構築しているかどうか、という事実認定問題が最初に来ることになります。

ところで…

日弁連:個人情報の取扱い・保有個人データに関する公表事項等について

日本弁護士連合会:個人情報の取扱い・保有個人データに関する公表事項等について

日弁連のHPの記述を見ると、「個人情報データベースのカテゴリ別」として「懲戒請求に関する個人情報」があり、会則等が定める事務の管理を目的として必要な範囲で利用すると宣言しています。

まぁ、単位会がどういう実務環境を整えているのかは知りませんが…

この記述通りの実態があるならば、弁護士会は個人情報取扱事業者であり、その構成員である弁護士も同視されるということになると思われます。

2:懲戒請求書上に記載されている請求者の住所は「個人データ」か

さらに、懲戒請求書上に記載されている請求者の住所は「個人データ」か。

懲戒請求書の写しの交付と個人情報

第三者提供が原則規制されているのは、「個人情報」ではなく「個人データ」です。個人データとは、「個人情報データベース等を構成する個人情報」をいうとされています(個人情報保護補第2条第6項)。「個人情報データベース等」とは、 個人情報を含む情報の集合物であって、特定の個人情報を電子計算機を用いて検索することができるように体系的に構成したもの(個人情報保護法第2条第4項第1号)、及び、これに含まれる個人情報を一定の規則に従って整理することにより特定の個人情報を容易に検索することができるように体系的に構成した情報の集合物であって、目次、索引その他検索を容易にするためのものを有するもの(同第2号、個人情報の保護に関する法律施行令第1条)をいいます。

※一部修正しています。

本件では仮に弁護士会が個人情報取扱事業者=構成員たる弁護士も個人情報取扱事業者となるような実態があるのであれば、懲戒請求書の情報は個人データとなり得ます。

これまた事実認定問題だと言えます。

参考:通則ガイドライン2-6

3:第三者提供なのか:Colabo・仁藤夢乃の訴訟代理人として

本件では「第三者に提供した」ことは確定事実と言えるのですが一応触れます。

弁護士中川卓個人宛てに届いた文書上の情報を、依頼人の弁護士として利用するのは利用する人間が同じなので「第三者」ではない…とはなりません。

「訴訟代理人」なのですから、そこで扱われる情報はすべて依頼人=Colabo・仁藤夢乃に提供されたと解することになります。

4:法令に基づく場合or人の生命、身体又は財産の保護のため必要か

仮に「個人情報取扱事業者」「個人データ」をクリアしたとして

法令に基づく場合」「人の生命、身体又は財産の保護のために必要がある場合」として正当化されるか。

「人の財産保護のため必要」に該当するものとして不法行為に基づく損害賠償請求権の満足を得るための訴訟提起が含まれるのだ、という解釈を展開することは有り得ますが、果たしてこのような見解は認められるのか。小倉弁護士はこの辺りの理屈を詳細に書いています。

「法令に基づく場合」についても、小倉弁護士は以下書いています。

懲戒請求書の写しの交付と個人情報

民事訴訟を提起するにあたって被告の氏名及び住所を訴状に記載することは民事訴訟法及び民事訴訟規則上の原告の義務なので、個人情報の当該目的外利用は「法令に基づく場合」(個人情報保護法第16条第3項第1号)にあたるとする考え方

※追記※:過去の私はいいこと言っていた

しかし、この見解を許せば何でも訴訟提起目的であればどんな個人情報であっても利用できるということになるため、私はこの理由づけは賛同できません。

法令に基づく場合として想定されているのは通則ガイドライン3-1-5によれば警察の捜査関係事項照会に対応する場合や裁判官の発する令状に基づく捜査に対応する場合など、「他人から強制される」類の話であって、自己の気分一つで提起可能な民事訴訟で訴状に求められる要件だからといって本法16条3項1号の法令に基づく場合には当たらないと考えられます。

※※追記終わり※※

なお、司法解釈を確定するものではないですが、個人情報保護委員会が考えているものを参考にしてみると…

個人情報保護委員会 個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)

(2)人の生命、身体又は財産の保護のために必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるとき(法第18条第3項第2号関係)

~省略~

事例1)急病その他の事態が生じたときに、本人について、その血液型や家族の連絡先等を医師や看護師に提供する場合
事例2)大規模災害や事故等の緊急時に、被災者情報・負傷者情報等を家族、行政機関、地方自治体等に提供する場合
事例3)事業者間において、暴力団等の反社会的勢力情報、振り込め詐欺に利用された口座に関する情報、意図的に業務妨害を行う者の情報について共有する場合
事例4)製造した商品に関連して事故が生じたため、又は、事故は生じていないが、人の生命若しくは身体に危害を及ぼす急迫した危険が存在するため、当該商品の製造事業者等が当該商品をリコールする場合で、販売事業者、修理事業者又は設置工事事業者等が当該製造事業者等に対して、当該商品の購入者等の情報を提供する場合
事例5)上記事例4のほか、商品に重大な欠陥があり人の生命、身体又は財産の保護が必要となるような緊急時に、製造事業者から顧客情報の提供を求められ、これに応じる必要がある場合
事例6)不正送金等の金融犯罪被害の事実に関する情報を、関連する犯罪被害の防止のために、他の事業者に提供する場合

例示されている事例の中でColabo vs 暇空茜事案に一番近いのは「意図的に業務妨害を行う者の情報について共有する場合」です。

Colabo弁護団としては「暇空氏があることないことを発信している」という主張をしているのですが、仮にそうだとしても「情報について共有」に、「その者への訴訟提起」が含まれているかというと、文言上は厳しいと言わざるを得ません。

5:「本人の同意を得るのが困難」か?暇空氏は訴訟ウェルカムの姿勢

最後に、「本人の同意を得るのが困難」か。

暇空氏はColaboに対して「訴訟もウェルカム」の姿勢であったため、本人の同意を得ることができたと言えるかもしれません。ただ、「住所特定まではそっちで頑張れよ」という腹積もりだったかもしれません。通常、「訴訟のために住所を教えろ」とオンライン上で言われて応じる人は稀であると考えられますから、特段の事情が無い限りそれだけで同意可能性を認定して良いのかどうか。

本件では弁護団が暇空氏に対して訴訟提起のために住所を教えてくれ、と言ったという事情があったとは言われていませんし、そうした努力をしていることが伺えない本件では、同意困難な事情は認められない、と認定されると思われます。

個人情報保護法上の利用目的変更の通知・公表義務違反か

個人情報保護法17条以下には取得した【個人情報】の扱いが書かれています。

(利用目的の特定)
第十七条 個人情報取扱事業者は、個人情報を取り扱うに当たっては、その利用の目的(以下「利用目的」という。)をできる限り特定しなければならない。
2 個人情報取扱事業者は、利用目的を変更する場合には、変更前の利用目的と関連性を有すると合理的に認められる範囲を超えて行ってはならない。
(利用目的による制限)
第十八条 個人情報取扱事業者はあらかじめ本人の同意を得ないで、前条の規定により特定された利用目的の達成に必要な範囲を超えて、個人情報を取り扱ってはならない。

(取得に際しての利用目的の通知等)
第二十一条 個人情報取扱事業者は個人情報を取得した場合は、あらかじめその利用目的を公表している場合を除き、速やかに、その利用目的を、本人に通知し、又は公表しなければならない。
2 個人情報取扱事業者は、前項の規定にかかわらず、本人との間で契約を締結することに伴って契約書その他の書面(電磁的記録を含む。以下この項において同じ。)に記載された当該本人の個人情報を取得する場合その他本人から直接書面に記載された当該本人の個人情報を取得する場合は、あらかじめ、本人に対し、その利用目的を明示しなければならない。ただし、人の生命、身体又は財産の保護のために緊急に必要がある場合は、この限りでない。
3 個人情報取扱事業者は利用目的を変更した場合は、変更された利用目的について、本人に通知し、又は公表しなければならない。
4 前三項の規定は、次に掲げる場合については、適用しない。
一 利用目的を本人に通知し、又は公表することにより本人又は第三者の生命、身体、財産その他の権利利益を害するおそれがある場合
二 利用目的を本人に通知し、又は公表することにより当該個人情報取扱事業者の権利又は正当な利益を害するおそれがある場合
三 国の機関又は地方公共団体が法令の定める事務を遂行することに対して協力する必要がある場合であって、利用目的を本人に通知し、又は公表することにより当該事務の遂行に支障を及ぼすおそれがあるとき。
四 取得の状況からみて利用目的が明らかであると認められる場合

すべて「個人情報取扱事業者」が名宛人となっています。

懲戒請求書は氏名や住所、その他の記述と併せて特定の個人を識別することができるものと言えるから、懲戒請求書が「個人情報」であることに論はまたないでしょう。

その上でColabo弁護団は暇空氏の懲戒請求書を訴状に添付しているのだから、それら全部=個人情報を利用していることになります。

ここで、目的の範囲外の利用の制限と目的変更時の通知又は公表が求められています。

懲戒請求書上の住所は利用目的が懲戒請求関連のために利用されるということ明らかなのですが、その場面を超えて依頼人の訴訟のために利用することは明らかに目的外利用です。

中川弁護士が懲戒請求以外のために暇空氏の住所を利用するという目的変更を行ったと解しても、それに関して本人に通知したり公表したり、といった事情はあったのか。

訴状の送達それ自体が目的変更の通知とみなせるのか?

なお、通知・公表しなくともよい例外事情はありません。

小括:個人情報取扱事業者と認定されるかの事実認定問題

「個人情報取扱事業者」の要件を充たしていれば第三者提供の制限違反、利用目的変更の通知・公表義務違反となりそうです。

ただ、これらの行為に対する罰則は規定されていません。

なお、「自己若しくは第三者の不正な利益を図る目的」が認められた場合は別です。

第百七十四条 個人情報取扱事業者(~省略~)若しくはその従業者又はこれらであった者が、その業務に関して取り扱った個人情報データベース等(その全部又は一部を複製し、又は加工したものを含む。)を自己若しくは第三者の不正な利益を図る目的で提供し、又は盗用したときは、一年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。

発信者情報開示請求乃至は民事事件記録閲覧+職務上請求等での暇空氏の住所特定のコストを掛けたくないために懲戒請求書を流用し、それらの手続にかかる費用の発生を避けた、ということが「不正な利益を図る目的」と言えるのかどうか。

刑法134条の秘密漏示罪にあたる?弁護士法上の職務とは

刑法

(秘密漏示)
第百三十四条 医師、薬剤師、医薬品販売業者、助産師、弁護士、弁護人、公証人又はこれらの職にあった者が、正当な理由がないのに、その業務上取り扱ったことについて知り得た人の秘密を漏らしたときは、六月以下の懲役又は十万円以下の罰金に処する。

どうも、ネット上を見てると「刑法134条の秘密漏示罪にあたるとして処罰対象なのか?」という言説があるのですが、これは「その業務上取り扱ったこと」に当たらないと考えられます。

弁護士法

(弁護士の職務)
第三条 弁護士は、当事者その他関係人の依頼又は官公署の委嘱によつて、訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件に関する行為その他一般の法律事務を行うことを職務とする。
2 弁護士は、当然、弁理士及び税理士の事務を行うことができる。

弁護士への懲戒請求に対する対応は個人として単位弁護士会乃至は日本弁護士連合会に対して行うものであり、上掲の弁護士の職務ではないので、そこで知り得た事柄は「業務上取り扱った」には該当しないでしょう。

なお、弁護士職務基本規程では「共同事務所における規律」の中に「執務上知り得た秘密」という用語があるように、この辺りを使い分けています。

弁護士としての倫理上問題があり、懲戒処分を受けるか:日弁連の個人情報保護方針等

さて、違法な行為でなくとも、弁護士倫理上問題があるとして懲戒処分の対象にはなり得ます。

過去記事でも紹介したように、SNS上の弁護士らの判断は割れています。

  1. まったく問題ない
  2. 倫理上問題があるがこのような場合は懲戒にまでは至らない
  3. 倫理上問題があるが暇空氏の場合には懲戒にまでは至らない
  4. 倫理上問題があり、懲戒相当である

で、ちょっと日弁連のページを調べていたらこういうものが。

日弁連 個人情報の保護に関する法律案に対する意見書

加えて、法案第28条第2項では、「第三者に提供される個人データ」に関しては、一定の要件の基にこれを許容しているが、そもそも、第三者に提供することを前提とした個人情報の取得を認めて良いのかは疑問のあるところであり、その理由は大綱日弁連意見書第5、4(11頁)で述べた。 

また、仮にかかる要件の基に個人データが第三者に提供される場合でも、提供を受けた第三者は、個人情報取扱事業者として本法に基づく義務を当然に負担するべきであり、例外はあってはならない。

これは会長声明ではなく弁護士会としての総意という体裁で書かれていますから、現在でも有効なんでしょう。

Colabo弁護団は、中川弁護士以外にも7名程度居ます。単位弁護士会が異なる弁護士も居ます。提供を受けた第三者も個人情報取扱事業者であるとすると…

ここから先は書きませんが、本件、懲戒相当の判断も出る可能性は残っているな、という感覚です。

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