事実を整える

Nathan(ねーさん) 法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

大村知事、国地方係争処理委員会ではなく訴えの提起の構え:愛知県自民党公明党が試される

文化庁がトリエンナーレの事業者たる愛知県への補助金を不交付決定したことを受けた大村知事の行動が注目されます。

大村知事の方針の変遷と、その実現可能性について検討します。

26日午前は国地方係争処理委員会への申出を予定

芸術祭への補助金不交付の方針 大村知事 係争処理委で確認も | NHKニュース

文化庁が愛知県で開かれている国際芸術祭「あいちトリエンナーレ」に交付する予定だった補助金を交付しない方針を固めたことについて、愛知県の大村知事は国と地方の争いを調停する「国地方係争処理委員会」を通じて文化庁の方針に合理的な理由があるのかなどを確認する考えを示しました。

地方自治法250条の13で国と自治体の争いについて国地方係争処理委員会への審査の申出が規定されています。

地方自治法

(国の関与に関する審査の申出)
第二百五十条の十三 普通地方公共団体の長その他の執行機関は、その担任する事務に関する国の関与のうち是正の要求、許可の拒否その他の処分その他公権力の行使に当たるもの(次に掲げるものを除く。)に不服があるときは、委員会に対し、当該国の関与を行つた国の行政庁を相手方として、文書で、審査の申出をすることができる。

この手続に則った場合の流れは以下になります。

不服などがあれば訴訟提起になります。

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http://www.soumu.go.jp/main_content/000451044.pdf

26日夕方、大村知事がいきなり裁判をすることを表明

“トリエンナーレ”文化庁が補助金不交付…大村愛知県知事「承服できない」国を相手取り提訴へ - FNN.jpプライムオンライン

大村知事は「抽象的な事由で一方的に不交付決定されることは承服できない」とした上で、憲法21条の表現の自由を侵害するとして、国を相手取り提訴する方針を明らかにしました。

大村愛知県知事:

「正直言って寝耳に水で驚いた、ということでありまして。我々としては速やかに今回の決定については、正していかなければいけないという風に思いますので、法的措置を講じたい、裁判で争いたい」

国地方係争処理委員会を通さずにいきなり裁判を起こすようです。

ただ、この場合は手続上のハードルがあります。

愛知県議会の議決に基づく訴えの提起

国地方係争処理委員会の審査を経ずに訴えの提起をするには、議会の議決を通さなければなりません。自治体の訴えの提起は基本的に議会の権能です。 

地方自治法

第九十六条 普通地方公共団体の議会は、次に掲げる事件を議決しなければならない。
省略
十二 普通地方公共団体がその当事者である審査請求その他の不服申立て、訴えの提起(省略)、和解(省略)、あつせん、調停及び仲裁に関すること。

では、大村知事の意向の通りに訴え提起の議決をすることは可能でしょうか?

政治的な実現可能性の話になります。

愛知県議会は大村知事が所属する自民党が過半数を有していますが、この辺りの人員配置を見ると、政治的なハードルはかなり高いと思います。

すると、大村知事としては「裏ルート」を使う可能性があります。

普通地方公共団体の長の専決処分は裁量権の逸脱?

普通地方公共団体の長の専決処分で訴えの提起ができる場合があります。

第百七十九条 普通地方公共団体の議会が成立しないとき、第百十三条ただし書の場合においてなお会議を開くことができないとき、普通地方公共団体の長において議会の議決すべき事件について特に緊急を要するため議会を招集する時間的余裕がないことが明らかであると認めるとき、又は議会において議決すべき事件を議決しないときは、当該普通地方公共団体の長は、その議決すべき事件を処分することができる。
(ただし書以下省略)

第百八十条 普通地方公共団体の議会の権限に属する軽易な事項で、その議決により特に指定したものは、普通地方公共団体の長において、これを専決処分にすることができる。
○2 前項の規定により専決処分をしたときは、普通地方公共団体の長は、これを議会に報告しなければならない。

しかし、179条の専決処分は議会が成立しない場合の特例であり、現在は愛知県議会が開いていますから、これは使えません。

基本的に議会の権限、簡易な事項の解釈

次に、180条に基づく専決処分は解釈の余地がありますが法制執務支援システムのページで判例が紹介されています。

紹介されている判例の事案は東京都議会で行った議決に関するもので、訴えの提起と同じく、議会の議決事項とされている和解につき、昭和39年になされた議決では、応訴事件において、裁判上の和解をする際には、金額の上限の定めが有りませんでした。そのため、東京都では、知事の専決処分により、85億円の和解金を支払う和解を成立させたところ、違法な支出であるとして、住民訴訟が提起されたというものです。

東京高等裁判所平成13年8月27日判決(判例時報1764号56頁)抜粋

どのような訴訟上の和解が法180条1項にいう軽易な事項に該当するか否かの判断は、第一次的には当該普通地方公共団体自身の意思、すなわち、住民の代表者で構成される議会の判断にゆだねられているものというべきである。

しかし、法180条1項が、特に軽易な事項に限って長の専決処分にゆだねることができる旨を規定していることからすると、およそ訴訟上の和解のすべてを無制限に知事の専決処分とすることは法の許容するところではないというべきであり、このような議決がされた場合には、議会にゆだねられた裁量権の範囲を逸脱するものとして、違法との評価を受けるものというべきである。

都が提起する訴訟事件が除外されているとはいえ、およそ都が応訴した訴訟事件に係る和解のすべてを知事の専決処分とすることは、あまりに広範囲の和解を知事の専決処分をにゆだねるものといわざるを得ない。応訴事件に係る和解のすべてが軽易な事項であるとすることは、「和解」を原則として議会の議決事件とした法96条1項12号及び議会の権限のうち特に「軽易な事項」に限って長の専決処分にゆだねることができる旨を規定している法180条1項の趣旨に反するものであって、本件議決は、都議会にゆだねられた上記裁量権の範囲を逸脱するものというべきである。

ただし、この事案では、議決は違法・無効ではあるが、当該議決が一義的に明白に違法であると言うことはできないとして都知事個人の損害賠償責任を否定しています。

地方自治法180条の簡易な事項に関する各自治体の条例

訴えの提起、和解、調停及び損害賠償額の決定に関する区長の専決処分について(東京都豊島区)

区営住宅その他の区が管理する住宅の明渡し並びに滞納使用料等及び損害金の支払に係る訴えの提起、和解又は調停で、目的の価額が、千百万円以下のもの

訴えの提起等及び和解に関する知事の専決処分について(東京都)

 都が提起する訴えであって、その訴訟の目的の価額が三千万円以下のもの

検索エンジンで「専決処分 訴えの提起」などで調べてみると分かりますが、実際に各自治体で専決処分として提起された事案を見ると、目的の価額が1000万円以下のものばかりです(それ以上のものは見つけられず)。

東京都という巨大自治体ですら、自治体側から提訴する場合には3000万円以下という条例がわざわざ設定されているのです。

よって、愛知県が7800万円を問題にする本件の文化庁の補助金不交付決定処分について、県知事の専決処分をすることは「簡易な事項」を超えるものとして裁量権の範囲を逸脱するおそれがあります。

※文化庁の補助金不交付決定処分に対する訴訟が「簡易な事項」となるのかは7800万円という額がダイレクトに参照されるものなのか、厳密に検討していません。

過去の事例が積み重なっている現在、無理にこれをやれば「大村秀章個人に訴え提起にかかった費用の損害賠償請求」が住民訴訟で為される可能性があるのではないでしょうか。

追記:愛知県の例規集の「専決事項」において訴えの提起ができる対象が限定されていました。本件で専決処分をすることは不可能です。

まとめ:大村秀章個人の法的・政治的責任が問われる

大村知事が「憲法21条の検閲になる」などと意味不明な憲法の理解に基づいて事業の統制ができなかったことに加え専決処分を無理に行えば7800万円+αの法的責任が大村秀章個人にかかる可能性があります。

また、政治的には訴えの提起ができない場合、又はできても敗訴した場合には7800万円の補正予算措置を講じなければならないため、県知事の政治責任が問われることになります。

以上

萩生田文科相トリエンナーレ補助金不交付決定「実現可能性・継続性」の観点から

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萩生田文科相が文化庁のトリエンナーレ補助金不交付を正式に決定しました。

やはりNHK、朝日新聞の報道に表れていた理由づけはフェイクでした。

萩生田文科相トリエンナーレ補助金不交付決定「実現可能性・継続性」

 「実現可能性・継続性」の観点から不交付を決定したと言っていますね。

NHKや朝日新聞は関係者の弁として「申請時に少女像など具体的な作品が記載されていなかった」という報道をしていましたが、まったく違いますね。

さて、この理由づけはどこから来ているのでしょうか?

文化庁の補助金事業申請の募集要項

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日本博を契機とする文化資源コンテンツ創成事業(文化資源活用推進事業)の募集 | 文化庁

愛知県が事業者としてトリエンナーレの国際現代美術展が補助事業となっている補助金事業の【募集案内】を見ると、審査の視点が書かれています。

そこで「実現可能な内容」「事業の継続が見込まれるか」という観点があります。

補助対象事業において、このような要素が欠けているということが事後的に判明した場合には補助金交付を取り消すことができると文科省は考えているのでしょう。

補助金交付決定の取消しは補助金適正化法にも規定があります。

補助金適正化法での補助金交付の取消し

補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律

第四章 補助金等の返還等
(決定の取消)
第十七条 各省各庁の長は、補助事業者等が、補助金等の他の用途への使用をし、その他補助事業等に関して補助金等の交付の決定の内容又はこれに附した条件その他法令又はこれに基く各省各庁の長の処分に違反したときは、補助金等の交付の決定の全部又は一部を取り消すことができる。
2 各省各庁の長は、間接補助事業者等が、間接補助金等の他の用途への使用をし、その他間接補助事業等に関して法令に違反したときは、補助事業者等に対し、当該間接補助金等に係る補助金等の交付の決定の全部又は一部を取り消すことができる。
3 前二項の規定は、補助事業等について交付すべき補助金等の額の確定があつた後においても適用があるものとする。
4 第八条の規定は、第一項又は第二項の規定による取消をした場合について準用する。

根拠法令は何か?と言われればこれが該当すると思います。

これを受けて愛知県はどうアクションを取るでしょうか?

※2020年3月28日追記:最終的に国と愛知県が協議して、愛知県側が減額したものを申請し、全体として交付決定されました。9月の段階では「交付決定の取り消し」ではなく、「交付しないことを決定した」もので、この場合の扱いは補助金適正化法上には規定が無いものでした。

愛知県は係争処理委員会にかけるのか?

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国の関与に不服があった場合には地方公共団体は国地方係争処理委員会に対して不服を申し立てることができます。

この制度を利用して国に対する是正勧告を導いたのが、ふるさと納税制度の対象外となった泉佐野市です(対象外とする措置を是正しろ、という勧告がなされた)。

愛知県側が文科省の理由づけに不服がある、違法性があるという主張をする可能性はあります。

まとめ:補助金の不交付決定は違法性はあるのか、大村知事の責任は?

文科省の不交付決定(交付決定の取消し)は違法なのでしょうか?

そうでない場合には7800万円の「損害」を愛知県が蒙ることになるので、大村知事の責任問題が生じるでしょう。少なくとも政治的な責任が。

さらには法的な責任として大村秀章個人に対して愛知県が請求するよう住民が請求する可能性もあります。こちらはかなり無理のような気がしますが、そういう行動をとる方がたが出てこないとも限りません。

以上

曽我部教授「自分の気に入らないことに検閲というレッテルを貼って批判する局面も」:愛知の国際芸術祭の検証委員会

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あいちトリエンナーレ検証委員会で大村知事がフルボッコにされていました。
(本人は気づいてるのだろうか?)

あいちトリエンナーレのあり方検証委員会第3回

議事概要(あいちトリエンナーレのあり方検証委員会 第3回会議) - 愛知県

9月25日に検証委員会の3回目が行われました。

「検証」委員会という名称は今後はなくなり、「検討委員会」となるようです。

今後の芸術祭の在り方に向けた議論が中心になるからということです。

ただ、河村市長などキーマンへのヒアリングが行われていなかったり、現時点で検証自体が不十分であるという認識はあるようなので、そちらも並行して行われていくでしょう。

曽我部教授「自分の気に入らないことに検閲というレッテルを貼って批判する局面も」

大村知事も出席しているこの委員会の中で面白い一幕がありました。

曽我部教授「今回、「検閲」という言葉がいろんな意味で使われた。何か自分の気に入らないことに検閲というレッテルを貼って批判するという局面も見られた。

上山委員『スポンサーが嫌悪感を示したら「それは検閲だ」などと言ったり、検閲の超拡大解釈というものが色んな違和感を全体に醸している

委員会の後半で各自の意見を伺った際に各者がこうした趣旨の意見を表明しています。

「気に入らないことに検閲というレッテル張り」

「検閲の超拡大解釈」

これらは大村秀章知事がやってきた事です(笑)

トリエンナーレの問題や大村知事の発言は度々このブログでも取り上げていますが、代表的なものは以下。大村知事の検閲概念を採用すれば既に検閲しているという矛盾。

第一回の検証委員会で曽我部教授が「基本的に契約関係」と指摘してからも考えを改める様子がありません。

愛知国際芸術祭の検証委員会でも「憲法問題ではない」

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https://www.pref.aichi.jp/uploaded/life/256626_865256_misc.pdf

曽我部教授が法的観点から愛知の芸術祭の事案を分析した図解。

「理念としての表現の自由」という言葉が左下にあるように、今回は「憲法上の表現の自由」が問題になるような話ではありません。

憲法学上では表現の自由の文脈で整理される話ではあるでしょうが、基本的には表現の自由の問題ではないということは憲法学の基礎を学んでいる者にとっては常識です。

マスメディアの論説やテレビのコメンテーターらがいかにいいかげんな事を言って言論空間を汚染してきたのかということが分かります。

以上

あいちトリエンナーレ:文化庁が国際芸術祭への補助金不交付の方針

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愛知県の芸術祭である「あいちトリエンナーレ」について、文化庁が国際芸術祭への補助金不交付の方針であると、関係者に対する取材でNHKが報じました。

ただ、相変わらず妙な印象操作がなされているので事実を把握しましょう。

文化庁が国際芸術祭への補助金不交付の方針⇒正式決定はまだ

愛知 国際芸術祭への補助金 不交付の方針 文化庁 | NHKニュース魚拓

慰安婦を象徴する少女像などの展示をめぐって脅迫めいた電話などが相次ぎ一部の展示が中止された愛知県の国際芸術祭について、文化庁は、事前の申請内容が不十分だったとして、予定していたおよそ7800万円の補助金を交付しない方針を固めたことが、関係者への取材で分かりました。

まずこれは正式決定ではないということです。

本来であれば事業者である愛知県から事業評価報告書を受け取り、審査してから補助金を交付するかどうかを決定することになるからです。

補助金交付の採択と交付決定は別⇒菅官房長官の「政治的圧力」にはならない

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http://www.bunka.go.jp/shinsei_boshu/kobo/1413006.html

愛知県を事業者とする、国際現代美術展への補助金交付ですが、「採択」はされているものの、「交付決定」の判断は為されていません。

トリエンナーレが実施された後に愛知県が報告書を文化庁に退出して内容を審査して改めて交付決定をするかどうかを判断するという手続になっているからです。

したがって、「菅官房長官が政治的圧力をかけた」などという論は無理矢理にも程がある話です。菅官房長官は手続上、当然のことを話したに過ぎません。

愛知県美術館の使用許可条件の審査が為されていなかった

では、現段階で文化庁の人間が不交付の判断をするべき事情はあるのか?

私は十分にあると思います。

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https://www.pref.aichi.jp/uploaded/life/256329_862907_misc.pdf

9月17日に行われた第2回検証委員会の資料では、表現の不自由展が置かれていた愛知県美術館においては作品展示の許可条件があるにもかかわらず、今回の許可はトリエンナーレ全体に出されており、 作品のチェックがなされていなかったという事が明らかになりました。
(ただ、検証委員会3回では日本の国公立の美術館長は芸術の専門家というよりも自治体施設の管理能力が優先されて人材配置されているという指摘があり、相互連関する問題かもしれない)

その他、ガバナンスの問題が指摘されていますが、それは日本全国のどの芸術祭においても共通する課題であるとされていますから、そういったものは文化庁もあまり問題視していないでしょう。

津田芸術監督が自己のジャーナリストとしての興味関心を優先して作品を展示させるよう動いていたということも検証委員会の中で指摘されており、そういった状況を野放しにしていたことも影響したでしょう。

追記:NHKの報道する不交付の理由は正しいのか?

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愛知 国際芸術祭への補助金 不交付の方針 文化庁 | NHKニュース魚拓

しかし一連の事態を受けて改めて検討を行い、愛知県からの申請は、少女像などの具体的な展示内容の説明がなく不十分だったとして、補助金を交付しない方針を固めたことが、関係者への取材で分かりました。

このような理由は成り立つのでしょうか?

日本博を契機とする文化資源コンテンツ創成事業(文化資源活用推進事業)の募集 | 文化庁

募集案内】を見てみると申請の様式がありますが、この中で具体的な展示内容の説明をすることが予定されているとは思えません。

ましてや、申請締切りは3月末時点であり、作品選定の時期はそれよりも後なのですから、時系列としておかしい。不可能なことを要求していると言えます。

繰り返しますがNHKの報道は「関係者が方針を固めたと言った」です。

7800万円全額の不交付という内容は誤りであるか、不交付の理由づけ部分だけが誤りで、正式決定では異なる理由づけとなる可能性は高いと思います。

あいちトリエンナーレへの補助金を交付せず 文化庁発表(朝日新聞デジタル) - Yahoo!ニュース

 県の検証委のまとめでは、県は5月には特別な警備体制が必要と認識していた。文化庁は、運営に不可欠な事実を伝えないまま申請したことは不適当だとして、補助金適正化法に基づいて不交付を決めた。申請では不自由展の内訳が明示されておらず、全額を対象としたとみられる。

なお、朝日新聞でも時系列がおかしなことになっています。

追記:山田太郎議員のブログで文化庁の経緯説明資料がUPされており、「応募申請」の提出期限は3月だが、その後、4月に採択され、愛知県の「補助金申請」は5月に行われたとあり、時系列としては問題が無いようです。

まとめ:「憲法21条の表現の自由・検閲」という「から騒ぎ」

愛知 国際芸術祭への補助金 不交付の方針 文化庁 | NHKニュース魚拓

政治家の発言が相次ぎ、憲法が保障する表現の自由をめぐって議論が起きました。

議論なんていう格好の良い言葉を使っていいものではないです。

単に勘違いが横行しただけです。

行為主体は愛知県(実行委員会は実質的に愛知県)であり、法的主体の自律的判断が尊重されるべきであって、どの作品を展示するかは愛知県の裁量の範囲内である。個人vs公的機関の場面で問題となる「憲法上の表現の自由」の話ではなく、「政府言論」の話なので「広義の検閲」ですらない。芸術監督も公的機関側であり、不自由展とは契約関係に過ぎない。

このことはこのブログでも何度も書いてきましたし、吉村知事・三谷英弘議員・北村弁護士なども指摘していました。

さらにはトリエンナーレ検証委員会の委員である憲法学の曽我部教授も検証委員会の場で憲法上の表現の自由がストレートに問題になる場面ではないということをきっぱりと指摘しています。

津田大介芸術監督の責任追及がメインになっている感がありますが、大村知事も7800万円の「損害」を愛知県に与えた加害者として検証対象になるべきでしょうが、大村知事自身がオブザーバーとして会議の場にも出席しているお手盛り検証委員会には期待できそうにありません。

 以上

進次郎のセクシーより意味不明:大村知事、自分のコスプレ画像が誹謗中傷とツイート

f:id:Nathannate:20190924095722j:plain

流石に意味不明すぎた。

大村知事:自分のコスプレ画像が誹謗中傷とツイート

魚拓:https://web.archive.org/web/20190924005842/https:/twitter.com/ohmura_hideaki/status/1175234061217882112

なんと、大村知事は自分のコスプレ画像を掲載した自分のツイートのスクショを貼り付けただけのツイートに対して「誹謗中傷」と評価しました。

結果。

大村秀章知事は他人には「あまりにも低レベル」と言うが

大村秀章知事はブロックする基準として「誹謗中傷・ヘイト」を持ち出していました。

要するに「自分の気に入らないツイートは「誹謗中傷・ヘイト」なんでしょう。

他にも大村知事に対する「誹謗中傷」ツイート

大村知事の理解では、これが「誹謗中傷」のようです。

我々とは異なる言語体系を利用しているのでしょうね。

進次郎のセクシーはフィゲレス氏演説が元

進次郎のセクシー発言はフィゲレス氏の演説の発言が元になっているようです。

ただ、それを前提にしたとしてもおかしいという指摘はあるので、英語ネイティブや英語圏の文脈に明るい人たちの見解を見た方がいいですね。

ブロックする政治家

愛知・大村知事「誹謗中傷ブロック宣言」の波紋 「気に入らない表現も受け止めるのが民主主義の原点」大見えを切っていたが… (1/2ページ) - zakzak:夕刊フジ公式サイト

他にもブロックをする政治家として小西ひろゆき議員や河野太郎大臣が居ます。

河野大臣のブロック基準も疑問視されており、防衛大臣として災害情報も発信するのにそれでいいのか?という声もありましたが、実は、ブロックされていた人が解除されている例もあるようです。

大村知事がブロックをすること自体はそれで良いと思いますが、その基準くらいはしっかりとしてほしいし、あまりにも軽微なものにまで過剰反応しているのはどうかと思います。

以上

小西ひろゆき読み間違い指摘への訴訟予告は脅迫罪のおそれ

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小西ひろゆき議員が過去の国会での名前読み間違いをツイッターで指摘されたことに対して訴訟予告をしましたが、これは脅迫罪になるおそれがあります。

小西ひろゆき議員、国会での読み間違いを指摘され「法的措置検討」

小西議員が名前を読み間違えた事は動画も残っているので事実です。

詳細は以下。

小西議員は発信者情報開示請求で拒否される

批判したツイートの主は匿名アカウントなので住所等は小西議員にとって知ることができない状態です。その状況では訴訟提起できません。裁判を行うためには被告の特定が必要だからです。

匿名アカウントの情報を知るためには、最初にツイッター社に対して「任意開示」を求めることが考えられますが、任意開示に応じる例は多くないのが現状です。

そこで、プロバイダ責任制限法(特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律)第4条に基づき「発信者情報開示請求」を行うことが必要です。

ツイッター社としては開示拒否をすることになるでしょうが、この請求が認められるための要件は以下です。

(発信者情報の開示請求等)
第四条 特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害されたとする者は、次の各号のいずれにも該当するときに限り、当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者(以下「開示関係役務提供者」という。)に対し、当該開示関係役務提供者が保有する当該権利の侵害に係る発信者情報(氏名、住所その他の侵害情報の発信者の特定に資する情報であって総務省令で定めるものをいう。以下同じ。)の開示を請求することができる。
一 侵害情報の流通によって当該開示の請求をする者の権利が侵害されたことが明らかであるとき。
二 当該発信者情報が当該開示の請求をする者の損害賠償請求権の行使のために必要である場合その他発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるとき

国会での名前読み間違えを取り上げたことによって新たに権利侵害が起こる?

「正当な理由」は匿名だと訴訟提起できないからあるとして、「侵害情報の流通によって」「権利侵害が明らか」というのは当てはまらないのではないでしょうか。

小西議員の発言は国会の質疑という極めて公的な場においてなされたものであり、さらに誰でも無料で閲覧可能なインターネット中継のアーカイブで残っているのです(議事録では漢字表記になっているために名前の読み間違いが発生しているかは分からない)。

名前を読み間違えた事実の摘示が社会的評価を低下させたか」もかなり怪しいです。

なお、小西側は「事実の改変」があるというロジックを主張しています。

が、国会議事録を見れば分かりますが「事実を改変」 という判断を裁判所がするとは到底思えません。中核的な部分は「名前を間違えた」の部分であって、訴訟で問題となる「事実」はその部分であり、枝葉末節は捨象されるからです。下記記事で紹介している判例を参照。

「質疑の経緯が改変された」という意味だとしても(『小西ひろゆき「ええっ!憲法を学ぶ学生なら誰でも知ってますよ!」』、という部分は本来の発言には存在しない)、それが社会的評価を低下させることになるとは言えないでしょう。

よって、「事実を改変」は小西側の勝手な解釈であり、一般通常人から見てそう判断されるとは言えないでしょう。

訴訟になっても無理筋

仮に小西vsツイ主の訴訟になったとしても小西側が勝つことは(被告側のミスが無い限り)100%有りえません。

真実性、公共利害性、公益性要件をみたす事は明らかで、違法性阻却されるからです。

元ツイート主の「実はそんな学者いなくて、恐らく高橋和之さんの間違いという。これ以上恥ずかしい話ってこの世にあるだろうか。国会だぞ。」という部分も、論評の範囲内でしょう。

なので、小西議員は訴訟提起(発信者情報開示請求も)しない可能性が高いでしょう。100%敗けるからです。そして、訴訟提起したならば、訴訟提起自体が不法行為として違法と主張され、そう判断される可能性もあると思います。

訴訟予告をしておいて訴訟しないのは脅迫罪なのか?

小西議員自身は「しかるべき措置を取る」(ツイートママ)と言っており、文言上、必ずしも訴訟提起という手段を執る訳ではない表現になってはいますが、一連のツイートを見れば訴訟予告をしているとしか解されません。

ここで、一部で「訴訟予告をしておいて訴訟しないのは脅迫罪」という言説がありますが、これは間違った見解です。なぜなら単に訴訟提起をすることやその予告をすることは権利行使だからです。また、上記見解では事情が変わって訴訟しないという選択をとったことが違法になるという事になるのでありえないからです。

「真実権利を行使する意思がなく、相手を畏怖させる目的であるときは脅迫に当たる」とする判例として大審院大正3年12月1日刑録20・2303が挙げられますが*1、単に権利行使する意思が無い=訴訟する気が無いというだけで脅迫罪になるかはかなり疑問です。

訴訟予告で脅迫罪が成立するには畏怖目的が認定されないといけないと思われます。

大審院の判例では権利行使意思の欠缺の事実があることがただちに畏怖目的と認定できたケースだったために上記のような判示になった、という見方をするのが日下氏の論文の立場であり、議論があります。
(大審院の事案では行使意思は在るとされた)

告訴の意思表示は脅迫か。大審院大正 3 年 12 月 1 日判決の検討 日下 和人

小西ひろゆき議員に権利行使の意思の欠缺・畏怖目的はあったのか?

結論から言うと、小西ひろゆき議員には権利行使の意思はそもそも無くて、畏怖目的があると言えると思います。(ツイートを削除させたかった)

なぜなら、以下のような意味不明なツイートをしているからです。

小西ひろゆき議員「法的措置を取る」読み間違えを揶揄され⇒ツッコみ所満載

上の記事でも指摘しましたが、通常、このような場合には顧問弁護士の実名を表記して行うものなのにそれをしておらず、さらには相手方に対してツイートが届くようになっていない(@が入っていない単なる独り言)というお粗末なものになっているのです。

権利行使を前提にしているのであればまず行わない行動です。

そして、顧問弁護士の指導を受けているならば、こんなミスは起こりえないハズです。

そもそも以下のツイートも、まともな弁護士であれば到底言わないような支離滅裂な事を言っているので、「顧問弁護士」なる者が存在して本当にこのようなアドバイスをしていたと理解するのは通常は不可能です。

存在しない顧問弁護士を持ち出すのは畏怖目的

これを「弁護士の助言」とは到底考えられないというのは弁護士も指摘しています。

仮に顧問契約を締結している弁護士が居る場合、その弁護士から小西議員が名誉毀損で訴えられる可能性はあります。小西議員のツイートに表れるような支離滅裂な事を本当に言っていたら懲戒請求ものでしょう。「先にブロックした発言も違法」とか、ちゃんちゃらおかしいです。

「権利行使の意思がなくて畏怖目的が認定できる」、とも言えるでしょうし、「顧問弁護士の助言など存在しないのにそれを理由づけとして提示しているので畏怖目的が認定できる」とも言えると思います。

ただ、告訴・告発したとして検察がこれを起訴するかというと…事案としては軽微ですが、法解釈が絡むのでどうなるか、よくわかりません。

まとめ:小西ひろゆき議員には脅迫罪のおそれ

小西ひろゆき議員が訴訟提起(或いは発信者情報開示請求)をしなくとも、その事実のみをもって脅迫罪となることはありません。

しかし、小西議員の言動を見ていると「権利行使の意思の欠缺+畏怖目的」が認定されるおそれがあると言えるでしょう。

以上

*1:刑法各論 第六版 西田典之など