事実を整える

Nathan(ねーさん) ほぼオープンソースをベースに法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

伊是名夏子「乗車拒否」問題まとめ

伊是名夏子乗車拒否問題まとめ

伊是名夏子「乗車拒否」問題にかんするまとめ。

彼女のブログ等で見られる言動のすべてを網羅してるわけではありません。

ここではあくまでバリアフリー・障害者関係の論点についてのみ触れます。

伊是名夏子「乗車拒否」問題の概要

伊是名夏子「乗車拒否」問題とは【鉄道運行の安全性や職員の人権を無視し、障害者の代表面して既定路線だったバリアフリー化を叫んで社会問題化し、「乗車拒否された」と虚偽発信してメディア利用して騒ぎ立て、自身の主張の正当化を図った事案

問題点を総花的に並べるよりも、重要な事実関係が何かを示したうえで、本質的中心的論点が何なのかを画定してみました。

  1. 事実関係
    ⇒100kgの電動車椅子に関する事案であり、普通の障害者の話ではない
    ⇒来宮駅・来宮神社の立地特性=坂道多い、道が狭いなど
  2. 主要論点
    ⇒JRが小田原駅において熱海駅を案内した対応は正しかった
    ⇒労働法体系上の駅員の安全
    ⇒障害者差別解消法上の「合理的配慮」「過重な負担」
    ⇒来宮駅のバリアフリー化は既定路線「騒いだから促進」は違う
    ⇒伊是名夏子の言動それ自体の問題
    ⇒その他(騒動後の発信、過去のブログ、etc…)

図にすると以下

枝葉末節のものは軽く触れる程度で、ここでは彼女の過去のブログの言動や私生活に関わる事柄については細かくは取り上げません。過去に書いた記事を参照。

伊是名夏子「乗車拒否」騒動に関する記事のまとめ - 事実を整える

100kgの電動車椅子・普通の障害者ではない

本件は【100kgの電動車椅子ユーザー】の事案であり、普通の車椅子を利用する障害者一般についての事柄ではない。

この最重要事実を認識せず、一般の障害者との違いを考慮しないで本件を語ることは不可能です。この事実を隠して立論していた例が、社民党全国連合常任幹事の役職にある伊是名夏子氏を擁護した社民党です。伊是名氏本人ではない社民党の発言の問題については以下で論じています。

社民党、伊是名夏子「乗車拒否」事案の見解を発表:移動の権利とバリアフリー

社民党がゴリ押しする「移動の権利」という欺瞞|Nathan(ねーさん)|note

伊是名夏子の使用するレル・ライトの重量のスペック表

伊是名夏子の電動車椅子レルライト

natirousmile:https://www.youtube.com/watch?v=GK7NDoy5i54

伊是名夏子氏が使用する電動車椅子はレル・ライトです。

メーカーの さいとう工房によるスペック表は以下

レルライト・レルリフト スペック表

伊是名夏子の電動車椅子レルライト

総重量は98kg、全長×全幅×全高は94×62×102です。重さが「80kg」と言われることがあるのですが、いったい何のことなのかヨクワカラナイ。バッテリーはユアサ製で11.2kgとある。

過去の別の旅行時には通常の車椅子も使用していた伊是名氏

琉球新報 バリアフリーでシンガポールを満喫 100cmの視界から―あまはいくまはい―(54)2019年08月27日
琉球新報 女性が生き生きウチナー文化 100cmの視界から―あまはいくまはい―(9) 2017年10月02日

伊是名氏は過去に通常の車椅子で旅行しています(家族や友人の介助あり)。

伊是名氏は「先天性骨形成不全症という障害により電動車椅子を使用」という紹介のされ方が為されていますが、必ずしも電動車椅子を使っているわけではありません。

普通の手動車いすを使うだけで怪我をするようなレベルの障害ではなく、接触の危険が無ければ使うことはあるということです。歩くことも一定程度は可能です。

出来れば電動車椅子が使えればベターだが、そうでなくとも移動に伴う危険が高すぎる、ということでは必ずしもないようです。

従って電動車椅子の使用を選択したことによる不都合は基本的に引き受けるべき。そもそも世の中に100kgの重さに対応できる環境は限られている。これは健常者も一緒。

来宮駅・来宮神社の立地特性:坂が多く歩道が狭い

来宮駅(きのみやえき)・来宮神社の周辺地図はこちら。

平面図ではわからない情報があります。

坂道が多く、道も狭い周辺環境:あたみ梅ラインのストリートビュー

来宮駅の西側にある来宮梅園に向かうあたみ梅ラインのストリートビューです。

来宮駅からは登り坂になります。

Youtubeで来宮駅や熱海駅から来宮神社へ徒歩でアクセスする動画がUPされているのを見れば、そこかしこに坂道があるということがわかります。

来宮暗渠という最短ルートの問題点:電動車椅子による通行は非現実的

来宮駅や熱海駅から来宮神社へ行く最短ルートは来宮暗渠(あんきょ)を通ります。

横幅62cmの電動車椅子レルライトが歩道を通るのは物理的な可能性はあるが現実的ではないということ、その事から導かれる帰結を以下で詳説。

「伊是名夏子はJR狙い撃ち」説の根拠と傍証:本当はバリアフリーに興味が無い?

さて、ここまでの事実を使って、主要な論点について判断していきます。

1:JRが小田原駅で伊是名氏に熱海駅からの移動を案内したのは正しい

「来宮神社に行きたい電動車椅子ユーザー」への案内に際して以下が考慮されます。

  1. 最寄り駅は来宮駅だがエレベーターがなく階段での移動必須の上、無人駅
  2. 来宮駅・熱海駅、いずれも来宮神社への徒歩の最短ルートは来宮暗渠を通る
  3. 来宮暗渠の歩道は非常に狭くて現実的に通れず、車道を通るのは極めて危険
  4. 来宮駅から迂回すると約1.5kmの坂道を通る必要がある
  5. 来宮駅からは来宮神社直通のバスは無い(熱海駅からはある)
  6. 来宮駅からタクシー利用するくらいなら熱海駅の方が1駅分手前なので時間メリットがある
  7. 当日に電動車椅子対応のタクシーを提供できる会社は存在している

単に「来宮駅に行く」だけなら来宮駅で降りることを優先して考えるでしょうが、「来宮神社に行く」というのが真の目的なら、最善の手段である熱海駅からのアクセスを提案するのはとても合理的でしょう。
(伊是名氏は来宮駅周辺でランチを予定していたために来宮駅で降りたかったようですが、その事を小田原の駅員に伝えていたかは不明。)

最終的には熱海駅長の判断で来宮駅に自身を含めて4名の男性職員を派遣して電動車椅子を階段運搬、翌日の復路でも同様の対応をしました(この場合はこの時点で翌日の事前連絡があったことに)。

「乗車拒否」ではないのは明らかです。これを小田原駅の案内の段階を切り取って「事実上の乗車拒否」と評するのは、不誠実で不当だなと思います。

なお、伊是名氏が通常の車椅子を使用していたならば、当日は子供2人とヘルパー1名+友人1名(両名とも女性)によって移動可能だったため、敢えて坂道の多い来宮周辺を選択して電動車椅子で移動することを選択したことの結果を引き受けるべきです。

小田原において駅員と交渉したのは(事前連絡をしなかった点は措いておき)、川崎市在住の伊是名氏が小田急小田原線からJR東海道本線に乗り換えをしたからと思われ、来宮駅はJR伊東線の駅で同系列であるため、熱海駅ではなく小田原駅で行き先が来宮駅と伝えるのは通常の行為と思われる。

2:労働法体系上の駅員の安全の問題:重量物の運搬に関する努力義務

本件はまた、労働法体系上の駅員の安全の問題でもあります。

上掲ブログが詳細かつ秀逸にまとめているので私が改めて書く必要は無いでしょう。

必要な内容を抜粋すると以下

  1. 労働法体系上は、男性が運搬する物の重量の上限は、腰痛等の労災を防止する観点から体重の40%以下のものとなるようにすることが努力義務
  2. 女性職員はさらに男性の60%以下とすることが努力義務
  3. 80kg(と伊是名氏が主張しているのでそれに従うと)を運搬するには最低でも男性職員4名が必要

さらにJRのマニュアルでは今回の場合は本来は6~8人が必要とJRが認識しています。

そこから踏み込んで、事前連絡の有無が駅員の安全のみならず鉄道運行の安全性全体の問題に直結することに言及していたのがモトケン氏。

3:障害者差別解消法上の「合理的配慮」と「過重な負担」のバランス

障害者差別解消法上の「合理的配慮」も、この安全性をベースに考えなければなりません。なぜなら、同法には同時に「負担が過重でないときは」、とあるからです。

障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律

(事業者における障害を理由とする差別の禁止)
第八条 省略
2 事業者は、その事業を行うに当たり、障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において、その実施に伴う負担が過重でないときは、障害者の権利利益を侵害することとならないよう、当該障害者の性別、年齢及び障害の状態に応じて、社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮をするように努めなければならない。

この「過重な負担」を無視して「合理的配慮」だけを論じるのは片手落ちです。

障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針 - 内閣府

(2)過重な負担の基本的な考え方
過重な負担については、行政機関等及び事業者において、個別の事案ごとに、以下の要素等を考慮し、具体的場面や状況に応じて総合的・客観的に判断することが必要である。行政機関等及び事業者は、過重な負担に当たると判断した場合は、障害者にその理由を説明するものとし、理解を得るよう努めることが望ましい。

事務・事業への影響の程度(事務・事業の目的・内容・機能を損なうか否か)
実現可能性の程度(物理的・技術的制約、人的・体制上の制約)
費用・負担の程度
事務・事業規模
財政・財務状況

熱海駅長としては「当日の状況においては」過重な負担では無いと判断して介助実施したと評価可能でしょう。JRの組織としても、その後の取材で今回のような場合に対応可能な場合があり得ると述べています。

だからこそ「事前連絡」の協力が求められているわけです。

伊是名氏の主張に違和感があるのは、それが常に行われるべきとする態度だからです。

4:来宮駅のバリアフリー化は既定路線:「騒いだから促進」は違う

上掲記事で全部語っていますので、以下まとめ

  1. 2021年4月1日に施行された改正バリアフリー法でエレベーターの設置の機運が既に高まっていた
  2. 来宮駅と同じJR伊東線の無人駅である網代駅に、自民党の川口健・熱海市議と勝俣孝明衆院議員らの働きかけによって、2017年にエレベーターが設置されていた
  3. 熱海市の行政も議会も来宮神社のある来宮駅や伊豆多賀駅へのエレベーター設置を含めたバリアフリー対策の検討が必要であると認識していた

「伊是名氏が騒いだから促進した・功績だ」というのは因果関係判断として誤りであるケースが多いでしょう。

なお、やはりこのような認識を持ってしまったものは一定数おり、メディアがそれをほのめかした事案があったので以下で解説しています。

バリアフリーを考えるなら以下のような選択肢も提示していけばいいと思います。

5:伊是名夏子の言動の何が問題だったのか:窮屈な社会に繋がる言説

既に論じてきたことと重複するところもありますが、改めて「乗車拒否騒動」に関する伊是名夏子の言動の問題という視点から整理すると

  1. 労働法体系上、問題となり得る負荷を認識しつつ駅員に強いた
    ⇒事前連絡が無かったことによる問題
  2. 特別対応を一般的に認めさせようと社会問題化した
  3. (結果的に)事実と異なる言動が一部でみられたこと

私は、事前連絡をせず小田原駅の段階で交渉すること自体はありだと思っています。ただ、その場合であっても、基本的に無理なお願いをしているのだから、小田原駅の段階であっても「乗車拒否」などという評価は甚だ不当だと思います。

次に、伊是名氏は自分がしてもらったような事を一般的に認めさせようと社会問題化しました。社民党もそれに乗っかってnoteで声明を出しました。
社民党、伊是名夏子「乗車拒否」事案の見解を発表:移動の権利とバリアフリー

常に対応を求めるなら女性職員の配置を諦めざるを得ず、採用の問題にまでなります。女性差別的な帰結になりかねません。無人駅への派遣は状況によって不可能な場合もある。無理に行えばそれは全体の鉄道運行の安全性や駅の規律維持に悪影響。

伊是名氏は主張してないが「無人駅を無くせ」というのは論外。駅の設置という「便利さを提供」したら不便だと不当に言われたら、有人化ではなく駅そのものが無くなるぞ。

そして、伊是名氏は「乗車拒否」以外に「車椅子を載せられるタクシーは1か月前から予約しないと使えないこともある」としていましたが、これは熱海駅に限れば「結果的に」事実と異なります。

現実には熱海第一交通であれば「前日の昼過ぎまでに予約をいただければ、時間通りに対応が可能。当日だと、対応車両が空いていれば乗れるが、当該車両が稼働中の場合は時間待ちになる可能性がある」とする調査結果があります。

伊是名氏の言い訳破綻 タクシー会社に聞いた | 令和電子瓦版

確かに電動車椅子のサイズを考えると過去の経験としてはそういうことがあったのだろうし、そこから今回もそうだろうと予測するのは仕方がないし、交渉文言としては有りだと思います。

ただ、炎上してからのブログ記事でも自身の主張の正当性の根拠として主張しているし、何よりタクシーではなくともノンステップバスの利用もあり得た(常に可能なわけではないが当日中には可能だろう)のだから、主張の妥当性は無いでしょう。

重視すべきでない批判:事前連絡・ノンステップバス・計画的犯行説等

さて、枝葉末節の批判として以下のものがあります。

  1. 熱海駅からタクシー・ノンステップバスで移動しないのは不合理
  2. 事前連絡が無いのは怠慢だ・下調べが足りない
  3. 感謝が無い
  4. 計画的犯行説(「社民党によるバリアフリー化の手柄横取り」説・「JR狙い撃ち」説・「乗車料金ケチった」説etc…)
  5. 「小田原から来宮への直通は16時台からしかないから云々」

1番は、子連れの旅行なので常に合理性を求めるのは野暮だと思う。ただ、当人が旅行の方針として「移動距離が短い」「宿泊地は駅から歩いて行ける距離」と設定していることと来宮駅周辺の地形からは、伊是名氏自身の旅行の方針とも矛盾している。通常の車椅子なら来宮駅を普通に利用できた。

伊是名夏子ブログより:https://archive.is/1aCaw

2番は、人に完璧を求めるのは不毛だと思うので、それ自体は仕方がないとする。小田原駅で交渉を開始して以降の言動を問題視するべきだと思う。

3番、感謝の言葉はあればベター。ブログの書き方として、小田原の駅員に憤っていたとしても、最終的に熱海の駅員やJRに対する感謝の言葉が綴られていたら炎上しなかったと思う。ただ、この点を中心に論じるのは焦点がぼやけるのでスルー。

4番、公約数的な表現は「最初からゴリ押すことを計画していた」というものになるでしょうが、私はこの説は採りません。その理由については別稿の「伊是名夏子はJR狙い撃ち」説の根拠と傍証:本当はバリアフリーに興味が無い?を参照。

5番はみわよしこ、伊是名夏子の嘘を暴く?「乗り換え無しで来宮駅」⇒直通は16時台から、来宮神社は17時まで に書いてますが、「真偽不明」とだけ言っておきましょう。

他の主張に対する応答についてはQ&Aの形でまとめるかもしれませんが、質問があればページ下部のコメント欄にお願いします。

まとめ:本質的中心的な問題が埋もれ、忘れ去られてしまうような批判を重視すべきではない

何か炎上案件が発生すると類型的な展開として、当人の過去の言動や人間性、職業人としての能力の問題についての話題が多く言及されるようになり、本質的中心的な問題が忘れ去られてしまいます。

その結果、当人らが被害者ぶって枝葉末節の批判をするネットユーザーの意見だけを取り扱い「ネットリンチ・誹謗中傷に晒された」などとメディアによる問題点の隠蔽・歴史修正がなされることもあります。それは一種のストローマン論法だと思います。

あいちトリエンナーレはまさにこの典型例でした。

あいちトリエンナーレの問題点・争点をわかりやすくまとめ - 事実を整える

伊是名事案も、本しゃぶり運営の骨しゃぶり氏やモトケン氏の指摘する労働者の安全の問題は無視されています(Twitterに生息する労働法関係弁護士が無口なのはお察し)。

メディアは絶対にこうした総括はしないので、整理する意義があると思った次第です。

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