事実を整える

Nathan(ねーさん) 法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

北朝鮮に横流し?韓国の不適切輸出管理についての古川勝久と李泳采(イヨンチェ)の議論:日テレ深層News

 

f:id:Nathannate:20190713230040j:plain北朝鮮に横流し? 韓国“不適切”輸出管理|日テレNEWS24

元国連北朝鮮制裁専門家パネル委員の古川勝久と恵泉女学園大学の李泳采(イヨンチェ)教授により日韓の見解が語られましたので、気になるところを抜粋して要約しました。

韓国の青瓦台に情報が伝わっていない

冒頭に古川氏が韓国の方から青瓦台に正しく情報が伝わっていないのではないか?という声があるということが指摘されていました。

韓国の中でも大統領府(青瓦台)とそれ以外の行政組織とでも認識の差異がある可能性が示唆されていました。

WTOは機能不全:上級委員会の委員が2人になって更新されない

最初に古川氏がWTOの状況について説明しました。

WTOの審理は1審の「パネル」の後に最終審である2審の「上級委員会」があります。

そのうち上級委員会の方は本来は7名の委員で構成され、事案の処理は事案毎に指定された3名で行うことになっています。

しかし、アメリカが委員の後任の任命に反対したために、今後は2名になってしまい、機能不全に陥るということが指摘されています。

そのため、古川氏はWTO訴訟における主張ではなく、今回の優遇停止措置についての日韓間における主張の問題であるという視点から論じています。

あと、この話を聞くときは「政府」と「企業」を分けて考えると話が理解できます。

日本政府は「北朝鮮への横流し」の具体的事実があると言ってるのではない

動画の11分くらいから本題に入ってきます。

4年間で156件の摘発件数があるということの意味について。

李泳采「管理を強化した結果である」

古川「日本企業からすると、政府がどう、というよりは韓国企業にこれだけの不正を行う企業が居るんだということで不安になる、そう受け止めざるを得ない。日本側としては「日本の製品が第三国を経由して不正輸出される懸念」が問題である。」

李泳采「韓国は摘発事例を公開しているが日本は公開していない」?

李泳采「韓国は輸出管理システムを強化していている一方、アメリカは260件の不正輸出の事例がある。日本の資料によれば日本の企業も摘発され、北朝鮮、イランなどに大量破壊兵器関連物資が不正輸出されている。」

古川「今の李先生の指摘がまさに韓国の通商産業部の言ってること、これは間違い。日本は公開していないと言うが、今李さんが言った日本の資料というのは財団法人(※CISTECのこと)が輸出管理者のために作ったもの。これは別にすべての事例を網羅して日本政府の発表を代替するためにやってるものではない。」

古川「日本では韓国と違って、輸出管理法にそぐわなかった企業に対して警告を出した場合にはすべて実名公表している。さらにより悪質な企業や個人の場合には逮捕・訴追される。すると警察はその日にすべての事案に対してプレスリリースを行う。事案の概要、どの企業か、なぜ事案が発生したのかなど。そして、裁判になれば公開され、結審して結果が出ればそれもプレスリリースされる」

古川「経産省のカウンターパートである韓国の通商産業部が政府機関と財団法人の区別もできない。その状況を私は非常に懸念している。」

古川「日本政府韓国から北朝鮮に大量破壊兵器関連物資が渡ったということは一言も言っていない」

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李泳采「日本の資料(上図)には日本の企業が北朝鮮等に不正輸出したという事が書いてある」

古川「誤解があるようですが、あの資料はこれまで裁判になって有罪になったものについてだけ発表している。警告を受けただけの企業は入っていないし、逮捕されたけど有罪にならなかった者も入っていない。ただ、どこが違反したのかは経産省は毎回発表している。それを韓国大使館もすべて受け取っている。なぜそれをソウルの本省は知らないのか?

李泳采「今の状況はまるで韓国だけが安全保障上問題があるかのようになっていて、日本は問題がないということになっている。」

古川「誤解があるが、日本政府は韓国から北朝鮮に大量破壊兵器関連物資が渡ったということは一言も言っていない。我々にとっての懸念というのは、大量破壊兵器・化学兵器・生物兵器、機微な技術・物質を拡散しないように、責任を持ってみんなで管理しましょうという国際レジームに基づいて各国がリストに基づいてやっている。そのはずが、韓国に輸出したものがその後どこに行ったのか分からない、韓国企業に日本の輸出者が問い合わせても答えがない、そして、日本政府が韓国政府に働きかけて韓国企業に聞き出してと言ってもレスポンスがない、ゆえに、日本側としては輸出したものがどうなるのかという懸念が払しょくできない。こういう事は他のホワイト国では起こっていない。」

制裁強化をした時期と営業利益が増加時期が一致

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李泳采「韓国は輸出管理を強化している」

古川「北朝鮮と瀬取りを行っている疑惑があるという情報をアメリカ等から受けて韓国政府が港に船舶を泊め置きしているなど、摘発に大変な努力をしている。ただ、そういうことをする企業が居る。これは韓国政府が取り調べている最中で結論を出していないものだが、瀬取りをしている疑惑の石油タンカーの船舶会社の営業利益が北朝鮮制裁が強まった2017年から大幅に増えている。どういう理由かは未だわからない。ただ、制裁強化をした時期と営業利益の増加時期が一致している。他にも北朝鮮産石炭の密輸入をした貿易会社が同じような傾向を示している。」

古川「日本から北朝鮮に韓国経由でベンツが不正輸出された事件があります。その後もこの企業のビジネスに大きく影響はしていない。こういう企業が多いのだと思う。実はキムジョンウンが載っているベンツについて近くアメリカが報告書を公開する。北朝鮮に行くまでのルートとして韓国企業が挙げられている。その企業の名前は今年の5月にアメリカが差し押さえた「ワイズ・オネスト」(※聴き取りあいまいだったがCNNの記事で確認)という。もともと北朝鮮との取引は制裁以前は合法だった。北朝鮮との取引でやってきた企業がいきなり制裁だからといっても取引を止めるのは難しいということで、大体違反事件を見ると同じような企業・人が多い。そういう企業はもちろん日本国内にもある。韓国内にも居る。だからお互いに管理をきちっとしましょうという話」

韓国の資料では日本企業が韓国企業の不正輸出歴があるかを確認できない

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古川「韓国政府の資料(上図)では事件が発生した場所や、企業名もわからない。」

(※データへのリンクと内容の簡単な解説⇒ホワイト国から除外予定の韓国産業省公開の戦略物資無許可輸出の年次報告書

李泳采「韓国はリストを持っていて、公開しますと言っている。だからこれを国連に提供すると言っている。第三者に判断してもらう。」

古川「国連は関係ない、そんな役割は国連にはない」

※WTOの勘違いか?いずれにしても何をいわんとしているのか意味不明

古川「日本にデータが無いと言うが、日本の場合には事件になればプレスリリースがされる。先ほどの瀬取りの事件も韓国は企業名も事案の概要も公表しない。そうすると、日本の輸出企業が機微な貨物を韓国に輸出するとき、相手の企業が過去に輸出違反事件にかかわったかどうかというのは分からない。基本的な情報が公開されていない。李さんが公開していると言っている資料は一行の羅列。これは情報ではない。」

まとめ

この後は日本が輸出管理体制の見直しを発表した時期等から、李教授からは韓国側は徴用工訴訟問題の制裁ではないかと考えていることが示され、古川氏からはそれは違うと、安倍総理が両者を同列に論じたかのように話したのでそう考えてるかもしれないが、そうじゃないという説明をしました。

7月12日、経産省の事務方の説明会に韓国側が参加したことを受けて、古川氏と李氏が行ったような情報のすり合わせを普段からやるべきだと古川氏は言います。それは本来的に重要でしょう。

しかし、その会合の内容すら、韓国側は捏造しているようです。

日韓会合の説明に食い違い 韓国への不信感強める 経産省 - 産経ニュース

以上

ホワイト国から除外予定の韓国産業省公開の戦略物資無許可輸出の年次報告書

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韓国の産業省は、「韓国は戦略物資管理院の年次報告書で、戦略物資無許可輸出摘発と措置の現状を毎年公開している」「日本は韓国とは異なり、不法輸出の摘発件数も公開していない」と言っていました。

韓国が公表しているとするデータに何が書いてあるかを見てみましょう。

韓国産業省「年次報告書で摘発と措置の現状を毎年公開」

日언론 ‘밀수출 보도’에 정부 “수출통제 투명성 반증”

資料を見ると、無許可輸出摘発件数は、2015年14件、2016年22件、2017年48件、2018年41件増加傾向を見せた。類型別には生物化学兵器関連系列が70件で最も多かった。加えて、通常兵器(53件)、核兵器製造・開発関連(29件)、ミサイル兵器(2件)、化学兵器(1件)の順に多かった。

省は傘下機関である、戦略物資管理院の年次報告書で、戦略物資無許可輸出摘発と措置の現状を毎年公開しているむしろ日本は韓国とは異なり、不法輸出の摘発件数も公開していないという見方も出ている。

産業省は、「日本は、いくつかの摘発事例のみを選別して公開する」とし「戦略物資輸出統制先進国である米国は、無許可の輸出摘発実績と主な事例を公開する」と伝えた。

それとともに「これは韓国の戦略物資の輸出管理制度が効果的かつ透明に運営されているという反証」と付け加えた。

公開してるということがあまり知られてなかったようですが一応公開してるようです。 

どこで公開してるかを調べました。

韓国の戦略物資管理院(전략물자관리원(KOSTI)) の「年次報告書」

전략물자관리원(KOSTI)

このページの左下にレポートがあります。

現在は2018年の年次報告書(2018 연례보고서)が見えますので、そこをクリックするとレポートPDFがダウンロードできるページに行きます。

本件で関係のあるのは、「無許可輸出による処分企業の現状」(무허가수출로 인한 처분 기업 현황)で、レポートの86頁から始まります。

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韓国は対外貿易法に基づいて輸出許可等に違反した者に対し、3年以内の範囲で戦略物資等の全部または一部の輸出や輸入を制限することができる。また、無許可輸出または虚偽その他の不正な方法で許可を受けた者に対し、最大8時間の教育指導を課すことができる

表は、上から輸出制限、教育指導、それらの合計、というものになっています。

これは摘発数とイコールではなく、その中から処分をした数といえます。

その後の記述は、過去の処分事例と管理体制についての展望についてのものです。

韓国の公表と不正輸出リスト

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朝鮮日報とFNNが報じた不正輸出リストには、企業名を指すアルファベット、摘発された日時、不正輸出された品目、輸出額、輸出先国、行われた行政処分、品目の規制レジーム上の類型が書いてあります。

これは国会議員が入手したものであって、一般に公開されているものではありません。

しかも、このリストですら、どの企業が違反をしたのかが分かりません。

日本の大量破壊兵器関連物資等の摘発事例の公表

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日本の場合は安全保障貿易情報センター(CISTEC)のページで大量破壊兵器関連物資等の摘発事例が公表されています。

これを見ると、「いつの行為か」「どの企業名のどの立場の者が」「何の製品を」「どのようなルート・手段で不正輸出しようとしていたのか」「輸出先はどこだったか」「処分の種類」「処分の時期」などが事細かに記載されています。

他、警察庁も刑事事件とした摘発データを別途公開しています。詳細は以下。

韓国も輸出管理強化の部分はあるがホワイト国としてどうか

一応、年次報告書には韓国政府が近年取った輸出管理政策として、特定品目の輸出規制強化をしていることなどが書かれています。

ただ、同時に、2016年の法改正によって、イランに対する主要品目の輸出が従来に比べて自由になったため、これまで輸出が禁止されていた戦略物資の品目が輸出可能になったことなど(77頁)も書いています。

まとめ:韓国の不正輸出データの公表は不透明

韓国が公表しているデータだけでは、どの企業が違反をしているのかが分かりません

そのため、現場で取引を行う日本企業が、違反をしている企業であると分からずに取引をする可能性があります。これを「透明性」と表現するのは異常でしょう。

韓国側の不透明さについてはFNNが詳細に論じています。

専門家が見た韓国不正輸出リストの問題点……韓国政府は悪質企業名の公表を - FNN.jpプライムオンライン

以上

徴用工訴訟問題のWikipediaが嘘八百な件

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朝鮮人戦時労働者(いわゆる徴用工)問題に関する日韓請求権協定の内容について。

Wikipediaに経緯等が詳細に記述されていますが、細かいところで嘘や誤魔化しが仕込まれています。

※2019年12月24日現在はここで指摘したことが改善されています。あとは維持できるかどうかです。

徴用工訴訟問題のWikipediaの嘘

  1. 「日本政府の個人請求権に対する立場は変遷している」という嘘
  2. 西松建設の最高裁判決における日本政府の態度の意味

徴用工訴訟問題のWikipediaにはこのような嘘が書かれています。

※今回は「徴用工訴訟問題」のウィキペディアにおいて、最終更新令和元年7月7日 14:14時点の記述を対象にします。

1:「日本政府の個人請求権に対する立場は変遷している」という嘘

ウィキペディアの具体的な記述を示しながら指摘します。

徴用工訴訟問題のWikipediaでの記述

徴用工訴訟問題 - Wikipedia 2019年7月12日魚拓

日本政府は条約締結以降2007年頃まで、請求権協定が個人請求権に影響を及ぼすことはないという立場であったが、現在は請求権協定によって日韓の請求権問題は個人請求権も含めて終局的に解決されたという立場に変遷している。

これは前半部分と後半部分で、違うことを言っています。

後半部分の「終局的に解決~」は、日韓請求権協定締結以後、日本政府の一貫した立場であって、何ら変遷していません。

前半部分は、個人請求権を消滅させるものではないという点は正しい。

ただ、それは請求権問題が終局的に解決してない、という意味ではありません。

ここでの「個人請求権」の意味は、一般的な法律用語とは異質なものであるので、議論の経過を見ずに安易に即断できるものではありません。

「個人の請求権」 の意味内容については河野太郎外務大臣がブログで説明しています。

詳しくはこちらで解説しています⇒韓国徴用工:日韓請求権協定の個人の請求権に関する河野太郎外務大臣の解説の解説

河野大臣からは政府の立場が示されている分かりやすいものとして平成3年(1991年)の政府答弁が紹介されているので見てみましょう。

日韓請求権協定における個人の請求権=クレームを提起する地位

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 第122回 国会 参議院予算委員会 第3号 平成三年十二月十三

○政府委員(柳井俊二君) 官房長官からお答えがある前に私の方から、これまでのいわゆる請求権の処理の状況につきまして簡単に整理した形で御答弁申し上げたいと存じます。
 御承知のように、昭和四十年の日韓請求権・経済協力協定の二条一項におきましては、日韓両国及び両国国民間の財産・請求権の問題が完全かつ最終的に解決したことを確認しておりまして、またその第三項におきましては、いわゆる請求権放棄についても規定しているわけでございます。これらの規定は、両国国民間の財産・請求権問題につきましては、日韓両国が国家として有している外交保護権を相互に放棄したことを確認するものでございまして、いわゆる個人の財産・請求権そのものを国内法的な意味で消滅させるものではないということは今までも御答弁申し上げたとおりでございます。これはいわゆる条約上の処理の問題でございます。また、日韓のみならず、ほかの国との関係におきましても同様の処理を条約上行ったということは御案内のとおりでございます。
   〔理事井上吉夫君退席、委員長着席〕
 他方、日韓の協定におきましては、その二条三項におきまして、一方の締約国及びその国民の財産、権利及び利益であって同協定の署名の日に他方の締約国の管轄のもとにあるものに対してとられる措置につきましては、今後いかなる主張もなし得ないというふうに規定しております。この規定を受けまして、我が国は、韓国及び韓国国民のこのような財産、権利及び利益、これはいわゆる法律上の根拠ある実体的権利であるというふうに両国間で了解されておりますが、そのようなものにつきまして国内法を制定いたしまして処理したわけでございます。その法律におきましては、韓国または韓国国民の日本国または日本国国民に対する一定の財産権を消滅させる措置をとっているわけでございます。
 なお、いわゆる請求権という用語はいろいろな条約でいろいろな意味に使われておりますが、この日韓の請求権・経済協力協定における請求権と申しますものは、実体的な権利でない、いわゆるクレームとよく言っておりますが、そのようなクレームを提起する地位を意味するものでございますので、当時国内法で特に処理する問題がなくしたがって国内法を制定することはしなかったわけでございます。ただ、これはいわゆる請求権の問題が未処理であるということではございません。
 以上にかんがみまして、このようないわゆるクレームの問題に関しましては、個人がこのようなクレームについて何らかの主張をなし、あるいは裁判所に訴えを提起するということまでも妨げるものではないわけでございますが、先ほどアジア局長からも答弁申し上げましたように、国家間の問題としては外交的には取り上げることはできないということでございます。

まず、「個人の請求権」が残存しているということは、日本政府の一貫した立場であり、昨今の朝鮮人戦時労働者訴訟(徴用工訴訟)によって新たに発見されたというようなものでは決してありません。

その上で、「個人の請求権」とは「訴訟提起できる地位」という意味であり、ただ、日本側(日本政府・日本企業・日本の個人)に対して司法による救済を受けることはできないものであると決められています。

法的な救済をするのであれば、その責任は韓国政府にある、ということです。

「訴訟提起できるが救済が受けられない」という意味

訴訟提起できるが救済は受けられない」というのは最高裁判決でもあります。

ただ、これだけだとどういう意味かまったく理解できないと思われます。

具体的な例を言えば、韓国人の元戦時労働者が日本側に対して訴訟外でお金を支払うように要求したとしても(任意補償の要求)、それは個人の請求権を背景にしたものであるから、よほどの事が無い限りは恐喝罪や強要罪になることは無い、という効果があります。

また、韓国の元労働者(応募工)が日本で提訴した場合に、訴訟要件を欠いて「訴え却下」となるのではなく、実体法上の権利はあるが裁判上の救済は受けられないとして「請求棄却」されています。訴訟提起できるが救済が受けられないというのは、このようなところからも読み取れます。

日本政府の立場・説明は変遷していない

以上に示した理解は、日本政府の一貫した立場です。

最初に示した答弁よりも前にも、終局的に解決済みであるという答弁はいくらでも見つかります。

91 衆議院 社会労働委員会 4号 昭和55年03月06日

○野呂国務大臣

第二点は、昭和四十年の日韓請求権協定の発効に伴ってこの問題はすでに解決したのだという一つの外交レベルの判断というものもあるわけでございますから

中略

○松田(正)政府委員 二国間の問題、いま大臣からお話がございましたように、たとえば国民年金の問題等二国間協定というような方式も一応考えられるわけでございますが、援護法のたてまえ上、二国間で話をし合って適用するとかどうとかという余地はございませんし、大臣から申し上げましたように、そういったような韓国民と日本との間の請求権関係というのは、一応日韓の請求権協定で外交上のけりはつけておるわけでございます。そういうようなむずかしい問題もはらんでおりますので、いまにわかにどうこうするということは非常にむずかしい問題ではなかろうかと考えております。

 

112 参議院 決算委員会 2号 昭和63年04月15日

○国務大臣(小渕恵三君) 数多くの朝鮮半島出身者が過ぐる大戦の折に被爆をされまして、なお多くの被爆者が韓国内で後遺症に苦しんでおられることにつきましては、心からお気の毒に思う次第でございます。しかし、この在韓被爆者問題につきましては、現在そうした方々が韓国人であるということで第一義的には韓国政府が国内問題として処理すべき問題であり、純粋法的に言えば、日韓間の請求権の問題は一九六五年の日韓請求権協定第二条により解決済みであるというのが我が国の立場でございます。しかし、今、峯山委員仰せのとおり、極めて人道的な性格の問題であることにかんがみまして、具体的な協力はどのようなことが可能であるかということにつきましては改めて検討いたしていきたいと思っております。具体的には、先般の日韓外相定期協議を受けまして実務者のレベルの調査団を派遣いたしまして、韓国側とあり得べき協力につき話し合いをさせていきたいというのが現在の政府の考え方でございます。

 「第一義的には韓国政府が国内問題として処理すべき問題」というのも、この時点で政府の共通認識であったのが分かります。

98 衆議院 決算委員会 5号 昭和58年05月11日

○中川委員 それは当然のことです。それでよろしいです。
 ついでに、関連してちょっと二つだけお尋ねしますが、本件の徴用工の債権債務の関係ですね。これはどうなっておるのでしょうか。
 国家間においては、私の理解するところでは、昭和四十年の日韓条約で、条約締結以前の両国及び両国民間の財産、権利及び利益並びに両国及び両国民間のすべての請求権は完全かつ最終的に解決されたものとする、この条項で国家間の問題は解決済みだと思います。これは後で外務省からちょっと確認をしたいと思います。
 それからもう一つ、三菱重工側と徴用工の方々の賃金の未払いの問題は、これは法務局へ供託しているわけでありますから、その関係も、債務は供託という行為によって弁済されたものとみなされると思うわけでありますが、その点、イエスかノーかだけでいいです。
 外務省と法務省、両方から……。
○筧説明員 供託の効果として弁済という効果が発生することはそのとおりでございます。
○小倉説明員 国と国との間の補償等の請求権の問題は、先生御指摘のとおり、昭和四十年の協定と議事録によりすでに解決済みでございます。

「請求権」という言葉にいろんな意味があるためにいろいろと曲解できてしまいますが、ここでの「請求権は完全かつ最終的に解決」というところの「請求権」は、上述の外交保護権・実体的権利・個人請求権の総体を意味します。

これらの政府答弁から、日本政府が「個人の請求権」の扱いや「終局的に解決した」と理解していたことについては、まったくブレていないという事が分かるでしょう。

2:西松建設の最高裁判決における日本政府の態度の意味

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西松建設の最高裁判例が日韓の事例とパラレルに説明されることがありますが、まったく事案の異なるものであり、日中間での協定の効果も日韓間のものとは異なります。

詳しくは以下でまとめています。

西松建設の中国人強制連行訴訟最高裁判決を韓国の徴用工訴訟に敷衍するフェイク

志波玲・山本晴太弁護士が徴用工問題について虚偽のデタラメ記事

徴用工訴訟問題のWikipediaにおける西松建設の事案の記述 

徴用工訴訟問題 - Wikipedia 2019年7月12日魚拓

2007年のサンフランシスコ平和条約に関して政府の立場を肯定した最高裁判決は、判断を左右する条約解釈上の対立点に関する日本政府の立場の変遷を鑑み、同時に被害救済の必要性を指摘している

この部分は文面上、間違いであるとは言えません。

しかし、一見すると勘違いしかねない記述ぶりになっているのが問題です。

特に、「請求権」についての日本政府の態度が変遷したと考えている頭で見ると、誤解すると思います。

「日本政府の見解の変遷」は、「協定の効果が及ぶ相手方」について

「日本政府の見解に変遷があった」とありますが、その内容は「請求権の内容」ではなく、「協定の効果が及ぶ相手方」の内容を指しています。

日中戦争の終結,戦争賠償及び請求権の処理といった事項に関しては,形式的には日華平和条約によって解決済みという前提でした。

この当時は【中華民国政府】、つまり今の台湾を正統な政府として認めていました。

そのような条約の効果が、中華人民共和国(現在の台湾を除く地域)にも及ぶということが、日中国交正常化交渉によって、遡及的に決定されたということです。

西松建設の最高裁判決における該当部分

判決文の該当部分を示すと以下です。

最高裁判決平成19年4月27日 平成16年(受)第1658号

ア  中華人民共和国政府は,日中国交正常化交渉に当たり,「復交三原則」に基づく処理を主張した。この復交三原則とは,①中華人民共和国政府が中国を代表する唯一の合法政府であること,②台湾は中華人民共和国の領土の不可分の一部であること,③日華平和条約は不法,無効であり,廃棄されなければならないことをいうものである。中華人民共和国政府としては,このような考え方に立脚した場合,日中戦争の講和はいまだ成立していないことになるため,日中共同声明には平和条約としての意味を持たせる必要があり,戦争の終結宣言や戦争賠償及び請求権の処理が不可欠であった。
これに対し,日本国政府は中華民国政府を中国の正統政府として承認して日華平和条約を締結したという経緯から,同条約を将来に向かって終了させることはともかく,日中戦争の終結,戦争賠償及び請求権の処理といった事項に関しては,形式的には日華平和条約によって解決済みという前提に立たざるを得なかった(日華平和条約による戦争賠償及び請求権の処理の条項が中国大陸に適用されると断定することができないことは上記のとおりであるが,当時日本国政府はそのような見解を採用していなかった。)。

イ  日中国交正常化交渉において,中華人民共和国政府と日本国政府は,いずれも以上のような異なる前提で交渉に臨まざるを得ない立場にあることを十分認識しつつ,結果として,いずれの立場からも矛盾なく日中戦争の戦後処理が行われることを意図して,共同声明の表現が模索され,その結果,日中共同声明前文において,日本国側が中華人民共和国政府の提起した復交三原則を「十分理解する立場」に立つ旨が述べられた。そして,日中共同声明1項の「日本国と中華人民共和国との間のこれまでの不正常な状態は,この共同声明が発出される日に終了する。」という表現は,中国側からすれば日中戦争の終了宣言と解釈できるものであり,他方,日本国側からは,中華人民共和国政府と国交がなかった状態がこれにより解消されたという意味に解釈し得るものとして採用されたものであった。

ウ 以上のような日中国交正常化交渉の経緯に照らすと,中華人民共和国政府は,日中共同声明5項を,戦争賠償のみならず請求権の処理も含めてすべての戦後処理を行った創設的な規定ととらえていることは明らかであり,また,日本国政府としても,戦争賠償及び請求権の処理は日華平和条約によって解決済みであるとの考えは維持しつつも,中華人民共和国政府との間でも実質的に同条約と同じ帰結となる処理がされたことを確認する意味を持つものとの理解に立って,その表現について合意したものと解される。 

判決文全体を読むことができる人は、是非とも読んでみてください。

決して、日本政府が「個人の請求権」の扱い・意味内容の理解を変更したということは書かれていないということが分かります。

まとめ:嘘八百の元は山本晴太論文

Wikipediaの参考文献欄には夥しい数の山本晴太弁護士の論文があり引用されています。

この論文は「日本政府の朝鮮人戦時労働者問題についての態度は変遷している」という認識のもと、韓国側に有利な認識に読者を誘導するようになっています。

論文の中の事実だけを引用するのであれば、判決文や政府答弁を引用するだけで十分です。それを超えて論文における曲解された解釈に基づいてウィキの記述が書かれている部分があるということは、注意すべきでしょう。

これ以外にも問題の個所が見つかるかもしれませんが、ひとまずは以上になります。

以上

韓国産業部「勘違いだった」日韓の輸出管理の戦略物資会議が開かれなかった理由

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日韓の輸出管理にかんして、韓国産業部の人間が日本との協議が不開催だったのは日本の担当が空席だったため、と言っていたことが間違いであると韓国側が認めました。

韓国産業部関係者がフェイクニュース:「戦略物資会議の協議不開催は日本の担当局長が空席のため」

韓国産業部「勘違いだった」

輸出優遇除外:戦略物資管理も弁明もでたらめな韓国産業部-Chosun online 朝鮮日報1 魚拓 朝鮮日報2 魚拓 (朝鮮日報日本語版 Yahoo!ニュース1 (朝鮮日報日本語版Yahoo!ニュース2  전략물자 관리도, 해명도 '엉터리 산업부' - 조선닷컴 - 정치 > 외교·안보 魚拓

「韓日戦略物資会議は韓国側の拒否によりこの3年間開かれていない」という日本の主張に対しても、基本的な事実認識とは異なる説明をして反撃された。今月8日、日本の西村康稔官房副長官が「戦略物資会議が開かれていないのは韓国のせいだ」という趣旨の発言をすると、韓国産業部関係者はすぐに「2018年に戦略物資会議が開かれなかったのは、当時の日本側担当局長の座が空席だったからだ」と反論した。すると9日、世耕弘成経済産業相はツイッターで「(日本側担当局長の座が空席だったという)韓国政府の説明は明白な事実誤認だ」と指摘した。経済産業省の石川正樹貿易経済協力局長は2017年から今月5日まで在職していたからだ。韓国産業部は「勘違いだった」と釈明した

世耕大臣のツイッターは以下のものです。 

閣僚がSNSをやってなかったらどうなっていたでしょうか。

韓国側の主張が日韓のメディアの常識になっていた可能性があります。

ところで、この報道を見ると、あることに気づきます。

FNNが戦略物資リストを報じたことにしている朝鮮日報

輸出優遇除外:戦略物資管理も弁明もでたらめな韓国産業部-Chosun online 朝鮮日報

韓日間の経済確執局面で、通商分野の韓国側主務部処(省庁)である産業通商資源部(省に相当、以下、韓国産業部)が連日、ずさんな対応で日本に攻撃の口実を与えている。戦略物資の不正輸出をきちんと管理してこなかった実態が日本の報道機関で報道され、「韓国による戦略物資流出」を経済報復の名分にしようという日本の立場を有利にさせてしまっているだけでなく、この3年間にわたり韓日当局間の戦略物資関連会議が開催されていないことについて、基本的な事実確認もできておらず、「でたらめな弁明」をして大恥をかいた。

 日本のフジテレビをキー局とするフジニュースネットワーク(FNN)は、2015年から今年3月まで韓国政府が摘発した戦略物資不正輸出件数が合計156件にのぼると10日、報じた。日本政府が韓国に対して「戦略物資の北朝鮮搬出疑惑」を取りざたしたことから、報道機関が後追いで「韓国たたき」に出たものだ。

FNNが報じた不正輸出リストは、実は5月に朝鮮日報が報じたことでした。 

韓国政府の不正輸出リスト、5月に報道されていた:産業通商資源省の戦略物資無許可輸出摘発現況 

なのにその朝鮮日報が、「FNNが報じた」ことにしているのは、都合が悪いからなのか。FNNと懇ろの関係だからなのか。

いずれにしても、ムンジェイン政権が気に食わない韓国の野党側の人間が情報提供をしているということですね。

世耕大臣「原子力用遠心分離機の不正輸出は重大」

FNNのリスト(朝鮮日報のリスト)は摘発件数が問題なのではなく、世耕大臣の言うように全体の輸出管理体制が崩れていることが示唆されていることが問題です。

特に、同じ企業が何度も違反していることは、実効性のある対策を打っていなかったということを意味します。何やら規制規定や人材育成をしていた、などの主張をしている者を目にしますが、お題目を掲げているだけで実効性がないものは無意味でしょう。

「原子力用遠心分離機は、通常、政府間保障を要するような非常に重要な製品であり、不法輸出が事実であれば、極めて重大な問題」という指摘に韓国側はどう出るのか。

以上

日本から北朝鮮に大量破壊兵器関連物資等が不正輸出された事例

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日本から北朝鮮に不正輸出された事例について。

CISTECと警察庁のデータがあったので紹介します。

日本から北朝鮮に不正輸出された事例

外為法違反事例 | 安全保障貿易情報センター (CISTEC)

こちらの【不正輸出事件の概要】という資料に不正輸出事件のリストがあります。

昭和41年からこれまでで51件の関税法・外為法・外国貿易法違反事件があります。

日本が韓国に対して優遇措置の停止をしたのは「リスト規制」品目の3つですが、これらは基本的に外為法で処理されます。

なお、韓国の不正輸出のリストに書かれているものが、日本においてリスト規制にかかるものであるのか、その重なりはどうなっているのかは定かではないので、一概に比較はできません。

北朝鮮に不正輸出された製品・品目と韓国の戦略物資無許可輸出摘発の違い

重要なのは品目です。

韓国のリストが大騒ぎになっているのはそれが軍事転用可能な製品・素材を含むから。

日本のCISTECの資料にある北朝鮮に不正輸出された製品・品目をながめると、そのほとんどが日用品・壁紙・食料品など、概略的なものや「中古タイヤ」「冷凍たら」「GM社製乗用車「シボレー・アストロ」」などです。

しかし「大量破壊兵器関連物資等」ばかりではありません

これを韓国の戦略物資無許可輸出摘発と同じように考えることは不可能です。

ただし、1例だけ北朝鮮にフッ化水素酸が輸出された事例が記録されています。

日本から北朝鮮にフッ化水素酸が輸出された事例は国連の北朝鮮制裁前の1996年

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1996年(平成8年)1月、大阪港入港中の北朝鮮船舶にフッ化ナトリウム50キログラムを、続いて2月、神戸入港中の北朝鮮船舶にフッ化水素酸50キログラムを、それぞれ輸出託送品として積み込み、北朝鮮に不正輸出していた。
※フッ化水素酸及びフッ化ナトリウムは化学・生物兵器の原材料及び製造設備等の輸出規制であるオーストラリア・グループの規制対象であり、サリンの原料ともなるものである。また、本件は、北朝鮮に緊急支援米を送るための北朝鮮船籍貨物船を利用した不正輸出であった。

1996年にこういう事件がありましたと。そういうことです。

当時はまだ、北朝鮮への国連制裁前の話です。

この違反をした東亜技術工業(株)ですが、その後は名前が出てきません。社長が朝鮮総聯の幹部だったこともあるようですが⇒サリン原料まで輸出 神戸の“黒幕”の素顔:Foresight | 記事 | 新潮社 Foresight(フォーサイト) | 会員制国際情報サイト

だからといって「仕方がない」では済みません。

日本は改善して、管理体制を強化、運用を改善したんでしょう。

これに対して、韓国は直近の4年の事案において、同じ企業が何度も不正輸出を繰り返しています。韓国、無許可輸出摘発リストで戦略物資輸出管理制度の透明性を「アピール」の異常性

23年前の1件の事案と、直近4年の数件の事案を比較する意味はあるのでしょうか?

問題は単に何件発生したか、何件摘発したか、ではなく、管理体制を整えて改善してきたかです。聯合ニュースが鬼の首を取ったかのように報じていますが、何の意味も無いので無視しましょう(韓国が日本への輸出優遇を止めたところで何になるのか?)

戦略物資が日本から北朝鮮に密輸出 韓国議員が日本の資料を引用 | 聯合ニュース

戦略物資、過去に日本から北朝鮮に密輸出か 韓国議員が日本の資料で確認 - ライブドアニュース

さて、「戦略物資」は日本で言えば「大量破壊兵器関連物資等」になりますが、それに焦点を当てた資料は別にあります。

大量破壊兵器関連物資等不正輸出事件一覧表

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CISTECのものとは別に、警察庁が刑事事件として立件した大量破壊兵器関連物資等不正輸出事件の一覧表もあります。

刊行物|警察庁Webサイト

【治安の回顧と展望(平成30年版)】の資料を見ると、昭和41年からこれまで全部で36件の大量破壊兵器関連物資等不正輸出事件があったことがわかります。

また、対北朝鮮措置に係る事件の一覧表もあり、こちらは平成19年からこれまで38件が記録されています。

いずれも関税法・外為法・外国貿易法違反事件のものですが、詳細が書かれていないので、どういう品目が輸出されていたのかは分かりません。

まとめ

韓国のリストは直近の4年間であるのに対し、日本のは数十年間のものです。

また、ここであげた資料も韓国のリストも、「リスト規制」の枠組みでの話なのかは判然としません。別のものが相当数混ざっていると思います。

いずれにしても、日本の不正輸出事例と韓国のものを同列に語ることはできません

本件に限らずいろんな報道においてデータの性質の違いを誤魔化すものがありますが、よくよく見てみると大したことがないものばかりですね。

以上

韓国、無許可輸出摘発リストで戦略物資輸出管理制度の透明性を「アピール」の異常性

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韓国政府がFNNが報道した戦略物資の不正輸出リストに関して、「戦略物資輸出管理制度の透明性が反証された」などと「アピール」しています。

その異常さについて指摘します。

韓国政府、戦略物資輸出管理制度の透明性を「アピール」

韓国、不正輸出約4年間に156件摘発 日本の疑問に文政権は強く反発 - 産経ニュース

韓国で軍事転用できる戦略物資の多数の不正輸出があったことについて、管轄する韓国産業通商資源省は10日、2015年から今年3月にかけて摘発が計156件に上ったことを明らかにし、この間の摘発について「わが国の戦略物資輸出管理制度が効果的かつ透明性をもって運用されている反証だ」とコメントした。

韓国メディアでは、より突っ込んだ内容も書かれています。 

大量破壊兵器関連物資等の摘発状況は毎年公開していたと主張

日언론 ‘밀수출 보도’에 정부 “수출통제 투명성 반증”

資料を見ると、無許可輸出摘発件数は、2015年14件、2016年22件、2017年48件、2018年41件増加傾向を見せた。類型別には生物化学兵器関連系列が70件で最も多かった。加えて、通常兵器(53件)、核兵器製造・開発関連(29件)、ミサイル兵器(2件)、化学兵器(1件)の順に多かった。

省は傘下機関である、戦略物資管理院の年次報告書で、戦略物資無許可輸出摘発と措置の現状を毎年公開しているむしろ日本は韓国とは異なり、不法輸出の摘発件数も公開していないという見方も出ている。

産業省は、「日本は、いくつかの摘発事例のみを選別して公開する」とし「戦略物資輸出統制先進国である米国は、無許可の輸出摘発実績と主な事例を公開する」と伝えた。

それとともに「これは韓国の戦略物資の輸出管理制度が効果的かつ透明に運営されているという反証」と付け加えた。

つまり、韓国政府は【摘発件数が増えているけれども、それは民間が勝手に無許可輸出をしているものに対して韓国政府が摘発をして処罰してるのだから、むしろ成果だ】と言いたいのでしょう。

「戦略物資無許可輸出摘発と措置の現状を毎年公開」が仮にそうだとして、この主張は正当なのでしょうか?

韓国の同じ企業が何度も摘発されている

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FNN

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FNN

摘発企業がアルファベットで表示されていますが、この表だけでも2016年1月から2017年12月までの間に、同じ社が複数回も摘発されていることがわかります。

同じ社が何度も摘発されてるのに行政制裁で輸出禁止処分をしてないのは、結局はお咎めなしの扱いになっていないでしょうか?

ちなみにリストの右端のアルファベットは輸出管理レジームの類型です。同じ類型の品目についても何度も違反をしているということです。戦略物資と韓国の報道で言われているものは、日本では「大量破壊兵器関連物質等」と言われています。
安全保障貿易管理について 経済産業省安全保障貿易管理課

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日本の安全保障輸出管理制度

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日本の安全保障輸出管理制度(概要)2017年3月9日貿易経済協力局 貿易管理部

これを読むと、国(政府)と産業界(民間)が一体となって実効的な輸出管理体制を実施しなければならないという認識に立っていることがわかります。

その上で、輸出管理内部規定(ICP)の普及・運用、立法、検査・摘発体制の整備、罰則の適用を行っているとしています。

つまり、そもそも摘発事例が生じないようにコントロールすることも含めて政府と民間企業を合わせたその国の社会の責任です。相手国からして見れば【トータルで国家の責任】という扱いでしょう。

韓国が「摘発してるから問題ない」って言ってるのは責任放棄ではないか。

韓国が言ってるのは、たとえば「交通事故が多発してるのに道路状況を改善もせずに、ただ単に運転手を摘発してるが、免許停止にする事なく野放しにし、啓発運動をしてない」というようなものでしょう。単に摘発してる以上のこと=輸出管理体制をしっかりとやっているということを日本側に説明すべきでしょう。

そもそも、期限までにきちんと報告してねって日本側は言ってきたのに、それを三年間も無視し続けて最終期限の通告すらスルーしたのは韓国側ですよね?

韓国側が輸出管理体制はしっかりとしていると言うのであれば、少なくとも協議に応じていたはずでしょう。

協議無視をしてきたことが都合が悪いから、韓国は日本の担当者が不在だったから協議できなかった、などと嘘をついているのでしょう。世耕大臣が完全否定。

まとめ:無許可輸出摘発リストはアピールにはならない

  1. 大量破壊兵器関連物質等(戦略物資等)の輸出管理は、そもそも政府と民間が協力して事案を防ぐべき問題であり、政府だけ「摘発」を頑張っても相手国にとって無意味
  2. 同じ企業が何度も違反⇒輸出禁止等の実効性ある処分を行っていない
  3. 管理体制がずさん等、数字に表れない問題ある上に、3年間も協議を放置

こうした事情があることから、リストの156件の摘発事例はアピールになるものではなく、「氷山の一角」と評価するのが通常でしょう。

ここで取り上げた韓国政府の反応は、FNNのリストの報道に対するものであって、日本政府の言動に対するものではありません。

そもそも日本政府が言うところの「不適切な事案」はFNNのリストとは限らない可能性があります

日本政府は「個別具体的な事案については言及を差し控えたい」旨を言っています。

これは、特定機密にかかるものであるからという見方もありますが、チェック体制など数字に表れてこない細かい運用面であったり、違反事例が発生した後の対応などをトータルで評価しているために「具体的な事例」を取り上げる意味が無いと考えているのかもしれません。

以上