事実を整える

Nathan(ねーさん) 法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

「新型コロナウイルスは治癒後に再感染だからHIVエイズが関係!」⇒普通のウイルスも反復感染します

新型コロナウイルスは再感染する

「新型コロナウイルスは再感染する!」

だから何ですか?

安易にHIVエイズウイルスと関連付けないように

新型コロナウイルスは治癒後に再感染することがある

 「新型コロナウイルスは再感染することがある」

この情報は時事通信の1月31日の記事でもたらされました。

しかし、1月31日の中国国家衛生健康委員会の記者会見の中身はこうです

2020年1月31日新闻发布会文字实录魚拓

香港经济导报记者 治愈的人有哪些注意事项?

治癒した人にはどのような予防措置がありますか?

詹庆元 这个问题问的非常好,我们从一般的病毒感染规律来看,病毒感染之后都会产生一定的抗体,对人体产生保护作用。但是有的抗体可能持续时间没有那么长,所以这些已经痊愈的患者还是有再感染的风险,因此治愈的患者应该加强防护。

詹庆元 この質問はよく聞かれます。一般的なウイルス感染のパターンからは、ウイルス感染後に特定の抗体を産生し、人体を保護します。ただし、一部の抗体はそれほど長く続かないものがあるかもしれないため、回復したこれらの患者は依然として再感染のリスクがあるため、治癒した患者は保護を強化する必要があります。

新型コロナウイルス対策に関する記者会見の場ではありましたが、当該発言はウイルス全般に関するものに過ぎませんでした。

新型肺炎コロナウイルスに特徴的な再感染の頻度や再感染時の劇症化がある、などというデータが示されたわけではないのです。

一般的なウイルス感染後に再感染・反復感染のリスクがある 

要するに新型コロナウイルスに限らず、およそ世の中に存在しているウイルスというものは再感染することもあり得ると言っているに過ぎません。

「感染すると抗体ができて大丈夫になる」というのは絶対的なものではないということです。

そもそも治癒後というのは「病後」ですから、体力が落ちていて免疫力が衰えているのですから再感染のリスクがあるのは当たり前です。

RSウイルス・インフルエンザウイルス・普通のコロナウイルスも治療後の再感染の可能性

RSウイルス・インフルエンザウイルス・普通のコロナウイルスも治療後の再感染の可能性が指摘されています。

コロナウイルスの治癒後の再感染・反復感染

吉田製薬 Hospital Infection Control編集指導:根岸感染制御学研究所 所長・東京医療保健大学 名誉学長 教授 小林寬伊 先生

Coronavirus(コロナウイルス)はコロナウイルス科に属するRNA型ウイルスの総称で、エンベロープを有します。ライノウイルスと共にいわゆる鼻かぜ、つまり軽度のかぜ症候群、上気道感染の主な原因ウイルスですが、幼児において下気道感染をもたらす場合もあります。年間を通じてみられますが、冬季に多く発生します。ヒトの糞便からも検出され、ヒトは再感染を繰り返します

MERSやSARSもコロナウイルスですが、それ以外に通常のコロナウイルスは我々が単に「風邪」と呼んでるものの中に4種類あるのです。

新型肺炎コロナウイルスは5つ目になるかもしれませんし、SARSよりは致死率が低いものの少し危険なウイルスとして扱われるかもしれません。

RSウイルスの再感染・反復感染

丸石製薬株式会社

麻疹やムンプスとは異なり、感染しても十分な免疫が成立しないため、再感染を繰り返しますが、再感染のたびに症状は軽くなっていき、風邪症状だけで治まるようになります。
 しかし、RSウイルスに感染した小児を看護する保護者や医療スタッフでは、一度に大量のウイルスに曝露して感染することによって、症状が重くなる場合があり、高齢者においても急性のしばしば重症の下気道炎を起こす原因となることが知られています。

RSウイルス感染症Q&A(平成26年12月26日)|厚生労働省

RSウイルスは生涯にわたって感染を繰り返し、幼児期における再感染での発症はよくみられ、その多くは軽い症状です。

RSウイルス感染症の感染経路は飛沫感染と接触感染で、発症の中心は0歳児と1歳児です。一方、再感染以降では感冒様症状又は気管支炎症状のみである場合が多いことから、RSウイルス感染症であるとは気付かれてない年長児や成人が存在しています。

「RSウイルス」と聞くとなんだか大層なもののように聞こえますが、要するに我々が生涯にわたって「風邪」と呼んでいるものの原因である可能性の一つです。

インフルエンザウイルスの再感染・反復感染

「インフルエンザの反復感染について」 廣津医院 院長 廣津 伸夫

以上のように、インフルエンザは、乳児から年を経るごとに罹患率は高くなり、4 歳から 10 歳までは比較的高い罹患率を保ちますが、その間、反復感染も年齢が増すごとに増加し、10 歳では罹患者の半数に反復感染がみられています。その後、11 歳、12 歳と罹患率は減少傾向を示します。このことは、インフルエンザの抗原性が変化することによって再感染は起きるものの、感染を繰り返すことにより徐々にインフルエンザに対する免疫を確保していくことを示し、インフルエンザの罹患は、ウイルスの抗原性と自己の免疫が影響しあって成立すると思われます。

インフルエンザの場合は「抗原性が変化することで再感染が起きる」という書きぶりになっています。 

その他の感染症

そのほか、マイコプラズマ感染症、手足口病、ヘルパンギーナなど、再感染すると明示されている病気はいくらでも見つかります。

参考:学校において予防すべき感染症の解説

まとめ:再感染するというだけでHIVエイズウイルスと関連付けないように

  1. 「新型コロナウイルスは治癒後も再感染する」という情報はウイルス全般について述べられたものに過ぎなかった
  2. 世の中のウイルスには再感染するものは多い
  3. そもそも治癒後は病後なので免疫力が落ちているから再感染リスクが高いのは当たり前

「再感染するということは免疫がやられているからだ」

⇒だから免疫を攻撃するウイルスなんだ

⇒HIVエイズウイルスが組み込まれているんだ

このような思考回路でHIVと関連付けてる人が散見されますが、こういうストーリーは作りやすいため、陰謀論に使われています。

つい先日もインド工科大学の論文予稿で「新型コロナウイルスにHIV類似のタンパク質があるのを発見した」というものがありましたが、ゴシップサイトに『HIVウイルスが人為的に挿入されていた』という話に変換されて拡散された挙句、論文著者が撤回を表明しました。

以上

【時事通信の印象操作】「新型肺炎コロナウイルスは治癒後も再感染リスク」は誤解招く

時事通信「新型コロナウイルスは再感染リスク」

時事通信の記事において「新型肺炎コロナウイルスは治癒後も再感染リスク」と報道されました。

しかし、これは悪質な印象操作です。

追記:関連記事

「新型肺炎コロナウイルスは治癒後も再感染リスク」は誤解招く

新型肺炎、治癒後も再感染リスク 中国専門家:時事ドットコム

【北京時事】中国国家衛生健康委員会が31日開いた記者会見で、中日友好医院の※慶元(※簷の竹カンムリなし)医師は新型コロナウイルスによる肺炎に関し「感染後にできる抗体には長期間持続しないものもある。一度感染し治癒した患者にも再感染のリスクがある」と述べ、警戒を呼び掛けた。

感染後にできる抗体には長期間持続しないものもある」 「再感染のリスクがある

これを聞いてどう思ったでしょうか?

国家衛生健康委員会の記者会見の原文を見てみると、まったく違う印象になります。

時事通信の印象操作だった:中国国家衛生健康委員会の記者会見

2020年1月31日新闻发布会文字实录魚拓

香港经济导报记者 治愈的人有哪些注意事项?

治癒した人にはどのような予防措置がありますか?

詹庆元 这个问题问的非常好,我们从一般的病毒感染规律来看,病毒感染之后都会产生一定的抗体,对人体产生保护作用。但是有的抗体可能持续时间没有那么长,所以这些已经痊愈的患者还是有再感染的风险,因此治愈的患者应该加强防护。

詹庆元 この質問はよく聞かれます。一般的なウイルス感染のパターンからは、ウイルス感染後に特定の抗体を産生し、人体を保護します。ただし、一部の抗体はそれほど長く続かないものがあるかもしれないため、回復したこれらの患者は依然として再感染のリスクがあるため、治癒した患者は保護を強化する必要があります。

どうでしょうか。

「感染後にできる抗体には長期間持続しないものもある。一度感染し治癒した患者にも再感染のリスクがある」という言葉は

「一般的なウイルス感染のパターン」

という文脈において発せられたものだったのです。

「新型コロナウイルス」=「新型冠状病毒」についてはその後に言及しています。

新型冠状病毒感染,我们从临床上发现,主要还是累及肺,对轻症的患者应该没有后遗症,但是对于重症患者,可能在一段时间内会遗留一定的肺的损害修复的变化,比如肺纤维化。就我从临床的经验来讲,肺的修复能力是非常强的,绝大部分的肺纤维化都是可以修复的。但是对极重的,非常非常重的极少数的患者,可能会在比较长的时间内留下一点肺纤维化,我们要加强后期的随访。

  • 新型コロナウイルスは主に肺が関係する
  • 軽度の患者には後遺症はないはず
  • 重症患者は、肺線維などの損傷があるが、肺の修復能力は非常に強いのでほとんど修復できる。
  • しかし、非常に重症で非常に少数の患者については後遺症が残る

概ねこのような内容です。

ということで、時事通信の記事内容は、一般的なウイルスの通常の性質について言及した内容を、あたかも新型コロナウイルスの特別な性質を述べたかのように見せかけている点で、現在の状況に鑑みると悪質な印象操作です。

再感染・反復感染は通常のウイルスでもあり得る

「再感染があり得る」と言っても、それは通常のウイルスでも同様です。

まず、常識的に考えて、感染症に罹患した後は体力が弱っていますから、免疫力が落ちます。ですから、「回復後」というのは病気になりやすい状態であるということが一般的に言えます。

そして、再感染・反復感染するウイルスというのは、何も新型コロナウイルスに限ったものではありません。

RSウイルス・インフルエンザ・コロナウイルスの再感染

Y's Square:病院感染、院内感染対策学術情報 | かぜ症候群の原因ウイルス

Coronavirus(コロナウイルス)はコロナウイルス科に属するRNA型ウイルスの総称で、エンベロープを有します。ライノウイルスと共にいわゆる鼻かぜ、つまり軽度のかぜ症候群、上気道感染の主な原因ウイルスですが、幼児において下気道感染をもたらす場合もあります。年間を通じてみられますが、冬季に多く発生します。ヒトの糞便からも検出され、ヒトは再感染を繰り返します

RSウイルス 丸石製薬株式会社

インフルエンザの反復感染について 廣津医院 院長 廣津 伸夫

RSウイルス・インフルエンザ・コロナウイルス、それぞれにおいて、再感染することは普通にあり得ると書かれています。

時事通信の報道で騒ぎ立てる必要なんて何もないのです。

以上

『黒川検事長の定年後「勤務延長」には違法・脱法行為の疑い』への疑問

黒川検事長の定年後の勤務延長

東京高等検察庁より

安倍内閣が黒川検事長を6か月間「勤務延長」することを閣議決定した件。

これを違法ではないかとする言説に疑問があるので指摘します。
※このエントリは当初より大幅修正しています。

国家公務員法と検察庁法の定年と退職日の規定

検察官は一般職の国家公務員なので、基本的に国家公務員法の規定が適用されます。

国家公務員法 

(任命権者)
第五十五条 任命権は、法律に別段の定めのある場合を除いては、内閣、各大臣(内閣総理大臣及び各省大臣をいう。以下同じ。)、会計検査院長及び人事院総裁並びに宮内庁長官及び各外局の長に属するものとする。

第二目 定年
(定年による退職)
第八十一条の二 職員は、法律に別段の定めのある場合を除き、定年に達したときは、定年に達した日以後における最初の三月三十一日又は第五十五条第一項に規定する任命権者若しくは法律で別に定められた任命権者があらかじめ指定する日のいずれか早い日(以下「定年退職日」という。)に退職する
○2 前項の定年は、年齢六十年とする
省略
(定年による退職の特例)
第八十一条の三 任命権者は、定年に達した職員が前条第一項の規定により退職すべきこととなる場合において、その職員の職務の特殊性又はその職員の職務の遂行上の特別の事情からみてその退職により公務の運営に著しい支障が生ずると認められる十分な理由があるときは、同項の規定にかかわらず、その職員に係る定年退職日の翌日から起算して一年を超えない範囲内で期限を定め、その職員を当該職務に従事させるため引き続いて勤務させることができる。

ただし、検察官の退官については別途、検察庁法に規定があります。

検察庁法

第二十二条 検事総長は、年齢が六十五年に達した時に、その他の検察官は年齢が六十三年に達した時に退官する。

検察官の任命権者は内閣、各大臣にあり、定年の規定は国家公務員法、検察庁法には「退官」ですが検事長の定年は63歳とされています。

検察庁法の「退官」と国家公務員法の「定年」の関係は一見すると分かりませんが、「退官」は「定年即退職」の意味のようで、運用もそのようになっています。

f:id:Nathannate:20200204223753j:plain

官報:令和2年1月21日(本紙 第173号)

黒川検事長の63歳の誕生日は2月8日であることからこの日に退官することになっていました。そこで、今回は国家公務員法81条の3の「定年による退職の特例」を適用したのでしょう。

しかし国公法81条の3は「前条第一項の規定により退職すべきこととなる場合において」と書いているので問題になります。

人事院の通達は検察庁法22条を「別段の定め」としている

人事院定年制度の運用について】という通達を見ると、検察庁法22条が国家公務員法81条の2第一項の「別段の定め」であると書かれています。

そのため、検察官には国公法81条の3第一項の勤務延長の規定が適用されないのではないか?という指摘があります。

森まさこ法相は国公法83条の3第1項の適用を主張

法務省の森まさこ法相は検察庁法に該当する規定が無い場合には国家公務員法が適用されると考えているようです。

『黒川検事長の定年後「勤務延長」には違法の疑い』

黒川検事長の定年後「勤務延長」の適法性に疑問を呈している指摘は以下。

黒川検事長の定年後「勤務延長」には違法の疑い(郷原信郎)

しかし、この「前条第1項」というのは、同法81条の2第1項のー省略ーという規定であり、この規定で「法律に別段の定めのある場合を除き」とされている「別段の定め」が検察官の場合の検察庁法22条である。検察官の場合、定年退官は、国家公務員法の規定ではなく、検察庁法の規定によるものであり、81条の2の「第1項」の規定によるものではない

また、渡辺輝人弁護士が、国側がよく引用してくる、つまりは公権解釈を記したと思われる『逐条国家公務員法<全訂版>』(学陽書房 2015年)を引用しつつ郷原氏の指摘を補強しています。

安倍政権による東京高検検事長の定年延長は違法ではないか(渡辺輝人) 

なんと、検察官の定年については、国家公務員法の定年の定め自体が適用されないのです。
 国家公務員の定年延長は次の条文である国公法81条の3で定められていますが、当然ながら同条によって定年延長が認められるのは、「前条第一項の規定により定年で退職することとなる職員である。」(698頁)とされます。

さて、これは争いがありうるとは思いますが、内閣の側に立って適法となるロジックを考えてみました。

検察庁法に勤務延長の規定がなくとも適用排除する趣旨ではないのでは?

国公法81条の3第一項の勤務延長の規定の「前条第一項の規定により退職すべきこととなる場合」について。

これは、「別段の定め」に勤務延長の規定があることを想定した文言であり、その場合には特別法たる「別段の定め」における勤務延長の規定に依るべきということを示しただけであって、「別段の定め」に勤務延長の規定が無い場合に国公法の勤務延長の規定を適用することを排除する趣旨ではないと考えるとどうでしょうか?

国公法は検察庁法だけを見ているわけではなく、多数存在する(或いはこれから作られる)行政の組織法を視野に入れているはずで、国公法が措定している「別段の定め」とは、特別法たる組織法において勤務延長の規定がある場合が標準になっているのではないでしょうか。

公権解釈=国の考えを記したと思われる『逐条国家公務員法<全訂版>が『同条によって定年延長が認められるのは、「前条第一項の規定により定年で退職することとなる職員である』と記述しているのもそのような意味と捉えれば矛盾は生じません。

こう考えると「前条第一項の規定により」という文言と抵触すると考えるかもしれませんが、81条の2第一項の文言を以下のように理解すればどうでしょう?

第八十一条の二 職員は、法律に別段の定めのある場合を除き、定年に達したときは…

↓↓↓

第八十一条の二 職員は、法律に別段の定めのある場合はその規定により、そうでない場合は、定年に達したときは…

こう理解すると「前条第一項の規定により」の対象には検察庁法22条も含まれることになり、国公法81条の3第一項に反することにはなりません。

この場合、わざわざ「前条第一項の規定により退職すべきこととなる場合」と書いた意味は何か?、つまり、「前条第一項の規定によ」らない退職とは何か?という話になりそうです。

しかし、これは例えば定年後、退職日までに自主的に退職するような場合や、国公法第八条一号の「第五条第三項各号の一に該当するに至つた場合」などを除外する意味を持つことになると言えば良いんじゃないでしょうか?

検察庁法32条と国家公務員法附則13条

検察庁法22条の位置づけも、「別に法律を規定することができる」という国公法の附則を受けて、その定年と退職日に関してのみ規定しただけであって、勤務延長の規定を設けなかったことが直ちに国公法83条の3第一項の適用を排除する趣旨ではないのではないでしょうか。

検察庁法 

第三十二条の二 この法律第十五条、第十八条乃至第二十条及び第二十二条乃至第二十五条の規定は、国家公務員法(昭和二十二年法律第百二十号)附則第十三条の規定により、検察官の職務と責任の特殊性に基いて、同法の特例を定めたものとする。

国家公務員法 附則

第十三条 一般職に属する職員に関し、その職務と責任の特殊性に基いて、この法律の特例を要する場合においては、別に法律又は人事院規則(人事院の所掌する事項以外の事項については、政令)を以て、これを規定することができる。但し、その特例は、この法律第一条の精神に反するものであつてはならない。

国家公務員法

第一条 この法律は、国家公務員たる職員について適用すべき各般の根本基準(職員の福祉及び利益を保護するための適切な措置を含む。)を確立し、職員がその職務の遂行に当り、最大の能率を発揮し得るように、民主的な方法で、選択され、且つ、指導さるべきことを定め、以て国民に対し、公務の民主的且つ能率的な運営を保障することを目的とする。

沿革的には検察庁法が先にできて国公法の「定年」規定は後にでき、勤務延長の規定はそれに伴って規定されたものという経緯があります。

そのため、検察庁法をベースに考えるべきで、特別法たる検察庁法に勤務延長の規定が無い以上は勤務延長はできないのだとする見解も出てきそうです。

しかし、国公法は国家公務員の「各般の根本基準」なので、それが改正された以上、検察庁法が規定していないものもカバーして検察官に適用されると考えるのが通常じゃないでしょうか?

検察庁法の定年の趣旨から疑問視する方向

黒川検事長の定年後「勤務延長」には違法の疑い(郷原信郎)

検察庁法が、刑訴法上強大な権限を与えられている検察官について、様々な「欠格事由」を定めていることからしても、検察庁法は、検察官の職務の特殊性も考慮して、検事総長以外の検察官が63歳を超えて勤務することを禁じる趣旨と解するべきであり、検察官の定年退官は、国家公務員法の規定ではなく、検察庁法の規定によって行われると解釈すべきだろう。

郷原氏(渡辺弁護士も同様の認識だろう)は、検察庁法の趣旨をこのように解するとすれば、定年後の勤務延長は認められるべきではないと考えているのでしょう。

しかし、仮にそれが正しいとしても勤務延長を1年を超えない範囲で行ったとしても、検察官の職務の特殊性から要求される要素(それが何かは不明だが)を毀損するとは思えません。

逆に、どんな場合であっても勤務延長を認めないとすることは柔軟性に欠け、国家運営・司法行政にとって潜在的なリスクがあることになってしまいます。

国公法1条が「職員がその職務の遂行に当り、最大の能率を発揮し得るように、民主的な方法で、選択され、且つ、指導さるべきことを定め、以て国民に対し、公務の民主的且つ能率的な運営を保障することを目的」としていることからも許容される考え方ではないでしょうか?

よって、私はこの点からの指摘も不当だと思います。

「公務の運営に著しい支障が生ずる十分な理由」はあるのか?

しかし、定年による退職の特例の規定は「その職員の職務の特殊性又はその職員の職務の遂行上の特別の事情からみてその退職により公務の運営に著しい支障が生ずると認められる十分な理由があるとき」にのみ認められるようになっています。

今回の黒川検事長の退職日の特例は朝日新聞の報道によると「カルロス・ゴーン被告の事件の捜査」が原因とありますが、この報道が本当だとするとちょっと「十分な理由」があるかどうかは疑問です。

それとも、他の理由があるのでしょうか?

「特例」を定めた規定ですから、この点は安倍内閣はきちんとした説明ができなければならないと思います。

黒川検事長が退職日の特例の後に検事総長に任命された場合は脱法行為か

更には、仮に「十分な理由」があるとして、メディアが「黒川検事長を検事総長に任命するためだ。検事総長なら定年が65歳だからだ」と指摘するように安倍内閣が黒川検事長を検事総長に任命した場合の妥当性はどうでしょう?

既に63歳の定年を迎えた後に検事総長に任命された前例があるのかは調べてませんが、この場合には「脱法行為」と言われても仕方がないんじゃないでしょうか?

定年を延長したのではなく、定年による退職日を延長したに過ぎないわけですから。

このような理解で追及するのであれば私はアリだと思います。

以上

インド論文著者が撤回表明「新型コロナウイルスにHIVタンパク質が挿入」はフェイク・デマ

インド工科大学の新型コロナHIV類似たんぱく挿入論文の著者

 「新型コロナウイルスにHIVタンパク質に似たものが挿入されている」という趣旨の論文がbioRxiv(バイオアーカイブ)という論文予稿の保管サイトにUPされていた件。

論文著者の一人が「現在のバージョンを撤回する」とコメントしました。

インド工科大学の論文著者「新型コロナウイルスにHIVタンパク質に似たものが挿入」⇒誤解避けるため撤回方針

 

"Prashant Pradhan",という名前の論文の筆頭著者がbioRxivの論文ページのコメント欄に以下投稿しました。2月2日6:15:25 UTCの魚拓 撤回前の論文

This is a preliminary study. Considering the grave situation, it was shared in BioRxiv as soon as possible to have creative discussion on the fast evolution of SARS-like corona viruses. It was not our intention to feed into the conspiracy theories and no such claims are made here. While we appreciate the criticisms and comments provided by scientific colleagues at BioRxiv forum and elsewhere, the story has been differently interpreted and shared by social media and news platforms. We have positively received all criticisms and comments. To avoid further misinterpretation and confusions world-over, we have decided to withdraw the current version of the preprint and will get back with a revised version after reanalysis, addressing the comments and concerns. Thank you to all who contributed in this open-review process.
: Authors of the Manuscript

大要、「陰謀論に立ち入ることは意図していませんし、そんな主張はしていません、批判には感謝している、さらなる誤解や混乱を避けるために、プレプリント(査読前の予稿)である現在のバージョンを撤回し、再分析後、改訂版で戻ってきます。」と言っています。

「HIVたんぱく質類似のもの」に過ぎず「人為的な挿入」とは言っていない

上記でも指摘しましたが、仮にこの論文が正しくとも以下が言えます。

  1. 著者らは「HIVウイルスのタンパク質類似のもの」としか指摘していない
  2. 人為的に挿入されたとは書いていない(元々考察の部分での話)

論文が正しくても「HIVウイルスのタンパク質が挿入されている」という科学的事実が明らかになるわけではないし「人為的に挿入されている」という科学的事実が明らかになるわけではないということです。

「新型コロナにHIVウイルスが人為的に挿入」はフェイク・デマ扱いでよい

「新型コロナにHIVウイルスが人為的に挿入」は今の所は「フェイク」「デマ」の扱いです。元の論文ですらそんなことは言っていないのですから

このような言説が広まったのは海外ではzerohedgeというツイッターから永久凍結を食らった悪質なブログが直接的な表現で、日本国内ではInDeepという陰謀論サイトが仄めかす形で拡散したからです。

このような情報の伝達の仕方からも、到底信用ならない「言説」であるということになります。

以上

新型コロナウイルスで東洋人レッスン中止のハフポスト記事で皇居内桃華楽堂の写真:イタリア国立音楽院

ハフポストのイタリア国立音楽院で東洋人差別

 

新型コロナウイルスで伊の国立音楽院が「東洋人へのレッスン中止」という記事。

この記事でつかわれていた写真が皇居の音楽堂だということが判明し、ハフポスト側が修正するということが起きました。

新型コロナウイルスで東洋人レッスン中止のハフポスト記事

皇居桃華楽堂

ツイート魚拓

記事魚拓

記事内容は、イタリアのローマにあるサンタチェチーリア国立音楽院が新型コロナウイルスに関連して「東洋人の学生に対するレッスンを中止する」と発表して物議をかもしているということを報じる内容です。

元記事は朝日新聞だが写真なし・時事通信の提供

ハフポストの当該記事は元記事は朝日新聞だが写真なしでした。

また、写真は時事通信の提供でした。

伊の国立音楽院「東洋人へのレッスン中止」 新型肺炎:朝日新聞デジタル魚拓

皇居・東御苑の桃華楽堂であるという指摘

 ユーザから皇居・東御苑の桃華楽堂であるという指摘がありました。

皇居内桃華楽堂の写真であることは間違いない

宮内庁のHP⇒ご鑑賞(音楽大学卒業生演奏会)(桃華楽堂) 魚拓

個人サイトでも⇒桃華楽堂

いちいち画像をここに乗せませんが、時事通信提供・ハフポスト掲載の写真が、皇居内の桃華楽堂の写真だということは確定です。

なぜ違う場所の写真を載せるのか?

現在は画像が修正されています(ツイッターカードの修正は私がやった)

しかし、なぜ違う場所の写真を載せるのでしょうか?

時事通信の腹黒い意図を感じます。

以上

【注意】「新型コロナウイルスにHIVタンパク質が挿入」というインド論文の信憑性

新型コロナウイルスにHIVタンパク質が挿入

Uncanny similarity of unique inserts in the 2019-nCoV spike protein to HIV-1 gp120 and Gag

「新型コロナウイルスにHIVタンパク質が挿入という論文がある」という言説がSNS拡散されています。

この論文・言説の信憑性と理解には注意が必要です。

※論文著者が撤回を表明しました。

「新型コロナウイルスにHIV類似タンパク質が挿入」というインド論文の信憑性

「新型コロナウイルスにHIVタンパク質に似たものが挿入されている」という趣旨の論文のタイトルは"Uncanny similarity of unique inserts in the 2019-nCoV spike protein to HIV-1 gp120 and Gag"です。

インド工科大学の科学者による論文とされていますが、結論部分は以下です。

our findings suggest unconventional evolution of 2019-nCoV that warrants further investigation. Our work highlights novel evolutionary aspects of the 2019-nCoV and has implications on the pathogenesis and diagnosis of this virus.

我々の調査結果は、2019-nCoVの型破りな進化を示唆しており、さらなる調査が必要です。我々の研究は、2019-nCoVの新しい進化的側面を強調しており、このウイルスの病因と診断に影響を与えます。

この論文自体には「人為的に挿入された」とは書かれていません。

唯一、「ウイルスがこのようなユニークな挿入を短時間で自然に獲得することはほとんどあり得ないため、これは驚くべきことです。」と記述している部分が、「人為的挿入」を仄めかしていると見ることも可能なものになっているに過ぎません。

私には科学的な評価はできませんが、この論文の性質として、査読前だということが重要です。

bioRxivの論文は査読前

この論文はbioRxiv(バイオアーカイブ)に投稿されていますが、ここにUPされている論文は査読前の「予稿」の状態です。すなわち、同業者によるクロスチェックが行われておらず、信憑性が定まっていない代物です。

新型コロナウイルスに関する報告がたくさん上がってきて社会的な注目を浴びているので、メディアが勘違いして拡散しないように注意書きのバナーが表示されるようになりました。

zerohedgeという悪質なブログが投稿している

Dave Collumという人は、「決してこの"zerohedge"記事を自分で投稿してはいけない(※このツイートの引用リツイート等で論評しろという趣旨だろう)、そうすれば仮に私が凍結されてもあなた方は生き残ります。」と警鐘を鳴らしています。

要するに信用できないサイトだと言いたいのだと思います。

zerohedgeというのは金融ブログを自称しているサイトですが、ツイッターアカウントである"@zerohedge"は永久凍結されました。魚拓:http://archive.is/F0kyK

理由は以下の記事で最初に報道されていますが、ざっくり言えば個人情報を晒したため、ツイッタールールに違反したということです。

zerohedgeの文章では「HIVウイルスが人工的に挿入されたと研究者らは言っている」という趣旨になっていますが、元の論文ではそういう書き方にはなっていません。
※ここは全てを精査している余裕が無いが、zerohedgeの文章でハイライトしてる部分だけを見るとそのように理解できる。

InDeepという陰謀論サイトがシェアしている

日本語で運営されている"InDeep"という陰謀論サイトでもこの論文が扱われていることが確認できます。

InDeepでも論文の結論は書かれておらず、論文に「人為的挿入」と書かれているとは書いていないが、「人為的挿入」を匂わせる書き方をしています。

ちなみにInDeepについてはこのブログの最初期にちょっとだけ扱っていますがクオリティが低いのでここには貼りません。

HIV類似タンパク質が挿入のインド論文に対して専門家による明確な欠落の指摘

オーストラリア国立大学のGaetan Burgioは、この論文は「噴飯もの」であり、重大な欠陥があると指摘しています。

 

「中国の武漢にSARSやエボラの研究施設を建設」という記事はデマ新聞発

中国の武漢にSARSやエボラの研究施設を建設というデイリーメールの記事

英紙デイリーメール

「中国の武漢にSARSやエボラの研究施設を建設」という記事など、これまでに「生物兵器」 関連の陰謀論がささやかれていたために今回の論文を見て「やっぱりそうだったんだ」と考える人が居ます。

しかし、そもそもそのような内容の記事を出している所は英紙デイリーメールなど、日本で言えば「東京オリンピック中止」というタイトル詐欺をした"Buzzup!"や「なソゲ(なお、ソースはゲンダイ)」と揶揄されている日刊現代、リテラなどのフェイクサイトの類のメディアが出どころであったに過ぎません。

まとめ:HIVタンパク質が「人為的に」挿入された事を直ちには意味しない

  1. 問題の論文は「予稿」であり、査読されておらず科学的に正しいことの担保が取れていない
  2. 論文にはHIVウイルスのタンパク質が人為的に挿入されたとは直接的には書いていない(匂わせる記述は考察部分であり、事実を指し示すものではない)
  3. HIVタンパク質に「似たもの」という表現
  4. 悪質なサイト・陰謀論サイトが引用し、論文に書かれていない意味を付加して拡散している
  5. 論文に書いてあることが正しいとしても「人為的に挿入」された事を直ちには意味しないし、HIVウイルスと似てるに過ぎずHIVウイルスそのものであると直ちには意味しない

医学知識が無い状態での論文の評価はこのようなものです。

以上