事実を整える

Nathan(ねーさん) 法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

桜を見る会問題まとめ 安倍は公職選挙法・政治資金規正法違反の違法か?

桜を見る会問題:公職選挙法・政治資金規正法違反

出典:首相官邸HP:https://www.kantei.go.jp/jp/98_abe/actions/201904/13sakura.html

桜を見る会問題が騒がれていますが、この問題の構造を分かりやすく整理します。

また、公選法、政治資金規正法違反の疑いがあるなどと報道されていますが、それは本当かについても解説します。

「桜を見る会問題」は2つある

マスメディアや一部野党が問題視している「桜を見る会」とは、実は2つの事象が混同されて(わざと混同して)報道されています。

  1. 内閣総理大臣が主催する桜を見る会
  2. 安倍晋三事務所(或いは旅行代理店)が主催する、桜を見る会に関連したツアー、特に「前夜祭」

両者は主催が別個であり事実として別々のものとして把握しなければなりません。

そして、それぞれに「違法なのか」という問題と「違法ではなくとも政治倫理の見地から適切なのか」という問題があります。

1:内閣総理大臣主催、新宿御苑で観桜する桜を見る会

日本共産党公式ツイッターより

内閣総理大臣が主催し、新宿御苑で観桜する「桜を見る会」は、当初、その会自体が問題視され、以下の点が指摘されていました。

  1. 予算額を超えた支出と予算の増額
  2. 招待客の人数が膨れ上がっていること
  3. 縁故者を優先して呼んでいる可能性が疑われていること(後援会の人が850人程度参加している)
  4. どういう理由で呼ばれているのか疑問な人が居ること

結局、安倍総理大臣の判断で来年度の開催は中止し、ルールの見直しを経て再来年度に再開する予定となっています。

関連:なぜ桜を見る会が問題視されているのか

関連:菅官房長官、桜を見る会の来年度の開催を中止の理由

2:安倍晋三事務所主催の前夜祭等のツアー

もう一つの問題として、後援団体である安倍晋三事務所が主催する桜を見る会をツアーの中に組み込んだイベントが行われており、その中で供応接待等の「寄付行為」が行われていたのではないか?という点が騒がれています。
※安倍晋三氏の「後援会」はいくつもあり、また、それとは別に「安倍事務所」があるようですが、どの行為がどの主体によるものなのかが不明なので、ここでは基本的に便宜的に「安倍側」と記述する場合があります。

現在は「前夜祭」であるホテルニューオータニでの会食について、通常よりも割安で提供したのではないか?という疑惑があり、その場合には寄付行為になるだろうといわれています。

また、この際の経費が政治資金収支報告書に記載が無いことから、政治資金規正法違反ではないかという疑惑が叫ばれています。

桜を見る会は公職選挙法199条の5違反なのか

長いですが太字だけが関係しています。

公職選挙法(後援団体に関する寄附等の禁止)
第百九十九条の五 政党その他の団体又はその支部で、特定の公職の候補者若しくは公職の候補者となろうとする者(公職にある者を含む。)の政治上の主義若しくは施策を支持し、又は特定の公職の候補者若しくは公職の候補者となろうとする者(公職にある者を含む。)を推薦し、若しくは支持することがその政治活動のうち主たるものであるもの(以下「後援団体」という。)は、当該選挙区(選挙区がないときは、選挙の行われる区域)内にある者に対し、いかなる名義をもつてするを問わず、寄附をしてはならない。※ただし書き省略

2 何人も、後援団体の総会その他の集会(後援団体を結成するための集会を含む。)又は後援団体が行なう見学、旅行その他の行事において、第四項各号の区分による当該選挙ごとに一定期間、当該選挙区(選挙区がないときは、選挙の行なわれる区域)内にある者に対し、饗応接待(通常用いられる程度の食事の提供を除く。)をし、又は金銭若しくは記念品その他の物品を供与してはならない。

指摘されている違法は公職選挙法199条の5違反です。

要するに、【後援団体は】選挙区内の人に対して寄附や後援団体の行事での通常の食事の提供を超える饗応接待などをしてはならないとされています。

さて、「桜を見る会」は「後援団体」が主催でしょうか?

違いますよね、【政府】が主催です。

したがって、「桜を見る会」は公選法違反の話ではありません。

また、今回問題視されている政治資金規正法上の義務違反疑惑も、政治団体の会計責任者に課せられている義務の話なので、関係ありません。

安倍晋三後援会の「前夜祭」は公職選挙法違反なのか?

次に、安倍晋三後援会の「前夜祭」は公職選挙法違反なのか?という問題。

具体的に言えば、ホテルニューオータニで開催された前夜祭で、850人の参加者は5000円を支払ったが、本来はもっと高くつくはずなのに安くしているということは、安倍後援会から参加者に対して公職選挙法上の『饗応接待』をしていたのではないか?という問題です。

※安倍晋三個人が主催じゃないので199条の2は無関係です。

ホテルニューオータニの見積もりと食費

ホテルニューオータニでの会食については、パーティープランは1万1000円が下限と言われたという報道や、見積もりを取ったら1人当たり1万3000円だという野党議員の発信が目につきます。

しかし、「850人」の前夜祭の話なのに何故か「150人」の場合の費用を確認するなど、印象操作が多いというのが分かります。これは非常にわかりやすい例。

通常用いられる程度の食事の提供を超えた「饗応接待」なのか?

ホテルニューオータニの前夜祭

 

前掲の公職選挙法には以下のように書かれています。

【饗応接待(通常用いられる程度の食事の提供を除く。)】

ホテルニューオータニは「5000円でできるかは宴会の形式による」「お客様の要望をうかがって判断」していると述べています。

先に挙げた立憲民主党の石川大我議員の見積もりはいろいろ突っ込みどころがありますが、要するに個別対応をするケースがあり、一般的な概算見積もりを提示しても無意味だということです。

安倍総理の11月15日の答弁でもホテルニューオータニに宿泊している客が多い事情を踏まえて値段が設定されたとしており、個別対応されたとみる他ないでしょう。

なお、NHKなどの取材では、『会費5000円のパーティーのプランはあるかどうか尋ねたところ「パーティープランの最低価格は1人1万1000円からで値切り交渉などには応じられない」などと説明しました。』と報じられることがありますが、「そういうパッケージプランがあるのか?」という質問になっているので、「それは無い」となって当然です。質問が悪すぎる、ということになります。

一般人の結婚式の2次会よりもかなり窮屈なのが分かります。

「会場はぎゅうぎゅうで五千円は高い。ぼったくりかと思った」とこぼす男性の弁が東京新聞で報じられるように、こういう場は食事も「1人分×人数分」などという量を用意するはずがないというのが社会常識であり、食事代が安くなる可能性は十分にあるということです。

なお、移動費や宿泊費も参加者の自腹であり、招待状が送られた人でも「だから行かない」と言う人も出ていました。

いずれにしても現時点で出そろった情報からは、「本来の食事代よりも安い5000円でパーティーを開いたのであり、それは差額分を参加者に饗応接待したことになる」と言うことはほぼ不可能と思われます。

追記:シャンソン歌手 ケイ潤子の歌披露は「財産上の利益の供与」なのか?

シャンソン歌手のケイ潤子氏・プロの歌の披露は寄付にあたる?

前夜祭ではシャンソン歌手のケイ潤子氏が「6曲20分間」歌を披露したようです。

京都弁護士会の渡辺輝人弁護士は、プロ歌手の歌謡を選挙民に供した場合には寄付=「財産上の利益の供与」に該当すると考えているようです。

一方、湘南平塚事務所弁護士の最所弁護士は、選挙応援演説における森進一氏による歌のサビ披露について以下述べています。

応援演説で、歌手が歌を歌ったら、候補者は懲役刑になる!?

公職選挙法に違反するとの主張は、①森進一氏の歌は、経済的価値が認められる無形の財産である、②候補者が、無償で経済的価値のある歌を聴く機会を聴衆に与えることは、聴衆に物品を提供する行為と実質的に同義である、③したがって、公職選挙法が禁止する『寄附』や『財産上の利益の供与』に該当しうる、概ね、そのような主張がなされているようです。

 このような主張をされている方の根底には、公正な選挙の要請がまずあって、公正な選挙を害しない限りにおいて、政治活動が許される、すなわち、政治活動は、原則としてしてはいけないが、公正な選挙を害しない限度で、例外的に許される、そのように考えているのではないでしょうか

 しかしながら、憲法上、政治活動の自由、表現の自由は、民主制において非常に重要な権利として保障されています。そのことを前提に、完全に自由な活動に委ねてしまうと、貧富の差等によって、公正な選挙を害してしまう可能性があることから、例外的に、ルールを決めて制限しましょう、そのルールが公職選挙法に規定された禁止規定であるというのが素直な解釈です。

 政治活動は原則自由、例外的に制限、これが基本的な憲法解釈の姿勢で、多くの弁護士の感覚だと思います。

こうした事案に関する確定した行政の見解や司法判断が出ているわけではありません。

さて、【プロの技術発揮には必ず利益が発生しているはずだ】という問題設定は、果たして適切なのでしょうか?

これではお笑い芸人による応援演説で笑いを取ったら公選法違反になってしまうことになりかねませんが、そういう考え方が正しいとは私は思いません。

安倍晋三後援会の「前夜祭」は政治資金規正法違反なのか?

政治資金規正法(報告書の提出)
第十二条 政治団体の会計責任者(省略)は、毎年十二月三十一日現在で、当該政治団体に係るその年における収入、支出その他の事項で次に掲げるもの(これらの事項がないときは、その旨)を記載した報告書を *省略* 提出しなければならない。

一 すべての収入について、その総額及び総務省令で定める項目別の金額並びに次に掲げる事項

二 すべての支出について、以下省略
三 十二月三十一日において有する資産等(次に掲げる資産及び借入金をいう。以下この号及び第十七条第一項において同じ。)について、以下省略

要するに、資産等以外は【収支が発生】していなければ記載する必要はありません。

安倍総理の説明も「収支が発生していない」として記載の必要性を不要としています。

安倍首相発言要旨 桜を見る会:時事ドットコム

 安倍晋三首相が15日、「桜を見る会」について首相官邸で記者団に語った要旨

旅費、宿泊費は参加者がそれぞれ旅行代理店に支払い、夕食会費用は会場入り口の受付にて安倍事務所職員が1人5000円を集金し、ホテル名義の領収書をその場で手交し、受け付け終了後に集金した全ての現金をホテル側に渡すという形で支払いがなされた

旅費や宿泊費は旅行代理店に支払っているとのことです。

そして、前夜祭については、たとえるなら飲み会の幹事が参加者から徴収したあとにお店に一括して支払う場合に、いちいち「幹事の収入+お店への支出」という処理はしないのと同じで、直接支払われたと同視できる事情があります。

ということで、収支が発生しないために政治資金収支報告書への記載・報告も不必要となるため、これが違法とはなりません。こんな処理はどこの事務所もやっているハズです。

違法性はなくとも後援会の会員を多く呼んでいるのは問題では?

違法性がなくとも、政治倫理や公金支出のありかたという視点からは問題があると思います。

11月13日の菅官房長官記者会見では与党にも推薦依頼をしていたということが分かりましたから、実質的に与党特権のような形になっていたのでしょう。

一応は要領に従って「功績のある者」を呼んでいる体でしたが、これでは「身内優先に税金を使っている」と言われても仕方がないと思います。

しかも、皇族方も出席される場に呼ばれるにふさわしくない人物が招待されている例もあることも確かなので、個人的には2000人程度に規模の縮小を図るべきだと思います。

私は園遊会よりもフランクな場として各界の著名人が交流できる場として首都圏の観桜の名所を活用できる機会があるのは貴重だと思っていますので、ルールを厳格にして再開してほしいと思います。

1年未満で廃棄、文書保存期間の3年、10年というズレ

なお、本題からずれますが、桜を見る会の関連文書の保管について情報が錯そうしている点について。

これは内閣府と各省庁とで文書保存期間の扱いが異なること、「推薦者名簿」と「招待者名簿」とで扱いが異なるために生じていることであると言えます。

一部野党やメディアはこの点を巧妙に隠して印象操作しています。

桜を見る会問題をわかりやすくまとめると

以上より、「桜を見る会問題」をわかりやすくまとめると以下になります。

  1. 「桜を見る会問題」とは内閣総理大臣が主催する桜を見る会と、安倍側が主催する桜を見る会に関連したツアーの2つの事象が問題視されている
  2. 桜を見る会自体は政府が主催なので、公職選挙法や政治資金規正法の規制する場面には当たらないため、最初から違法の話は出てくるわけがない
  3. 安倍側主催の関連ツアーは、饗応接待ではないため公職選挙法違反ではない
  4. 安倍側主催の関連ツアーは、旅費・宿泊費は旅行代理店に、前夜祭の食費は直ちにホテル側に支払われたため、収支が発生せず、記載の必要がないため政治資金規正法の違反ではない
  5. ただし、後援会の者を優先的に大人数呼んだことについては、公金支出のあり方や政治倫理の観点から問題であり、改善すべきである
  6. 文書保存期間の差は内閣府と各省庁の扱い、「推薦者名簿」と「招待者名簿」の違いによって起こっている

たった5500万円の桜を見る会に単純計算で1日3億円もかかる国会の質疑を当てるのは非生産的です。

既に来年度の開催を中止して、ルールを整備した上で再来年度に再開すると決めたのですから、もう野党議員や報道の役割は終わったでしょう。これ以上は無駄な行為だと思います。

以上