事実を整える

Nathan(ねーさん) 法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

安倍首相の街頭演説中のヤジを朝日新聞が擁護⇒民主党時代はプラカードだけで排除

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安倍総理の街頭演説中にヤジをした者が警察により引き離された事案。

朝日新聞が警察の対応を非難していますが、ちょっとどうかと思います。

安倍首相の街頭演説中のヤジについての朝日新聞の報道

ヤジの市民を道警が排除 安倍首相の街頭演説中 - 2019参議院選挙(参院選):朝日新聞デジタル 魚拓

15日に札幌市中央区であった安倍晋三首相の参院選の街頭演説の際、演説中にヤジを飛ばした市民を北海道警の警官が取り押さえ、演説現場から排除した。道警警備部は取材に対して「トラブル防止と、公職選挙法の『選挙の自由妨害』違反になるおそれがある事案について、警察官が声かけした」と説明。だが現場では、警察官は声かけすることなく市民を取り押さえていた

安倍首相はJR札幌駅前で同日午後4時40分ごろ、選挙カーに登壇。自民党公認候補の応援演説を始めた直後、道路を隔てて約20メートル離れた位置にいた聴衆の男性1人が「安倍やめろ、帰れ」などと連呼し始めた。これに対し、警備していた制服、私服の警官5、6人が男性を取り囲み、服や体をつかんで数十メートル後方へ移動させた。また年金問題にふれた首相に対して「増税反対」と叫んだ女性1人も、警官5、6人に取り囲まれ、腕をつかまれて後方へ移動させられた。いずれのヤジでも、演説が中断することはなかった。現場では、多くの報道陣が取材していた。

 公選法は「選挙の自由妨害」の一つとして「演説妨害」を挙げる。選挙の「演説妨害」について、1948年の最高裁判決は「聴衆がこれを聞き取ることを不可能または困難ならしめるような所為」としている。

 松宮孝明・立命館大法科大学院教授(刑法)は「判例上、演説妨害といえるのは、その場で暴れて注目を集めたり、街宣車で大音響を立てたりする行為で、雑踏のなかの誰かが肉声でヤジを飛ばす行為は含まれない」と話す。むしろ連れ去った警察官の行為について「刑法の特別公務員職権乱用罪にあたる可能性もある」と指摘。「警察の政治的中立を疑われても仕方がない」と話した。

男性が「安倍やめろ、帰れ」、女性が「増税反対」と言ったという2つの事件。

動画があります。

男性が「安倍やめろ、帰れ」、女性が「増税反対」

 

いずれも密集の中で大声で連呼行為をしています。

これは演説妨害なのでしょうか?

公職選挙法225条の演説妨害違反

公職選挙法(選挙の自由妨害罪)
第二百二十五条 選挙に関し、次の各号に掲げる行為をした者は、四年以下の懲役若しくは禁錮こ又は百万円以下の罰金に処する。
一 選挙人、公職の候補者、公職の候補者となろうとする者、選挙運動者又は当選人に対し暴行若しくは威力を加え又はこれをかどわかしたとき。
二 交通若しくは集会の便を妨げ、演説を妨害し、又は文書図画を毀き棄し、その他偽計詐術等不正の方法をもつて選挙の自由を妨害したとき。

1号は候補者等の本人らに対する暴行・威力・かどわかしが規定されています。

「やじ」が暴行・威力・かどわかしであることは無いので、それは2号の演説妨害の可能性があるということです。

「演説妨害」の定義とは

最高裁判所第3小法廷 昭和23年(れ)第117号  昭和23年6月29日

衆議院議員選擧法第百十五条第二号にいわゆる演説の妨害とは、その目的意図の如何を問わず、事実上演説することが不可能な状態に陥らしめることによつて成立するのであつて、判示山内泰藏の演説の継続が不可能になつたのは、被告人と山内との口論にその端を発したものであるとはいえ、結局は、被告人の山内に対する暴行によつて招来されたものであるから被告人として固よりその罪責を免かれることはできない。

公職選挙法上の「演説妨害」(当時は衆議院議員選挙法第115条第2号)の最初の判例はこの事件ですが、実は、「1948年の最高裁判例」はもう一つあります。

最高裁判所第3小法廷 昭和23年(れ)第1324号  昭和23年12月24日

しかし原判決がその挙示の証拠によつて認定したところによれば、被告人は、市長候補者の政見発表演説会の会場入口に於て、応援弁士林常治及び望月勘胤の演説に対し大声に反駁怒号し、弁士の論旨の徹底を妨げ、さらに被告人を制止しようとして出て來た応援弁士馬淵嘉六と口論の末、罵声を浴せ、同人を引倒し、手挙を以てその前額部を殴打し全聴衆の耳目を一時被告人に集中させたというのであるから、原判決がこれを以て、衆議院議員選擧法第一一五条第二号(原判決文に「第一号」とあるのは、「第二号」の誤記であることが明らかである)に規定する、選挙に関し演説を妨害したものに該当するものと判斷したのは相当であつて、所論のような誤りはない。仮に所論のように演説自体が継続せられたとしても、挙示の証拠によつて明かなように、聴衆がこれを聴取ることを不可能又は困難ならしめるような所爲があつた以上、これはやはり演説の妨害である。

本件は福島県南会津郡田島町のホテル内において、衆議院議員選挙の候補者の応援演説が行われた際に、在日本朝鮮人連盟田島支部委員長たる被告人が、演説者が「日本は敗戦により朝鮮を失い台湾を失い」と言ったことに対して「朝鮮を失いとは何事だ。奪ったのではないか。」「如何なる根拠に基づき朝鮮を失ったと言うか。」と叫び、再三その取消し釈明を求めた、という事案です。

上告趣意書では「民族的感情を憤激させたため」であり、選挙妨害の意図は無い、演説者が直ちに其の取消、釈明に応じたなら不祥事は起らなかったから選挙妨害罪ではないと主張されましたがそれは考慮されませんでした。

聴衆が演説を聴取するのが不可能・困難になったか

聴衆がこれを聴取ることを不可能又は困難ならしめる

これが演説妨害の意義であり、「全聴衆の耳目を一時被告人に集中させた」ことが演説妨害と認定された事情の一つとされたことからは、暴れたり街宣車で大音響を立てることがなくともそのような行為があれば演説妨害になる可能性が読み取れます。

最高裁判例となった事件は暴行・傷害行為があったため、「このような事案しかない」とは言えますが、そこから「演説妨害はその場で暴れて注目を集めたり、街宣車で大音響を立てたりする行為で、雑踏のなかの誰かが肉声でヤジを飛ばす行為は含まれない」とは言い切ることはできません。あくまで一人の学者の説です(法学者は判例と異なる説を立法論的に主張することが良くある)。

選挙演説は、聴衆が内容を認識することができて初めて意味のある行為になります。

反対の声を瞬間的にあげることはともかく、人が密集している中で大声で継続して連呼することは、近くの聴衆が演説を聞く権利の侵害でしかありません。

野次を飛ばした行為がただちに犯罪にあたらなくとも、警察は犯罪の未然予防も職務なのですから、警察の対応は正当でしょう。

余談ですが、こちらは民主党政権時代の事案ですが、プラカードを掲げているだけで注意されているようです(最初に引き離しをしたのは民主党の運動員と思われる)。

これだけ人が集まっている中でプラカードを掲げる行為は少し危険なので、警察も安全な場所で掲げるように、壁側に追い込んでいるのだと思います。

さて、松宮教授は警察の特別公務員職権乱用罪の可能性もあると言っているのですが、そちらはどうでしょうか。

刑法の特別公務員職権乱用罪

刑法(特別公務員職権濫用)
第百九十四条 裁判、検察若しくは警察の職務を行う者又はこれらの職務を補助する者がその職権を濫用して、人を逮捕し、又は監禁したときは、六月以上十年以下の懲役又は禁錮に処する。

職権乱用かはともかく、「逮捕」とはどういう意味でしょうか。

刑法上の「逮捕」とは

大審院第二刑事部昭和7年2月29日判決 昭和6年(れ)第1706号 大審院刑事判例集11巻3号141頁 

案ずるに逮捕には多少の時間継続して自由を束縛するの観念を包含するものにして単なる一瞬時の拘束は暴行罪を構成することあるべきも逮捕罪の成立を見ることなし

として、この事案では一般人が被害者の両足を縄で5分間縛ったことが刑法220条1項の不当逮捕罪に当たるとしました。

必ずしも縄で縛る必要はありませんが、一般的に逮捕とは、はがい締めにするなどの直接的な強制によって移動の自由を奪うこと*1であり、上記判例のように多少の時間継続することを要します。

今回の警察の対応においてその後の事情は良くわかりませんが、聴衆から引き離した後にずっと身体を掴んでいた、などの事情は今の所ないので、そういう事情や他の特別な行為が無い場合には「逮捕」には当たらないんじゃないでしょうか。

まとめ

職権乱用かどうかについては、警察が声掛けをしたか否かについて警察と朝日新聞とで食い違いがありますが、仮に声掛けがなくとも、それは警察の違法を認定するための一つの事情にはなり得るものの、ただちに特別公務員職権乱用罪にはならないでしょう。

別の問題にするなら声掛けが無かった場合には不適切という話に成りえますが、少なくとも刑法上の問題にはならないと思います。

以上

*1:刑法各論第六版 西田典之

CBCテレビ報道部のツイッターアカウントが不適切投稿で運用停止

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CBCテレビが和田政宗議員に対する暴行事件について不適切な投稿をした事案。

CBCがHPで声明を発表して当面のツイッターアカウントの運用停止としました。

ここまでの経緯と疑問点をまとめます。

CBCテレビ報道部のツイッターアカウント

CBCテレビ報道部は、以下コメントしていました。

  1. 報道部の意思に基づくものではない
  2. アクセス権のある報道部員が投稿した形跡は確認できません

2番のコメントのように「確認できません」という文言は、「未だ確定的ではないが、現状ではそのような事実があると断定できない」という意味でよく使われます。

決して否定しているわけではありません。

また、この文言では「アクセス権の無い報道部員」による投稿や、「報道部員ではないCBCテレビ従業員」に関してはまったく触れていないということになり、その可能性は残る形になっています。

なお、「報道部の意思によるものではない」は、部としての共通理解、方針ではないという意味であって、「アカウント乗っ取り」を意味するものとはただちには解せません。

不適切投稿による運用停止

hicbc.com : 株式会社CBCテレビ|ニュースリリース|CBCテレビ報道部公式ツイッターでの不適切な投稿について 2019年7月16日

CBCテレビ報道部公式ツイッターアカウント上での不適切な書き込みにより、参院選比例代表に立候補されている自民党現職の和田政宗氏、並びに関係者の皆様にご迷惑をおかけしましたことをお詫びいたします。選挙期間中でもあり、和田様の事務所を通じて、和田様ご本人へのお詫びをお願いしているところでございます。

弊社は報道機関として、選挙報道について厳に公平・中立な立場を堅持すべきと考えております。掲載されたコメントは弊社報道部の意思に基づくものではなく、あってはならない投稿と考えております。

調査は、当該アカウントにアクセス可能な複数人を中心に全報道部員から、弁護士等外部によるヒアリングなどを実施し、あらゆる可能性を排除せず、調査に臨んでおります。

不適切な投稿は、当社報道部公式ツイッターアカウントの管理、運用の甘さが原因の一つであり、外部の専門家を交え当該アカウントを含め当社のすべてのソーシャルメディアアカウントの管理運用ルールを厳格化するとともに、今後社内規則に則り関係者の処分を検討します。

今後もしっかりとした調査を行い、再発防止に努める所存でございます。

以上

CBCテレビ

先ほどのコメントとは、少し異なる内容になっています。

「アクセス権のある報道部員が投稿した形跡は確認できず」が削除

今回のコメントは、「アクセス権のある報道部員が投稿した形跡は確認できず」という文言が存在しません。

 

調査が進んできたために、「アクセス権のある報道部員が投稿した形跡」が確認できたか、その疑いが出てきたのかもしれません。

ところで【他の端末からのログイン歴があったか否か】は現時点で分かるハズです。

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ログイン端末が変わらないということなら、つまりは報道部員ではないが社内の何者かによるもの、ということになりますし、端末が変わっていたならアクセス方法を知っている内部の者が個人アカウントと間違ってしまった可能性や、外部の者による可能性も出てきます。

いずれにしても、不適切投稿は1回きりなので、いわゆる「アカウント乗っ取り」の可能性は低いと思われます。

政治的な思想が原因?

よく、反安倍界隈の人らのツイートに「いいね」がついているから政治的な思想がもともとそうなんだろう、という声があります。

しかし、遡ってみたところ、当該アカウントは基本的に中部地域の事象全般を扱っていて、スポーツやエンタメなどの話題に対してもいいねがついていて、政治的な話題には殆ど触れていません。

上記の「いいね」は、たまたまアクセスした人の思想がアカウントの行動に反映されたものなんでしょう。その意味で運用方針が定まっていなかったんだろうと思います。

コンプライアンスが欠如していたのではないでしょうか

操作した者が誰であれ、その者にはコンプライアンスが欠如していたということですね。

以上

ムンジェイン大統領「日本は言葉を変えた」というデマ:ホワイト国からインビジブル国へ

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ムンジェイン大統領が日本の優遇廃止措置について、3回目の公式声明を出しました。

これに対して世耕弘成氏が反論として自身の個人的見解をツイートしました。

韓国側の特徴的な工作が垣間見えるので指摘します。

ムンジェイン大統領「日本は言葉を変えた」

「日本経済により大きな被害」と警告 外交解決求める=文大統領 | 聯合ニュース

文大統領は「今回の日本の措置は相互依存、共栄で半世紀間蓄積してきた韓日経済協力の枠を破ること」と指摘し、「韓国政府が日本政府の輸出制限措置を厳重に受け止めるしかない理由」との認識を示した。

 さらに、「しかも、自国の産業被害を防ぐための通常の保護貿易措置とは方法と目的が違う」として、「日本は当初、強制徴用を巡る韓国大法院(最高裁)の判決を措置の理由に掲げたが、個人と企業の民事判決を通商問題に結びつけることについて国際社会の支持を得られず、韓国に戦略物資の密輸や対北制裁違反の疑惑があるためであるように言葉を変えた」と指摘。

  1. 日本は強制徴用を巡る訴訟結果を優遇廃止措置の理由に挙げた
  2. その後、国際社会の支持が得られなかった
  3. なので、途中で安全保障輸出管理レジームの問題であると言い出した
  4. つまり日本政府の立場は一貫せず、変遷している

ムンジェイン大統領はこういう事を言っているようです。

当然のことながら、反論があります。

世耕弘成氏の反論

まず、事実関係が違うと指摘。

その上で「国際機関のチェックを受けるような性質のものではない」という指摘。

この日本政府の立場をきちんと理解した上で各所が発信するべきです。

日本政府の立場は変遷しているのか?

韓国をホワイト国排除する日本の説明が不適切?信頼関係・徴用工問題を持ち出した意味 でも書きましたが、日本政府の各所の説明について見ていきましょう。

所管官庁である経済産業省の説明

大韓民国向け輸出管理の運用の見直しについて (METI/経済産業省)2019年7月1日

輸出管理制度は、国際的な信頼関係を土台として構築されていますが、関係省庁で検討を行った結果、日韓間の信頼関係が著しく損なわれたと言わざるを得ない状況です。こうした中で、大韓民国との信頼関係の下に輸出管理に取り組むことが困難になっていることに加え、大韓民国に関連する輸出管理をめぐり不適切な事案が発生したこともあり、輸出管理を適切に実施する観点から、下記のとおり、厳格な制度の運用を行うこととします。

7月1日の経産省の発表が、この件で日本政府が最初に発信した内容です。

最初に「信頼関係」 の話があり、その次に輸出管理を巡る不適切事案について触れています。この立てつけはGATT21条の要件事実を言っているのではないという事は明らか。

「国際機関のチェックを受けるような性質のものではない」というのは、こういうところからも読み取れますし、後の7月12日に「倉庫会議」で「事務説明会」の張り紙をしていたが英語で併記しなかったのは、世界にアピールするものではないという認識があるからでしょう。

そして、「徴用工」には絡めていないのが分かります。

内閣官房の説明

令和元年7月1日(月)午前 | 令和元年 | 官房長官記者会見 | ニュース | 首相官邸ホームページ

令和元年7月2日(火)午前 | 令和元年 | 官房長官記者会見 | ニュース | 首相官邸ホームページ

1日は、記者から徴用工問題の制裁なのか?と言う問いに対して、西村官房副長官は上記経産省の説明通りに説明していました。

2日の菅官房長官は対韓輸出規制に関する質問を複数回受けています。まずは経産省の説明通りに説明し、3回目の質問「なぜG20後のタイミングなのか?」という問いに対して、信頼関係が損なわれた背景として朝鮮人戦時労働者問題(徴用工訴訟問題)についての韓国側の対応を挙げていました。

いわゆる徴用工については最初に説明していたというわけではありません。

安倍総理の説明

首相、対韓禁輸は「信頼関係上の措置見直した」 : 経済 : 読売新聞オンライン

安倍首相は1日の読売新聞のインタビューで、韓国への半導体材料の輸出管理強化について、「国と国との信頼関係の上に行ってきた措置を見直したということだ」と述べた。韓国との信頼関係が損なわれたことを理由に、管理強化に踏み切ったとの考えを示したものだ。「日本はすべての措置はWTO(世界貿易機関)ルールと整合的でなければならないという考え方だ。自由貿易とは関わりない」とも語り、今回の措置は国際貿易ルールに反しないとの立場を強調した。

安倍総理も最初の時点では徴用工について触れてませんでした。

安倍首相、韓国に「不適切事案」=輸出規制、正当性を主張 (時事通信社)

安倍晋三首相は7日のフジテレビ番組で、日本が韓国向け半導体材料の輸出管理を強化した理由について「(韓国側に)不適切な事案があった」と強調した。ただ、具体的な説明は避け、韓国が輸入品を北朝鮮に横流ししているとの見方に関しても「個別のことについて申し上げるのは差し控える」と述べた。

 首相は韓国に厳格な輸出管理を要求。元徴用工問題に触れ、「国と国との約束を守らないことが明確になった。貿易管理でも恐らくきちんと守れないと思うのは当然だ」と述べ、日本側の措置の正当性を主張した。

テレビ番組では徴用工問題に触れた上で「信頼関係」についての発言を行っています。

世耕大臣のツイート

これは7月3日です。その後、WTO理事会の会合が行われたため、そこでの法律論について触れたツイートもしています。

ここでは徴用工云々は言ってません。当たり前です。

WTOの法律論になった場合、日本はGATT21条の例外を主張していくことになりますが、この条文の要件事実に「信頼関係破壊」は無いのですから。

逆に言えば、「信頼関係云々」はWTOの法律論ではないということは明らかです。

日本政府は日韓間の問題として(WTOルールに整合的な)日本に裁量のある枠組みの中での日本の判断過程を示したに過ぎませんから、わざわざWTOルールに照らした発表をする必要が無いのです。

むしろWTOの法律論に持ち込みたいのは韓国側です。それを考慮すべきというのは正しいですが、韓国側の土俵に乗っかっただけではダメでしょう。

小括:日本政府の立場は変遷していない

このように、むしろ当初は徴用工訴訟問題について触れていなかったが、後に政治家の口から、信頼関係が破壊された背景として語られたという、逆の順番になっているのが分かるでしょう。

また、これは立場が変わったというよりも背景の説明を付加したという意味合いです。

ムンジェインの発言中、「強制徴用」は事実に反しますし(日本での原告は自ら応募してきた者、韓国でなぜか原告が追加されたが)、「その後、国際社会の支持が得られなかった」というのも根拠がありません。

韓国は「日本政府の立場は変遷した」という手法を好む

徴用工訴訟問題のWikipediaが嘘八百な件

徴用工訴訟問題に関する記述においても、「日本政府の個人請求権に対する考えは変遷している」として、まるで日本政府の主張は根拠薄弱であるかのように誘導しているものがあります。

しかし、これはまったくの捏造です。

Wikipediaの記述は朝鮮半島に親和性のある山本晴太弁護士の論文を大量に引用しており、その中での誤魔化しの部分が記述されています。

 

一般的に、こうした工作が行われているのだということは認識すべきでしょう。

上記の記事でも指摘していますが、まともに国会議事録や判決文を読めば、まったく立場が変遷しているとは言えないという事が明らかです。

今回のデマも放置していると、それが日本国内ですら「日本政府の立場は変遷している、ブレている」という言説がまき散らされてしまいます。

まとめ:ホワイト国からインビジブル国へ

日本は何も韓国を「ブラック国」扱いにするわけではありません。

原則の扱いに戻す、つまり無色透明(インビジブル)の扱いにするだけです。

通商分野の範囲を超えてインビジブルの扱いになるか否かは今後の韓国次第でしょう。

以上

深田萌絵、藤井一良関連訴訟と裁判官の忌避申立て、弁護士への懲戒請求

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深田萌絵、藤井一良関連訴訟と、裁判にまつわる動きについて。

これまで私が把握していたもの以外の訴訟や事情を新たに知りましたので大枠で紹介します。過去にまとめた訴訟については以下参照。

深田萌絵、藤井一良関連訴訟の追加

  • 保全異議 平成26年(モ)第50319号 (深田⇒国)
  • 保全抗告 平成26年(ラ)第807号 (深田⇒国)
  • 保全取消 平成27年(モ)第52697号(抗告審 平成30年(ラ)第273号) (深田⇒国)
  • 名誉棄損の不法行為に基づく損害賠償請求事件 平成28年(ワ)第1048号 (原告レバトロンHD、被告藤井氏)
  • 名誉棄損の不法行為に基づく損害賠償請求事件 平成26年(ワ)第11027号 (原告ジェイソンホー・レバトロン副社長)

保全異議・保全広告・保全取消しは、仮差押え(平成25年(ヨ)3466)決定に対するものでしょう。

また、名誉毀損による損害賠償請求は、深田から藤井氏側に起こしたものです。
※原告ジェイソン&副社長となっているものも実質的に深田です。

ここで詳細を論じることはしませんが、これで深田関連訴訟は少なくとも17にも上ることが分かりました。

そして、他にもいろいろな訴訟関係の動きがあることも分かりました。

裁判官の忌避、弁護士への懲戒請求も

【裁判資料公開】ピンクスパイガー深田萌絵(浅田麻衣子)が裁判から逃げ回る理由と「藤井一良事件」の真実に迫る | 日本国士 – 日本の尊厳と国益を護る保守派サイト

第10 最後に
浅田氏は、この裁判が始まって以降、約5年間にわたり私や当社のことをインターネット上で誹謗中傷し続け、関係のない人まで巻き込んで裁判を提起し(御庁平成26年(ワ)第2779号)、本訴事件を担当する裁判官を訴える国家賠償請求を起こし(御庁平成27年(ワ)第5271号)、本訴事件の裁判官や書記官の忌避を申し立て、Revatronを解散させ、当社の代理人弁護士を「核拡散防止協定違反」などを理由に懲戒請求したりするなど、もはやその異常な行動はとどまるところをしりません。

上記は藤井氏の深田との訴訟における最新の陳述書の内容です。

忌避」とは、民事訴訟法第24条1項・27条に規定されている、裁判官と裁判所書記官について裁判の公正を妨げるべき事情があるとき、当事者が、その裁判官・裁判所書記官を忌避することができる制度のことです。

また、「懲戒請求」とは、弁護士法58条に定められている、何人でも懲戒事由があると思料するときにその事由の説明を添えて弁護士会に対して特定の弁護士の懲戒を求めることができる制度です。

昨年度には何らの理由もないのに弁護士らに対して大量の(3000件を超える人も)懲戒請求がなされたことが問題になりました。

弁護士から懲戒請求自体が違法だとして訴訟提起され、今までに裁判になった懲戒請求者全てに損害賠償が命じられています。

【余命大量不当懲戒請求】弁護士への懲戒請求の手続と弁護士自治1

まとめ

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深田萌絵が起こした訴訟関連の動きをまとめるとこのような図になります。
※期日変更や戸籍抹消の動きは国というよりは裁判所に対するものと言うべきですが図が複雑になるので割愛

藤井氏の戸籍抹消については裁判の手続を取ったのかは定かではありませんが、いずれにしても家庭裁判所に対して抹消しようと試みたということは月刊WiLL 2019年 8月号に書かれています(当然だが、実現していない)

また、三菱東京UFJ銀行に対しても藤井氏から仮差押えられた銀行の預金口座から現金を下ろそうとして裁判をして、高裁で敗訴していますが、図が複雑に以下略

これだけの訴訟関連の動きをしておいて、藤井氏から訴訟提起されている1000万円余の支払い請求の裁判については、弁護士が変わった、などの理由をつけて、かれこれ7年以上も期日が延期されています。

ここでその行為の評価を書くことは敢えてしませんが、一般的にこのような動きが意味するものは何か。答えは一つしかありません。

以上 

韓国をホワイト国排除する日本の説明が不適切?信頼関係・徴用工問題を持ち出した意味

 

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7月1日以降、日本が韓国について半導体製造品目3品目の優遇の廃止を決定し、ホワイト国から排除する方針を説明しましたが、その際の日本側の説明に不適切な部分があったという指摘があります。

その問題意識の共有と、さらに懸念している事項について指摘します。

日本政府の説明が不適切・問題であるという人たち

複数の識者が日本政府側(安倍・菅・世耕ら)の説明が不適切であるという認識です。

神戸大大学院国際協力研究科教授木村幹

対韓「輸出規制」で安倍政権によぎる中国の失敗 木村幹

読売新聞は「日本政府は基本的に輸出を許可しない方針で、事実上の禁輸措置となる」と報じ、全く異なる見解を示している。だとすれば今回の措置は、経産省による公式の説明である、包括輸出許可から個別輸出許可への切り替え以上の内容を有することになる。

 この場合、日本政府が中国などの他国とは異なる何らかの基準を、韓国のみに適用していることになる。そうなれば個々の企業への影響は長期化し、より大きくなることは明らかだが、自由貿易の原則を掲げる以上、日本政府は事態を説明する国際政治上の責任を新たに負うことになる。

 そしてそれを万一、徴用工問題における日韓関係の悪化に求めるなら、それは日本政府が自ら、この措置が政治的報復であり、経産省が掲げる安全保障上の理由は「単なる建前」にすぎないと示したことになる。日本側がどのような論理を積み上げても、その論理に内実がなく、国際社会に信じられなければ、国際社会で敗北することになるのは、日本政府がこれまで福島沖水産物や捕鯨を巡る国際紛争で経験したことであり、事態は全く異なる展開を見せることになる。

Newsweekの方は割愛するが、いずれにしても、木村教授の言う「政治的合理性」の一つとして「相手国が譲歩すること」が念頭にあり、その効果が得られるか?という問題意識があることが分かります。

日本の発表を第三者が見た場合にどう見えるのか?ということから立論しています。

上智大学教授川瀬剛志 

日本政府は韓国の輸出規制を再考すべきだ | 外交・国際政治 | 東洋経済オンライン | 経済ニュースの新基準 川瀬剛志 

本当に韓国のワッセナー違反であるのなら、日本はその旨を明らかにした上で毅然と対応すべきであり、その場合は、自らの不適切対応を棚上げしてWTOに問題を持ち込み、安全保障貿易管理体制との棲み分けを侵した批判は、韓国が受けることになる。しかしそうであれば、世耕弘成経産相が7月2日の記者会見で述べたような、G20までの徴用工問題の未解決がその背後にあることを匂わせるような発言は、今回の対応の目的が安全保障目的以外にあることを疑わせるもので、厳に慎むべきだ。

特に川瀬教授は日本の輸出規制はリスクだとして再考を促しており、失敗であると言っているに等しい。

川瀬教授の視点(問題意識)としては、大量破壊兵器関連物資についての国際的なレジームという要素を捨象して、純粋にWTOで法律判断される場合にはリスクがある、というもの。

理屈としてはWTOで争った場合、韓国⇒日本はGATT1・11条違反であるとの主張、日本⇒GATT21条の例外の主張、という構造の中で、日本に例外事由の主張立証責任があり、21条絶対神話はこれまで安全保障管理のケースが1件も争われてなかったためである、ということから、敗けるリスクが高いからというものです。

実はこの記事には重要なことが書いてあって、「形式的にはWTO違反である輸出管理の安全保障レジームだが、国際社会が空気を読んで違反の主張をどこもしてこなかった」とあります。

今回、韓国が国際社会の空気を読まずに提訴することは、その後万が一日本が負けたとしても、韓国が国際社会から信頼を失うということになるんじゃないでしょうか。

中部大学特任教授細川昌彦

産経新聞2019年7月14日
日曜経済講座  中部大特任教授 細川昌彦

 ところで世耕弘成経済産業相はツイッターで今回の措置の「理由」を3点挙げた。①輸出管理での意見交換に韓国が応じていない②輸出管理に関する不適切な事案が発生しているいわゆる徴用工問題などで信頼関係が損なわれたーの3つだ。

 ①と②は確かに輸出管理上重大な問題で、適正な輸出管理を行うために今回の措置は当然行うべきだ。しかし③は「背景」だ。国内の対韓強硬論に応えて、韓国にもそうしたメッセージを送りたいのかもしれない。

 しかし、その結果、韓国に「政治目的のために措置だ」と批判させてしまい、欧米メディアの一部にはトランプ米大統領の手法と同一視される誤解まで生じている。

 国際社会を納得させるためには、正当性の説明は論理的でなければならない。そのためにはあくまで輸出管理の論理①と②で完結すべきだ。米中の身勝手な論理による制裁で国際秩序が揺らいでいるからこそ、日本は国際的に納得する論理だけを示すべきだ。

細川氏もテレビ番組等で幾度となく、政治問題と安全保障問題を絡めているかのように見えることについて、日本政府側の言動を戒めるように話をしていました。世耕大臣のツイートは後に紹介します。

東京大学先端科学技術研究センター助教佐藤信

韓国「156件の不正輸出摘発」で“報復”の風向きは 政治学者「日本が自分勝手に見えてしまう」 | ニコニコニュース

菅官房長官は2日の定例会見で、韓国輸出規制の理由について「友好協力関係に反する韓国側の否定的な動きが相次いだ」、元徴用工問題をあげて「信頼関係が著しく損なわれた」と発言した。

「この発言の趣旨がよくわからない」といい、「輸出規制措置は元徴用工問題への対抗措置ではないと日本政府は言い張っている。しかし、なぜ今なのかと聞かれると、元徴用工問題などで信頼関係が損なわれたことが原因だと結局説明していて、疑われる結果になっている。韓国側の輸出管理の問題だ、報復措置ではないと国際的に主張するためには、日本はより強い証拠を公開していく方が説得力はある。このままだと日本が自分勝手に動いているように見えてしまうので、うまく立ち回ることが今求められている」

ここでも徴用工問題に触れたことが問題であるという認識です。

この発言は菅官房長官の説明が念頭にあると思われます。

元国連北朝鮮制裁専門家パネル委員の古川勝久

なお、この問題については元国連北朝鮮制裁専門家パネル委員の古川勝久氏もいろんなテレビ番組に登場していますが、彼から日本政府側の発信について咎める指摘は、あまりなされていないように思います。

それは、彼はWTOの紛争処理の上級委員会の委員が2人になり(本来は7人で事案ごとに3人が担当)、後任の就任をアメリカが反対しているために機能不全に陥っている状況を挙げており、もはや提訴は無意味だと考えているからでしょう。

WTOでの法律論の話が無関係となると、日本政府の発言を不適切と評する意味がないということでしょう。

日本政府の説明

日本政府といっても、官庁の説明と政治家の説明には差異があります。

なので、それぞれの発信内容を確認します。

所管官庁である経済産業省の説明

大韓民国向け輸出管理の運用の見直しについて (METI/経済産業省)2019年7月1日

輸出管理制度は、国際的な信頼関係を土台として構築されていますが、関係省庁で検討を行った結果、日韓間の信頼関係が著しく損なわれたと言わざるを得ない状況です。こうした中で、大韓民国との信頼関係の下に輸出管理に取り組むことが困難になっていることに加え、大韓民国に関連する輸出管理をめぐり不適切な事案が発生したこともあり、輸出管理を適切に実施する観点から、下記のとおり、厳格な制度の運用を行うこととします。

最初に「信頼関係」 の話があり、その次に輸出管理を巡る不適切事案について触れています。当の経済産業省がこのような立てつけの説明をしているということは念頭に置くべきでしょう。

ただ、「徴用工」には絡めていないのが分かります。

内閣官房の説明

令和元年7月1日(月)午前 | 令和元年 | 官房長官記者会見 | ニュース | 首相官邸ホームページ

記者から徴用工問題の制裁なのか?と言う問いに対して、西村官房副長官は上記経産省の説明通りに説明していました。

それにしても朝日新聞記者からは「韓国側からすれば対抗措置に見えるのですが」という質問があるのは何だかなぁと。

令和元年7月2日(火)午前 | 令和元年 | 官房長官記者会見 | ニュース | 首相官邸ホームページ

翌日の菅官房長官は対韓輸出規制に関する3回目の質問「なぜG20後のタイミングなのか?」という問いに対して、信頼関係が損なわれた背景として朝鮮人戦時労働者問題についての韓国側の対応を挙げていました。

細川氏が指摘している通り、日本メディアが「事実上の禁輸」(読売)、「事実上の制裁」などの表現で報じていることから韓国側に誤解を与えているというのはその通りでしょう。

ただ、ここで注意すべきは、安倍総理や世耕大臣がいわゆる徴用工問題と絡めた発信をする以前から、メディアは徴用工問題に関連したものであるという見方で報じていたということです。

安倍総理の説明

首相、対韓禁輸は「信頼関係上の措置見直した」 : 経済 : 読売新聞オンライン

安倍首相は1日の読売新聞のインタビューで、韓国への半導体材料の輸出管理強化について、「国と国との信頼関係の上に行ってきた措置を見直したということだ」と述べた。韓国との信頼関係が損なわれたことを理由に、管理強化に踏み切ったとの考えを示したものだ。「日本はすべての措置はWTO(世界貿易機関)ルールと整合的でなければならないという考え方だ。自由貿易とは関わりない」とも語り、今回の措置は国際貿易ルールに反しないとの立場を強調した。

こちらでも「信頼関係」に焦点が当たっています。

安倍首相、韓国に「不適切事案」=輸出規制、正当性を主張 (時事通信社)

安倍晋三首相は7日のフジテレビ番組で、日本が韓国向け半導体材料の輸出管理を強化した理由について「(韓国側に)不適切な事案があった」と強調した。ただ、具体的な説明は避け、韓国が輸入品を北朝鮮に横流ししているとの見方に関しても「個別のことについて申し上げるのは差し控える」と述べた。

 首相は韓国に厳格な輸出管理を要求。元徴用工問題に触れ、「国と国との約束を守らないことが明確になった。貿易管理でも恐らくきちんと守れないと思うのは当然だ」と述べ、日本側の措置の正当性を主張した。

テレビ番組では徴用工問題に触れた上で「信頼関係」についての発言を行っています。

世耕大臣の説明

①は輸出管理における韓国側との管理体制構築上の問題。

②は半導体製造品目の輸出に関する不適切な事案。

③は日韓間の総合的な協力関係が崩れてきたことであり、特に徴用工問題を例に挙げています。

この③ツイートがテレビ番組において、細川昌彦氏らによって「不必要だった」と評されているところです。短い文面ですし確認が容易なので指摘しやすいのでしょう。

なぜ安倍・世耕の発言が問題視されているのか?

関税及び貿易に関する一般協定 (GATT)第二部 | 外務省

第十一条 数量制限の一般的廃止
1 締約国は、他の締約国の領域の産品の輸入について、又は他の締約国の領域に仕向けられる産品の輸出若しくは輸出のための販売について、割当によると、輸入又は輸出の許可によると、その他の措置によるとを問わず、関税その他の課徴金以外のいかなる禁止又は制限も新設し、又は維持してはならない。

第二十一条 安全保障のための例外
この協定のいかなる規定も、次のいずれかのことを定めるものと解してはならない。

(a)締約国に対し、発表すれば自国の安全保障上の重大な利益に反するとその締約国が認める情報の提供を要求すること。
(b)締約国が自国の安全保障上の重大な利益の保護のために必要であると認める次のいずれかの措置を執ることを妨げること。
 (ⅰ)核分裂性物質又はその生産原料である物質に関する措置
 (ⅱ)武器、弾薬及び軍需品の取引並びに軍事施設に供給するため直接又は間接に行なわれるその他の貨物及び原料の取引に関する措置
 (ⅲ)戦時その他の国際関係の緊急時に執る措置
(c)締約国が国際の平和及び安全の維持のため国際連合憲章に基く義務に従う措置を執ることを妨げること。

安全保障レジームによる大量破壊兵器関連物資の輸出については、一般的に許可制になっています。いくつかの企業は審査の結果、輸出が許可されないということになりますから、現状の措置は形式的にはGATT11条の「制限」に文言上は該当していることになります。

しかし、現実には世界中で特定品目が許可制になっています。これは、GATT21条の例外に当たるから、という法的構成で世界中の共通認識がありました。

仮にWTOで純粋に法律論となった場合、GATT21条の「安全保障上の重大な利益の保護の必要」等の事由の主張立証責任は日本側にある、ということになると考えられます(例外規定なので、例外の適用を求める者に立証責任があると考えるのが一般的)。

その際に、WTOの審査において日本側に「政治的な目的」が認定されると安全保障のためではないではないかということになりかねず敗訴の危険があると、識者らは懸念しているということです。

実際、韓国はWTO会合において(未だ正式な審理ではない)1条・11条違反を主張し、日本は例外にあたるという主張をしたようです。

その懸念それ自体は正当でしょう。

では、日本の政権側(安倍・菅・世耕ら)はなぜ徴用工と絡めた信頼関係と言ったのか。これは究極的には安倍・菅・世耕らに直接聞かないと分からない話ですが、主張の仕方からある程度は推測できると思います。

そもそもホワイト国指定や手続の簡略化は日本の裁量

まず、この話は基本的に日韓間の輸出管理体制の話です。

WTOでの法律論を離れると、ホワイト国の指定やリスト規制品(半導体製造品目を含む100以上の品目)の輸出手続の簡略化をどこの国に対してするかということは、日本国の裁量の範囲内です。国際法上の規定があって行っている制度ではありません。

同様の仕組みは他の国でも行っているので国際的な共通理解があります。

ですから、日本政府としては最初からWTOでの法律論は捨象していたと言えます。

このことは所管官庁である経済産業省の発表を見ても分かります。

大韓民国向け輸出管理の運用の見直しについて (METI/経済産業省)2019年7月1日

輸出管理制度は、国際的な信頼関係を土台として構築されていますが、関係省庁で検討を行った結果、日韓間の信頼関係が著しく損なわれたと言わざるを得ない状況です。こうした中で、大韓民国との信頼関係の下に輸出管理に取り組むことが困難になっていることに加え、大韓民国に関連する輸出管理をめぐり不適切な事案が発生したこともあり、輸出管理を適切に実施する観点から、下記のとおり、厳格な制度の運用を行うこととします。

WTOでの法律論を念頭に置いていたならば、 「信頼関係」が最初に来ることは無いはずです。「信頼関係破壊」はGATT21条の要件事実ではないからです。

したがって、これは日韓間の関係における日本政府の裁量の範囲の事項について、日本の立場を示したものであり、WTOは関係ありません。

この【日本政府の土俵】があまりにも意識されなさすぎる事こそが大問題と思います。

徴用工訴訟問題での信頼関係の毀損は判断の動機・背景であって国際ルール上の理由ではない

徴用工訴訟問題の影響も含めた「信頼関係の毀損」は、法律論ではなく、日本国が今回の措置を講ずるに至った動機・背景に過ぎません。

ここで、身近な例で考えると分かりやすいと思うので私ごとですが例を挙げます。

私が自転車に乗っていて車に横から突き飛ばされたことがあります。

運転者のミスです。前方不注意でした。物が壊れ、身体はむちうちにになりました。

この時点で、不法行為の損害賠償請求権が発生しています。
日韓の事例で言えば、不適切事案が発生して安全保障管理上の問題がある状態。

ただ、その場ですぐに謝ってもらい救急車・警察も呼んで連絡先も交換しました。
日韓の事例で言えば、事件の公表・再発防止策の提示・協議がなされることでしょう。

壊れた物の弁償・通院費も支払ってもらいました。

こういう場合、決して訴訟提起して損害賠償請求しようとは思いませんよね。
日韓の事例で言えば、不適切事案が発生したら即・優遇廃止、という事にはならない

赤の他人であっても、人間としての信頼関係があるからです。

しかし、音信不通になったとすれば、信頼関係が崩れるでしょう。

ただ、それでも訴訟提起するか否かは、私次第なわけです。
日韓の事例で言えば、ホワイト国除外等は日本の裁量なわけです。

そこで損害賠償請求をするきっかけとして「信頼関係の崩壊」と言うでしょう。元から加害者が知り合いで、事故対応とは無関係の所から既に信用ならない相手だと思っていたら、信頼関係など無いので、すぐさま訴訟提起したかもしれません。
日韓の事例で言えば、輸出管理の協議要請をしても韓国側が応じない状況が第一に挙げられますが、徴用工問題でも協定上の仲裁委員を選任もしない状況があります。それらの事情の総合で考えるのは輸出管理が国家間の信頼関係に基づく付き合いの中にあるので当たり前でしょう。

不法行為の損害賠償請求の法的主張としての要件事実(故意or過失+不法行為+損害+因果関係)を言うわけがないでしょう。それは最初からあったんだから。

「信頼関係」という当たり前のことが無くなり、状況の改善が見込めないから措置に踏み切ったと説明することの何がおかしいのか?

おかしいと言い出すのは韓国側の理屈であって、それに引きずられてはいけません。

当然、日本政府はWTOにおいては「信頼関係」を主張していません。

韓国側の言っていることは、私の交通事故の例で言えば『損害賠償請求の要件事実に「信頼関係の破壊」は無い!言ってることがおかしい!』と難癖をつけているのと同じです。

訴訟外の話、訴訟に至った経緯の話を、訴訟上の法的主張と混同させているのが韓国の戦略なのです。

WTOでの法律論云々は韓国の土俵

法律論の視点から「日本の発表は混同してるように見えて誤解を招く」と言うのは、韓国の土俵に乗っかったものでしょう。

もちろん、そうさせないように注意しようとするのは大切だということは書きました。

しかし、その前になぜ日本の主張の前提にはそもそも今回の措置は日本の裁量の範囲であるという認識がある、という事を主張しないのか?

なぜ、「誤解をされないように」という受け身なのか?

私は思考の出発点が間違っているのではないかと思います。

「信頼関係」がGATT21条の要件事実ではないということは明らかなので、その文脈での徴用工問題の言及はGATTは無関係と考えるのが本来の筋です。

海外メディアが勘違いをしているのであれば、それは完全に間違っていると言えばいい。メディアはもともと意図的に政治問題化するんですから。

仮に今回、安倍・菅・世耕が徴用工に触れていなくとも、発表のタイミングやこれまでの経緯から、結局は「事実上の報復措置だ」「政治問題によるものだ」などと報じられていたでしょう。

「誤解をされる懸念」というものが見えているのであれば、政府以外も、それを払拭するための説明なり情報発信をするべきではないでしょうか?

現状では識者らの懸念が、メディアによって韓国側にとって都合の良い形で取り上げられていることをどう考えるのでしょうか?

 

まとめ

  1. 日本側の発信に不用意な点があったという視点は重要
  2. それ以上に、ホワイト国除外等は日本の裁量であるという前提を伝える事が重要

1番目を強調するだけでは、既に韓国側の土俵の上で戦っているのと同じです。

現在のメディア等での言論空間は、まさにこのような状況にあると思い、私にはそのことの方が重大な問題ではないかと懸念しています。

以上

ホワイト国除外決定的:韓国が事務説明会の発言内容も捏造:異例の記者会見

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https://www3.nhk.or.jp/news/html/20190713/k10011992421000.html

12日に行われた韓国への輸出規制をめぐる日韓の事務レベルの会合について、経済産業省は韓国側の発表に対して反論をする異例の記者会見を行いました。

ホワイト国除外決定的:韓国が事務説明会の発言内容も捏造

韓国主張に経産省が反論会見 「撤回求める明確な発言なし」 - FNN.jpプライムオンライン

輸出規制「韓国側から撤回求める発言なし」 経産省会見 | NHKニュース

発言をまとめると

  • 12日、日本側「撤回の要請はなかった」
  • 13日、韓国側の担当者「『納得も理解もできない』と強く反論した」「日本の措置に遺憾を表明し、現状の回復と撤回も要請した」
  • 13日、日本側「再度、会議録を確認したが、撤回を求めたという明確な発言はなかった」「韓国側の発言は、会合のあと双方で確認した対外的な発表内容を超えるもの

経済産業省の反論テキスト

本日の一部報道(韓国政府担当課長による記者説明)について (METI/経済産業省)

1.「きのうは4時間以上、韓国側の立場と主張を伝えた。問題解決のための協議と呼ぶのがよりふさわしい」との点について
本会合は、7月1日に発表した「大韓民国向け輸出管理の運用の見直しについて」の具体的な措置の内容の事務的説明を韓国側の要請に基づいて行ったものです。本会合は見直しの内容を事務的に説明するための場であり、輸出管理当局間の協議の場ではないことを事前に韓国側と合意した上で開催しました。
さらには、冒頭から面談の位置づけだけで30分も議論し、その位置づけを確認して開始しました。
2.「日本の措置に遺憾を表明した。原状の回復と撤回も要請した」との点について
韓国側からは「遺憾の表明、原状の回復と撤回の要請」ではなく、「問題解決」の要請があり、日本側からは、本件は協議するような「問題」ではないため、今回は事実関係の説明を行う旨回答しました。

3.「今月24日までに再び両国の当局者間の会合を開くことを改めて求めた」との点について
昨日の会合においては、十分に丁寧な説明を行ったところですが、更なる質問があれば、電子メール等でやりとりすることを先方との間で確認しています。

技術的な内容について口頭でやる意味はそれほどなく、正確な表現が必要なので、メール等の文章でコミュニケーションを取るというのは当然だと思います。

メールであれば証拠も確実に残りますからね。

なぜ韓国は捏造をするのか

日テレNewsが1週間の期限を設けて公開している深層Newsの番組で、元国連パネル委員の古川氏とイヨンチェ教授が討論?をしているものがあります。

これを聞くと、イヨンチェ教授が事実と異なる内容を敢えて繰り返し発言し、話題を逸らしているのが分かります。それが彼の仕事なんでしょう。

レーダー照射問題のときからそうですが、韓国は政府レベルでは到底通用しない言説を世界中に振り撒いています。だからこそ「反論動画」を8ヶ国に翻訳したと言えます。

問題はメディアです。

世界中にあるメディアには反日思想を持つものがおり、彼らに韓国側に有利な記事を書かせようとしているのでしょう。実際に明らかに公平ではない記事を英語メディアで見ることがあります。

特に韓国メディアは日本のメディアや有識者の発言をチェックしていますが、都合の良いものを取り上げて「日本政府の主張」と混同させて報じる例もあります。今回で言えば、FNNの報道内容を日本政府の主張と勘違いしているようなそぶりがイヨンチェ教授の発言からにじみ出ています。

メディアや識者が日本政府の主張を批判するのは良いのですが、それが更に韓国側に都合よく取り上げられているということを自覚するべきでしょう。

以上