事実を整える

Nathan(ねーさん) 法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

地方議会での名誉毀損と司法審査:行橋市の小坪慎也議員に関する徳永議員による爆破予告犯「ヘイト議員」便乗動議提出・決議について

テロ犯への便乗を司法が許すなど言語道断

小坪慎也議員に関する徳永議員による爆破予告犯「ヘイト議員」動議提出と決議

平成28年9月8日、小坪慎也議員のブログコメント欄に、「行橋市役所を爆破します 阻止したければソレマデニ辞意表明をブログで出して市会議員を辞めることだな 俺は本気だぞ 後で市役所にも電話するからな 覚悟しろよヘイト糞野郎(略)」というコメントが投稿され、同日中に行橋市役所に同趣旨の爆破予告電話が為されました。

9月12日、日本共産党所属の徳永克子議員が小坪慎也議員に対する非難決議案を緊急動議で提出しました。

行橋市議会議長  諫 山  直 様

小坪慎也議員に対する決議 (案)

 9月8日に、行橋市役所に脅迫の電話があった。この事により、市民に対し、また、市当局や議会においても多大な迷惑を及ぼした。この「脅迫事件」は決して許されるべきものではない。

 これは、小坪慎也議員が、平成28年4月に熊本地震が発生した際、差別的にとらえられるSNSでの意見発表を行った事を発端としている

 公人である市議会議員は、住民を代表する立場にあり、議会外の活動であっても良識ある言動が求められるのは当然である。

 市民・国民に迷惑を及ぼすような意見の表明は、行橋市議会の信用が傷つけられたものといわざるを得ない。

 行橋市議会は、小坪慎也議員が品位を汚すことの無いよう、公人としての立場をわきまえる事を求めると共に、謝罪及び必要な行動を自ら行うことを求めるものである。

 以上、決議する。

 平成28年9月12日

 行 橋 市 議 会

この決議案がそのまま決議されました。

要するにiRONNAの寄稿が爆破予告を誘発し、市民・国民に迷惑を及ぼしてるから謝罪等をしろ、と迫っているわけです。

しかし、同年12月8日に爆破予告犯が検察官送致され、捜査機関の取調べや小坪議員が提起した民事訴訟において、あるブログについて「ブログの更新を促すために行った」と主張しました。

こうした前提があり、小坪議員から行橋市と徳永議員に対して訴訟提起が為されるに至りました。その概要と結果は次項の通りです。

福岡地裁小倉支部令和4年3月17日判決 令和元年(ワ)第959号

  1. 行橋市に対して、【徳永議員が行橋市役所爆破予告事件につき原告(小坪慎也議員)がインターネット上で行った意見表明(iRONNAへ寄稿した記事とそのTwitterシェア)が、犯人が爆破予告をするに至った原因であるとして原告の謝罪及び自主的に必要な行動を求める決議案の緊急動議を行橋市議会に提出したこと】が名誉毀損であるとして国家賠償法1条1項に基づく請求として
    ①慰謝料請求
    ②原告の名誉回復措置として新聞6紙及びゆくはし議会だよりへの謝罪広告の掲載を求める
  2. 被告徳永に対して、被告徳永が自身のブログ上に上記決議案が可決されたこと等を記載したブログ記事を掲載し、当該ブログ記事のリンク等を記載したツイートを行ったことが名誉毀損であるとして民法709条に基づく損害賠償請求として①②の慰謝料と謝罪広告の掲載を求める

訴訟物(審判対象)はこういったもの(記述は組み換え・省略)です。

結果は、国賠請求は「違法・不当目的や意図的な虚偽が認められない」とし、民法上の請求は真実相当性が認められるとして違法性阻却され、敗訴しています。

控訴審の福岡高裁(福岡高等裁判所令和4年(ネ)第374号)では国賠請求は原告が審理対象から外し、民法上の請求のみ控訴しましたが、同様の結果となり、上告受理申立中のようです。

他方、地裁レベルの時点でも犯人の動機が小坪議員のiRONNAの寄稿であるとしてたことについて「真実の証明は為されていない」という判断なので、政治的には意味があります。

議会が真実と証明できない内容に基づいて決議をし、それが議員の名誉を毀損した』ということは司法判断が出たということですから。

それを元に、名誉回復措置を求めるよう議会側に求めている最中です。

ここから先は、これらの裁判所の判断に対する反論めいたものになります。

その前提として、この分野の判例を参照していきます。

議会決議の司法審査と部分社会の法理、議員の動議提出行為の内部規律

本件は、議会としての行為への司法審査の事案ではなく、議員の動議提出行為に関する事案です。

議会の決議(懲罰その他の措置)に関しては岩沼市議会出席停止処分事件の令和2年11月25日の最高裁大法廷判決(平成30年(行ヒ)第417号 民集第74巻8号2229頁)が判例変更をして出席停止の懲罰決議にも司法審査が及ぶとした事案が有名です。「部分社会の法理」と呼ばれる分野に変化をもたらしました。

それにより【地方議会の懲罰その他の措置】については

  1. 司法審査の対象になるか
    議会の内部規律の問題に留まる限り、その自律的な判断に委ねるのが適当
     最高裁大法廷判決昭和35年10月19日
    この理は、懲罰その他の措置が私法上の権利利益を侵害することを理由とする国家賠償請求の当否を判断する場合であっても異なることはない(決議の取消訴訟に限らないということ)最高裁判決平成31年2月14日
    (※「議会の自律的な判断を尊重し…これを前提として…」という表現だが、議会の判断をそのまま受容する趣旨(自律的判断受容型)であると解されている
    ⇒除名の懲罰は該当する
    ⇒出席停止の懲罰も該当(期間の長さや議員報酬の減額を伴うかは関係ない)
    ※岩沼市議会事件の令和2年大法廷判決が判例変更した部分
  2. 司法審査の対象となった場合
    ⇒この場合、採られた措置によって議会の裁量の範囲が異なると考えられている
    ⇒出席停止の場合、「一定の裁量」という令和2年大法廷判決の表現

という枠組みがあるということになります。

除名と出席停止の懲罰は地方自治法135条に法定されている点が重要で、戒告と陳謝も同様のために司法審査の対象とするべきであるとする見解もあります。*1

次に、【議員の議会での行為】に関しては、従前からの規範として…

最高裁判所第三小法廷 昭和30年4月19日判決 昭和28(オ)625 民集第9巻5号534頁 

 公務員の職務行為は国賠法上の違法として国・公共団体が責任を負うとしても、行政機関としての地位においても個人としても、被害者に対しその責任を負担するものではない

という判例があります。

その上で、国賠法1条1項は「その職務を行うについて、故意又は過失によつて違法に他人に損害を加えたとき」という要件がありますが、議員の議会における一定の言動については、さらに限定された要件が確立した判例によって課されています

最高裁判所第三小法廷判決 平成9年9月9日 平成6(オ)1287 民集第51巻8号3850頁

 国会議員が国会の質疑、演説、討論等の中でした個別の国民の名誉又は信用を低下させる発言につき、国家賠償法一条一項の規定にいう違法な行為があったものとして国の損害賠償責任が肯定されるためには、当該国会議員が、その職務とはかかわりなく違法又は不当な目的をもって事実を摘示し、あるいは、虚偽であることを知りながらあえてその事実を摘示するなど、国会議員がその付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使したものと認め得るような特別の事情があることを必要とする 

国会議員の国会における名誉・信用毀損行為の責任を課すための規範については、その根拠として、国会議員の「質疑等は、多数決原理による統一的な国家意思の形成に密接に関連し、これに影響を及ぼすべきものであり、国民の間に存する多元的な意見及び諸々の利益を反映させるべく、あらゆる面から質疑等を尽くす」という職務から来るものであるとしています。

すると、この理は地方議会についても同様の趣旨が妥当する、という見解があります。

この規範を採用したのが以下の2つの高裁判決であり、平成29年判決が小坪議員の側からも参照されていました。小坪議員も、議員としての役割を果たすための議会内での権能と、個人としての権利保護を考え、この主張をするに至ったものと思われます。

  • 札幌高等裁判所平成29年5月11日判決 平成28年(行コ)24号/平成28年(行コ)30号
  • 札幌高等裁判所令和2年8月21日判決 令和2年(ネ)96号

議員による動議提出行為が名誉毀損とする構成で争われたのは他に、さいたま地方裁判所川越支部令和4年6月30日判決 令和3年(ワ)266号の事案が見つかります。

さいたま地裁以外の2つは最高裁で確定しています。

次項で上記3つの事案における議員による動議提出行為について整理します。

これらの事案では決議についても違法性を争っていますが、本件とは関係が無いので簡単に触れる程度にします。

札幌高等裁判所平成29年5月11日判決 平成28年(行コ)24号/平成28年(行コ)30号

  • 七飯町議員による懲罰動議提出行為が名誉毀損として七尾町に国賠請求
  • 懲罰動議の理由は、町長への不信任案の提出時の手続や説明等が地方自治法132条の品位の保持と七飯町議会会議規則100条の品位の尊重に反している、というもの

動議提出行為について名誉という私権侵害を理由とする国賠請求は内部規律の問題ではなく司法審査の対象になるとされましたが、違法不当目的や敢えて虚偽の記述をしたなどの事情が無いとして排斥されました。

※平成31年最高裁判例の前の判断である点に注意

他、懲罰委員会に付託する決議の無効確認や出席停止や戒告決議の無効確認請求をしていましたが、すべて原告敗訴に終わっています。

札幌高等裁判所令和2年8月21日判決 令和2年(ネ)96号:問責決議案の提案行為

  • 深川市議会議員による問責決議案の提案行為が名誉毀損として深川市に国賠請求
  • 問責決議案の理由は、原告議員が有権者への議員活動報告のために私的に発行している市政ニュースにおいて、市議会での審議について「言論封殺」「審議放棄」などと記述したこと

裁判所は「特に本件は原告が議会の議事運営等の在り方を批判する意見を表明するなどしたのに対するものであるから、政治的な当否の問題として有権者の判断に委ねられるものであって…」などと評し、問責決議案の提案行為は、あくまで議会の内部規律の問題であるとして原告の主張を排斥しました。

さいたま地方裁判所川越支部令和4年6月30日判決 令和3年(ワ)266号

さいたま地裁の事案は辞職勧告決議の提案行為につき、以下の要素がありました。

  1. 市議会においてソーシャルメディアガイドラインが策定されていた
    ⇒議員の身分を有する者に対し、SNSの利用について公の機関としての運用を損なわないよう適切かつ正確な情報発信と運用について規定
  2. 問責決議案は、原告のSNS等における言動が市議会会議規則151条(議員は、議会の品位を重んじなければならない)及びSNSガイドラインに反すると指摘するものだった
  3. 問題視された原告の投稿は、いずれも市議会での出来事等に関する原告の政治的意見を記載したものだった

さいたま地裁は、先立って辞職勧告決議・審議・決議の公表行為について、辞職勧告決議に法的拘束力が無いことも含めて検討して内部規律に留まるものであるとして議会の自律的な判断を尊重するべきとして排斥しました。続いて本件提案行為について内部規律の問題であるとしてその広範な裁量を設定しつつ司法審査の対象として扱い、辞職勧告決議が違法ではないことも考慮要素としつつ「権限の趣旨に明らかに背い」たものではないとして主張を排斥しました。

これは内部規律の問題であるとしながら裁量判断に踏み込んでいるので、「自律的判断尊重型」と言われる類のものといえるでしょう。

外部での言論活動を非難する動議提出行為は内部規律の問題ではなく司法審査対象

さて、行橋市の徳永議員による動議提出行為は、外部メディアでの言論活動を非難するものであるため、内部規律の問題ではない⇒司法審査の対象といった枠組みで考えるべき、ということになるでしょう。

 国会(地方)議員が国会(地方議会)の質疑、演説、討論等の中でした個別の国民の名誉又は信用を低下させる発言につき、国家賠償法一条一項の規定にいう違法な行為があったものとして国(地方公共団体)の損害賠償責任が肯定されるためには、当該国会(地方)議員が、その職務とはかかわりなく違法又は不当な目的をもって事実を摘示し、あるいは、虚偽であることを知りながらあえてその事実を摘示するなど、国会(地方)議員がその付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使したものと認め得るような特別の事情 ~以下略~

徳永議員の小坪議員への名誉毀損となる真実の証明がない内容での非難決議案の提出行為を考えるにあたって、この規範が重要になってきます。

大きく、①この規範に従って主張する、②別の規範が妥当するという主張をする

これらの立場がありますが、小坪議員が①を選択した以上ここで②を語るは不毛です。

ただ、「地方議員にはこの規範は妥当せず、より緩い要件で国賠法上の違法の責任を認めるべき」という主張は論理的には一応あり得るとは言えます。
令和2年大法廷判決の宇賀克也裁判官補足意見でも「憲法は,自律性の点において,国会と地方議会を同視していないことは明らかである。」としているため、地方議会の議員の行為の国賠法上の責任を問う要件に差を設けるという発想はそこまでおかしくないだろう。

さらに、「(ここで言うところの)質疑、演説、討論等の中でした個別の国民の名誉又は信用を低下させる発言」に当たらない、という主張も一応はあり得るとは思います。
平成9年9月9日最高裁判決が議員の発言に大きな責任免除の余地を残したのは、「立法、条約締結の承認、財政の監督等の審議や国政に関する調査の過程で行う質疑、演説、討論等」といった、政策形成に向けられた行為に対してであり、同僚議員の資質を問うなどといった内向きで議会内で完結するような話は想定していないのでは?野次が名誉毀損行為であった場合はどうするのか?という気がしています。そこも含めて「職務関連性~違法不当目的~虚偽」の要件の中で要素として検討するのかもしれませんが、ここでは深く触れません。

外部メディアでの言論活動を対象にするのは「その職務とはかかわりなく」なのでは?

福岡地裁小倉支部は、徳永議員の動議提出行為の職務関連性をあっさり認めています。

 本件動議提出行為は、被告徳永が、被告市議会議員という立場で、爆破予告事件を非難するとともに、同じ被告市議会議員である原告に対し、議員としての一定の行動を求めるものであって、被告徳永の職務にかかわるものである。

これだと凡そあらゆる動議提出行為が「職務にかかわる」とならざるを得ない。

議会内のルールに則って行われたから職務関連性がある、となると、もはや「質疑、演説、討論等の中でした個別の国民の名誉又は信用を低下させる発言」はすべて職務にかかわることになる。

自分の質疑外での野次やプラカードの掲示のみが「職務にかかわりなく」の対象になるという趣旨だというのだろうか?とてもそうは思えない。

本件の事案の重要な要素は、「iRONNAという外部メディアへの寄稿」が対象であり、「寄稿文の内容は議会の活動報告等とは関係の無い、私的な政治活動や主張に関するもの」であるというものだろうと言えます。

前掲さいたま地裁の事案のように、議会でSNSの利用ルールを設けている、などといった事情もありません。

要するに、本件は「議会の外側の出来事」を徳永議員がわざわざ議会内に持ち込んできた事案だと言えます。「議会の外側」とは、単に物理的な側面を指しているのではなく、物事の質的側面からも妥当するものです。

この点、例えば日本維新の会の丸山ほだか衆議院議員(当時)が衆議院の議員団として「令和元年度第一回北方四島交流訪問事業」に参加した際の言動が問題となりけん責決議と辞職勧告決議が為されましたが、これは物理的空間的な場所としては議会の外での行為ですが、明らかに議会所属議員の職務として行動している中でのものであるため、職務関連性が認められる事案でしょう。

地方議会で言えば最高裁判所平成31年2月14日判決では、出張命令が出ていた視察旅行を拒否したために厳重注意処分がなされた事案で、原審は議会外の行為義務を課すものという事情を考慮したが、最高裁は考慮に入れませんでした。*2

本当に「違法不当目的・虚偽を知りながら敢えて事実摘示ではない」のか?

爆破予告犯は単に「ヘイト議員」としか言っておらず、そのように評する原因となる小坪議員の発信を特定していたわけではありませんでした。

にもかかわらず、徳永議員は単に「第三者が騒いでいたから」という理由で「iRONNAの寄稿」がその原因であると主張しています。それは真実とは異なっていました。

しかも爆破というテロの予告をした犯人によって、それを辞めさせるためには辞職しろ、と迫られた小坪議員に対して、たった4日後にその責任を追及する決議を求めるなど、常軌を逸しています。
(8日が木曜日なので、2営業日後という異常な早さ。行橋市役所への爆破予告電話が午後4時20分頃と認定されているので、それを徳永議員が知ったとすればそれ以降のハズ)

実際はともかく、こうした事情からは客観的には「不当な目的」、つまりは爆破予告を奇貨として政敵を貶める目的があったと考えるのが通常でしょう。

地方議員がその付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使したのでは?

判例の規範は「など」と付いてるので、「違法又は不当目的~虚偽と知りながら敢えて事実摘示~」以外の「地方議員がその付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使した」事情を指摘することも可能のように思えます。

議員が専ら議会外の事象について議会の作用を及ぼし、しかもテロ予告犯の主張に便乗した主張をするというのは、「その付与された権限の趣旨に明らかに背いて」いると言えないでしょうか?

真実相当性を認めるとテロ予告犯への便乗で動機を捏造すれば良いということに

  1. 動議提出時点で動機は不明としか言えなかった
  2. 自分で調べてない(というより、逮捕前だから調べる余地がない)
  3. 脅迫は記事から数か月経過した時期に為されている
  4. 原告=小坪議員の落ち度で「iRONNA記事が動機」とみられる状況が作出されたわけではない。もっぱら外部団体が騒いでいただけ。

真実相当性は、通常は「取材を尽くした」場合や「原告の落ち度によって摘示事実が存在しているような状況が作出された」ような場合に認められるものです。

後者の例としては植村隆の平成3年8月11日付朝日新聞大阪本社版朝刊に掲載された従軍慰安婦問題に関する署名記事について「捏造」と言われたものに対し、真実性が認められたものと真実相当性が認められたものがあった事案があります。

しかし、本件ではそういった事情はなく、裁判所が根拠としたのは(6~8頁)、4月に反レイシズム情報センター(ARIC)がiRONNAコラムに対してヘイトスピーチだとして抗議していたこと、5月に「公人のヘイトスピーチを許さない会」が非難し、それが西日本新聞で報道されていたこと、6月に同じ団体が行橋市議会議長宛てに小坪議員を非難する公開質問状を提出していたこと、小坪議員宛てにも抗議文を提出したこと、9月5日に在日本大韓民国国民団熊本県地方本部から行橋市議会議長宛てにヘイトスピーチ解消法に抵触する者だとする陳情書が提出されたこと、同様の陳情書が市民らから提出されたことなどが挙げられています。

爆破予告犯は、これらの主体とは別人物です。第三者です。

なぜ、これらの主張の通りに爆破予告犯が考えていると信じることができ、それが相当だと言えるのか、不思議で仕方がありません。

相当性の法理が働くための証明の程度は厳格です。

「相当性」理論再考 ―― 名誉毀損免責の判断枠組みに関する一考察 ――牧本公明

② 「相当性」の証明の程度
 最高裁は,前述のとおり民事名誉毀損訴訟においても「相当性」理論を採用することを明示したが,その後の判決において「相当性」の証明の程度をかなり厳格に解していることがうかがえる。

 例えば,いわゆる「下野新聞」事件最高裁判決61)では,捜査当局未発表の情報について,捜査経緯の発表等の職務権限を有する刑事官から報道することの諒解を得ていたとしても,当時者らを再度訪ねて取材する等,更に慎重に裏付け取材をすべきであったとし,新聞社の各担当者がたやすく記事の内容を真実と信じたことについて,「相当性」の証明がないとした。また,いわゆる「スロットマシン賭博機」事件最高裁判決62)では,記事の一部が捜査の責任者から得た情報に基づくものであったとしても,記者が,当事者から事情を聞くなどの裏付け取材をせず,捜査当局が未だ正式な発表をしていない段階において記事を作成し,掲載したものであるとして,記事の掲載について軽率であったといわざるを得ず,記事の内容について真実と信じたことについて「相当性」の証明がないとした

 上記の2つの最高裁判決は,取材拒否された当事者に対する再度の取材を求めたり,公式な発表ではないとはいえ捜査状況の発表権限を有する刑事官からの諒解を得た上での報道に対して「相当性」の証明を否定したりと,マス・メディアに対し比較的厳格な証明責任を負わせているといえよう。

しかし、本件の福岡地裁小倉支部は、「ヘイトスピーチに当たるような原告の言動以外に犯人が本件爆破予告に及ぶ原因、動機になり得る事情がうかがわれない」ことを相当性判断の根拠の一つにしていました。これは従前の判例の蓄積からは逸脱した判断ではないでしょうか?

「テロ予告犯の動機はiRONNAの記事にヘイトスピーチに当たるような記述があったからだ」につき、第三者が勝手に騒いだ状況があるからといって真実相当性を認めることは、テロ予告犯への便乗で動機をでっち上げて非難決議をすれば良い、ということになってしまいます

年中「コイツはヘイトスピーチをしている」などと叫んでいる団体が、数多くあります。その中でたまたま「ヘイト議員」とだけ主張した人間が居た。すると数か月前の記事が原因だとしてなぜか被害者の側が非難される。

そういう社会が作られてしまってよいのでしょうか?

小坪議員の記事は「ヘイト」或いは「差別的にとらえられる」ものか?

そもそも小坪議員の記事は「ヘイト」或いは「差別的」なものではありません。

一部においてそのように読みたい人らにとっては、そういうものとして受け止められるものではあるとは思いますが、それが客観的標準的なものとするべきではない。
※裁判所も「ヘイトスピーチである」とは書いておらず、「ヘイトスピーチとみられる」という、小坪氏を批判する側の認識ベースで書いている。

まず結論から述べるが、「朝鮮人が井戸に毒を入れた」というデマが飛び交うことに対しては仕方がないという立場である。」「私は、被災時において外の人を恐れるのは仕方ないし、当然のことだと受け入れている。」という部分だけに飛びついて理解するから「ヘイトだ」となるのであって、記事の後半部分には以下の記述などがある。

その時に「朝鮮人が井戸に毒を!」というデマ。ふざけるなと言いたい。こっちは仕事をしているんだ、家族を置いて、エレベーターより速いからと階段を駆け上り。息を切らせて走りまくってるんだ。備蓄の水すら持たず、ごちゃごちゃとやかましい。これは保守にも言わせて頂くし、謎の争点化を試みる左派・人権派にも言わせて頂きたい。うるさいのだ、こっちは必死でやっている。ちょっと考えればわかるだろう、と。

「朝鮮人が井戸に毒」に大騒ぎするネトウヨとブサヨどもに言いたい!『小坪慎也』

「ふざけるな」と否定しています。

「仕方がない」の意味を、「朝鮮人側に落ち度があるから」とするものではないことが明らかです。

https://archive.is/Adj6T

「その先の出来事も許容する意味だ」などと読む者が居ましたが、前述のARICの代表ですよこれ。まったくそういう意味ではないことが全体の文章から明らかでしょう。

災害時の情報発信、平時にも通ずるSNSによる情報拡散の在り方を問うている

「朝鮮人が井戸に毒」などと大騒ぎする前に、他になすべきことはないのか。恐らく徹夜で編成された北九州市の応援隊、その出発を伝える上野くんの投稿。拡散すべきはこちらではないか? イイネは130ほど、シェアはたったの8件。実力をもって助けに行くという「安心を伝えるための動き」は拡散されず、謎のデマに乗ってどうするのか。私は保守の議員かも知れないが、常にネットの保守と同じ動きをするわけではない。最前線の地べたをはいずりまわってきたんだ、同志は皆そうだ。地方議員、ナメんな! と言いたい。皆様は、私たちが守ります!と胸を張っていいたい。
 保守に求めることは、そしてSNSの在り方について思うことは、「もうちょっと、しっかりできんのか」という話だ。弾は目の前にあるではないか、自治体は動いている、同志の上野は動いた、これを拡散することで「誰かの安心」につなげたいとは思わないのか? これこそが本当の保守がなすべき動きだと私は考える。

要するに、善悪の判断以前に、緊急時という極限状態にそういうデマが出て来るというのはあり得るものであって、震災による災害時の初期という情報が飛び交い状況がひっ迫している時期に、そんなものを相手にしている暇はない、もっと拡散するべき情報は他にあるにもかかわらず、支援の役にならずノイズですらある話でSNSを埋め尽くすべきではない、ということを言っているわけです。

これは各所のSNSサービスの特性上、実に理に適った提言です。

どうしようもなく低俗で破綻した主張をする者は一定数居り、それは防ぎようがない。そうした者の発信をいちいちサルベージして批判することばかりする者が居る。それはデマの否定や誤謬の否定という体裁を取ってはいるものの、その実は低俗で破綻した主張の拡散に過剰に寄与しており、むしろ有益な情報が覆い隠されたり、有益な情報の拡散のための時間リソースを自ら放棄している、という状況が余りにも多い。

もっと言えば、そういう発信をする人物が日本人であるとは限らないわけです。

愉快犯や朝鮮人が嫌いな人物とは限らないわけです。

「だから日本という国はダメなんだ」とか言いたい人とかがやってるかもしれない。

わかりますよね?

なお、iRONNAが記事タイトルとは別にヘッドラインを作成しており、以下の文章となっています。

関連テーマ 熊本地震で「ヘイトデマ」を流す輩は去れ! 「朝鮮人が井戸に毒を入れたって本当ですか?」。最大震度7を記録した熊本地震をめぐり、こんな心ないツイートがまたも飛び交った。一世紀前、デマが人々を暴徒化させた関東大震災の悲劇を忘れたのか。大災害に便乗し、たとえ面白半分に「ヘイトデマ」を流す輩であっても、決して許してはならない。

デマを容認する趣旨ではないというのは、ここからもわかる。

また、「被災時において外の人を恐れるのは仕方ない」という部分は、外国人・朝鮮人についての言及が中心ではなく、日本人であろうが他の地域から移り住んできた人や近所づきあいが無い者に対して向けられています。普段からそういう状況を作らないように公助の前の自助・共助の環境を作れ、事前準備を怠るな、ということを言っているわけです。この際も、平時とは異なる極限状況にある人間社会の普遍的現象についての洞察が念頭にあります。

こうした主張すら「ヘイト」だの「差別」だの言われることが標準的である、という世の中は、政策形成のための表現の自由が委縮するものでしかないでしょう。
(何度も言うが、そのように感じる人が一定数出て来る類の文章ではあるとは思う)

まとめ:「ヘイトスピーチ・差別的言動をした」と議会で糾弾する手法を確立させてはならない

小坪議員以外にも、議員が「ヘイトスピーチをした」「差別的言動をした」などと難癖を付けられて議会で糾弾されるという事案が発生しています。

自由闊達な意見により政策形成をするという議員活動が危機にさらされています。

そうした状況を司法が加速させる懸念があり、そうした動きには明確に反対していきたいと思います。

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*1:判例時報2446号 団体の内部自治と司法権ー地方議会を中心としてー渡辺康行

*2:判例時報2446号 団体の内部自治と司法権ー地方議会を中心としてー渡辺康行