事実を整える

Nathan(ねーさん) 法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

安倍政権「女性・女系天皇潰しプラン」と女性宮家、旧皇族の皇籍復帰・養子縁組の議論の経緯のまとめ

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宮内庁ホームページ:https://www.kunaicho.go.jp/activity/gokinkyo/newyear/r02-0101-mov.html

NEWSポストセブンが『安倍政権「女性・女系天皇潰しプラン」』と報じていますが、ちょうどいいころ合いなので、これまでの皇位継承問題の議論の経緯を整理します。

安倍政権女性・女系天皇潰しプラン:有識者ヒアリングと論点整理

安倍政権 コロナどさくさで「女性・女系天皇潰しプラン」か|NEWSポストセブン

5月9日、政府が「安定的な皇位継承策」についての有識者への非公式のヒアリングを終え、論点整理に入ったことが報じられた。国民の関心が高まっている女性・女系天皇の容認などについて、10人以上から聴取をしたという。

『安倍政権「女性・女系天皇潰しプラン」』の記事内では「女性・女系天皇の容認など」とだけ書かれていますが、当然旧皇族の皇籍復帰についても聴取したものです。

この動きについては昨年10月頃には判明していたものです。

東京新聞:皇位継承、検討会議設置せず 政府方針 有識者に個別聴取:政治(TOKYO Web) 2019年10月24日 朝刊

政府は、安定的な皇位継承策を検討するための有識者会議を当面、設置しない方針を固めた。女性・女系天皇の是非を巡る議論が紛糾しかねないため。大嘗祭(だいじょうさい)が終わる十一月中旬以降、必要に応じて有識者からの個別の意見聴取にとどめる見通し。

天皇の退位等に関する皇室典範特例法の附帯決議に基づく検討

皇位継承関係の議論については、【天皇の退位等に関する皇室典範特例法 附帯決議】において、「安定的な皇位継承を確保するための諸課題、女性宮家の創設等について…
本法施行後速やかに…検討を行い、その結果を、速やかに国会に報告すること」と書かれていましたが、天皇の即位が正式に執り行われる大嘗祭が終わる以降に議論をすると言う方針となっていました。

新天皇践祚~御即位を寿ぐこの間の時期に「次の天皇をどうするのか」という議論をするのはどうかと思われるため、そこは良いでしょう。

皇室典範に関する有識者会議・皇室典範に関する有識者ヒアリングとの違い

従来は皇室関係の議論はタイムリーであったかはともかく、有識者からの聞き取り結果については公表されていました。

平成17年の【皇室典範に関する有識者会議】や、平成24年の【皇室制度に関する有識者ヒアリング】がそれです。

報告は「論点整理」という形で成されていました。

今回の有識者への聞き取りと検討結果については、何か公開されているページがあるわけではないようです。今後、「論点整理」の形になればオープンになる可能性はあります。

女性・女系天皇、女性宮家の議論の経緯

平成17年の時期は悠仁親王殿下がお生まれになる前のタイミングであったため、女性・女系天皇について結論ありきの議論が為されていました。

結論ありきという事がなぜ言えるのかというと、合計特殊出生率という未婚者も含む数値を皇室の議論に持ち込み、「女系天皇を認めなければ断絶する」という詐術を用いていたからです。本来であれば完結出生児数という数値をベースに議論するべきでした。

また、旧皇族の皇籍復帰も指摘がありましたが、なぜか「前例が無い」として無視されました。女系天皇の方が前例がないのにもかかわらず。

結局平成17年の論点整理は悠仁親王殿下の御誕生によって実際上無効化しました。

その後、民主党政権下の平成24年には今度は「皇族の減少」が「皇位継承問題」とは別建てとなり、女性皇族の婚姻後の身分の問題に絞って議論が行われました。

そこで出てきたのが「女性宮家論」です。先述の皇室典範特例法の附帯決議の文言も、この二つは別建てである書きぶりになっています。

女性宮家論の急先鋒は所功教授であり、「皇室典範と女性宮家 なぜ皇族女子の宮家が必要か」などで論陣を張っていました。その指摘には有益なものが含まれていたのも確かですが、旧皇族の皇籍復帰や養子縁組の議論が置き去りにされていました。

そのため、旧皇族の皇籍復帰・養子縁組をきちんと議論する必要があるという声が上がっていました。今回の安倍政権における議論は、そういう流れの中に位置づけられます。

時の流れ研究会による旧皇族の皇籍復帰・養子縁組と所功教授

なお、所功教授は「時の流れ研究会」のメンバーでありましたが、今年の4月には、この研究会から女性天皇・女性宮家の可能性を否定し、旧皇族の皇籍復帰や養子縁組を可能にする法整備を提言しています。

「愛子天皇」「女性宮家」否定の民間研究会 皇室問題の重鎮参加で波紋 | デイリー新潮

日本大学名誉教授の百地章氏などの学識者による民間の研究会が4月19日付で「皇位の安定的な継承を確保するための諸課題」と題する見解を発表した。平成29(2017)年から保守系の学者を中心に、御代替わりに関する問題で論議を重ねて来た「時の流れ研究会」(会長=高山享・神社新報社社長)がこれをまとめた。

 議論となっている「女性天皇(愛子天皇)の可能性」や「女性宮家創設」について明確に否定する一方、「元皇族の男系の男子孫(男の子孫)による皇族身分の取得」と「現宮家の将来的な存続を可能にする皇族間の養子」を可能にする法整備を提言している。

 今回の発表で注目されるのは、その内容もさることながら、これまで「愛子天皇」や「女性宮家」を容認する立場だった所功氏(京都産業大学名誉教授、モラロジー研究所客員教授)が、この研究会の主要メンバーとして加わっていることだ。同氏は平成17(2005)年に小泉内閣の有識者会議が行ったヒアリングでは、悠仁(ひさひと)親王誕生の前とはいえ、「女系天皇」についても容認していた。

この提言の内容は神社新報が詳しく報じています。 

「皇位の安定的な継承を確保するための諸課題」についての見解 ―基本方針の確認と具体策の提言― / 神社界唯一の新聞社 神社新報社

旧皇族の皇籍復帰に関するポストセブンの認識煽動

安倍政権 コロナどさくさで「女性・女系天皇潰しプラン」か|NEWSポストセブン

はたして国民は、顔も名前も知らない旧皇族の末裔が「今日から皇族」となることを受け入れられるだろうか。もちろん旧皇族男子の皇籍復帰案は、多くの国民が支持する女性天皇の実現を葬り去るものだ。世論も含めたオープンな場での議論を期待したい。

さて、ポストセブンはこのように言っていますが、ここで想定している「国民」は、皇室の議論などまったく把握していない「一般大衆の認識」をベースにしていることが明らかです。

そういう人は現在の【皇位継承順位第3位】の方の名前が何であり、顔と名前が一致しているでしょうか?

「現在を生きる国民の意思」などというものは、皇室の議論においてはまったく求められていません。それくらいのことは、賢い日本国民はみんな魂で理解しています。

唯一、ごく一部の賢ぶった人間だけが憲法を根拠に「現代に生きる国民の意思」=世論調査の結果が大事だと主張しているに過ぎません。

憲法1条「日本国民の総意に基づく」の誤解:天皇の存在と皇位継承順位

日本国憲法 第一章 天皇
第一条 天皇は、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であつて、この地位は、主権の存する日本国民の総意に基く。

憲法1条の「国民の総意」とは、歴史的に日本国民が天皇の存在を是認してきたという事を意味し、「現代を生きる日本国民の認識」を意味しません。

また、ここでは【天皇の存在を認めるか否か】についての話であって、『皇位継承順位や皇室の構成をどうするか』という具体的でテクニカルな話についてまで「国民の総意」に基づくという意味ではありません。

なぜそう理解することになるのかは帝国議会の議事録なども渉猟した日本国憲法第一条と皇位継承:天皇の存在は「日本国民の総意に基づく」の誤解と女系天皇・女性天皇 で説明しています。

皇位継承問題に関する議論の経緯まとめ:

皇位継承問題に関する議論の経緯については、内閣も昨年9月にまとめていました

参考:「安定的な皇位継承」をめぐる経緯― 我が国と外国王室の実例 ―岩波 祐子(内閣委員会調査室)*1

ここで示したリンク先の添付資料を読めば、これから公表されるであろう論点整理について理解が深まることでしょう。もっとも、平成17年と24年の論点整理は誘導も含まれるため、それで分かった気になるのは危険です。

本ブログでも皇室関係の記事は皇室 カテゴリーの記事一覧に置いてあります。

以上 

*1:※参照されている論者には異例の脚注であることも含めて要注意。