事実を整える

Nathan(ねーさん) 法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

余命三年時事日記発の懲戒請求:在日コリアン弁護士への懲戒請求に控訴審も賠償命令

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余命三年時事日記というブログに端を発する弁護士への大量懲戒請求事件のうち、在日コリアン弁護士の金竜介氏に対して懲戒請求を行った者に対する民事訴訟の控訴審判決がありました。

予想外の判決内容でした。

余命三年時事日記発の在日コリアン弁護士への懲戒請求

在日コリアン弁護士への懲戒請求、控訴審も賠償命令「差別意識の発現というべき行為」 - 弁護士ドットコム魚拓はこちら

萩原秀紀裁判長は、男性に計33万円を支払うよう命じた1審判決を破棄して、計11万円の支払いを命じた。

東京高裁の萩原裁判長は…金弁護士が懲戒請求の対象とされたことについて、「専らその民族的出身に着目されたためであり、民族的出身者に対する差別意識の発現というべき行為であって合理性が認められない」「確たる根拠もなしに、弁護士としての活動を萎縮させ、制約することにつながる」として、不法行為にあたると判断した。

なお、一審と比較して減額となった理由は、総合的考慮したとされているが、次のような指摘がある。

(1)男性は金弁護士の弁護士としての活動内容についてまったく認識がない
(2)男性が提出した書類は、別件訴訟の被告らが作成・提出したものを流用したもので、大量懲戒請求がおこなわれた中で付和雷同的に本件懲戒請求に加わったことがうかがわれる
(3)東京弁護士会綱紀委員会において、金弁護士の弁明書の提出を必要とせず、調査を終了し、懲戒しないという議決がされている
(4)弁護士が、法的知識の乏しい一般人が違法ないし不合理な懲戒請求をおこなったことに対し、法的措置をとることが常に必要であるとは限らず、ある程度謙抑的姿勢が望まれる

この判断は予想外でした。

まさか差別を認定しながら請求額が減額されるとは思いませんでした。

東京地裁判決では「在日コリアンを理由に懲戒請求」にとどまる

「余命大量懲戒請求」事案で初の判決:金竜介弁護士に33万円

一審の東京地裁判決では、明確に人種差別を認定しなかったようです。

一審判決時の報道では「在日コリアンを理由に懲戒請求」とだけ判決文を紹介、金竜介弁護士も、東京高裁の判決後には『「明確に人種差別だと言ってくれた。(1審判決からの)前進だ」と評価を示した』と言っているので、差別という評価が加わったという点は大きな違いです。

在特会の事例では慰謝料額の算定において増額考慮された

大阪高等裁判所判決/平成28年(ネ)第2767号

そして,被告Y2による上記不法行為(名誉毀損及び侮辱)を構成する各発言も,その発言内容や経緯に照らせば,原告を含む在日朝鮮人を我が国の社会から排斥すべきであるといった被告ら独自の見解に基づき,在日朝鮮人に対する差別を助長し増幅させることを意図して行われたものであることが明らかである。人種差別を撤廃すべきとする人種差別撤廃条約の趣旨及び内容(人種差別撤廃条約2条1項柱書,6条)に照らせば,被告Y2の上記不法行為(名誉毀損及び侮辱)が上記のような同条約の趣旨に反する意図を持って行われたものである点も,慰謝料額の算定において考慮されなければならない。 

同じ不法行為でも、名誉毀損及び侮辱の事例では慰謝料額の算定において言動が人種差別的である点は慰謝料額の算定において考慮されていました。

これが大阪高裁だからなされた判決なのか、一般不法行為と名誉毀損・侮辱の不法行為という違いによって扱いが変わったのか、それとも、人種差別的である事は考慮しつつも高裁判決が減額となった理由として挙げたような要素が強く影響した結果なのか。

判決文を読めば3つ目の疑問点は分かるでしょうが、それ以外は判然としません。

弁護士に謙抑的姿勢を求めた点は余命ブログ発の懲戒請求事案に影響するか

(4)弁護士が、法的知識の乏しい一般人が違法ないし不合理な懲戒請求をおこなったことに対し、法的措置をとることが常に必要であるとは限らず、ある程度謙抑的姿勢が望まれる

東京高裁が判示した減額理由は他の大量懲戒請求事件の控訴審判決に影響しそうです

他の弁護士で東京高裁管内で一審判決が出ているものがあります。

弁護士に対する大量懲戒請求訴訟の結果:嶋崎量弁護士の場合 

弁護士に対する大量懲戒請求訴訟の結果:佐々木亮・北周士弁護士の場合 

これらの請求認容額も33・30万円でしたが、これも高裁になれば減額されるのではないでしょうか?特に佐々木弁護士は3000件以上もの不当な懲戒請求を受けており、単純計算で10億円程度の金額になります。

控訴審の賠償命令は弁護士費用は認定されたのか?

佐々木弁護士の場合は弁護士費用が認定されませんでした(別の弁護士に依頼した)

金弁護士の東京高裁の判示では11万円の認容なので10万+1万と思われますが、どうなんでしょう?

仮に弁護士費用が認定されたとすれば上記(4)の判示内容と整合性はあるのでしょうか?

そのあたりはかなり不思議な感じがします。

まとめ:金竜介弁護士としては目的達成

請求額が減額となったことで、金弁護士としては金銭的にはまったくペイしていない状況でしょう。元々の請求額は50万円+5万円でしたから。

しかし、本来の目的は「お金」ではなく、「人種差別であること」を裁判所に認定してもらうことのようでしたので、金弁護士としては一応は目的達成ということでしょう。

以上