事実を整える

Nathan(ねーさん) 法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

自治労が支持基盤の立憲枝野氏、日本学術会議法「首相が判断できない書き方」⇒労組法裁判例「総理の広汎な裁量」

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自治労が支持基盤の立憲枝野氏、それで大丈夫か?

立憲枝野氏、日本学術会議法「勝手に首相が判断できない書き方」

日本学術会議法は会員について、学術会議の推薦に基づいて首相が任命すると規定しており、枝野氏は「勝手に首相が判断できない書き方になっているのは明確だ」と語った

立憲民主党の枝野幸男議員が、日本学術会議法は「勝手に首相が判断できない書き方になっているのは明確だ」と言っています。

そんな法令解釈で大丈夫か?

日本学術会議法「推薦に基づいて内閣総理大臣が任命する」

 日本学術会議法

第七条 日本学術会議は、二百十人の日本学術会議会員(以下「会員」という。)をもつて、これを組織する。
2 会員は、第十七条の規定による推薦に基づいて、内閣総理大臣が任命する。

第十七条 日本学術会議は、規則で定めるところにより、優れた研究又は業績がある科学者のうちから会員の候補者を選考し、内閣府令で定めるところにより、内閣総理大臣に推薦するものとする。

日本学術会議法の関連規定はこちら。

〇〇の推薦に基づいて△△が任命する」 という書きぶりの法律は他にもあります。

労働組合法上の推薦に基づく総理・知事の任命権

「推薦に基づいて任命」について司法試験法と労働組合法から考える|Nathan(ねーさん)|note

労働組合法の19条の3と19条の12では以下書かれています(かっこ書が長いので関連部分を抽出)。

  1. 中央労働委員会の使用者委員は使用者団体の推薦に基づいて、労働者委員は労働組合の推薦に基づいて内閣総理大臣が任命する
  2. 都道府県労働委員会の使用者委員は使用者団体の推薦に基づいて、労働者委員は労働組合の推薦に基づいて都道府県知事が任命する

さらに、労働組合法施行令20条1項・21条1項において「内閣総理大臣は/都道府県知事は…に対して候補者の推薦を求め、その推薦があつた者のうちから任命するものとする。」とまで規定されています。

この場合の任命裁量について争われた裁判例があります。

自治労(全日本自治団体労働組合)を支持基盤とする枝野弁護士なら、当然知っているはずの裁判例のはずです。

東京高裁「内閣総理大臣の広汎な裁量」

東京高裁平成10年9月29日判決 平成9(行コ)76 中央労働委員会労働者委員任命処分取消等請求事件

</要旨> 国の行政府の長である内閣総理大臣が、労働組合の推薦する候補者の中からいかなる者を労働者委員として任命するかは、その広汎な裁量にゆだねられたものというべきであって、その裁量権の行使に当たっては、労組法の立法趣旨はもとより、労働者委員の果たしてきた、また果たすべき役割や労働界の実情等さきに詳細に認定した諸般の事情を十分に斟酌することが期待されるものではあるが、労組法の予定するその裁量権の制限が右に説示したとおりであることに照らせば、その任命に当たり、労組法が規定する労働組合から推薦された候補者を当初から審査の対象から除外したり、あるいはこれを除外したと同様の取扱いをするなど、右推薦制度を設けた趣旨を没却するような特別の事情が認められない限りは、その任命の当否について内閣総理大臣の政治的責任が問われることがあっても、裁量権の濫用ないし逸脱があるとして民事法上の違法の問題が生じる余地はないものと解するのが相当である。

中央労働委員会の委員の推薦ー任命について争われた事案の東京高裁では、「内閣総理大臣の広汎な裁量」 を認めています。

この際、推薦された候補者を最初から審査の対象外にしたなどの特別事情が無い限り、違法の問題が生じる余地は無いとしています。

単に「政治的責任」が問われうるにとどまるとされています。

大阪地裁「推薦に基づいて任命する場合の任命権者には、裁量権が与えられており」

都道府県労働委員会の委員の推薦に関する知事の任命裁量についても争われました。

大阪地裁昭和58年2月24日判決 昭和57(行ウ)31 大阪地労委委員任命処分取消事件

これらの規定の趣旨は、候補者の推薦をした労働組合に対し、その推薦をした候補者が知事から必ず任命されることまでも保障したものでないことは、推薦の性質上当然である。
 しかし、知事は、労働組合の推薦を受けていない者を労働者委員に任命することはできないから、その意味では、推薦は、被告の任命行為を拘束する性質をもつとしなければならない。すなわち、労働組合が候補者を推薦することは、知事が任命行為を行う際の単なる一資料にとどまるものではなく、それによつて、右候補者が、推薦を受けた候補者全員の中の一人として、知事が任命を行う際の対象となるのである。したがつて、労働組合の推薦した候補者が、正当な事由がないのにこの対象から除外され、又はこれと同視しうる扱いを受けたときには、その任命手続は違法であるといわなければならず、そのような労働組合の推薦による効果は、前記法条によつて与えられているものであるから、それは、推薦をした労働組合にとつて法律上の利益というべきである。同原告がいう、被告の任命権行使の過程において、推薦した候補者が公正で差別なき判断を受け、適切な考慮の対象となつていることを求めるとは、この趣旨に解せられる。
 そのうえ、労働委員会の制度は、憲法が保障している労働者の労働基本権を擁護し実現する目的で設けられたものであり、同委員会の委員の構成には公益委員のほかに利益代表委員としての労働者委員と使用者委員の参加を求めており、法令の定めによつて労働者委員の任命は労働組合から推薦された候補者の中からのみ行うものとされていること及び労働組合は、組合員の利益を擁護するだけではなく、組合固有の法上の利益を享受していることに照らすと、本件のような推薦制度のもとでは、推薦された候補者に対してのみ任命処分が適法になされることを争いうる地位を保障するだけではなく、候補者を推薦した労働組合に対しても、任命処分が違法になされたときにはこれを争いうる地位を保障し、推薦の効果が任命手続に反映されるように法的に保護していると解するのが、労働委員会や労働組合の本質に合致するのである。

中略

したがつて、知事は、推薦があつた候補者の中から労働者委員を任命しなければならず、労働組合から推薦されなかつた者を労働者委員に任命することは裁量権の範囲を逸脱したものとして許されない。
 また、前に説示したように本件推薦制度の趣旨に照らし、労働組合から推薦された者全員を審査の対象にしなければならないから、推薦された者の一部をまつたく審査の対象にしなかつた場合にも、推薦制度の趣旨を没却するものとして、裁量権の濫用があつたとしなければならない。
 しかしながら、推薦は、指名とは異なるから、推薦に基づいて任命する場合の任命権者には、裁量権が与えられており、推薦された者が審査の対象とされた以上、推薦された候補者が労働者委員に任命されなかつたからといつて、直ちに裁量権の濫用があつたとするわけにはいかない

  1. 推薦された候補者のみならず推薦した労働組合も任命処分を争う地位がある
    ※追記:控訴審の大阪高裁判決 昭和58年10月27日 昭和58(行コ)12 昭和58(行コ)12にて労働組合の訴えの利益は否定された。
  2. 推薦をした候補者が知事から必ず任命されることまでも保障したものでないことは、推薦の性質上当然
  3. 推薦に基づいて任命する場合の任命権者には、裁量権が与えられている
  4. 労働組合から推薦されなかつた者を労働者委員に任命することは裁量権の範囲を逸脱したものとして許されない
  5. 推薦された者の一部をまつたく審査の対象にしなかつた場合にも、推薦制度の趣旨を没却するものとして、裁量権の濫用があつたとしなければならない

大阪地裁も「推薦に基づいて任命する場合の任命権者には、裁量権が与えられており」と判示しています。

こうした裁判例がある中では「〇〇の推薦に基づいて△△が任命する」と書いてあるということは首相が判断できない書き方だ、と言うことは非常に困難でしょう。

少なくとも何らかの説明が必要でしょう。

しかも、日本学術会議はさらに異なる事情があります。

日本学術会議は行政機関

日本学術会議の推薦に対する任命拒否に関する法解釈上の論点整理 - 事実を整える

ここでは日本学術会議が内閣の特別の機関たる行政機関であること、憲法72条で内閣に行政各部の指揮監督権があること、内閣法で内閣総理大臣が主任の大臣を務める内閣官房では国家公務員の人事行政に関する事務(他の行政機関の所掌に属するものを除く。)をつかさどることとなっていることなどを指摘しています。

たしかに日本学術会議は「独立した機関」と言われることがありますが、それは日本学術会議法に基づいた話であって、法律上は以下の規定ぶりです。

第三条 日本学術会議は、独立して左の職務を行う
一 科学に関する重要事項を審議し、その実現を図ること。
二 科学に関する研究の連絡を図り、その能率を向上させること。

人事権についても完全に独立して決められると言えるでしょうか?

こうした構造である以上「日本学術会議法上の内閣総理大臣の任命裁量はまったく無く、単なる形式的なものである」という主張は相当の論証が必要でしょう。

なお、過去の国会答弁は民間団体たる学協会からの推薦に基づいていた頃のものであって、現在は妥当しないと考えられ、政府見解は「変更」されたのではなく過去の答弁とは無関係であることにつき以下でまとめています。

日本学術会議の委員は総理大臣の形式的任命という過去の政府見解について - 事実を整える

以上

アメリカが共産党員やその関係者の移民を禁止に

アメリカが共産党・独裁政党員とその関係者は特別許可がない限り移民を禁止に

 

アメリカが共産党員やその関係者の移民を禁止にしました。

アメリカ移民局の共産党員禁止ポリシー

Policy Manual | USCIS

October 2, 2020 PA-2020-16
Policy Alert
SUBJECT: Inadmissibility Based on Membership in a Totalitarian Party

In general, unless otherwise exempt, any immigrant who is or has been a member of or affiliated with the Communist or any other totalitarian party (or subdivision or affiliate), domestic or foreign, is inadmissible to the United States. This ground of inadmissibility only applies to aliens seeking immigrant status, such as aliens inside the United States applying to adjust status to that of a lawful permanent resident.

10月2日に公表されたアメリカ移民局のポリシーによれば、原則として特別の許可が無い限り、米国内外において共産党や全体主義政党(その支部も含む)の党員やその関係者である又はそうであった者は、移民受け入れを不許可とすることとなりました。

この不許可理由は、米国内の外国人が合法的な永住者のステータスを得るために申請する場合など、移民ステータスを求める者にのみ適用されます。

日本共産党も対象に

日本共産党も対象になるということです。

ですから、共産党員になった者はアメリカに移住して移民ステータスを得ることは基本的にできなくなりました。

大使館員やビジネス・観光目的で入国することは可能

この書きぶりだと、チャイナの大使館員やビジネス・観光目的での入国は依然として可能であると理解できます。

とはいえ、移民ステータスを得る際に共産党員やその関連組織であるかどうかをチェックするという運用が取られることが明確化されたということはアメリカの国防政策上、非常にインパクトが大きいでしょう。

中国人移民による都市の乗っ取りが無くなるか

アメリカ西海岸の都市などではチャイナタウンができていますが、この政策によってそうした特徴のある都市は消滅していくのではないでしょうか?

以上

日本学術会議の推薦に対する任命拒否に関する法解釈上の論点整理

日本学術会議

日本学術会議の委員の推薦に対して内閣総理大臣が6人を任命拒否した件に関する法解釈上の論点整理。

前提となる資料へのリンクは一通り以下でまとめています。

日本学術会議の任命に関する資料|Nathan(ねーさん)|note

日本学術会議は内閣府の「特別の機関」委員は特別職国家公務員

国家公務員法

第二条 国家公務員の職は、これを一般職と特別職とに分つ。
○3 特別職は、次に掲げる職員の職とする。
十二の二 日本学術会議会員

国家行政組織法

(行政機関の設置、廃止、任務及び所掌事務)
第三条 国の行政機関の組織は、この法律でこれを定めるものとする。
2 行政組織のため置かれる国の行政機関は、省、委員会及び庁とし、その設置及び廃止は、別に法律の定めるところによる。
3 省は、内閣の統轄の下に第五条第一項の規定により各省大臣の分担管理する行政事務及び同条第二項の規定により当該大臣が掌理する行政事務をつかさどる機関として置かれるものとし、委員会及び庁は、省に、その外局として置かれるものとする。
4 第二項の国の行政機関として置かれるものは、別表第一にこれを掲げる。

中略

(特別の機関)
第八条の三 第三条の国の行政機関には、特に必要がある場合においては、前二条に規定するもののほか、法律の定める所掌事務の範囲内で、法律の定めるところにより、特別の機関を置くことができる。

内閣府設置法 

(内閣総理大臣の権限)
第七条 内閣総理大臣は、内閣府の事務を統括し、職員の服務について統督する。

第五款 特別の機関(設置)

第四十条 本府に、地方創生推進事務局、知的財産戦略推進事務局、宇宙開発戦略推進事務局、北方対策本部、子ども・子育て本部、総合海洋政策推進事務局及び金融危機対応会議を置く。
中略
3 第一項に定めるもののほか、別に法律の定めるところにより内閣府に置かれる特別の機関本府に置かれるものは、次の表の上欄に掲げるものとし、それぞれ同表の下欄の法律(これらに基づく命令を含む。)の定めるところによる。

日本学術会議 日本学術会議法(昭和二十三年法律第百二十一号)

日本学術会議は内閣府の「特別の機関」という行政組織であり、委員は特別職国家公務員であるという事実関係が重要です。

日本学術会議は内閣総理大臣の所轄

日本学術会議法  平成一六年 四月一四日同 第 二九号

第一章 設立及び目的
第一条 この法律により日本学術会議を設立し、この法律を日本学術会議法と称する。
日本学術会議は、内閣総理大臣の所轄とする。
3 日本学術会議に関する経費は、国庫の負担とする。

省略

第三条 日本学術会議は、独立して左の職務を行う
一 科学に関する重要事項を審議し、その実現を図ること
二 科学に関する研究の連絡を図り、その能率を向上させること

日本学術会議は内閣総理大臣の所轄であるということが分かります。

独立した機関」などと言われることがありますが、既述のように組織構造としては内閣府直下の行政組織であり、外部機関ではありませんから、独立性が求められるのは3条規定の職務がベースということになります。

そして、今回問題となっているのが「日本学術会議の推薦に基づく内閣総理大臣の任命」において、推薦された者の一部を拒否できるかという問題です。

日本学術会議法  平成一六年 四月一四日同 第 二九号

第七条 日本学術会議は、二百十人の日本学術会議会員(以下「会員」という。)をもつて、これを組織する。
会員は、第十七条の規定による推薦に基づいて、内閣総理大臣が任命する。

中略

第十七条 日本学術会議は、規則で定めるところにより、優れた研究又は業績がある科学者のうちから会員の候補者を選考し、内閣府令で定めるところにより、内閣総理大臣に推薦するものとする。

内閣府令とは以下のことです。

日本学術会議会員候補者の内閣総理大臣への推薦手続を定める内閣府令

日本学術会議会員候補者の内閣総理大臣への推薦は、任命を要する期日の三十日前までに、当該候補者の氏名及び当該候補者が補欠の会員候補者である場合にはその任期を記載した書類を提出することにより行うものとする。

その他の関連法規については関連法規集|日本学術会議を参照。

憲法72条「内閣総理大臣は…行政各部を指揮監督する」

日本国憲法
〔内閣総理大臣の職務権限〕

第七十二条 内閣総理大臣は、内閣を代表して議案を国会に提出し、一般国務及び外交関係について国会に報告し、並びに行政各部を指揮監督する。

大前提として、憲法72条には「内閣総理大臣は…行政各部を指揮監督する」と書かれているという点が重要です。

既述の通り、日本学術会議は内閣府の特別の機関たる行政機関であるため、憲法上の内閣総理大臣の指揮監督権が及ぶという理解が当然です。

過去の政府見解と矛盾する?推薦方式の変遷

ところで、昭和58年改正時の国会答弁において、内閣総理大臣の任命権は形式的なものであり、推薦されたものをそのまま承認するものだ、という答弁が政府側からなされていたことから、過去の政府見解と矛盾している、という指摘があります。

しかし、昭和58年改正後、平成16年改正前までは、民間組織たる学協会からの推薦方式をとっていたところ、平成16年改正後は日本学術会議という行政組織内の委員=特別職国家公務員からの推薦方式になったという事実は無視してはいけません。
細かく言うと平成16年改正前の法律では各学協会から候補者と推薦人を日本学術会議に届出た後、日本学術会議内の会員推薦管理会で会員の候補者の資格の認定をし、その中から推薦人が推薦すべき者を決め、「日本学術会議を経由して内閣総理大臣に推薦する」という建付け。

民間からの推薦に内閣総理大臣の指揮監督権が働く余地は無いと言えるかもしれませんが、行政組織の場合は別でしょう。

附帯決議も平成16年改正時のものには昭和58年改正時に存在していた「なお、内閣総理大臣が会員の任命をする際には、日本学術会議の推薦に基づくという法の趣旨を踏まえて行うこと」という文言が無くなっています。
「側」という表現なのは法の建付けを意識したのだろう。

この点は以下でまとめています。

日本学術会議の委員は総理大臣の形式的任命という過去の政府見解について 

内閣総理大臣の任命権の裁量はどれほどあるのか

では、裁量があるとしてもその範囲はどれほどのものでしょうか?

「推薦に基づいて、内閣総理大臣が任命する。 」という日本学術会議法の規定。

文言解釈ゴリゴリで言えば、「任命しなければならない」「任命するものとする」という表現ではないとは言えますし、「基づいて」の解釈として「その通りに」と読めるかどうか。

まぁ、文言解釈だけを考えると、他の法規において一致している文言があればその運用を適用してくる…ということをやってしまいがちなのですが、制度趣旨も異なる法規について文言が一致しているからといって同じ意味・効果であるとするのは、まともに法解釈学を学んだ者であれば決してやりません。

分かりやすい例として「新型インフルエンザ等」は、感染症法と新型インフルエンザ等特措法とで同じ文言が出てきますが、両者の意味にはずれがあります。

だから内閣総理大臣が関係するからって最高裁長官の指名だとか、下級審裁判官の任命だとかの話を引いて本件自体を論じても無関係でしょう(関連して影響を受け得るものとして論じるのは有りだと思うが)。

指揮監督権限と人事権

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さて、「特に法律に規定するものを除き」について、内閣法に定める国家公務員の人事権はどう関係してくるのでしょうか?

内閣法

第十二条 内閣に、内閣官房を置く。
○2 内閣官房は、次に掲げる事務をつかさどる。
省略
十二 第七号から前号までに掲げるもののほか、国家公務員の人事行政に関する事務(他の行政機関の所掌に属するものを除く。)

省略

第二十六条 内閣官房に係る事項については、この法律にいう主任の大臣は、内閣総理大臣とする。

日本学術会議法に「所掌事務」の規定はありませんし、「推薦その通りに任命するべき法体系上の要請」がどこまで働いているのかは未知数です。

さて、お作法として日本学術会議の設立当初から現行制度までの話に触れます。

日本学術会議の設立趣旨と目的

日本学術会議の設立趣旨と目的については日本学術会議法に書かれています。

前文では「日本学術会議は、科学が文化国家の基礎であるという確信に立つて、科学者の総意の下に、わが国の平和的復興、人類社会の福祉に貢献し、世界の学界と提携して学術の進歩に寄与することを使命とし、ここに設立される。

第2条では「 日本学術会議は、わが国の科学者の内外に対する代表機関として、科学の向上発達を図り、行政、産業及び国民生活に科学を反映浸透させることを目的とする。」としています。

日本学術会議が提案された当時の国会答弁はたとえば以下

昭和23年6月15日参議院 文教委員会

○國務大臣(森戸辰男君) 日本学術会議法案について提案理由を御説明申上げます。
 本法案の規定いたしまする日本学術会議は、内閣の所轄に属することが予定されておるのでありますけれども、設立の準備事務を文部省に委託されましたので、その関係から私が御説明をすることになつておるのであります。 さて、敗戰後の我が國が貧困な資源、荒廃して産業施設等の悪條件を克服して、文化國家として再建すると共に、世界平和に貢献し得るためには、是非とも科学の力によらなければならないことは申すまでもございません。従來我が國の学界を顧みますと、個々の研究においては優れた成果が必ずしも少いとは言い得ないに拘わらず、その有機的、統一的な発達が十分でなく、全科学者が一致協力して現下の危機を救い、更に科学永遠の進歩に寄與し得るような体制を欠いていたことは、科学者みずからによつて指摘せられていたところであります。ここにおいて我が國從來の学術体制に再檢討を加え、全國科学者の緊密な連絡協力によつて、科学の振興発達を図り、行政、産業及び國民生活に科学を反映滲透させる新組織を確立することが、科学振興の基本的な前提となるであります。言い換えれば、科学者の総意の下に、我が國科学者の代表機関として、このような組織が確立されて、初めて科学による我が國の再建と、科学による世界文化への寄與とが期し得られるのであります。この法案制定の理由は、右のような役割を果し得る新組織、即ち科学者みずからの自主的團体たる日本学術会議を設立するにあるのであります。

ざっくり言えば、横のつながりをつくってリソースを有効活用して科学振興、行政・産業の発達、国民生活を潤そう、という感じですね。

一部の人が「国家権力からの介入を防ぐため云々」とか言っていますが、捏造もいいところです。だったら内閣の傘下にして国庫から活動資金を拠出なんてしないでしょう。

こうしてみると、【国家戦略として科学者リソースを有効活用して国民に利益享受してもらう】ことに主眼があるようで、純粋な『学者による学問の追究』は第一義的な目的とはしていないことが分かります。

委員の偏り・活動偏向に対処してきた制度変遷の経緯

日本学術会議と情報発信─歴史的な展開と緊急時におけるあり方 大西 隆

この資料では日本学術会議の制度の変遷がどのように行われてきたのかということが簡潔にまとまっています。

  1. 発足当初は委員の選出は選挙制だった
  2. しかし、選挙運動の過熱による弊害が起こり、選出された会員に偏りがある、科学者の代表として相応しくない者が選ばれているという指摘が
  3. そこで昭和58年改正で選挙制度から学協会からの推薦制度
  4. しかし、会員が選出母体の学協会の代表として振る舞うなど、日本学術会議の活動が偏向しているとの見解が強まったため平成16年改正で学協会による推薦方式から日本学術会議内からの推薦方式=コ・オプテーション方式へ

いろいろはしょってまとめるとこんな感じです。

そのうえで、大西 隆 氏からは現行制度の問題点として以下指摘しています。

現役会員が次期会員・連携会員を選考すれば、同質的な集団が再生産されていくという傾向が生ずるのは否めない。科学の研究分野については、かなりの範囲をカバーしているとはいえ、現役会員に少ない、女性の科学者、大都市以外で活動する科学者、大学以外の研究機関等で活躍する科学者、新しく開拓されつつある分野の科学者、さらに若手の科学者等が選ばれにくいと指摘されている。したがって、コ・オプテーションが健全に機能するには、現役会員が自分たちと同質的属性を持つ科学者だけに目を向けるのではなく、広い視野で科学の将来を考えて、我が国の科学者を代表する組織を構成するのにふさわしい科学者を選考していくことが欠かせない。そのためには、学協会からの情報提供制度を十分に活用して、会員・連携会員からの推薦だけではない、より広い範囲の候補者の中から選考することも重要である

多種多様な属性を持つ会員が少ない事は平成16年改正時にも指摘されており、衆議院附帯決議では「法改正後の日本学術会議会員の選出に当たっては、今回の法改正の趣旨に鑑み、学問の動向に柔軟に対応する等のため、女性会員等多様な人材を確保するよう努めること。」参議院附帯決議では「法改正後の日本学術会議会員の選出に当たっては、今回の法改正の趣旨にかんがみ、急速に進歩している科学技術や学問の動向に的確に対応する等のため、第一線の研究者を中心に、年齢層等のバランスに十分に配慮するとともに、女性会員等多様な人材を確保するよう努めること。」 といった文言が付与されています。

この観点から内閣総理大臣が「差し替え」を要請していたら面白いなと思います。

 

日本学術会議の推薦通りに任命する慣習がある?

「日本学術会議の推薦通りに任命する慣習がある」とはなりません。

現行制度になってからたかだか20年程度ですし、2016年にも差し替えを求めていましたし。

官邸、安倍政権時の16年にも学術会議人事介入 差し替え求め、事実上拒否 - 毎日新聞

内閣総理大臣の裁量の逸脱濫用はあったのか?

とまぁ、内閣総理大臣の裁量の逸脱濫用はあったのか?という点についてはこのあたりで行き詰るわけです。

現時点で答えは出ません。

で、仮に違法だとしても、政治的な動きとしては菅内閣の勝利に終わりそうです。

それは以下の論点整理から言えることです。

「学問の自由の侵害」について

学問の自由の侵害については、拒否理由が被推薦者の学術活動に関するものであれば関係する話であると言えます。

しかし、現在のところはまったくそういう徴憑は表れていません。

日本学術会議の委員に任命されなかったからといって、ただそれだけでは学術活動になんら制限はかかっていませんからね。

ですから、これを第一の争点として騒いでる人たちはこの話をまったく理解していないというか、もっと効果的な主張をしましょうよ、ということになります。

なお、任命拒否された6人の中には行政法学者の岡田正則教授が居ますが、彼は要請書を出して学問の自由の重大な侵害であると主張した3名の中におり、デモを行いました。

行政法学者の矜持もなにもありません。政治活動をするなとは言わないが、ちゃんと行政法解釈を示してからにして欲しい。(なお、特別職国家公務員は政治的中立性は無い)

まぁ、行政法の解釈の話をするとメディアも視聴者も理解できないし食いつきが悪いから「憲法上の権利の侵害」と言ってインパクトを与えたいんだろうなとしか思いませんが、要するにこの期に及んでも「国民を煽動する政治活動をやってます」、ってことでしかないのですよね。

このこと自体が任命を拒否する例外的な事情として斟酌されても仕方ないのではないかと思います。

行政の説明責任について

「以前の政府解釈から変更したのではないか?」

「行政法解釈として大丈夫なのか?」

こういう質問にきちんと答えるべき責任が政府にあるとは言えるでしょう。

しかし、それは同時に行政機関である日本学術会議にも言えることですよね。

学術会議任命拒否問題、「情報を全て、国民と科学者に開示を」京大の湊新総長が説明求める|社会|地域のニュース|京都新聞 https://archive.is/xOFsT

京大学長が日本学術会議に対して推薦過程の情報開示を求めました。

これは正統な言論だと思います。

なお、「任命拒否した具体的理由を教えろ!」については以下の指摘の通りじゃないでしょうか⇒【税金を使わない人であるその人の不採用の理由って不要では?

日本学術会議が軍事研究を禁止しながら「千人計画」を無視する矛盾

甘利明議員は、日本学術会議は軍事研究の禁止を謳い、日本の大学に対して軍事転用の可能性のある研究について口うるさく言っているくせに、チャイナの民間学者の研究は「人民解放軍の軍事研究と一体」であるという中国共産党の宣言があり、同じ可能性のある研究がたくさんある上に、研究者人材をハントをする「千人計画」については無視してる態度を批判しています。

とまぁ、どこまでいっても日本学術会議の腹が探られる展開にしかならないんですよ。

この件に嬉々として反応しても「藪蛇」になるということです。

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日本学術会議の委員は総理大臣の形式的任命という過去の政府見解について

「日本学術会議の委員は総理大臣の形式的任命という過去の政府見解があるため、菅内閣は矛盾している」

果たしてそうでしょうか?

日本学術会議委員の任命は形式的という過去の答弁

日本学術会議の委員は総理大臣の形式的任命

日本学術会議法の改正について審議していた昭和58年5月12日の参議院文教委員会(5月10日の答弁でも同趣旨のものがある)では、政府側の答弁として日本学術会議の委員の総理大臣による任命行為は形式的なものであり、「二百十人の会員が研連から推薦されてまいりまして、それをそのとおり内閣総理大臣が形式的な発令行為を行うというふうにこの条文を私どもは解釈をしておるところでございます」と発言しています。

これを受けて昭和58年11月24日の参議院文教委員会にて、改正法の附帯決議で「なお、内閣総理大臣が会員の任命をする際には、日本学術会議側の推薦に基づくという法の趣旨を踏まえて行うこと」と記述されるようになりました。

さて、「今回の6人の任命拒否はこの政府見解と矛盾している」という主張についてですが、10月2日の加藤官房長官の定例記者会見等でも言われているように「運用変更があった」として問題は無いというスタンスです。

これはどう考えればよいでしょうか?

昭和58年の日本学術会議法改正法の附帯決議「日本学術会議側の推薦に基づくという法の趣旨を踏まえて」

附帯決議(案)
 日本学術会議が、我が国の科学者の内外に対する代表機関として、その機能を十分発揮できるよう、政府及び日本学術会議は、左記事項について特段の配慮をすべきである。
一、会員の部別・専門別定員、推薦等に関して政令を定めるに当たっては、日本学術会議の自主性尊重を基本として十分協議すること。
なお、内閣総理大臣が会員の任命をする際には、日本学術会議側の推薦に基づくという法の趣旨を踏まえて行うこと。
二、日本学術会議は、科学者の総意を反映するため、幅広い分野から適切な会員が確保されるよう努めること。
三、日本学術会議が、その目的・職務を十分果たせるよう、必要な経費その他諸条件の整備を図ること。
四、日本学術会議と科学技術会議、学術審議会、日本学術振興会その他の学術関係機関との連携協力体制の確立に努めること。特に、日本学術会議が行う勧告、答申、要望等について、政府はその趣旨を尊重して適切に対処すること。
五、本制度について、その実施結果を踏まえた見直しのため、適当な時期に国会に報告すること。
   右決議する。

昭和58年の日本学術会議法改正法の附帯決議はこの通りで可決されました。

この内容は生きているのでしょうか?

日本学術会議法は平成16年にも改正され附帯決議がある

日本学術会議法の一部を改正する法律案:参議院

日本学術会議法の一部を改正する法律(平成一六年四月一四日法律第二九号)

○附帯決議(平成一六年三月二三日) ※衆議院
政府及び関係者は、本法の施行に当たっては、次の事項について特段の配慮をすべきである。
一 政府及び日本学術会議は、日本学術会議が我が国の科学者の内外に対する代表機関として独立性を保ち、十分にその機能を発揮することができるよう努めること。
二 日本学術会議は、科学と社会の関わりの増大している状況に鑑み、時宜を得た提言や国民に分かりやすい形での情報発信等、効果的・機動的な活動を行い、社会との交流の機会の充実に努めること。
三 日本学術会議及びその委任を受けた幹事会等が職務を行うに際しては、多様な学問分野における学術動向について十分に配慮するとともに、公正性・中立性の確保に留意するよう努めること。
法改正後の日本学術会議会員の選出に当たっては、今回の法改正の趣旨に鑑み、学問の動向に柔軟に対応する等のため、女性会員等多様な人材を確保するよう努めること
五 今後の日本学術会議の設置形態の在り方に関する検討は、今回の法改正後の日本学術会議の活動状況の適切な評価に基づき、できる限り速やかに開始すること。

○附帯決議(平成一六年四月六日) ※参議院
政府及び関係者は、本法の施行に当たっては、次の事項について特段の配慮をすべきである。
一、政府及び日本学術会議は、日本学術会議が我が国の科学者の内外に対する代表機関として独立性を保つとともに、科学の向上発達と行政・産業・国民生活への科学の反映浸透というその目的・機能を十分に発揮することができるよう努めること。
二、日本学術会議は、科学と社会のかかわりが増大している状況にかんがみ、時宜を得た答申、勧告、声明等を行うよう努めるとともに、国民に分かりやすい形での情報発信等、効果的・機動的な活動を行い、社会との交流の機会の充実に配意すること。
三、日本学術会議及びその委任を受けた幹事会等が職務を行うに際しては、多様な学問分野における学術動向について十分に配慮するとともに、公正性・中立性の確保に留意するよう努めること。
四、法改正後の日本学術会議会員の選出に当たっては、今回の法改正の趣旨にかんがみ、急速に進歩している科学技術や学問の動向に的確に対応する等のため、第一線の研究者を中心に、年齢層等のバランスに十分に配慮するとともに、女性会員等多様な人材を確保するよう努めること。
五、今後の日本学術会議の設置形態を検討するに当たっては、総合科学技術会議、日本学士院等との連携や役割分担の在り方等を踏まえるとともに、今回の法改正後の日本学術会議の活動状況の適切な評価に基づき、できる限り速やかに開始し、適当な時期に国会に報告すること。
右決議する。

平成16年にも改正された(施行時期は平成17年)日本学術会議法にも附帯決議がありますが、昭和58年のような文言は見当たりません。

しいて言えば「政府及び日本学術会議は、日本学術会議が我が国の科学者の内外に対する代表機関として独立性を保つとともに、科学の向上発達と行政・産業・国民生活への科学の反映浸透というその目的・機能を十分に発揮することができるよう努めること。」という部分が関係するかもしれませんが、「推薦に基づく任命」は強調されなくなりました。

衆議院附帯決議では、「法改正後の日本学術会議会員の選出に当たっては、今回の法改正の趣旨に鑑み、学問の動向に柔軟に対応する等のため、女性会員等多様な人材を確保するよう努めること」という文言はあるものの、総理大臣の任命の性質については触れることがありません。

これは、【平成16年の改正法で附帯決議が上書きされ、昭和58年の附帯決議は引き継がれなかった】と理解するほかはありません。

政府見解・附帯決議とは

委員会の活動(1)法律案の審査:国会キーワード:参議院

附帯決議とは、政府が法律を執行するに当たっての留意事項を示したものですが、実際には条文を修正するには至らなかったものの、これを附帯決議に盛り込むことにより、その後の運用に国会として注文を付けるといった態様のものもみられます。附帯決議には、政治的効果があるのみで、法的効力はありません。

附帯決議は法律ではありませんから、一般的な通用力は持ちません。政治的な効果があるのみです。その文言に「今回の法改正後の~」とあるように、その時点での新法に限定された政治的効果があるという運用がなされているのが分かります。

昭和58年の政府見解は、昭和58年の改正法に限ったものであり、平成16年改正後の日本学術会議法の解釈がこれに拘束されることはありません。

政府見解も法律ではなく、司法権=裁判所の判断を拘束するものでもありません。

したがって、日本学術会議法の解釈において、立法趣旨を探る一つの資料とはなるものの、確定的な法律解釈を提供するものではありません。政治的な評価が問題になるだけです。

日本学術会議委員の選出方式=推薦方法が変遷している

日本学術会議と情報発信─歴史的な展開と緊急時におけるあり方 大西 隆

  1. 昭和58年改正で選挙制度から学協会からの推薦制度へ⇒選挙運動の過熱による弊害の指摘
  2. 平成16年改正で学協会による推薦から日本学術会議内からの推薦=コ・オプテーション方式へ⇒会員が選出母体の学協会の代表として振る舞うなど、日本学術会議の活動が偏向しているとの見解が強まったため
  3. その間、日本学術会議の所管が内閣府(発足当初は総理府)⇒総務省⇒内閣府へと変遷

日本学術会議の委員の選出方式は、昭和58年改正時からさらに変化しているという点が重要でしょう。推薦といっても、学協会(私的団体)からの推薦だったものが日本学術会議(内閣府の特別の機関で、委員は特別職国家公務員)からの推薦に変更されましたし、所管も変わっているため、日本学術会議法に関する政府見解・運用方法が変わったとしても不思議ではありません。

加藤官房長官は昭和58年の答弁も十分認識した上で、「現在の運用としてはそうだから」と10月2日の官房長官記者会見で答えています。

そうした運用は、何もつい最近の菅政権になってから無理やり作り出したものではありませんでした。

2016年にも推薦を拒否していた

官邸、安倍政権時の16年にも学術会議人事介入 差し替え求め、事実上拒否 - 毎日新聞

科学者の代表機関「日本学術会議」が推薦した新会員6人を菅義偉首相が任命しなかった問題に関連し、2016年の第23期の補充人事の際にも「学術会議が候補として挙げ、複数人が首相官邸側から事実上拒否された」と、同会議の複数の元幹部が毎日新聞の取材に明らかにした。官邸側の「人事介入」が第2次安倍晋三政権の際にもあったことになる。【木許はるみ、近松仁太郎】

取材に応じた複数の幹部のうち、同会議元会長、広渡清吾・東京大名誉教授が実名で証言。自身が会長退任後の第23期後半、複数の会員が定年70歳を迎えたため補充が必要になり、学術会議が官邸側に新会員候補を伝えた。しかし、官邸側がこのうち複数人を認めず、候補者を差し替えるよう求めてきたという。学術会議側はこれに応じず、一部が欠員のままになった。

2016年の補充人事の際にも推薦候補が事実上拒否された事実があります。

(※最終的に安倍総理大臣が新たな推薦に基づいて任命したのかはこの記事からは不明)

つまり、安倍政権の時点ですでに推薦を拒否することがあり得るという運用が為されていたのです。

2018年に法制局が運用を確認したと野党合同ヒアリングで

学術法解釈、内閣府が法制局に2度照会 野党、国会で菅首相追及へ:時事ドットコム

 立憲民主党や共産党は2日、任命拒否された岡田正則早大院教授ら3人からヒアリングを実施。小沢隆一東京慈恵会医科大教授と松宮孝明立命館大院教授がオンラインで参加した。この後、内閣府と内閣法制局からもヒアリングを行った。
 この中で、2018年に日本学術会議法を所管する内閣府から内閣法制局に法解釈の問い合わせがあったことが判明。内閣府は今年9月上旬にも変更がないか再確認していた。ただ、法制局は法解釈に変更を加えたかどうか、明確な説明を避けた。

2018年には、法制局が運用を確認したと10月2日の野党合同ヒアリングで明らかになりました。

これは先述の通り、制度自体が変遷しており、昭和58年の答弁が平成16年改正後の現行法にも妥当するのかは判然としないため、「法解釈が変更された」と言うべきかは言葉のあやに過ぎません。

答え方としては「解釈変更をした」のほかに、加藤官房長官のように(その通りの発言ではないが趣旨としてはそう解される)「制度が変遷したため政府としては無関係なものとなったと認識している」というものがあり得るでしょう。

憲法72条「内閣総理大臣は…行政各部を指揮監督する」

日本国憲法
〔内閣総理大臣の職務権限〕

第七十二条 内閣総理大臣は、内閣を代表して議案を国会に提出し、一般国務及び外交関係について国会に報告し、並びに行政各部を指揮監督する。

昭和58年改正後、平成16年改正前までは、学協会(私的団体)からの推薦だったものが、行政機関たる日本学術会議からの推薦方式に変わったという点が大きいと思います。

私的団体たる学協会は行政機関でもなんでもないので、内閣総理大臣の指揮監督権限は及ぶ余地がありません。

対して、日本学術会議は内閣府の特別の機関で、委員は特別職国家公務員です。

「推薦の出どころ」が変わったことで、推薦人事に対する監督権が新たに発生したと考えれば、まさに「制度が変遷したため政府としては無関係なものとなった」ということでしょう。

これは行政法解釈にも影響します。

政府見解よりも行政法解釈

「政府答弁が過去のものと矛盾しているのではないか?」 

この問題提起は政治的な文脈においては意味があるもので、「説明責任」の話として論じれば良いと思いますが、今回の話に関しては些末な話です。

本質論は、日本学術会議法と関連法規による行政法解釈がどうなのか、つまり内閣総理大臣の任命に関する裁量がどの程度存在しているのか、という点です。

加えて、行政機関たる日本学術会議において、推薦過程を明らかにするよう「説明責任を果たせ」という指摘も重要です。京都大学の学長がそのように主張しました。

学問の自由だのなんだの騒いでいる者が多いですが、政権批判者も擁護者も、本来はここが主戦場だというスタートラインに立たないと有益な言論は生まれません。

以上

甘利明「日本学術会議は中国の千人計画に協力」学問の自由を侵害してるのは誰か

甘利明議員HP

甘利明議員が日本学術会議と中国の千人計画の関係に言及していました。

甘利明議員「日本学術会議は中国の千人計画に協力」

国会リポート 第410号 甘利明 Official Web | Akira Amari魚拓

日本学術会議は防衛省予算を使った研究開発には参加を禁じていますが、中国の「外国人研究者ヘッドハンティングプラン」である「千人計画」には積極的に協力しています。

※「無断転載を固くお断り」の表示があるが最小限の「引用」までは排除しない趣旨と理解して紹介します。詳細は甘利議員のHPで確認してください。

今年の8月に甘利明議員は「日本学術会議は中国の千人計画に協力」と書いており、読売新聞でも取り上げられましたが、その具体的な内容については書かれていません。

なお、「防衛省予算を使った研究開発には参加を禁じ」という部分は、日本学術会議が防衛装備庁の「安全保障技術研究推進制度」について「政府による研究への介入が著しく、問題が多い」として批判的な論調で声明を発したことに対する評価文言であり、権力行使として禁止をしたわけではないので注意。

チャイナ共産党の千人タレント計画とは

千人計画(或いは千人タレント計画・千人タレントプログラム)と呼ばれるものは、要するに各研究者を買収して機密情報やテクノロジーを盗む動きのことです。

既にアメリカではその存在が公になっており、千人計画に加担した大学教授らが逮捕されるなど社会問題・国際問題に発展しています。

しかし、日本メディアの中には、単に人材育成の戦略であるという理解で報じているところもあり、実に常軌を逸している言論状況になっています。

学問の自由を侵害してるのは誰か

ところで、日本学術会議は内閣府設置法40条3項の表で内閣の特別の機関として設置されることが規定され、国家公務員法2条3項十二号の二にて日本学術会議会員が特別職国家公務員として規定されています。

その運営資金は国庫から支出されており、予算規模は10億円を超えます(昭和58年当時は1.7億円だった。)

つまり、日本学術会議は「国家権力側」であり、民間への圧力・介入は慎むべきものとされるはずなのです。

しかし、実態はどうでしょうか?

「学問の自由を侵害」と言うとき、それは政府だけが主体なのでしょうか?

軍事研究を禁止している日本学術会議

日本学術会議が大学の軍事研究を妨害するもチャイナの千人計画に加担

軍事的安全保障研究に関する検討について|日本学術会議魚拓

軍事的安全保障研究に関する声明

日本学術会議が 1949 年に創設され、1950 年に「戦争を目的とする科学の研究は絶対にこれを行わない」旨の声明を、また 1967 年には同じ文言を含む「軍事目的のための科学研究を行わない声明」を発した背景には、科学者コミュニティの戦争協力への反省と、再び同様の事態が生じることへの懸念があった。近年、再び学術と軍事が接近しつつある中、われわれは、大学等の研究機関における軍事的安全保障研究、すなわち、軍事的な手段による国家の安全保障にかかわる研究が、学問の自由及び学術の健全な発展と緊張関係にあることをここに確認し、上記2つの声明を継承する。

そして、日本学術会議は大学等に対して「軍事研究と見なされる可能性のある研究」に関しても、禁止とは言わないまでも以下要請をしています。

「軍事的安全保障研究に関する声明」への研究機関・学協会の対応と論点

 「声明」では、「大学等の研究機関における軍事的安全保障研究、すなわち、軍事的な手段による国家の安全保障にかかわる研究が、学問の自由及び学術の健全な発展と緊張関係にある」ことを確認した上で、大学等の各研究機関に対して、軍事的安全保障研究と見なされる可能性のある研究について、その適切性を目的、方法、応用の妥当性の観点から技術的・倫理的に審査する制度を設けることを求め、また、学協会等に対しては、それぞれの学術分野の性格に応じて、ガイドライン等を設定することを求めた。

過去の声明は以下ですが、「戦争を目的とする科学」=軍事研究という意味で使っているため、「日本学術会議は軍事研究の禁止を謳っている」と言って差し支えありません。「軍事的安全保障研究」という単語も同じです。

軍事目的のための科学研究を行わない声明

なぜ軍事研究=軍事的安全保障研究を禁止しているのか

日本学術会議が軍事研究の禁止を謳っている理由としては、軍事研究は往々にして政府から研究内容や成果物の利用についての介入がなされ、研究機関・研究者の自律性が損なわれること、直接的には軍事目的の研究でなくとも科学者の意図を離れて軍事目的に転用される可能性があることなどが主張されています。

一見するとむしろ「学問の自由を保護しようとしている」ように映ります。

が、裏側から見るとこれは「軍事研究をしたい研究者の学問の自由の制限」になっています。直接的に大学等に対して禁止を強制できるような力は無いのですが、事実上の影響力があります。

その上、日本学術会議の言う「軍事的安全保障研究」の定義が不明確で、ある種の研究活動の委縮が起こる懸念すらあります。

菅総理大臣の狙いは…

日本学術会議法の解釈の問題があるにせよ、菅総理大臣はこういったところから「藪蛇」を狙ったものであった可能性があり、メディアが騒ぐことで「ダメージ」が拡大するのは誰なのか?

この流れは止まらないと思うので記事化しました。

以上

杉田水脈に悪魔の証明を求める者「女性はいくらでも嘘をつく」のとんち問題

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杉田水脈議員の発言の有無について。

杉田水脈議員が「女性はいくらでも嘘をつく」を否定

「一部報道における私の発言について」 | 杉田 水脈(すぎた みお)オフィシャルブログ

まず、報道にありましたような女性を蔑視する趣旨の発言(「女性はいくらでも嘘をつく」)はしていないということを強く申し上げておきたいと存じます。

私が出席しておりました内閣第一部会・内閣第二部会合同会議では、男女共同参画の来年度要求予算額についての説明がありました。

男女共同参画の要求額が今年度の2倍となっており、その中で「女性に対する暴力対策」への比率が高かったことを受け、以下のような内容の発言をいたしました。

かねてより申し上げているように、私は女性への暴力はあってはならず、許されない犯罪だと考えており、暴力を振るった加害者はきちんと罰せられることで再発を防ぐべきであり、その為には警察の関与と連携は不可欠であると考えています。

被害者が民間の相談所に相談をして「気が晴れました」で終わっては、根本的な解決にはなりません。
警察の中に相談所を作り、女性警察官を配置することで敷居を下げ、相談しやすくすることができるのではないか、また、それが警察における女性活躍にも繋がるのではないかということを申し上げました。

被害者が民間の相談所に相談をして「気が晴れました」で終わっては、根本的な解決にはなりません。
警察の中に相談所を作り、女性警察官を配置することで敷居を下げ、相談しやすくすることができるのではないか、また、それが警察における女性活躍にも繋がるのではないかということを申し上げました。

杉田水脈議員が自身のブログで、『杉田議員が「女性はいくらでも嘘をつく」 と発言した』との報道を真っ向から否定しました。

このように明確に否定している中で、悪魔の証明を求める者が発生しています。

ハフポストが北原みのりの発言を引用

ハフポストは杉田議員のブログを認識したうえで共同通信で他の複数議員が「発言を確認している」と言っていると報じられていることを引用し、さらに活動家の北原みのり氏の発言を引用しています。

杉田議員、女性はいくらでもうそ 自民党の合同会議で蔑視発言 | 共同通信

杉田水脈氏の議員辞職求める署名に9万筆近く 「激しく性差別的」と自民党にも対処求め 泉谷由梨子

呼び掛け人で作家の北原みのりさんは、オンラインデモの冒頭で「杉田氏の発言はセカンドレイプであることは間違いなく、激しく性差別的。性暴力根絶に向けて世論を変えようと被害者たちが必死で動いてきたことを後退させるひどい発言」と怒りを表明。

さらに、ブログで否定した杉田議員について「自民党政権の中で『やっていない』『言っていない』『そういうつもりじゃなかった』と言えばなかったことになることをずっと見てきた」とも批判

中略

また、杉田議員の発言について、「必ず録音があるはず。否定しているなら証拠を公開すべきだ」とも話している。

自身のメディアの意見ではなく「他人の意見を伝えているだけ」 というスタンスで、実質的に同内容の言説を世の中に拡散し、メディアは発信内容に責任を取らないという手法が朝日新聞を筆頭にして横行していますが、この記事もそういう類のものです。
(そして記者さんも女性ですね。なんででしょ。)

ここで言われていることは「悪魔の証明」そのものです。

悪魔の証明を求める者たち

「やっていない、と言えばなかったことになる」

「録音があるなら、否定者が証拠を出すべきだ」

これは話が逆さまであるということは通常人であれば理解できるはずです。

主張立証責任を真逆にした悪魔の証明です。

「その発言が存在していることを主張する者」が立証するべき話で、録音があるならそれを示すべきは『杉田議員は「女性はいくらでも嘘をつく」と言った』と主張する者の側です。

被害の虚偽申告があるように受け取れる発言」と共同は報じていますが、仮にそのような発言の事実があったとしても、それは「女性はいくらでも嘘をつく」とは趣を異にする発言であり、決して女性蔑視とはなりません。

メディアで隠蔽されている慰安婦問題に関する発言

杉田議員は、以下のことも指摘しています。

「一部報道における私の発言について」 | 杉田 水脈(すぎた みお)オフィシャルブログ

また、慰安婦問題と女性に対する暴力は全くの別問題ではありますが、一方で民間団体の関与という点においては、韓国の挺対協が「聖域」になってしまって、長年誰も切り込めなかった期間の公金の不正利用などの問題が次々と発覚していることもあり、日本でも同じ問題が起こる可能性を懸念する声もあります。
新規事業として民間委託を拡充することだけでは、女性の人権を守り、暴力問題の解決をのぞむ世論と乖離するのではないでしょうか、という趣旨の意見を申し上げました。

※原文ママ

つまり、この部会では韓国の慰安婦問題についても発言をしていたのです。

これは各所の報道では隠されています

韓国の慰安婦を称する者の中には、そのように誤信する実態が無かったにもかかわらず「日本軍に強制連行された」という被害の虚偽申告をしている者が居るのは周知の事実ですから、仮にこの文脈で「被害の虚偽申告をする女性」が言及されていても当然であるということになります。

単なる予想に過ぎませんが、この文脈での発言はあったんじゃないかと思います。

それは「女性一般が嘘をつく傾向にある」ということを決して意味しません。

「女性はいくらでも嘘をつく」が肯定される側の事情に?

さて、この話の真偽のほどはともかくとして、本当に杉田議員がそのような発言(女性一般の問題として)をしていたのならどうでしょうか?

「杉田議員=女性が嘘をついた」ことになるため、それは「女性はいくらでも嘘をつく」が肯定される側の事情になるという「とんち問題」。

もちろん杉田議員は「N=1」であり、問題とされる発言はマクロな範囲の女性全体を指して言われているので、それだけで「女性はいくらでも嘘をつく」が真であるとは言えないのですけど、それが肯定される事情の一つにはなりますよね。

ただ、逆に『杉田議員は「女性はいくらでも嘘をつく」と言った』が嘘であれば、それがあると主張している側の人間(女性が目立つ)が嘘をついているので、これもまた「女性はいくらでも嘘をつく」が肯定される側の事情に。

もっとも、この話を言っている者の中には男性も含まれていると思われるので、いくらでも嘘をつく者として女性が有意に多いということにはならないのではないか?とも言えます。

自民党内の比例票の奪い合い

こういうことでしょ、どうせ。

追記:杉田議員が記事を訂正しましたのでそれについての私の認識です。

以上