事実を整える

Nathan(ねーさん) 法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

四国電力の伊方原発の運転差し止め仮処分広島高裁決定:破局的噴火は否定、判決文で理由を読む

広島高裁伊方原発運転差し止め仮処分

四国電力の伊方原発3号機の運転差し止め仮処分を広島高裁が決定しました。

決定要旨からその理由を見ていきます。

阿蘇山の破局的噴火リスクによる立地不適は社会通念に反する

噴火リスクは「火砕流到達の危険」と「降下火砕物の影響」の2つを見ていました。

前者は「立地評価」=そもそもそこに原子炉を建ててはいけないのでは?という観点、後者は「影響評価」=建てても良いけど降下火砕物の影響で危険になるのでは?という観点です。

前者について脱原発弁護団全国連絡会のウェブサイト上に掲載された決定要旨を見ると

破局的噴火のリスクに対する社会通念は、それ以外の自然現象に関するものとは異なり、これを相当程度容認しているといわざるを得ないから、破局的噴火による火砕流が原子力発電施設に到達する可能性を否定できないからといって、それだけで立地不適とするのは社会通念に反する

この部分はマスメディアは報じないと思われます。

広島高裁の今回の決定は、過去の破局的噴火による火砕流が伊方原発の立地場所に到達した可能性は否定できないとしながら、何らかの前駆現象が無いのにそれをもって立地不適とするのは社会通念に反するとしました。

これは2年前の広島高裁の伊方原発3号機の差し止め判断とは異なります。

2年前は破局的噴火のリスクをもって立地不適としていました。

広島高裁による伊方原発差止め判断の理由:決定文全文、要旨あり

伊方原発運転停止命令取消し決定全文:差止決定との違いと弁護団の発狂ぶり

そして、今回の決定は、影響評価については噴出量が20〜30キロ立方の降下火砕物の想定が過小として不合理としました。要するに何十万年に1度の破局的噴火を考えるのはおかしいので、「破局的噴火」のカテゴリに至らない中での最大規模の噴火で考えましょうということになりましたが、その際の疎明資料に不足があったとされました。

なお、認定された申立人の住んでいる場所も前回とは異なりますが(100km圏内⇒30km圏内)、そこは今回の判断には関係しないと思われる。

破局的噴火の立証責任論+社会通念論+短期的前駆現象の予見

広島高裁における伊方原発3号機の立地条件に関する阿蘇山の噴火リスクに関する評価は、以下のように変遷しています。

 

◆2017年差止仮処分⇒破局的噴火の可能性の不存在を四国電力が立証せよ

 

◆2018年差止仮処分の取消し⇒破局的噴火の可能性の存在を住民側が立証せよ

 

◆2020年差止仮処分

⇒破局的噴火の不存在を四国電力が立証せよ。
⇒ただし、それができないからといって立地を不適とするのは社会通念上許されない。
⇒もっとも、破局的噴火の短期的前駆現象があることを相応の根拠に基づき示された場合には、原則に戻り、立地不適とすべき
⇒そうした前駆現象が無いのであれば、破局的噴火に至らない中での最大規模の噴火の可能性とその影響を考えよ
⇒その規模の噴火では設計対応不可能な火山事象が本件発電所敷地に到達する可能性は十分に小さいといえるから本件原子炉施設は立地不適とはいえない。

 

ざっとまとめるとこのような流れになります。

2017年の差止仮処分の判断と比べると判断の仕方が巧妙になっていると言えます。

私は四国電力に破局的噴火の不存在の立証責任を負わせるのはおかしいと思っていましたが、最終的には破局的噴火ではない規模の噴火の可能性を考慮することになったので、妥当性はあると思います。

ただ、だったら最初から破局的噴火の可能性の存在の立証責任を原告側に課せば足りる話であって、「社会通念」はそこに作用させればよく前駆現象の予見もその中で論じるものであるのが正当なのではないかと思います。
(この部分は当初エントリから評価を変更した。破局的噴火ではない噴火の可能性の存否の立証をも考えると、四国電力側に立証責任を負わせた方が直截だったのかもしれない。確かにこの場合の立証責任は四国電力側にあるべきように思える。

その上で破局的噴火の前駆現象から噴火が予見できるなら、その可能性が示されれば差止めが認められるというのはあり得る判断だと思います。これは2018年までの決定文上では考えられてこなかった視点であり、「現在の知見では予見するのは不可能」と書かれていました。
原被告は主張したかもしれないが

地震に関する安全性:活断層の不存在について規制委員会の判断に過誤・欠落がある

今回の広島高裁は、佐田岬半島沿岸の活断層について不存在とした規制委員会の判断に過誤・欠落があるとして、抗告人(運転差し止めを申し立てた住民側)の被保全権利の疎明がなされたと判断しました。その際の審査基準については不合理な点は無いとしました。

具体的には、地震動評価を行っていないことが、判断の過誤・欠落とされました。

ここも2年前の広島高裁の差し止め判断とは異なるものです。

判決文(決定文)からは四国電力伊方原発の運転差し止め司法審査のあり方が変わったのが理由か

前回の差し止め仮処分を取り消した決定と、今回の差し止め仮処分の決定における【司法審査のあり方】を見ると、より緻密なものになっていると思います。

特に破局的噴火のリスクによる立地の適・不適の判断においてはそれが顕著だと思います。2年前の差し止め仮処分を認めた(取り消される前)判断と比べるとそれは一目瞭然でしょう。

これで争点は地震のリスクに関する話に変わったのですが、これは並行して行われている差し止め訴訟の判決が出るまでなので、そこで四国電力勝訴の結論が出るか、今後四国電力側が抗告をして地震動評価などの各種調査・評価を綿密に行った上で差し止めを取り消す、という方向の話になります。

以上