事実を整える

Nathan(ねーさん) 法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

髙岸聡子「貧困ビジネスのような活動を行う団体については除外されるべき」:第5回困難女性支援基本方針有識者会議での修正理由その2

結構ズバズバ言っててヒヤヒヤした

髙岸聡子「貧困ビジネスのような活動を行う団体については除外されるべき」

第5回困難女性支援基本方針有識者会議(1月16日実施)において、髙岸聡子構成員から、仮の困難女性支援基本方針案についてクリティカルな指摘があったことなどを紹介しましたが、全部を取り上げられなかったので改めて本稿で紹介します。

前回記事で紹介した「特定団体のみ優遇するような記述避けるべき」については、資料には書いてませんが、会議の場で「貧困ビジネスのような活動を行う団体については除外されるべき」と発言していました。

一時保護につき「心身の健康の維持のために」という要件があった方針案(仮)

困難な問題を抱える女性への支援に係る基本方針等に関する有識者会議(第5回)

仮の方針案において、一時保護をする場合について「⑦ 支援対象者について、その心身の健康の維持を図るために保護することが必要と認められる場合(法施行規則第1条第7号)」(施行規則は未だ中身が決まっていない)と書かれた部分がありました。

それについて髙岸氏は以下指摘。

・⑦を削除していただきたい。
「心身の健康の維持(確保?)のために保護することが必要」とはどのような状態をもって一時保護が必要と判断するのか不明であり要件にはならないため。
 新法9条3項3号の「心身の健康の回復」は、一時保護を要すると認められるような困難な状況にある女性について、心身の健康上の問題がある場合に、必要な援助を行うことを規定していると解するべきである。
 心身の健康の回復が必要な場合も、居所の有無や家族状況など、①~⑥の状況によって保護の要否が左右されるため、⑦単独では保護の要否の判断の要件にはならない。「心身の健康について心配される点があり、保護が必要なケース」については、⑧により一時保護の適用の判断が可能であるため、項目を増やす必然性はない。 

当該箇所の16日の有識者会議後の赤入れ前のバージョンはこちら

「心身の健康の回復のため」どころか「心身の健康の維持のため」と書かれてました。

たとえば、何ら外傷が無い者であっても「リスカしそうだから外科入院させよう」とかいう事になりますか?という話。家族と円満に暮らしている女性が「彼氏にフラれて辛い…リスカしよ」とか言ってるだけで、「だから保護しましょう」という事になりますか?という話。

方針案の時点で余りにもおかしい。誰だこれ作ったの?戒能氏か?

法体系上、「心身の健康を回復させるため」に何らかのポジティブなアプローチをすることとする、という要請を働かせる規定は存在しますが、「心身の健康を回復させるため」を何らかの措置を行う要件とする用法が存在しないため、これも異常な記述。

【配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律】の規定なんかを見れば良いでしょう。

曖昧な概念を創出し、恣意的な運用が可能になる危険がある】という、困難女性支援法絡みで頻繁に出て来る問題です。

以下などで具体例を示しています。

困難女性支援法の問題点2:過剰な要求と参入障壁による利益誘導・利権化のおそれ - 事実を整える

困難女性、とんでもない上位存在だった…要支援妊婦や自殺未遂者よりも厚い保護?困難女性支援法の問題点2.5:Colabo若草ぱっぷすBOND - 事実を整える

さて、『新法9条3項3号の「心身の健康の回復」』というのは、以下の部分。

困難な問題を抱える女性への支援に関する法律(令和四年法律第五十二号)

(女性相談支援センター)
第九条 ~省略~
 女性相談支援センターは、困難な問題を抱える女性への支援に関し、主として次に掲げる業務を行うものとする。
~省略~
 困難な問題を抱える女性の心身の健康の回復を図るため、医学的又は心理学的な援助その他の必要な援助を行うこと。

髙岸氏は「一時保護を要すると認められるような困難な状況にある女性について」の規定であると言っていますが、一時保護をするしないにかかわらず医学的心理学的援助が必要ならばする、という意味にも読めます。

いずれにしても、「一時保護をするか否かの要件」として機能させようとしている文言ではないでしょう。

「心身の健康について心配される点があり、保護が必要なケース」については他の要件で吸収できるものである、という指摘は、その通りだと思います。

「一時保護の対象者の同伴児童の通学は現実的ではないため通学前提部分は削除」

仮の方針案において「一時保護の対象者の同伴児童が一時保護中でも児童の教育を受
ける権利が保障されるよう、通学時の安全確保…」などと書かれていたことに対して

本人の通勤通学(P23)よりも同伴児童の通学はさらに現実的ではなく、通学先の学校の確保など、現場が混乱する恐れがある。一時保護所内での学習支援の充実が最も現実的な対応であり、通学させることを前提にしている部分の文言は削除していただきたい。 

髙岸氏からは、このように指摘されていました。

「通学時の安全確保」ということは、ボディーガードみたいに見張る人が必要になりますよね。ボランティアが交通整理してることはよくありますけど、特定の子供の背景事情を把握して特に注意するなんてのは無理ですし、そもそも秘匿すべき情報ですから。

「自立支援方針の検討・決定は市町村が行う場合が多いのに方針案では漏れてる項目が多い」

【修正案】
女性相談支援センターや市町村において、個別のケースの自立支援の方針を検討するにあたっては、本人の希望や意思を引き出すための十分な情報提供に基づく丁寧なソーシャルワーク支援を行った上で、支援調整会議における個別ケース会議の場も活用し、検討を行う。 【理由】
【理由】
女性の自立支援の方針の検討・決定は、市町村が行う場合が多いため、市町村を加える必要がある。

何気ない所ですが、割と重要な気がする部分です。

対応する部分の方針案では、市町村が自立支援の方針を検討・決定することについて抜けがありました。会議では、髙岸氏は「方針案では他の箇所でも市町村が漏れている項目が多い」と発言していました。

「実績のある民間団体」が「適切でない団体」を行政に告げ口し共有する規定⇒説明責任果たせない

【修正案】
 なお、多様な民間団体の中には、性搾取等の暴力の構造の理解が不十分である等の必ずしも困難な問題を抱える女性に対する支援として適切でない団体もあるとの指摘もあり、国及び地方公共団体は、当事者や実績のある民間団体等からの情報を注意深く収集し、現場における支援に支障をきたすことのないよう適切な対応に努めるものとする。必要な場合は不適切な団体の情報を適切に関係機関へ共有する等の対応が求められる。
【理由】
「実績のある民間団体」が、「適切でない団体」に関する何らかの情報を行政に流し、それを関係機関で共有することは行政として説明責任が果たせないと思われるため削除していただきたい。まずは、不適切な団体が安易に参入しないように、認定や審査の仕組みを国が整備すべきである。

髙岸氏の修正案のうち、打消し線がある部分も含めたものが仮の方針案です。
※「必要な場合は不適切な団体の情報を適切に関係機関へ共有する等の対応が求められる」の部分を削除

なぜ、「適切でない団体」についての情報共有を、「実績のある民間団体」などという極めて限定的な主体を例示したのでしょうか?

単に「当事者等からの情報を」「国民からの情報を」とすれば足りる話でしょう。

こんなもの、『「実績のある民間団体」からの告げ口を優先採用します』というものでしかないじゃないですか。新規参入障壁、妨害行為としてしか機能しませんよ。

ここで想定されている「実績のある民間団体」って、どこですかね?

若草プロジェクト?BONDプロジェクト?ぱっぷす?Colabo?

第5回の有識者会議の議事録、UPされたら読むといいですよ。

本当に重要な指摘が為されてる。

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