事実を整える

Nathan(ねーさん) 法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

砂川事件最高裁判決の調査官メモと統治行為論に関する誤解

 

砂川事件最高裁判決の調査官メモが発見されたという報道がありますが、統治行為論に関する誤解(安易な理解)が幅を利かせているようなのでここで整理します。

砂川事件最高裁判決の調査官メモが発見と朝日報道

砂川事件、判決原案を批判する「調査官メモ」見つかる:朝日新聞デジタル魚拓

 極めて政治性の高い国家行為は、裁判所が是非を論じる対象にならない――。この「統治行為論」を採用した先例と言われる砂川事件の最高裁判決で、言い渡しの直前に、裁判官たちを補佐する調査官名で判決の原案を批判するメモが書かれていたことがわかった。メモは「相対立する意見を無理に包容させたものとしか考えられない」とし、統治行為論が最高裁の「多数意見」と言えるのかと疑問を呈している。

統治行為論はその後、政治判断を丸のみするよう裁判所に求める理屈として国側が使ってきたが、その正当性が問い直されそうだ。

省略

メモが生まれた経緯などは不明だが、判決の構成という核心部分について、最高裁内部でも異論があったことがわかる。最終的な判決をみる限り、メモが受け入れられることはなかった。(編集委員・豊秀一)

朝日新聞は、砂川事件最高裁判決の調査官メモが発見され、その内容は新事実であり、いわゆる統治行為論の正当性が問われる、と書いてます。

さて、ここで疑問が生じます

  1. 砂川事件の最高裁判決(多数意見)は統治行為論を採用したのか
  2. 「多数の裁判官」が統治行為論を採用していたのか

ここでは話がごちゃごちゃにならないように、かなり簡略化して記述していきます。

憲法学界隈では、「砂川事件最高裁判決が統治行為論を採用した(のでは?)」と言われてきましたが、それは本当なのか?

それにしても、「判決にかかわった河村又介判事の親族宅で、朝日新聞記者が遺品の中から見つけた」とあることから記者が最高裁判事と懇意にしていたという事情が見て取れます。 

統治行為論とは

統治行為論】とは、司法権の限界(裁判所が判断するべきではない事項)に関する憲法理論です。

その内容は『一般に「直接国家統治の基本に関する高度に政治性のある国家行為」であり、法律上の争訟として裁判所による法律的な判断が理論的には可能であるのに、事柄の性質上、司法審査の対象から除外される行為』と言われるのが標準的な説明です。*1

つまり、統治行為に該当すれば、その事象は一切、裁判所が司法審をしないことになるということです。

しかし、憲法の規定上に書いてあるものでもなく、学説上も統治行為論の確立した見解はありません。日本の文脈では「いわゆる統治行為論」と言った方がいいかもしれません。アメリカの「政治問題」"Political Question"等を参考にして論じられています。(フランスの統治行為論、イギリスの国王大権など、司法権を限界づける理論があるが、現在日本の憲法学会で論じられている統治行為論に近いのはアメリカ型)

これは、司法権の優越はあっても司法権の絶対ではなく、司法がむやみに判断してはいけない事項=憲法判断を回避すべき事項があるのではないか?という問題意識から来ている理論です。

他にも司法審査になじまない場合があるとする憲法レベルの理論として「国会や各議院の自律権」「政治部門の自由裁量行為」「団体の内部事項」などが論じられ、実際に判例上認められているものがあります。

とりあえず、そういう「メニュー」があるということは後述することと関係します。

砂川事件最高裁判決は統治行為論を採用したのか

結論を先に書きますが、現在では砂川事件最高裁判決は憲法判断を回避したものではない、という見方が有力です。厳密な認識はここでは捨象します。 

昭和34年12月16日 最高裁判所大法廷判決 昭和34(あ)710  日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約第三条に基く行政協定に伴う刑事特別法違反

関連する部分は以下です。

ところで、本件安全保障条約は、前述のごとく、主権国としてのわが国の存立の基礎に極めて重大な関係をもつ高度の政治性を有するものというべきであつて、その内容が違憲なりや否やの法的判断は、その条約を締結した内閣およびこれを承認した国会の高度の政治的ないし自由裁量的判断と表裏をなす点がすくなくない。それ故、右違憲なりや否やの法的判断は、純司法的機能をその使命とする司法裁判所の審査には、原則としてなじまない性質のものであり、従つて、一見極めて明白に違憲無効であると認められない限りは、裁判所の司法審査権の範囲外のものであつて、それは第一次的には、右条約の締結権を有する内閣およびこれに対して承認権を有する国会の判断に従うべく、終局的には、主権を有する国民の政治的批判に委ねらるべきものであると解するを相当とする。そして、このことは、本件安全保障条約またはこれに基く政府の行為の違憲なりや否やが、本件のように前提問題となつている場合であると否とにかかわらないのである。

「統治行為」の語が無い多数意見=判決文

最高裁判決では、判決文の事を「多数意見」と言います。

それは、最高裁が小法廷なら5人、大法廷なら15人の裁判官の合議体によって判断を下すからです。

そして、最高裁判決に限って、判決に対して個々の裁判官が自己の主張を述べた文章を判決文に付属させることができます(必須ではない)。

それらは結論も論理も賛成だがなお言及したい「補足意見」、結論に賛成だが論理に一定の見解の相違がある「意見」、結論に反対の「反対意見」と分類されています。

個々の意見がどれに分類されるかの判断は誰がやってるのか?

これは個々の裁判官が判断しています

補足意見なのに判決文の論理と異なっている(つまり本来は「意見」に分類されるべきもの)と思われるものもあります。

さて、判決文には「統治行為」「国家統治」という語はあるでしょうか?

ないですよね。

「政治的ないし自由裁量的判断」からは、先述の「政治部門の自由裁量行為」の方を言っているようにも見えます。

砂川事件は、判例解説集などでは「統治行為」の問題としてよりは「条約の違憲審査」という項目の問題として論じられることが多いです。

そして、憲法判断を回避したわけでもないのです。

補足意見、意見で「統治行為論」を明言したのは2名だけ

判決文では「この判決は、裁判官田中耕太郎、同島保、同藤田八郎、同入江俊郎、同垂水克己、同河村大助、同石坂修一の補足意見および裁判官小谷勝重、同奥野健一、同高橋潔の意見があるほか、裁判官全員一致の意見によるものである。」とあります。

この中で、多数意見が「いわゆる統治行為論」を是認していると明言しているのは藤田八郎・入江俊郎裁判官の2名の補足意見だけです。

当時の最高裁長官は田中耕太郎ですが、彼や他の補足意見を書いている裁判官は文言からは「自由裁量論」を述べているようであり、必ずしもいわゆる統治行為論を是認しているかは判然としません(むしろ採用していないという方向に傾く)

つまり、砂川事件判決当時の最高裁の裁判官において、統治行為論を是認しているのが明確だった人数は少数だったということは、判決当時に分かっていたのです。

したがって、「調査官メモ」から何か「新事実」が発覚したかというと、些末な事情が分かったと言うだけです。

統治行為論真正面の苫米地事件最高裁判例で引用されていない砂川事件判決

昭和35年6月8日 最高裁判所大法廷 昭和30(オ)96  衆議院議員資格並びに歳費請求

衆議院の解散が違憲無効だという苫米地義三一議員の主張が行われた事件で最高裁判決は以下述べています。

 しかし、わが憲法の三権分立の制度の下においても、司法権の行使についておのずからある限度の制約は免れないのであつて、あらゆる国家行為が無制限に司法審査の対象となるものと即断すべきでない。直接国家統治の基本に関する高度に政治性のある国家行為のごときはたとえそれが法律上の争訟となり、これに対する有効無効の判断が法律上可能である場合であつても、かかる国家行為は裁判所の審査権の外にあり、その判断は主権者たる国民に対して政治的責任を負うところの政府、国会等の政治部門の判断に委され、最終的には国民の政治判断に委ねられているものと解すべきである。この司法権に対する制約は、結局、三権分立の原理に由来し、当該国家行為の高度の政治性、裁判所の司法機関としての性格、裁判に必然的に随伴する手続上の制約等にかんがみ、特定の明文による規定はないけれども、司法権の憲法上の本質に内在する制約と理解すべきものである。

省略

すなわち衆議院の解散は、極めて政治性の高い国家統治の基本に関する行為であつて、かくのごとき行為について、その法律上の有効無効を審査することは司法裁判所の権限の外にありと解すべきことは既に前段説示するところによつてあきらかである。そして、この理は、本件のごとく、当該衆議院の解散が訴訟の前提問題として主張されている場合においても同様であつて、ひとしく裁判所の審査権の外にありといわなければならない。

国家統治」 という言葉を使い、さらには一切の例外もなく司法審査の埒外に置く論理は、まさにこれまで憲法学会が「統治行為論」と呼んでいたものである……と言われています。

砂川事件ではなく、苫米地事件の方が「統治行為論」の先例として紹介されている解説書が多いです。この判例も議院の自立権や政治部門の自由裁量論であるとする学説もある。

さて、苫米地事件では砂川事件の最高裁判決の引用がありません。

「いわゆる統治行為論」という枠組みがあって、それにあたれば一律に憲法判断を回避するのだというような理論を砂川事件において最高裁が採用していたというのならば、 苫米地事件で引用されていなければおかしいのです。

そのため、少なくとも両事件は別の論拠に立っているということは主張可能です。

「いわゆる統治行為論」はあったのか?

最初に「統治行為」の意味内容は不確定だということを書きました。

結局、砂川・苫米地事件の最高裁の論理に「統治行為論」という名称を冠するどうかは、統治行為論の概念定義によるのであって、少なくとも最高裁はそのような概念を確定的なものとして存在することを認めておらず、より柔軟に判断できる思考方法を採っていると言えるのではないでしょうか。

その論理は実質的には「いわゆる統治行為論」と同じような機能(憲法判断回避の可能性を認める)を有しているので、それを統治行為論と呼ぶかどうかは、どうでもいい。

「何が政治問題であり、国家統治に関する高度な問題であるか」という色分けが重要なのではなく、「何が司法判断に服するべきか」が重要。そのために何らかの法理を設けた方がいいのか、統治行為論を法理化すると一貫した判断が難しく弊害が大きいのか、という考慮。

「高度な政治性」は、法理ではなく、理由付けのレベルで機能している、という見方をするのが良いのではないかと思うのです。「高度な政治性」があっても憲法判断をする場合もしない場合もあり得ると。

一つの最高裁判決での個々の裁判官の思惑が、何か規範性を持つことはなく、朝日新聞の記事はゴシップ或いは政治論議的には価値があるのかもしれませんが、憲法論議には何ら影響は与えないことは確かです。

以上

*1:憲法第七版 芦部信喜 高橋和之補訂

日本クルド文化協会、渋谷デモを不支持表明「メディアの取材無かった」

f:id:Nathannate:20200615101701j:plain

日本クルド文化協会が、クルド人男性に対する警察の行為を非難する5月30日の渋谷デモを不支持することを表明しました。

日本クルド文化協会、渋谷デモを不支持表明し、非難

日本政府、国会、警察庁、及び関係各所各位... - 一般社団法人日本クルド文化協会 Japan Kurdish Cultural Association | Facebook魚拓

要点を整理すると以下になります。

  1. 当協会はデモを支持する立場ではなく、いかなる関与もしていない
  2. 今回の騒動の発端になったクルド人の行為は、日本の法律・慣習に照らし合わせて、擁護する余地はない
  3. 今回の渋谷警察署前でのデモは日本人参加者が大多数を占めていたが、普段クルド人の支援活動には参加されていない方々ばかりであったと確認
  4. 一部の方々が今回の件に際してクルド人に関する誤った情報を拡散しているが、こちらについても控えていただくようお願い
  5. 今回の件に関して、日本のメディアや学術機関、その他組織から、クルド人コミュニティとしての見解について取材が無かった

毎日新聞と神奈川新聞は取材していなかった

この件を報道していたのは毎日新聞と神奈川新聞です。

しかもネット版では「首を絞められ」などとアメリカのジョージフロイド事件を思わせるような書きぶりをしておいて、数時間後には本文もろともタイトルを修正。

そんな報道をしている所は、クルド文化協会に取材も何もしていなかったというのですから、驚きです。

デモ参加者の日本人は普段クルド人の支援活動には参加されていない者ばかり

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渋谷デモを支持していた者として立憲民主党の石川大我議員や蓮舫議員がいましたね。

そしてアメリカ大統領がテロ組織認定を目論み、FBIも犯罪行為の実態を把握しているANTIFAの旗を持ってデモを行っていた者も居ました。

有田芳生議員はこのデモを支持していましたが、後に警察に対して事実関係を確認した結果をツイートして以降、この話題には一切触れていません。

いったい、このクルド人とその支持者らは、どういう背景を持っているのでしょうか?

以上

Zoomが中国政府からの要請で天安門広場虐殺の31周年会議を削除していたと暴露

Zoomが中国政府からの要請で削除していたと暴露

Zoomが中国政府からの要請で天安門広場虐殺の31周年会議会議を削除していたことを認めました。

Zoomが中国政府からの要請で天安門広場虐殺の31周年会議を削除していたと暴露

Improving Our Policies as We Continue to Enable Global Collaboration - Zoom Blog魚拓

In May and early June, we were notified by the Chinese government about four large, public June 4th commemoration meetings on Zoom that were being publicized on social media, including meeting details. The Chinese government informed us that this activity is illegal in China and demanded that Zoom terminate the meetings and host accounts.

5月から6月上旬に、会議の詳細を含めてソーシャルメディアで公開されていた、6月4日の4つの大規模なZoom上での記念会議について、チャイナ政府から通知を受けました。チャイナ政府はこの活動がチャイナでは違法であり、Zoomに対し、会議の終了と主催アカウントの削除を要求しました。

Zoomが中国政府からの要請で天安門広場虐殺の31周年会議を削除していたと暴露しました。

Zoom closed account of U.S.-based Chinese activist “to comply with local law” - Axiosにて報じられていたことが本当であったということです。

中国本土からの参加者が多数確認できた会議については、特定の領域のアカウントのみを締め出す機能が無かったため、チャイナ政府に従った、ということも書いています。

Zoomの反省:中国政府からの要求が中国本土以外の人に影響を与えないようにする

Improving Our Policies as We Continue to Enable Global Collaboration - Zoom Blog魚拓

Going forward Zoom will not allow requests from the Chinese government to impact anyone outside of mainland China.

今後、Zoomは中国政府からの要求が中国本土以外の人に影響を与えることを許可しません。

Zoom is developing technology over the next several days that will enable us to remove or block at the participant level based on geography. This will enable us to comply with requests from local authorities when they determine activity on our platform is illegal within their borders; however, we will also be able to protect these conversations for participants outside of those borders where the activity is allowed.

Zoomは、地理に基づいて参加者レベルで削除またはブロックできるようにする技術を今後数日間にわたる規模で開発を進めています。これにより、私たちのプラットフォームでの活動がある領域内で違法であると判断した場合に、その領域の公的機関からの要求に応じることができ ます。ただし、アクティビティが許可されている領域を越えた参加者の会話を保護することもできます。

中国本土以外の人に影響を与えるべきではないというのは当然でしょう。

表現の自由など無い中国共産党独裁国家

それにしても天安門広場での虐殺事件について会話をすること自体が中国国内では違法になると、政府から1企業の私的な活動に対して言ってくるのですから、まさに「検閲」です。

表現の自由などどこにもありません。

これは2019年のあいちトリエンナーレとはまったく次元の異なる話であり、表現の自由に対する侵害の最たるものですが、このときに「表現の自由戦士」ぶっていた者は中国共産党による今回の行為について、何か言うことがあるんじゃないでしょうか?

以上

青山繁晴氏,共同通信「中国批判声明参加を日本が断り欧米失望」が捏造と完全に証明

f:id:Nathannate:20200610162012j:plain

香港情勢に関する共同通信の「中国批判声明参加を日本が断り欧米失望」という記事が捏造であったことを青山繁晴議員が完全に証明したようです。

この問題については以下記事で「欧米が失望」「日本が中国に配慮」がおかしいという点を既に書きました。ここでは「日本が米英から声明入りの打診を受け、断った」か否かについて論じます。

共同通信「中国批判声明に日本が拒否」報道、青山繁晴議員が虚偽と非難、産経は記事を削除 

青山繁晴議員、共同通信「日本、中国批判声明に参加拒否 」の報道の違和感を指摘

青山繁晴氏,共同通信「中国批判声明参加を日本が断り欧米失望」の捏造を完全に証明

青山氏は、個人的見解であり、政府見解ではないとしながらも、以下書いています。

香港をめぐる虚報について その4 (推敲しました)|青山繁晴の道すがらエッセイ/On the Road

22日、東京都内の駐日英国大使館から外務省に電話がありました。
 実際は大使館の誰から、外務省の誰に電話があったか、分かっていますが、この『誰でもどこでも見られる、中国、韓国、北朝鮮の工作員でも無条件に見られるブログ』では記しません。
 高官同士であったことは記しますが、高官と言っても大臣や総理では全くありません。

 英国大使館の高官からは「近く米国など5アイズ ( 米英にカナダ、オーストラリア、ニュージーランドのアングロサクソン系の英語圏5か国 ) で中国に対して共同声明を出します。中国に対して厳しい姿勢で日本も一緒に臨みましょう」という趣旨の話がありました。
 その共同声明に入ってくれという明確な勧誘はありません。
 中国に共に対峙しようという確認に過ぎません。
 そして共同声明の中身の話も全くありませんでした。

▼こういう話が来たのは英国だけであり、アメリカをはじめ他の5アイズ諸国からは何の話もありませんでした。
 しかも、その後4日間、英国からも一切、何の話もありません。
 そして採択となる5月28日の前日、27日になって突然、共同声明の文案 ( 英国による文案。のちに発表されたものとは一部、異なっている。アメリカなどと調整を経たと青山繁晴は考えています ) がEメールによって前触れなく外務省に送られてきました。
 ただし発信者は、前述の英国大使館の高官ではなく、大使館の担当官です。宛先も外務省の担当課であって、日本の高官宛てでは全くありません。

▼さらにメールが来ただけで、「参加してくれ」とも何をしてくれとの話も何もない。
 当惑した日本政府は、メールの発信者である英国大使館の担当官に連絡を取ろうと努めましたが、まったく掴まりません。
 困って、日本政府は英国の外務省本省 ( 正式には、外務およイギリス英連邦省 Foreign and Commonwealth Office ) に問い合わせましたが、「そんな話は在京大使館に聞いてください」と言われて、英国が何をしたいのか、共同声明の文案を直前になって送ってきたのは、参加してくれという意味なのか、参考にどうぞという意味なのか、日本は政府全体として確認すらできませんでした。

省略

▼正確な時系列は以下の通りです。

5月28日木曜  すべて日本時間 ( 北京は、日本より1時間遅れです )

1600すぎ 全人代で採択
1610頃 官房長官会見が始まる
1620頃 外務報道官談話を発出 ( 霞記者クラブに配布 )
1720頃 駐日中国大使を召致
1800頃 外務大臣ぶら下がり会見

青山繁晴議員が確認した事実関係をまとめると「英国側から声明への参加の誘いの意味があったのか、日本政府は判断しかねたために確認を試みたが、結局分からないまま全人代の採択を迎え、即座に菅官房長官会見で「深い憂慮」を表明し、その後、秋葉剛男・外務事務次官が中国大使館に対して「深い憂慮」の抗議をした、その間、EUや5アイズ諸国は声明を出していない」という ものだったということです。

こんなものは「正式・具体的な声明参加の打診」ではないわけです。

「拒否するかしないかというレベルですらなかった」ということです。

あと、英国からしか来なかったということで、共同通信のワシントン支局の情報源と思われるアメリカ側の動きはまったくなかったことも解せません。

夕刊フジには強気の共同通信

共同通信は夕刊フジに対して「取材は尽くしています。配信内容に関するコメントは控えさせていただきます」と言い放っているようです。

取材を尽くしたなら情報源を秘匿した上で、具体的な打診の動きの経過くらい言えるはずだと思われるのですが。

青山繁晴議員ブログの記載内容について

もっとも、青山議員の記述にもいくらでも疑問点は湧いてきます。

27日から28日の16時まで、英国大使館の担当官がまったく掴まらないなどということがあり得るのか、といった具合にです。

「本当だったら結構くだらない話だなぁ」という感じがします。

英国側の雑さを責める方向性と、日本側が雑に扱われているという方向性があり得ると思いますが、いずれにしても表沙汰にしたいと思うような話ではありません。

さて、青山議員は大使館への抗議でもって「声明と同等、少なくとも欧米諸国よりも劣った声明ではない」と言っていますが、日本は「中国批判声明」を出していた?でも書いたように、具体的にどういう価値に反しているのかをEUも5アイズ諸国も明言している中で日本のものは曖昧模糊としていることからは、日本の「声明」の中国批判の強度は弱い、と評価されるおそれもあると思います。

現実に、日本が「中国批判声明をだした」という認識は、少なくともTwitter上ではまったく見られませんでした。

青山議員もあの抗議で充分かというとそうではないという見解であり、そこは完全に同意しますが、外務省の「深い憂慮」の英訳のserious concernが5アイズのdeep concernと比べて強い非難だとかなんとか形式面で論じてるのは気になりました。

正しければ菅官房長官が触れなかったのは当然ということに

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青山議員のブログにある経過が正しければ、菅官房長官が6月8日の午前の官房長官記者会見で事実関係を問われた際に声明への参加の呼びかけがあったのか否かについて触れなかったのも頷けます。

こんなもの、日本側と英国側のどちらのコミュニケーションがうんたらかんたら…という話にしかなりません。そんなくだらない話をして誰が得するでしょうか?

また、フィナンシャルタイムズのWashington looks to Five Eyes to build anti-China coalitionという記事では、香港の中国への引き渡しに携わった元国務省高官ニック・バーンズが「ファイブ・アイズの署名国は長年の同盟国で、民主主義を有し、および香港へのコミットメントをしてきた歴史のある国だ」と説明し、国務省の担当者が声明文に関して「これは、4カ国の全員が共有する価値の長い歴史についてです」と語っていることが分かります。 

日本が参加を呼びかけられたというなら、この話がおかしなことになります(日本と5アイズ諸国の香港への関わり方は明らかに異なる。ファイブアイズはイギリス連邦諸国が居る)、こちらはきちんと取材元の名前が記事で明らかにされています。

青山議員のブログにある内容とも矛盾しません。

※6月10日の岡田直樹内閣官房副長官の記者会見でも「外交上のやりとりなので詳細は差し控える」としています。

触れなかったから、否定しなかったから声明参加の打診はあったんだ、という危うい事実認定

自民党の議員とは片山さつき氏か長島昭久議員のツイートと思われます。

片山議員の「突然言われても、というだけの話だそう」も声明の誘いがあったかのように思えてしまう表現ですが、青山議員のブログを読んだ後だと、そうではないと理解できます。

長島議員のは青山ブログを前提にすると単なる杞憂、ツイート時点でも根拠のない憶測にすぎません。

別に究極的に真実であるかが明らかになったとは言えないものの、これは当たってるか当たってないかの話じゃ無いんですよ。

チャイナに関する日本の態度が国際的に問われており、他の報道でもそれを否定する材料がある中で、「菅官房長官が答えなかったから声明参加の打診はあったハズだ」という推定を安易にする姿勢を問うているわけです。

このように、この時点でも政府が返答しないことの意味について「声明参加の打診があったから」以外の可能性の言及もあるわけです。

チャイナ側に日米欧州の離間工作に利用されかねない話題において安易に「声明打診があった」と認定することが如何に国益に反するか。

以上

WHOが新型コロナウイルスは4割が無症状者から感染⇒1日前「ほとんどない」

WHOが新型コロナは無症状者から4割感染

WHOが新型コロナウイルスは4割が無症状者から感染とNHKが報道してますが、1日前には「無症状者からの感染は稀」と同一人物が言っていました。

WHOがCOVID19は4割が無症状者から感染とNHK報道

新型コロナウイルス 4割は無症状から感染 WHO | NHKニュース魚拓

WHO=世界保健機関は、新型コロナウイルスに感染した人のおよそ40%は、無症状の感染者からうつされているとする見方を明らかにしました。そのうえで、感染が広がっている地域で人との距離を取ることが難しい場合は、マスクを着けるよう呼びかけました。

WHOで危機対応を統括するライアン氏と、技術責任者のバンケルコフ氏は9日、スイスのジュネーブにある本部からインターネットの中継で、一般市民からの質問に答えました。

9日の「一般市民からの質問」がプレスブリーフィングでの話なのかなんなのかわかりませんが、WHOがCOVID19は4割が無症状者から感染とNHKが報道しています。

しかし、これはちょっとおかしいです。

つい一日前には同一人物が「無症状者からの感染は稀」と言っていたのですから。

WHOのバンケルコフ8日は「無症状者からの感染は稀」

CNN.co.jp : 新型コロナ、無症状者からの感染は「まれ」 WHO疫学者

(CNN) 新型コロナウイルスが無症状の感染者からうつるケースは「まれ」だとする見解を、世界保健機関(WHO)の疫学者、マリア・バンケルコフ氏が発表した。

バンケルコフ氏は8日、ジュネーブでの記者会見で、患者の接触先を詳細に追跡している複数の国の報告には、感染しても全く症状が出ない例が含まれていると説明。こうしたデータからみて、無症状の症例からさらに別の人へ感染がひろがったケースはめったにないようだと述べた。

そのうえで、症状のある人だけを全員追跡して接触者を隔離すれば、感染数は劇的に減らすことができるはずだと語った。

WHOのDr Maria Van Kerkhove=バンケルコフ氏は、8日の記者会見で「無症状者からの感染は稀」「症状のある人だけを追跡・接触者の隔離をすれば劇的に感染者を減らすことができる」と発言したとの報道があります。

この報道内容は100%事実です。

WHOの8日のプレスブリーフィング

WHOの8日のプレスブリーフィングは動画とトランスクリプトがあります。

動画の31分47秒頃からの質問に対して、関連部分は34分4秒頃からです。

「MK」とあるのがバンケルコフ氏です。

COVID-19 Virtual Press conference 8 June 2020

00:31:47
TJ Thank you. Now we will go to Emma Farge from Reuters. Hello, Emma.
EM Yes, good afternoon. It's a question about asymptomatic transmission,
if I may. I know that the WHO's previously said there're no documented cases of this. We had a story out of Singapore today saying that at least half of the new cases they're seeing have no symptoms and I'm wondering whether it's possible that this has a bigger role than the WHO initially thought in propagating the pandemic and what the policy implications of that might be.

これが(無症状感染者が)、パンデミックを広める上でWHOが当初考えていたよりも大きな役割を持つ可能性があるのか​​どうか、そしてそれが政策に与える影響は何だろうかと思っているところです。

MK(バンケルコフ) 

00:34:04 省略

We are constantly looking at this data and we're trying to get more information from countries to truly answer this question. It still appears to be rare that an asymptomatic individual actually transmits onward.

What we really want to be focused on is following the symptomatic cases. If we followed all of the symptomatic cases - because we know that this is a respiratory pathogen, it passes from an individual through infectious droplets - if we followed all of the symptomatic cases, isolated those cases, followed the quarantined those contacts we would drastically reduce...

省略

But from the data we have it still seems to be rare that an asymptomatic
actually transmits onward to a secondary individual.

CNNの記事にある通りの発言をしていることが分かると思います。

発言の前後も確認しましたが、特定の国や地域における言及でもなく、特定の論文に基づいた言及でもありません。

※追記:後述するように一部の論文に関するものだとバンケルコフ氏が弁明したので「8日の発言からはそのようにはまったく聞こえない」という趣旨と捉えてください。

日本の新型コロナウイルス専門家会議の見解は

新型コロナウイルス感染症対策本部

新型コロナウイルス感染症対策専門家会議の見解等(新型コロナウイルス感染症)|厚生労働省

【「新型コロナウイルス感染症対策の状況分析・提言」(2020年5月29日)】が、直近ではもっともまとまっている現状分析と提言ですが、この中において無症状者からの感染がどの程度なのか、という点は触れていないとはいえ、「無症状感染者からの感染が4割」という知見に近い話は全く出てきません。

また、これまでの専門家会議の議事としても、そのような内容は上がってきていません。

おそらくですが、無症状者による感染伝播というのは、各国の対策状況や実際の感染状況に依存するため、一般的な知見として説明することはできないし、することの意味が無い可能性が高いのではないか、だからこそ日本の専門家会議が無症状者からの感染について触れていないのではないか、と私は思います。

NHKのWHOに関するCOVID19報道の信憑性?

さて、こうしてみると、NHKのWHOに関するCOVID19報道の信憑性が問題になってきます。本当に9日にそのような発言があったのか?という話に。

これは9日の記者会見の動画とトランスクリプトが公開されるまで(記者会見の場での質問だったのかも不明)分かりません。

追記「非常に稀」は否定

コロナ無症状感染「非常にまれ」は誤解 WHO専門家が釈明 写真1枚 国際ニュース:AFPBB News

 バンケルコフ氏は、記者会見で受けた質問に「二つか三つの、非常に少ない数の研究に言及して」答えたもので「WHOの方針を述べたものではなかった」とし、「『非常にまれ』という言葉を使ったが、無症状感染者からの感染が世界で非常にまれだと述べるのは誤解だ。私は研究のサブセット(一部)について言及していた」と話した。(c)AFP

ただ、「非常に稀」は否定しても、4割についてはAFPは報道していません。代わりにロンドン大学の教授の「無症状感染者による感染は症例の30%から50%程度である可能性がある」という発言を引用しています。

それにしても、「我々はいくつもの国々の複数の論文を参照している」と会見で発言しておいて、実態はこの程度だったという事実からは、WHOは既に終わっているとしか思えません。WHOの会見として行われている場なのに「WHOの方針を述べたものではない」とかおかしいでしょう。

少なくとも科学者として終わってる。政治的な思惑=チャイナの影響で動いているとしか思えません。WHOはマスクの有効性も突然言い出しましたが、その間にチャイナ国内のマスク製造工場の体制が整ったでしょうね。

追記2:4割というのは数理モデルの試算で疫学データではない

新型コロナ、最も感染力が強いのは発症時か WHOが指摘 - ロイター

また、無症状の感染者からうるるケースは「極めてまれ」という見解を前日に示したことについては、「伝染の40%が無症状感染者による可能性があると試算されているが、これは数理モデルによるものだ」と説明。その上で、無症状者からうつる可能性はあると述べた。

結局、「4割」というのも数理モデルの試算であって、実際の感染者を追跡した疫学データに基づく発言ではないということです。

いずれにしてもバンケルコフ氏の姿勢は大いに断罪されるべきですが、NHKの報道も「数理モデルの試算」という点を抜かして報じている点でかなり悪質だと思います。

NHKは日本人に正しい認識を伝える気が無いらしい。

追記3:Pre-symptomaticとAsymptomaticの混同

The WHO Says Asymptomatic COVID-19 Spread Is "Rare" | Time

TIME紙では、ワシントン大学の生物学者Bergstrom氏が「本当に無症候性の拡散が非常にまれであっても、発症前の感染は重要である可能性が高い」と指摘していることを紹介しています。

要するに、感染しても無症状のままウイルスが無くなる人と、発症した人における発症前=無症状の状態の感染性が混同されている可能性があるのです。

TIME紙はさすがですね。

以上

徳永エリ議員「朝鮮学校が補正予算の対象外、安倍政権の政策は人種差別」

6月8日の参議院本会議において、徳永エリ議員が「朝鮮学校を補正予算の対象にするように」と発言していました。

徳永エリ議員「朝鮮学校が補正予算の対象外、安倍総理は人種差別」

徳永エリ議員が「朝鮮学校が補正予算の対象外、安倍総理は人種差別」と言い、またしても差別の問題にすり替えようとしています。

法務省が告示で定める日本語教育機関と朝鮮学校

徳永議員は「日本語教育機関には『学びの継続のための学生支援緊急給付金』が支給されるのに…」と言っていますが、朝鮮学校はこの日本語教育機関に当たらないというだけです。

朝鮮学校と同じ「各種学校」の区分けに属するだけの施設には同じく支給されません。

https://www.mext.go.jp/content/20200520_mxt_gakushi01_000007321_01.pdf

高等学校等就学支援金制度の対象として指定した外国人学校等の一覧:文部科学省

学びの継続のための学生支援緊急給付金:法務省が告示で定める日本語教育機関

上記二つのリンクを比べれば、各種学校で「学生支援緊急給付金」が支給されていないところはいくつもあるということが分かるでしょう。

各種学校は、学習塾なども含まれる分類です。

徳永エリ議員のFacebookでも「安倍政権の政策は差別」

徳永エリ議員、朝鮮学校を補正予算の対象に、安倍総理は人種差別

https://www.facebook.com/eri.tokunaga.79/posts/1926915737443564

徳永 エリ - 第二次補正予算、困窮学生等に対する支援、芸術文化・スポーツ活動への緊急総合支援。しかし、自立して生活を... | Facebook魚拓

徳永エリ議員の主張は5月30日のFacebookでも見ることができます。

さいたま市のマスク配布方針への難癖を思い出す

さいたま市のマスク配布方針と新型コロナウイルス対策会議:準看護学校も対象外

「朝鮮学校だけが差別されている!」と騒ぎ立てたのは、さいたま市の施設に対するマスク配布方針が思い出されます。

リソースに制約がある中で児童に対する政策の優先順位をつけていったら対象外になっただけであり、准看護学校も配布対象外になっている中で、朝鮮学校(幼稚部と初級部が併設されている)が対象外になることは、「不適切」かもしれませんが、「差別」の問題ではないでしょう。

朝鮮学校と「各種学校」の区分けの関係

朝鮮学校無償化訴訟・大阪高裁判決:教育の自由と各種学校?

誤解がありますが、朝鮮学校が無償化対象外となったのは各種学校だからではありません。各種学校の分類であっても補助金が支給されている学校はあるからです。

そうではなく、朝鮮学校は北朝鮮政府の影響下にある【朝鮮総連】の不当な支配を受けているから対象外になっているのです。要するに反社会的組織との繋がりを絶てよ、といっているだけです。

子どもらは日本の普通学校に通うことは何ら禁止されていないのですから、学ぶ権利の侵害などというものは存在しませんし、「民族教育を受ける権利」などというものはおよそ存在しません。妄想によって朝鮮総連側が特権を作り出そうとしているだけです。

「差別」「ヘイト」の主張は既得権・特権の創設の隠れ蓑

残念ながら、「差別」「ヘイト」の主張は既得権・特権の創設の隠れ蓑としれ利用されていることが非常に多いと言わざるを得ません。

北朝鮮・韓国関係ではその割合が跳ね上がります。

法的に誤った主張であるという事実認識が広まるべきです。

以上