事実を整える

Nathan(ねーさん) ほぼオープンソースをベースに法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

新型コロナウイルスの検査(PCR検査)をしてくれない、なぜ拒否するのかの理由

PCR検査

PCR検査とは何か、検査精度はどのくらいか、について医療関連機関が書いているページはたくさんあるのですが、なぜPCR検査が大々的に行われないのでしょうか?

ここではツイッター上の医師らによる説明を紹介した上で関連事項をまとめます。

※PCR検査の基準についても誤解があります。

新型コロナウイルスの核酸増幅検査・PCR検査の基準

現在の新型コロナウイルスの帰国者・接触者相談センターへの相談基準(厚生労働省)は、「風邪の症状や37.5度以上の発熱が4日以上続く・ 強いだるさ(倦怠感)や息苦しさ(呼吸困難)のいずれかに該当する方」が対象です。

また、高齢者、糖尿病、心不全、呼吸器疾患(COPD 等)の基礎疾患がある方や透析を受けている方、免疫抑制剤や抗がん剤等を用いている方、妊婦の方は重症化しやすいため、この状態が2日程度続く場合に相談するようになっています。

そして、新型コロナウイルスの核酸増幅検査=PCR検査の基準はこれに加えて更に「渡航歴や患者との接触歴などから、都道府県が必要と判断した場合」とあります。

この基準は今後、広げられたり狭められたりする可能性があります。

※追記:これは「行政検査」の基準であって検疫などは別の基準が用いられています。

なお、大阪府は予め厚労省が示している基準よりも広く検査対象にすることを吉村知事が明言しています。

※追記:2月27日の厚労省通知で、上記の症状とは別に「新型コロナウイルス感染症以外の一般的な呼吸器感染症の病原体検査で陽性となった者であって、その治療への反応が乏しく症状が増悪した場合に、新型コロナウイルス感染症が疑われる」「医師が総合的に判断した結果、新型コロナウイルス感染症を疑う」場合にも検査をするようになっています。

新型コロナウイルスの陽性・陰性を調べる方法として確立しているのは核酸増幅検査と呼ばれ、その中でもPCR検査=polymerase chain reaction と呼ばれる手法が行われています。

ざっくりいうと、狙ったウイルスの遺伝子を増やすことで見える化してるのです。

参考:【JML】微生物検査のPCR法とは - 遺伝子検査・PCR法・微生物検査 -

しかし、この検査は100%正確なのではありません

PCR検査をしてくれない、なぜ拒否するのかの理由

限られた人にしかPCR検査をしてくれない、なぜ拒否するのかの理由を理解するためのものとして、坂本史衣医師のこの説明がとても分かりやすいです。

内容は後述の通りまとめていますが、全ツイートを読むことをお勧めします。

 

上記ツイート内にある図は秀逸だと思います。

感度・特異度・有病率・偽陰性・偽陽性の意味

前掲ツイートと同内容について説明しているTaka医師の説明は、「感度」「特異度」「有病率」「偽陰性」「偽陽性」の基本用語の意味を丁寧に説明しています。

図も使って簡単に(厳密さは捨象した)説明をしているのがヤンデル医師の説明です。

これも全ツイートを読んでみてください。

COVID19の全件PCR検査を拒否する理由のまとめ

前掲のそれぞれのツイートは複数連続して行われているので、COVID19の全件PCR検査を拒否する理由をまとめると以下です。

  1. PCR検査はそれ自体の精度として誤りの確率が結構ある(現時点で「正しい確率」は30-50%と言われる。一定の環境下では70%という報告も)
  2. 有病率(検査前の確率=ある集団中に何人の感染者が居るか)とPCR検査はそれ自体の精度である感度・特異度の掛け合わせで偽陽性・偽陰性の確率が決まる
  3. 感染者が多くない集団に対して「手当たり次第に」検査をしても、偽陽性・偽陰性の結果が増えるだけ(現時点では新型コロナは検査前の確率が不明)
  4. だから医師が相当程度に疑わしいと判断する者にだけPCR検査をする=高い有病率の集団を相手に検査をすることになる
  5. 偽陽性の場合は健常者が病棟へ⇒自由の侵害と本人の感染リスク
  6. 偽陰性の場合は感染者が慢心して市中へ出て行くおそれ⇒他の人への感染拡大リスク
  7. 陽性だと判明しても現段階では対症療法しかない(適応外使用は除く)

現状では「検査して新型コロナウイルス=COVID19の可能性を潰したい」と思って検査しても、仮に陰性だったとしてもCOVID19の感染可能性は残っているのですから、ほとんど無意味だということです。

陰性の結果が出た人が「安心」してしまってマスクを着用せずに不特定多数の人が集まる場所に出て行っては困ります。

『自分、或いは家族が感染しているのかどうかわからない』状況であれば「安心・慢心」しませんから、自宅で安静するという行動を選択させることができ、それが全体最適だということです。

(「偽りの安心」を得る事が利益だと思わなければ、科学的には個人最適でもある)

そして、PCR検査がしばしば間違うということを知っていれば以下のニュースも正しく理解できることになります。

「再感染」ではなくCOVID19のPCR検査の偽陰性の問題?

8度のPCR検査でいずれも陰性だった女性、新型コロナ感染確認=中国ネット「早くほかの検査方法を…」

新型コロナウイルスのPCR検査を8度行って陰性だった方が感染確認されたニュース。

これは検査精度の問題で検出されなかったというだけの可能性があります。

また、次のニュースも偽陰性の問題が関係していると思われます。

中国広東省「新型コロナウイルス退院患者の14%が陽性反応」は再感染なのか 

広東省で退院患者の14%が「再度陽性」になったとされるニュース。

ただ、これは母数がよくわかっていないので14%という数字は今は無視すべきです。

大阪 ツアーガイドの女性 再び陽性に ウイルス増殖か 再感染か | NHKニュース魚拓

日本の退院患者(中国人)が退院後5日目に検査陰性であったが、その後また症状が出たため26日に再び陽性になったというニュース。

これらは「再感染」ではなく、元々体内にウイルスが残っていたのに、ウイルス量が少ないために検出されなかった可能性がありますが、同時に検査精度の問題であった可能性があります。

症状が治っても長い期間体内にウイルスが残っている、ということは他のウイルスでもあり得るので、いわゆる「ぶり返し」に過ぎない可能性があります。

中国のニュースでは、再度陽性になった方の濃厚接触者からは感染が確認されていないということで、再度陽性になる前のウイルス保持者が感染力を有するというデータは今の所ありません。

検査が必要なのに保健所や都道府県が検査してくれない例

もっとも、今問題視されているのは「検査が必要な人なのに検査をしてくれないケース」があるのではないか?ということ。

これは2つの問題に分けられると思います。

  1. 医師の判断が拙速で保健所から断られている
  2. 医師も保健所も検査の必要性を認識しているが、都道府県の検査のキャパシティを超えているために優先順位が低いとして断られる・或いは先延ばしになる

医師会は、医師が必要と判断したのに検査に結び付かないといった不適切事例がないかどうか、全国調査をするとしています。

新型肺炎 PCR検査、全国調査へ 医師会が不適切事例把握 - 産経ニュース

この場合でも忘れてはならないのは、検査で陽性だったとしても対症療法しかない(適応外使用は別)ということです。本質的なことは検査で陽性か陰性かの結論を出すことよりも、重症患者を医療機関で救うことです。

医療資源全体を見ずに「感染隠し」などと言って検査範囲の拡大を叫ぶ医師らは信用できない

検査のキャパシティを超えている場合はもうどうしようも無いわけで、熱が続いていたとしても、ほとんど重症化しない子供や体力のある若者は検査されない・後回しになるのは仕方がありません。

「重症肺炎なのにコロナの検査をしてくれない」という例がテレビでは紹介されてますが、本当に検査の必要がある人なんですかね?

ちなみにアメリカハワイ州は検査キットが3月中旬にならないと届かないため日本に融通するよう依頼しています。大規模に検査できている所は、MERSの経験から対策を予め講じてきた韓国など限られた国しかありません。

その韓国ですら、新興宗教による集団感染の影響を無視しても死者が多数出ているのですから。

民間検査機関を活用する場合の問題

「民間検査機関でもっと検査できるところはある」という主張をテレビでは聞くことが多いですが、その場合の問題については上記の通りなんだろうと思います。

検査する人間の熟練度も関係して、精度が落ちる可能性などもあります。

まとめ

  1. むやみに検査をしない話と必要な人の検査が行われていないのではないかという問題は別
  2. 後者も医療資源の限界があるためすべてが悪いとは言えない(医療関連機関が対応すべきは新型コロナだけではない)

「子どもが肺炎になって数日間熱が下がらないのに検査されない」というケースはインパクトがあるので「かわいそう」という共感を呼び込むためにテレビで大々的に紹介されやすいですが、新型コロナは子供が重症化するのは稀(おそらくゼロ)なので、検査対象から除外されるケースが多いんじゃないかと思います。

そういう煽動的な報道よりもツイッター上の医師の説明の方が信頼できます。

以上