李泳采(イ・ヨンチェ)教授宛てに注文してない商品が大学に送りつけられるという被害が発生していました。返品作業がめんどくさそうです。
ただ、これって本当にヘイトや犯罪なのでしょうか?
- 「ヘイト」ないし「ヘイトスピーチの定義」
- ヘイトスピーチ規制法や規制条例上のヘイトスピーチとは
- 何でもかんでもヘイトと言う風潮
- 通販商品を送りつける行為は犯罪なのか?
- 恵泉女学園大学の李泳采教授への行為は犯罪の可能性はあるがヘイトではない
「ヘイト」ないし「ヘイトスピーチの定義」
「ヘイト」は英語の"hate"ですが、原義は「憎悪」という意味です。
「ヘイトスピーチ」は法的な文脈でない限り、明確な定義はありません。
ただ、法務省の一般的な説明では、特定の国の出身であることや特定の血筋であることのみを理由に地域社会から追い出そうとしたり、危害を加えようとする言動がヘイトスピーチにあたるとされています。
単なる威嚇的・侮辱的な表現ではないということです。
相手が特定の個人であることを要求せず、一定のまとまりのある集団を想定してなされた場合にも捕捉されます。
ヘイトスピーチ規制法や規制条例上のヘイトスピーチとは
本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律
「本邦外出身者に対する不当な差別的言動」とは、【専ら】本邦の域外にある国若しくは地域の出身である者又はその子孫であって適法に居住するものに対して差別的意識を助長し又は誘発する目的で公然とその生命、身体、自由、名誉若しくは財産に危害を加える旨を告知し又は本邦外出身者を著しく侮蔑するなど、本邦の域外にある国又は地域の出身であることを理由として、本邦外出身者を地域社会から排除することを煽動する不当な差別的言動をいう
要するに、単に「外国人だから」「外国出身者だから」「外国人の血を引いてるから」という理由に基づいて「この町から出ていけ」などと言うのであれば、それはヘイトスピーチ規制法上のヘイトスピーチです。
「地域社会から排除することを煽動」するようなものが対象です。
この用語法は東京都のヘイトスピーチ禁止条例でも同様です。
また、大阪市のヘイトスピーチ禁止条例は「本邦外出身者に対する」という限定はなく、すべての人が対象にになり得るものになっています。
さて、李泳采教授に対するものは「ヘイト」なのでしょうか?
何でもかんでもヘイトと言う風潮
至るところで「これはヘイトだ!」と言われることが増えてきました。
中には懲戒請求されただけでヘイトだという弁護士も居ました。
つい先日、私も「お前の記事はヘイトだ」と言われました。
しかし、単なる嫌がらせとヘイトとでは、明確な判定基準は不明なものの、まったく違うという認識が通常の理解でしょう。
裁判例でも、名誉毀損や侮辱であることと、差別やヘイトないしヘイトスピーチであることは、明確に分けられています。
李泳采教授に対しては、単に通販商品が代引きで送りつけられてきたというだけであり、脅迫文言や不快な物体が郵送されたわけではありません。
注文していない通販商品 韓国籍大学教授に届く被害 TBS NEWS
「どういう目的なのか分からないから、言ってみれば政治的なテロだと思っている。これは完全にヘイトの領域であり、犯罪の領域なので、正々堂々メールであろうが意見を送っていただいた方がいい」
本人も言っているように、動機・目的が伺えるものは何一つありません。
なぜ彼は「政治的なテロ」であり「ヘイト」だと決めつけているのでしょうか?
これは地域社会から追い出そうとしたり危害を加えようとする行為ではないでしょう。
通販商品を送りつける行為は犯罪なのか?
李泳采教授が受けた行為は少なくとも嫌がらせですし、あってはならない行為です。
返品をしているということで金銭的な損害は発生していないということですが、大学教授としての時間を奪われているわけであり、民法上の不法行為である可能性もあります。
しかし、何らかの刑罰法規に抵触しているのでしょうか?
偽計業務妨害が思い浮かびますが、偽計によって騙されたのは李泳采教授ではなく、商品発送にかかわる業者なので、刑法上の「被害者」に李泳采教授がなるわけではありません。
しかし、以下の規定に触れる可能性はあります。
軽犯罪法1条31号
他人の業務に対して悪戯などでこれを妨害した者
この場合は「偽計」によって騙された客体と嫌がらせを受けた客体が一緒でなくとも適用されるのではないでしょうか?
恵泉女学園大学の李泳采教授への行為は犯罪の可能性はあるがヘイトではない
仮にも国際人権論を担当している大学教授なのですから、ヘイトと犯罪と嫌がらせの違いくらいは認識していただきたいものです。
それにしても、サプリメントを送りつけるというのは、過去にも同様の例がありました。もしかして同じ犯人なんでしょうか?
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以上