事実を整える

Nathan(ねーさん) 法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

大阪都構想と沖縄県の辺野古移設の住民投票は何が違うのか?

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統一地方選挙で大阪府知事選挙と大阪市長選挙が行われ、大阪維新の会の候補が当選しました。

吉村知事と松井市長が進めようとしている「大阪都構想」ですが、この住民投票と今年2月に行われた沖縄の住民投票が「同じようなもの」だと混同されいる例が多々見受けられますので、違いをまとめます。

「住民投票」の種類

  1. 日本国憲法に基づく住民投票
  2. 地方自治法に基づく住民投票
  3. 大都市地域における特別区の設置に関する法律に基づく住民投票
  4. 合併特例法の規定に基づく住民投票
  5. 自治体の条例に基づく住民投票

大きくこのように分類可能です。

大阪都構想は3番、沖縄辺野古は5番です。

5番の住民投票は、実際上は法的拘束力がないものになっていますが、法体系上、法的拘束力をつけることがすべて禁止されているわけでもありません。

大阪都構想と沖縄県の辺野古移設の住民投票の違い

最初に違いの大枠を示します。

  1. 形式面:結果に法的拘束力があるか
  2. 実質面:投票結果によって初めて行政組織の再編と言う効果が生まれるか、既に適法に行われている行為を止めるものか 

両者は相互に関連すると思いますが、一応はこのように分けられるでしょう。

大阪都構想の住民投票の法的根拠

大都市地域における特別区の設置に関する法律(平成二十四年法律第八十号)

 (特別区の設置の申請)
第八条 関係市町村及び関係道府県は、全ての関係市町村の前条第一項の規定による投票においてそれぞれその有効投票の総数の過半数の賛成があったときは、共同して、総務大臣に対し、特別区の設置を申請することができる。

大阪都構想の住民投票は、「大都市区域法」に基づいて行われます。

事実、2015年5月に都構想の住民投票が行われました。

結果は反対票が僅かに上回りました。

この法律には「住民投票を一度やったら二度とできない」という規定はありません

「何年以上経過しないとできない」という規定もありません。

なので、吉村知事と松井市長は都構想の住民投票を目指せるのです。

「勝つまでジャンケン」はずるいのでは

単に「住民投票をやります」と言うだけで住民投票ができるわけではないのです。

大都市区域法によれば、「特別区設置協議会の設置」(これが「法定協議会(法定協)」と呼ばれています)をして「特別区設置協定書の作成」をしなければならず、途中で必要があれば首長が総務大臣に報告したり、いろいろ手続を踏まなければなりません。

その上で、大阪市と大阪府の議会での承認が必要です。

議会で承認が得られればようやく住民投票が始められるのです。

法律の規定にある手続だけでなく、住民投票を連発するようなら行政運営に混乱が起きますし、議会の反発(今回の公明党のように妨害等が行われる)や有権者の反感を買います。そういった事実上の制約も潜在的にあるので、むやみやたらに住民投票をすることは困難です。

インスタントに実施出来るジャンケンに例えるのは、不適切でしょう。

沖縄県の辺野古移設のための埋め立てを問う住民投票 

辺野古埋立て県民投票「7割反対」「6割賛成」?政府は沖縄の民意を尊重せよ - 事実を整える

詳細については上記でまとめていますが、ここでは簡単にまとめます。

  1. 法律に根拠があるのではなく、沖縄県議会が制定した条例に基づいているので結果に法的拘束力が無い
  2. 投票結果によってはじめて埋め立てが始まるのではなく、既に適法に行われている埋め立てに反対するという目的で条例制定され、反対票を示すために県民投票が行われた(蒸し返し)
  3. そのため、反対派が積極的に投票して反対の意思を示せるかが争点
  4. 有権者総数の4分の1以上の得票があれば、県知事は多数意見を尊重すべきという規定があった
  5. そのため、投票に行かなかった者の意思も一つの民意として捉えることになる

以上より、2019年2月に行われた沖縄県の住民投票は、「反対票を投じたのは投票者の7割」ですが、「積極的に反対票を投じなかったのが有権者の6割」でもあるというのがその結果です。

まとめ:沖縄辺野古の住民投票は特殊中の特殊

TVのコメンテーターらがいいかげんなことを言ってるので、大阪都構想と先般の沖縄の住民投票との違いがあまり理解されていないようです。

条例に基づく住民投票は、本来は自治体の事務の範疇の事柄について新たな方針を決めるためのものです。国家の統治権にかかわる防衛政策を否定する沖縄の辺野古移設の中止を求める住民投票が特殊中の特殊であっただけです。

なので、「沖縄の投票結果についてはこういう反応だったのだから、大阪でも同じように考えるべきだ」とはなりませんので、誤導させる言説に注意しましょう。

以上