事実を整える

Nathan(ねーさん) 法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

小西ひろゆき読み間違い指摘への訴訟予告は脅迫罪のおそれ

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小西ひろゆき議員が過去の国会での名前読み間違いをツイッターで指摘されたことに対して訴訟予告をしましたが、これは脅迫罪になるおそれがあります。

小西ひろゆき議員、国会での読み間違いを指摘され「法的措置検討」

小西議員が名前を読み間違えた事は動画も残っているので事実です。

詳細は以下。

小西議員は発信者情報開示請求で拒否される

批判したツイートの主は匿名アカウントなので住所等は小西議員にとって知ることができない状態です。その状況では訴訟提起できません。裁判を行うためには被告の特定が必要だからです。

匿名アカウントの情報を知るためには、最初にツイッター社に対して「任意開示」を求めることが考えられますが、任意開示に応じる例は多くないのが現状です。

そこで、プロバイダ責任制限法(特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律)第4条に基づき「発信者情報開示請求」を行うことが必要です。

ツイッター社としては開示拒否をすることになるでしょうが、この請求が認められるための要件は以下です。

(発信者情報の開示請求等)
第四条 特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害されたとする者は、次の各号のいずれにも該当するときに限り、当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者(以下「開示関係役務提供者」という。)に対し、当該開示関係役務提供者が保有する当該権利の侵害に係る発信者情報(氏名、住所その他の侵害情報の発信者の特定に資する情報であって総務省令で定めるものをいう。以下同じ。)の開示を請求することができる。
一 侵害情報の流通によって当該開示の請求をする者の権利が侵害されたことが明らかであるとき。
二 当該発信者情報が当該開示の請求をする者の損害賠償請求権の行使のために必要である場合その他発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるとき

国会での名前読み間違えを取り上げたことによって新たに権利侵害が起こる?

「正当な理由」は匿名だと訴訟提起できないからあるとして、「侵害情報の流通によって」「権利侵害が明らか」というのは当てはまらないのではないでしょうか。

小西議員の発言は国会の質疑という極めて公的な場においてなされたものであり、さらに誰でも無料で閲覧可能なインターネット中継のアーカイブで残っているのです(議事録では漢字表記になっているために名前の読み間違いが発生しているかは分からない)。

名前を読み間違えた事実の摘示が社会的評価を低下させたか」もかなり怪しいです。

なお、小西側は「事実の改変」があるというロジックを主張しています。

が、国会議事録を見れば分かりますが「事実を改変」 という判断を裁判所がするとは到底思えません。中核的な部分は「名前を間違えた」の部分であって、訴訟で問題となる「事実」はその部分であり、枝葉末節は捨象されるからです。下記記事で紹介している判例を参照。

「質疑の経緯が改変された」という意味だとしても(『小西ひろゆき「ええっ!憲法を学ぶ学生なら誰でも知ってますよ!」』、という部分は本来の発言には存在しない)、それが社会的評価を低下させることになるとは言えないでしょう。

よって、「事実を改変」は小西側の勝手な解釈であり、一般通常人から見てそう判断されるとは言えないでしょう。

訴訟になっても無理筋

仮に小西vsツイ主の訴訟になったとしても小西側が勝つことは(被告側のミスが無い限り)100%有りえません。

真実性、公共利害性、公益性要件をみたす事は明らかで、違法性阻却されるからです。

元ツイート主の「実はそんな学者いなくて、恐らく高橋和之さんの間違いという。これ以上恥ずかしい話ってこの世にあるだろうか。国会だぞ。」という部分も、論評の範囲内でしょう。

なので、小西議員は訴訟提起(発信者情報開示請求も)しない可能性が高いでしょう。100%敗けるからです。そして、訴訟提起したならば、訴訟提起自体が不法行為として違法と主張され、そう判断される可能性もあると思います。

訴訟予告をしておいて訴訟しないのは脅迫罪なのか?

小西議員自身は「しかるべき措置を取る」(ツイートママ)と言っており、文言上、必ずしも訴訟提起という手段を執る訳ではない表現になってはいますが、一連のツイートを見れば訴訟予告をしているとしか解されません。

ここで、一部で「訴訟予告をしておいて訴訟しないのは脅迫罪」という言説がありますが、これは間違った見解です。なぜなら単に訴訟提起をすることやその予告をすることは権利行使だからです。また、上記見解では事情が変わって訴訟しないという選択をとったことが違法になるという事になるのでありえないからです。

「真実権利を行使する意思がなく、相手を畏怖させる目的であるときは脅迫に当たる」とする判例として大審院大正3年12月1日刑録20・2303が挙げられますが*1、単に権利行使する意思が無い=訴訟する気が無いというだけで脅迫罪になるかはかなり疑問です。

訴訟予告で脅迫罪が成立するには畏怖目的が認定されないといけないと思われます。

大審院の判例では権利行使意思の欠缺の事実があることがただちに畏怖目的と認定できたケースだったために上記のような判示になった、という見方をするのが日下氏の論文の立場であり、議論があります。
(大審院の事案では行使意思は在るとされた)

告訴の意思表示は脅迫か。大審院大正 3 年 12 月 1 日判決の検討 日下 和人

小西ひろゆき議員に権利行使の意思の欠缺・畏怖目的はあったのか?

結論から言うと、小西ひろゆき議員には権利行使の意思はそもそも無くて、畏怖目的があると言えると思います。(ツイートを削除させたかった)

なぜなら、以下のような意味不明なツイートをしているからです。

小西ひろゆき議員「法的措置を取る」読み間違えを揶揄され⇒ツッコみ所満載

上の記事でも指摘しましたが、通常、このような場合には顧問弁護士の実名を表記して行うものなのにそれをしておらず、さらには相手方に対してツイートが届くようになっていない(@が入っていない単なる独り言)というお粗末なものになっているのです。

権利行使を前提にしているのであればまず行わない行動です。

そして、顧問弁護士の指導を受けているならば、こんなミスは起こりえないハズです。

そもそも以下のツイートも、まともな弁護士であれば到底言わないような支離滅裂な事を言っているので、「顧問弁護士」なる者が存在して本当にこのようなアドバイスをしていたと理解するのは通常は不可能です。

存在しない顧問弁護士を持ち出すのは畏怖目的

これを「弁護士の助言」とは到底考えられないというのは弁護士も指摘しています。

仮に顧問契約を締結している弁護士が居る場合、その弁護士から小西議員が名誉毀損で訴えられる可能性はあります。小西議員のツイートに表れるような支離滅裂な事を本当に言っていたら懲戒請求ものでしょう。「先にブロックした発言も違法」とか、ちゃんちゃらおかしいです。

「権利行使の意思がなくて畏怖目的が認定できる」、とも言えるでしょうし、「顧問弁護士の助言など存在しないのにそれを理由づけとして提示しているので畏怖目的が認定できる」とも言えると思います。

ただ、告訴・告発したとして検察がこれを起訴するかというと…事案としては軽微ですが、法解釈が絡むのでどうなるか、よくわかりません。

まとめ:小西ひろゆき議員には脅迫罪のおそれ

小西ひろゆき議員が訴訟提起(或いは発信者情報開示請求)をしなくとも、その事実のみをもって脅迫罪となることはありません。

しかし、小西議員の言動を見ていると「権利行使の意思の欠缺+畏怖目的」が認定されるおそれがあると言えるでしょう。

以上

*1:刑法各論 第六版 西田典之など

トリエンナーレ大村知事「昭和天皇の映像は事前に知らされなかった」⇒「事務方から聞いたのは6月半ば」と言っていたが

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愛知県の大村知事が県議会で答弁した内容を共同通信が報じましたが、記事の中身が差し替えられていました。

発言内容はトリエンナーレ表現の不自由展での昭和天皇の御尊影が燃やされる映像展示に関して「昭和天皇の映像は事前に知らされなかった」。

過去には「事務方から聞いたのは6月半ば」と言っていたのですが、フェイクニュースだったのでしょうか?

共同通信が記事を削除・URLを変えずに中身を差し替え

河村氏「少女像、芸術性説明を」 県知事に質問状、謝罪要求 | 共同通信

https://web.archive.org/web/20190920102513/http://this.kiji.is/547703099798094945

大村知事、天皇の映像出品知らず
表現の不自由展、「極めて遺憾」

2019/9/20 17:56 (JST)
©一般社団法人共同通信社

 愛知県で開催中の国際芸術祭「あいちトリエンナーレ2019」の企画展「表現の不自由展・その後」が中止になった問題で、トリエンナーレ実行委員会会長の大村秀章知事は20日、昭和天皇を巡る映像の出品が事前に知らされなかったとして「極めて遺憾。勝手に持ち込まれた」と不快感を示した。

 昭和天皇の肖像が燃えるシーンを含む約20分の映像で、電話やファクスなどで抗議を受けた作品の一つ。大浦信行さんが出品した。

 大村知事は20日、県議会で経緯を説明した。大浦さんは映像がコンセプトに合わないと伝えられ、いったん辞退。その後トリエンナーレ芸術監督の津田大介さんが出品に合意した。

この記事内容は、現在はURLが変わらずに別の記事に差し替えられています。

中身が間違っていたのでしょうか?

8月13日の記者会見での大村知事「事務方から聞いたのは6月半ば」

Youtubeの映像では23分あたりのところで言及していますが、大村知事は「実物ではなくパネル展示にするとかいろいろ申し上げましたよ」と言っています。

昭和天皇の映像についてであればそのような発言になるわけがないので、これは捏造慰安婦像=少女像のことについてのみ言及していると言う他は無いでしょう。

記者会見で言及したのは捏造慰安婦像=少女像の話

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議事概要(あいちトリエンナーレのあり方検証委員会 第2回会議) - 愛知県

トリエンーレ検証委員会の資料でも、大村知事が昭和天皇の映像展示について内容を把握したのは展示開始後の8月4日となっています。

大村知事の9月20日の県議会での発言と矛盾しません。

まとめ:共同通信が削除した理由は謎

県議会での発言だということであれば、発言した内容は後日確認可能であり(愛知県議会の動画は中継のみ視聴可能、議事録は後日公開)、大村知事が「昭和天皇を巡る映像の出品が事前に知らされなかった」と発言したことは間違いではないと思います。

であればなぜ共同通信は記事を削除したのでしょうか?

疑問が残る結果となりました。

以上

小西ひろゆき議員「法的措置を取る」読み間違えを揶揄され⇒ツッコみ所満載

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小西ひろゆき議員が国会質疑での言い間違えをツイッター上で揶揄されたことについてユーザーに対して「法的措置を取る」と言っているのがツッコみ所満載でした。

関連

対象となったツイート

小西ひろゆき議員、災害対応が落ち着き次第法的措置を取ることを宣言 - Togetter

対象となったのはこのツイートです。

高橋和之を高橋カズヒロと言った国会質疑のソース

183回 参議院 予算委員会 8号 平成25年03月29日

○小西洋之君 内閣総理大臣、安倍総理、今述べられました芦部信喜さんという憲法学者、御存じですか。
○内閣総理大臣(安倍晋三君) 私は存じ上げておりません。
○小西洋之君 では、高橋和之さん、あるいは佐藤幸治さんという憲法学者は御存じですか。総理。
○内閣総理大臣(安倍晋三君) 申し訳ありません、私は余り、憲法学の権威ではございませんので、学生であったこともございませんので、存じ上げておりません。
○小西洋之君 憲法学を勉強もされない方が憲法改正を唱えるというのは私には信じられないことなんですけれども。

議事録では「高橋和之」となっていますが、当時の動画を見れば「タカハシカズヒロ」と言っているのは事実です。

議事録は議院の事務方が草案を作成して発言者らがチェックした上でUPされるので、これで良いと関係者が判断したんでしょう。このこと自体は何ら問題ではありません。

ブロックをわざわざ解除して「先にブロックした発言も違法」

「ブロックしていた」と発言したことも違法と言っています。

議事録の通りの記載でなければ事実を改変している、などということにはならないので意味不明なツイートです。

訴訟提起ではなく「しかるべき措置」?

この流れで「訴訟提起ではない」と受け取る人は居ないでしょう。

この件、他に考えられる相手への要求としては「ツイートの削除要求」が有りえますが、小西議員は「災害対応後」と言っているので今行えばいいものを後回しにすることは考えられませんし、弁護士に相談して時点で法的措置を検討しているのですから、その上での「しかるべき措置」は訴訟提起以外に無いでしょう。

顧問弁護士の名前も名宛人も無い「通告」

 いろいろおかしいこのツイート(笑)

まず顧問弁護士の名前が無い

何らかの請求の前段階として弁護士の記名入りで要求内容を明示した文書を相手方に送付しておくことが一般的ですが、このツイートは「顧問弁護士」とだけで、この段階で名前が無いのは違和感があります。

そして、最も重要なのが「名宛人に対して向けられていない」ということ。

これは小西議員の単なるツイートなので、相手方の@が書かれておらず、相手がこのツイートを認識するとは限りません。

これでは単なる独り言に過ぎず、通告になりません。

「措置を取る」じゃなくて「措置を執る」ですよ

魚拓:https://web.archive.org/web/20190921005139/https:/twitter.com/konishihiroyuki/status/1174851287973646336

「(法的)措置を取る」と書いていますが、「措置を執る」ですね、クイズ王さん。

訴訟予告は脅迫罪になるのか?

告訴の意思表示は脅迫か。大審院大正 3 年 12 月 1 日判決の検討 日下 和人

「真実権利を行使する意思がなく、相手を畏怖させる目的であるときは脅迫に当たる」とする判例として大審院大正3年12月1日刑録20・2303が挙げられますが*1、単に権利行使する意思が無い=訴訟する気が無いというだけで脅迫罪になるかはかなり疑問です。

脅迫罪が成立するのは権利行使意思の欠缺+畏怖目的の場合なのか、この判例では行使意思の欠缺の事実があることがただちに畏怖目的と認定できたケースだったのか(上記論文はその立場)、議論の余地がありそうです。

以上

*1:刑法各論 第六版 西田典之

英国軍ラグビーチームの靖国神社記念写真:「駐日英国大使が神社訪問禁止」はフェイク

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英国軍ラグビーチームが9月17日にツイッターで靖国神社訪問時の記念写真をUPしましたが削除され、その理由についてメディアが報じていましたが一部がフェイクと確定しました。

英国軍ラグビーチームの靖国神社記念写真を駐日英国大使が叱責?

英国軍ラグビーチーム靖国神社で記念写真…駐日英国大使が叱責 | Joongang Ilbo | 中央日報

19日(現地時間)付けのザ・タイムズの報道によると、ポール・マデン駐日英国大使は戦犯が合祀された靖国神社のガイドツアーを行った英国陸軍ラグビーチームを非難した。同チームは靖国神社と神社境内にある戦争博物館を訪問した後、笑顔で記念写真を撮影し、これをラグビーチームのツイッターに投稿するなど、歴史に対する無知が露呈する姿を見せた。

駐英韓国大使館の報道官はザ・タイムズに「靖国神社は過去の日本の植民地支配と侵略戦争を美化するための場所」とし「特に戦犯が合祀されており、神社境内の戦争記念館は過去の帝国主義と軍国主義を美化している」と説明した

今回の訪問を主宰したアーティ・ショー中佐は「非常に不用意だった。駐日英国大使が今後はいかなる神社も訪問しないように言った」と述べた。

どうも、韓国側からいちゃもんがつけられていたようです。それを受けてでしょうか? 

@UKAFRugby(軍のチームの方)は以下のツイートを削除したようです。

https://twitter.com/UKAFRugby/status/1172378092423139329

他、韓国メディアは嬉々としてこのことを報じました。

야스쿠니 방문한 영국군 럭비팀···주일 英대사가 호되게 질책 - 중앙일보

靖国神社訪問の英国軍ラグビーチーム 大使から叱責受ける=英紙 | 聯合ニュース

チーム関係者は「非常に不注意だった。大使から今後は神社を訪れないよう指示された。

英国大使館「神社訪問禁止」はフェイク

英国軍ラグビーチーム、靖国神社参拝 物議醸す 英紙報道 「指示したことはない」と大使館報道官 - 産経ニュース

英紙タイムズの報道に対し、在日英国大使館の報道官は20日、「大使はいかなる人に対しても日本の神社を訪れないよう指示したことはない」との談話を発表した。一方で「英国政府は靖国神社を訪問することの敏感さについては十分に理解する」とした。

 産経新聞の記事は駐日英国大使館のツイート後、上記部分をアップデートしました。

韓国紙が引用した英国TIMES紙の内容のうち、「大使が英国軍ラグビーチームに対してこれ以上神社を訪問するなと言った」がフェイクだったということです。

韓国紙は内容をアップデートしていません。

また、元ネタの英国TIMES紙も今の所訂正文を出していないようです。

元ネタのイギリスTIMES紙

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UK military rugby team visit shrine for war criminals in Japan | News | The Times

ポールマデン氏のツイートを見ると、「叱責した」という報道部分も誤りなのではないかと思います。

まとめ

慰霊を妨げて政治問題化するために騒いでいる輩が居るというだけであり、それを「議論がある」などと言って忌避させる魑魅魍魎が蠢いているのが分かります。

靖国神社では外国人も祀られている例があるということを知らずに一面だけを切り取って総称化しようとしてる輩が居るようですが、靖国はそんな薄っぺらい所ではないでしょう。

以上

トリエンナーレ検証委員会「専門家の自律的判断を尊重、自治体が賛同したことにはならない」は通用するのか?

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第2回あいちトリエンナーレのありかた検証委員会で曽我部教授が大村知事の「憲法21条の検閲」という主張を否定しました。

ただ、法的な意味での表現の自由ではなく、そうではない素朴な意味での表現の自由は守られるべきであるという観点から今後の課題について指摘していました。

トリエンナーレ検証委員会:自治体がメッセージを支持したことにはならない?

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憲法その他、法的問題について 曽我部真裕

Q:展示を認めれれば、政治的主張を支持することになるのではないか。

A:アートの専門家の自律的判断を尊重するもので(キュレーションの自律性の尊重)、自治体が作品から読み取れる政治的メッセージを支持したことにはならない。
逆に、介入することで、特定の政治的メッセージを否定する立場を明示することになる。

議事概要(あいちトリエンナーレのあり方検証委員会 第2回会議) - 愛知県

これまでの調査からわかったこと 第2回あいちトリエンナーレのあり方検証委員会

曽我部教授は「自律的判断の尊重」と「表現内容の是認」というように分けた上でこのように評価するようです(何らかの法的な次元の話なのか素朴な評価の話なのか資料からは不明だが。検証委員会でも時間の都合上、詳細説明は省略されていた)。

さて、専門家の自律的判断を尊重するという自治体の意思があると、どんなときでも自治体は「介入」できなくなるのでしょうか?

たとえば青少年保護育成条例で禁止されるおそれが強い類の政治的表現物が専門家によっては展示しても問題ないと判断された場合、自治体は介入できないのだろうか?

いや、おそらく、そういう触法事例はこの議論の対象外なのでしょう。この場合は政治表現ではなく違法行為に対して介入しているということになるので。

では、触法事案でないなら自治体の側が介入することはできないのでしょうか?

少なくとも明示的なルールが存在している場合には介入可能でしょう。

自律的判断の尊重と表現内容への評価と政治目的規制

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上記はトリエンナーレのパートナーシップ事業(本体ではない)の参加資格と、愛知県の文化活動事業への補助金の交付団体、トリエンナーレ舞台芸術公募プログラムの対象となるための要件です。

介入することで、特定の政治的メッセージを否定する立場を明示することになる。

明示的な政治目的規制ルールに基づく場合には、こう言うことはできないでしょう。

なぜなら、この場合には「何らかの」政治目的行為だから介入しているのであって「特定の」政治的メッセージだから介入しているのではないからです。

ただ、表現の不自由展の作品群は、国際現代美術展の話であり、(なぜか)そのような要件が存在していませんでした

議論するべきなのは、「政治目的規制が存在しない場合」に、ある表現行為に対して介入したらどうなるか?という問題だと思います。

この辺りですでに何か食い違いが発生しているように思います。「政治目的規制を設けるべきではない」という方向にはならないハズです。

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政治プロパガンダは「一般人の印象」を狙っている

見た目の印象論の話をしますが、「政治目的規制が存在しないから自律的判断の尊重に過ぎない」と評価されるのでしょうか?第一義的には、「政治目的規制が存在しないから、政治的な内容も自治体が是認している」と評価されるおそれの方が強いでしょう。

仮に「自律的判断尊重」が何らかの法的関係において認められるとしても、一般人が見た場合の評価はどうでしょうか?

『公的機関が慰安婦像を認めた!』

『日本の自治体で天皇否定が是認された!』

自治体側がいくら「表現を是認しているわけではない」と言い張っても、一般市民レベルではそう受け取る人が多いでしょう。事実、今回の事案で批判している人たちは、そう受け止めていました。抗議をしていない人でも、「自治体が表現内容を是認した」と受け止めている者は多かったです。

「自律的判断を尊重しているだけだ」という理屈が「表現内容の是認」とは別個のものであるという技巧的説明を理解し、且つ、それに納得する市民・国民は、そう多くはないでしょう。

政治プロパガンダは法的に熟練したものの見方をする人は相手にしておらず、大多数の一般人を狙っているというのは分かりきった話ですから、「自律的判断の尊重」と「表現内容の是認」を分けて考えることができるとしても、そのような捉え方による運営は、トリエンナーレのような場を乗っ取ろうとする者にとっては好都合な状況なんじゃないでしょうか?

介入するか否かは公的機関の自律的判断に任されているのでは

専門家の自律的判断の尊重」と「表現行為の是認」と「表現内容の是認

これらは別々のものではないでしょうか?

「介入可能かどうか」ということは、「表現内容を是認したか否か」ということとは連動せず論じることが可能なように思われます。

たとえ専門家の自律的判断を尊重した結果であるから公的機関が表現内容を是認したことにならないとしても、その公的機関が表現行為を是認しない、つまり介入できる場合というのは有り得ると思うのです。今回みたいな危機管理上の理由でなくとも。

 

トリエンナーレの事業主体はほぼ愛知県である実行委員会である以上、その主体としての判断の自律性は守られるべきだと思うのです。そうでなければ今回のような【芸術表現に仮託した政治プロパガンダ】に利用されることを防げません。

いくら作品選定のガバナンスを構築しようと、この課題は最後まで残ると思います。

まとめ:「公的行為」の乗っ取りをどう防ぐか

曽我部教授ら検証委員会の委員らは素朴な意味での(法的ではない)「表現の自由」をいかに確保するかという視点で論じています。

他方、多くの人は『政治プロパガンダのための「公的行為」の乗っ取り』への警戒という視点をも含めて本件を考察しています。

「政府言論」の法理もそうした事案でアメリカで採用されたものです。

既に国連の各種組織が特定国の政治プロパガンダに利用されていることから明らかなように、公的機関の行為においては政治的表現の自由を尊重することよりも政治プロパガンダ利用への警戒を強めるべきだと思います。

素朴な意味での表現の自由も確保するべきだというのなら、民間事業として取り組めば良い。公的機関にグダグダに頼らないと表現できないというなら、そんなものは自ら自由を放棄しているのと同じでしょう。大きな国家・社会主義的な政策を前提とした考え方になっているのではないでしょうか?

以上

トリエンナーレ検証委員会第2回:曽我部教授「基本的に契約関係・表現の自由がストレートに問題になる事案ではない」

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第2回目のトリエンナーレ検証委員会が9月17日に開催されました。

大村知事が「憲法21条の検閲」と言っていたことが筋悪の主張だということが憲法学の曽我部教授によって明言された形となりました。

トリエンナーレ検証委員会第2回

議事概要(あいちトリエンナーレのあり方検証委員会 第2回会議) - 愛知県

これまでの調査からわかったこと 第2回あいちトリエンナーレのあり方検証委員会

今回取り上げるのは動画の1時間を過ぎた辺りの曽我部教授発言部分です。

大村知事は検証委員会の存在を周知せず

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大村知事のツイートで検証委員会について触れるツイートがありますが、これは検証委員会が開催された後のタイミングにツイートされた上図右上のツイートのについたリプライに対するリプライとして投稿されています。

ツイッターの仕様上、このようなツイートは拡散性が無く、広く周知する用途としては用いません。プロフィール欄では「ツイート」タブには表示されず、「ツイートと返信」タブにおいて表示されるものになります。

大村知事は他の行事については積極的に拡散しているのに、なぜトリエンナーレ検証委員会については周知せず、アリバイ作りのような投稿をしているのでしょうか?

曽我部教授「基本的に契約関係・表現の自由がストレートに問題になる事案ではない」

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憲法その他、法的問題について 曽我部真裕

大村知事が「憲法21条検閲」だと主張し、名古屋市の河村市長や大阪府の吉村知事に対して「あまりにも低レベル」などと発言していたことの妥当性が、当の検証委員会の委員によって完全否定された形になりました。

まとめ:津田大介糾弾委員会になってきた

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公的機関の側に立っている芸術監督の津田大介が、不自由展側に対して自費負担で不自由展のウェブサイトを提供していたことが明らかになりました。

ジャーナリズムの世界ではよくあることのようですが、業務委託契約を結んでいる公的機関の人間としてまったく不適切な行為でしょう。

とまぁ、このように津田大介を糾弾する委員会の様相を呈してきたわけですが、相変わらず大村知事の責任問題にはほとんど触れない方向になってきました。

作品の展示を認めた大村知事の判断もむしろ賞賛する委員も居ましたが、今の段階でなぜそう言えるのかよくわかりません。

以上