事実を整える

Nathan(ねーさん) 法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

日経新聞「学術会議人事、首相の意向反映せず」と誤報、松宮教授など被害者が発生

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日経新聞の誤報による被害者が発生してしまいました。

日経新聞「学術会議人事、首相の意向反映せず」と報道

魚拓

日経新聞が2日に「学術会議人事、首相の意向反映せず」と、2日の加藤官房長官記者会見について報道していました。

が、これは誤報です。そのようなやりとりは午前午後ともに存在していません。

令和2年10月2日(金)午前 | 令和2年 | 官房長官記者会見 | ニュース | 首相官邸ホームページ

日経の誤報:2日の加藤官房長官会見に該当発言無し

結局、日経の誤報であり、2日の加藤官房長官会見に該当発言が無いということは明らかなのですが、日経新聞は本文にもツイートにもなんら訂正文言を載せていません。

その結果、「被害者」が出現しています。

被害者が出現:松宮孝明教授が共産党員の投稿を鵜呑み

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https://www.facebook.com/takaaki.matsumiya.39/posts/3459051470853097(魚拓)

日本学術会議の委員に推薦されながらも総理判断で任命表から外された松宮孝明教授ですが、共産党員の参議院議員、井上哲士氏の投稿を鵜呑みにしてこう反応しています。

それまでに何人も誤報の指摘をしていたのに、他の投稿は目に入らなかったようで。

そうでなくとも2日の官房長官記者会見を確認しなかったようで。

これも日経新聞の怠慢による「被害者」ですね。

一般人にはそれを判断する能力が無いのですから、仕方ありません。

以上

松宮教授「科学者資質以外を判断されると独立性が侵害」発言の異常性:日本学術会議

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松宮教授「アカデミーは民間組織であってはならない」⇒学術会議自身の報告書で欧米は民間組織と記述

日本学術会議の推薦名簿に載っていたが任命されなかった松宮孝明教授の発言の異常性を上記記事で指摘しましたが、積み残しがあったので本エントリで整理します。

前提となる資料へのリンクは一通り以下でまとめています。

日本学術会議の任命に関する資料|Nathan(ねーさん)|note

松宮教授「科学者資質以外を判断されると独立性が侵害」

本稿で取り上げる松宮教授の発言をまとめると以下

  1. 総理は事実上、推薦通り任命せざるを得ない
  2. 日本学術会議法17条では「優れた研究又は業績」とあるから
  3. 会員を選ぶ基準は結局は研究者としての力を見ている
  4. だから、科学者適性以外の資質を判断されると独立性が侵害される
  5. 26条では「会員に会員として不適当な行為があるとき」に総理が学術会議の申出に基づいて退職させることができるとあるが、これは研究捏造など科学者としての適性が無いことが明らかな場合に学術会議側に「差し戻せ」ということ

これらの発言の中核は3番で、松宮教授は日本学術会議の委員は「研究者としての資質」だけで選考・推薦・任命されるということを前提にしていることになります。

このような解釈は到底まともではありません。

日本学術会議の存在意義についての勘違いも甚だしい。

日本学術会議の設立趣旨と目的

日本学術会議の設立趣旨と目的については日本学術会議法に書かれています。

日本学術会議法をここに公布する。
日本学術会議法
日本学術会議は、科学が文化国家の基礎であるという確信に立つて、科学者の総意の下に、わが国の平和的復興、人類社会の福祉に貢献し、世界の学界と提携して学術の進歩に寄与することを使命とし、ここに設立される。
第一章 設立及び目的

中略

第二条 日本学術会議は、わが国の科学者の内外に対する代表機関として、科学の向上発達を図り、行政、産業及び国民生活に科学を反映浸透させることを目的とする。

日本学術会議が提案された当時の国会答弁はたとえば以下

昭和23年6月15日 参議院 文教委員会

○國務大臣(森戸辰男君) 日本学術会議法案について提案理由を御説明申上げます。
 本法案の規定いたしまする日本学術会議は、内閣の所轄に属することが予定されておるのでありますけれども、設立の準備事務を文部省に委託されましたので、その関係から私が御説明をすることになつておるのであります。 さて、敗戰後の我が國が貧困な資源、荒廃して産業施設等の悪條件を克服して、文化國家として再建すると共に、世界平和に貢献し得るためには、是非とも科学の力によらなければならないことは申すまでもございません。従來我が國の学界を顧みますと、個々の研究においては優れた成果が必ずしも少いとは言い得ないに拘わらず、その有機的、統一的な発達が十分でなく、全科学者が一致協力して現下の危機を救い、更に科学永遠の進歩に寄與し得るような体制を欠いていたことは、科学者みずからによつて指摘せられていたところであります。ここにおいて我が國從來の学術体制に再檢討を加え、全國科学者の緊密な連絡協力によつて、科学の振興発達を図り、行政、産業及び國民生活に科学を反映滲透させる新組織を確立することが、科学振興の基本的な前提となるであります。言い換えれば、科学者の総意の下に、我が國科学者の代表機関として、このような組織が確立されて、初めて科学による我が國の再建と、科学による世界文化への寄與とが期し得られるのであります。この法案制定の理由は、右のような役割を果し得る新組織、即ち科学者みずからの自主的團体たる日本学術会議を設立するにあるのであります。

中略

以上本法案制定の理由、性格並びに内容の概略を御説明申上げたのでございますが、この法案は、我が國の新学術体制の立案、企画を目的として、昨年八月全國科学者の民主的選挙によつて選出された委員百八人を以て結成せられました学術体制刷新委員会におきまして、約七ヶ月に亘り愼重審議を重ねて成案を基といたしまして、殆んどこれを変更することなく、政府において立法化したものであります。

第2回国会 衆議院 文教委員会 第12号 昭和23年6月19日

○森戸國務大臣 日本学術会議法案の提案理由について御説明いたします。この会議は内閣総理大臣の所轄となつているのでありますが、この設立準備事務は文部省が行うことになつているため、ここに私から御説明いたすことになつた次第であります。
 さて敗戰後のわが國が、貧困な資源、荒廃した産業施設等の悪條件を克服して、文化國家として再建するとともに、世界平和に貢献し得るためには、是非とも科学の力によらなければならないことは申すまでもございません。
 從來わが國の学界を顧みますと、個々の研究においては、すぐれた成果が必ずしも少いとは言えないにかかわらず、その有機的、統一的発達が十分でなく、全科学者が一致協力して現下の危機を救い、さらに科学永遠の進歩に寄與し得るような体制を欠いていたことは、科学者自らによつて指摘せられていたところであります。ここにおいてわが國從來の学術体制に再檢討を加え、全國科学者の緊密な連絡協力によつて、科学の振興発達をはかり、行政、産業及び國民生活に科学を反映浸透させる新組織を確立することが、科学振興の基本的な前提となるのであります。言いかえますれば、科学者の総意の下に、わが國科学者の代表機関として、このような組織が確立されて、初めて科学によるわが國の再建と科学による世界文化への寄與とが期し得られるのであります。この法案制定の理由は、右のような役割を果し得る新組織、すなわち科学者みずからの自主的團体たる日本学術会議を設立するにあるのであります。

要するに、国家戦略として、日本の科学者の「横のつながり」を作ってリソースを有効活用しましょう、ということに主眼があるということです。また、それによって外国の学術界とのカウンターパートを作ろうということです。

決して、学者や学界、学術機関が研究を進めるためのものではありません。

この認識に至った者として篠田英朗氏などが居ます。

日本学術会議問題で、法律家は法に従って議論しているか?(篠田 英朗)

日本学術会議の委員の学術分野毎の構成

第2回国会 衆議院 文教委員会 第21号 昭和23年6月30日

○伊藤(恭)委員 この選挙せられた会員が二百十人、これを別表によつて見ますと、全國区の定員と地方区の定員との合計は、一部約三千人となつておるようでありまして、七部にわかれておりますから二百十人になつておりますが、そこでわれわれの考えるところによりますと、この全國区定員のところで專門別の定員の数と專門にかかわりない定員の数との均衡のことについて、われわれ多少疑問をもちますが、これはどういうような割合で数を割り当てられたか、ちよつとお聽きしたいのです。

○岡野説明員 大体三十名に限定しました理由につきましては、先ほど局長から御説明がありましたが、要するにこういう会議体としての人数というものは大体会議をするという目的のためにある程度の概数が出てまいりまして、それを一部二部三部と均等にしたわけでございます。なおただいま御質問の專門別定員と專門にかかわらない定員とをどういう基準でわけたかと申しますと、この日本学術会議の使命といたしますところは科学の研究の連絡をよくしまして、その能率を向上させる。すなわち科学自身の向上発達ということが一つと、それから科学に関する重要事項を審議いたしまして、その実現をはかるという二つの目的でございます。それをいかにして三十名という範囲で合理的に振りわけるかという問題でございまして、たとえば第四部というのをごらんいただきますと、ここには数字、天文学、物理学というふうに專門が細分されております。この細分された趣旨は、要するにこの日本学術会議の会員の中に、天文学の專攻者が一人もいない、あるいは動物学の專攻者が一人もいないということになりますと、やはり專門学術の発達という面からして十分機能が発揮できないおそれがある。さればといつてそういう專門家だけに区分いたしますと、理学全体について廣い見透しをもつた方が逃げるおそれがある。あれこれ要求を満たすために最小限度必要な專門別の定員を残しまして、その他は理学部門全体から視野の廣い方を選ぶ、こういう標準でもつて立案されたものでございます。

現在は3部構成の委員ですが、2000年代初頭までは7部構成だったようです。

日本学術会議の使命として科学研究の連絡を促進・能率向上が謳われています。

したがって、委員の構成としては「分野に偏りがあってはならない」のが大前提になりますから、単純に学者個人の「優れた研究又は業績」だけが考慮されて選考・推薦・任命されるわけではないというのは、自明の理なわけです。

松宮教授の主張は、まずこの点の認識が誤っているのです。

さらに、現在は委員の選考について一定の要求がなされています。

平成16年改正後の日本学術会議法の附帯決議では

日本学術会議法の一部を改正する法律(平成一六年四月一四日法律第二九号)

衆議院附帯決議「法改正後の日本学術会議会員の選出に当たっては、今回の法改正の趣旨に鑑み、学問の動向に柔軟に対応する等のため、女性会員等多様な人材を確保するよう努めること。

参議院附帯決議「法改正後の日本学術会議会員の選出に当たっては、今回の法改正の趣旨にかんがみ、急速に進歩している科学技術や学問の動向に的確に対応する等のため、第一線の研究者を中心に、年齢層等のバランスに十分に配慮するとともに、女性会員等多様な人材を確保するよう努めること。

といった文言が付与されています。

学問分野のバランスにとどまらず、さらに個人の属性を細かく見て全体のバランスを整えて選出することが政治的にも要請されているのです。

日本学術会議の推薦に対する任命拒否に関する法解釈上の論点整理 - 事実を整える

日本学術会議法17条「優れた研究又は業績」は最低限の要件

第十七条 日本学術会議は、規則で定めるところにより、優れた研究又は業績がある科学者のうちから会員の候補者を選考し、内閣府令で定めるところにより、内閣総理大臣に推薦するものとする。

「優れた研究又は業績がある科学者を選考し」ではなく、「そのうちから」選考するのですから、「優れた研究又は業績」は最低限求められる要件であって、それだけで選考されるわけではないというのは条文上からもうかがえるものです。

これに反する解釈をするというのは刑法学者として法学者としてどうなのか。

候補者の資質は科学者としての資質のみか?

ここまで全体のバランスからの判断もあり得ることを述べましたが、「個人の資質」を見た視点からも「科学者の資質」以外を考慮することは当たり前に想定されます。

松宮教授は総理が拒否できる場合として「研究捏造」の事例だけを挙げました。

しかし、たとえば性犯罪者を選ぶのでしょうか?

これは科学者の資質とは別個独立した資質の話です。

判断資料は論文や著書などの成果物に限られるのか?

また、松宮教授は「判断資料」としては論文や著書などの「成果物」に限った見解のように映りますが、これもおかしいでしょう。

論文や著書ではたいそうなことを言っていても、TVや街頭演説などで科学分野において不誠実な言動をしていれば、「科学者としての資質」に疑義が生じます。

まさに、松宮教授の言動がそれです。

「科学者適性以外の資質」についても同様でしょう。

これは総理の任命以前の学術会議における選考・推薦の段階でも問題になるでしょう。

菅総理の任命拒否の理由

菅首相、学術会議会員任命「前例踏襲でよいのか」 - 産経ニュース

首相は「日本学術会議は政府機関で、年間約10億円の予算で活動している。任命される会員は公務員だ」と指摘。過去の省庁再編でも学術会議の在り方が議論されてきた経緯に触れ「総合的、俯瞰(ふかん)的活動を確保する観点から判断した」と語った。現在の任命の仕組みは「会員が自分の後任を指名することも可能な仕組みだ」とも述べた。

改めて菅総理の任命拒否の理由を述べている内容を見ると「総合的俯瞰的活動を確保する観点から判断」と言っています。

では、学術会議の構成は具体的にどうなっているのか?

法学者が多い疑惑

このツイートのスレッドにまとめていますが、日本学術会議のHPで18期までの委員の名簿を遡って確認することができました。

この間、210名を30名ずつ7部に分ける構成から70名ずつ3部に分ける構成へと変遷がありました。

また、現時点での学問分野は30ありますので単純計算すると各学問分野で7名が選出されることになります。

法学はそのうちの1つであり、法学者がどれほど選出されているのか調べました。

18期 法学者23名 政治学者3名で第二部は計26名 ※7部構成 法学は第二部

19期 法学者20名 政治学者6名で第二部は計26名 

20期 法学者15名 ※3部構成に 法学は第一部

21期 法学者15名

22期 法学者15名

23期 法学者14名

24期 法学者15名

25期 法学者11名(外された3名を加えて14名) ※令和2年10月1日時点

********

25期は基礎医学・臨床医学の者が16名ほど選出され、従来と同様の構成ですが、分野の重複もある上に、コロナ禍ということを考えれば妥当である可能性があります。

委員は再任が無いために「分野ごとの学者の数」を考慮してこのようになったのか分かりませんが、これまでの法学者の数は多すぎないでしょうか?

もしも菅総理がこうした構成のバランスを考慮して任命拒否をしたとして、それは日本学術会議の性格上、許容範囲では無いでしょうか?

それを実質判断と言うか形式判断と言うかは表現の違いでしょう。

学術会議の性格は議論の大前提

日本学術会議の委員は結局「日本学術会議を機能させる上で必要な構成」という見地から選考・推薦・任命されるべきというのが本質。

「科学者としての資質」は最低限の要件でしかない。

これを勘違いしている時点で、まともな主張ではない。

これまでの慣例・運用はそれに見合っていたのか?という問題。

日本学術会議の性格の理解は議論の大前提であり、これまでの運用は明らかにこの理解を前提にしていました。

それを今更になって「科学者としての資質」のみをフォーカスするのは、誤った理解による世論煽動以外の何物でもありません。

批判してる者たちがこの点を隠しているのは、自分の後任者を選ぶなどして、パワーゲームをやってたからでしょう。

以上

足立康史議員質疑:日本学術会議は推薦理由の資料を提出していない

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10月7日の衆院内閣委における足立康史議員の質疑で日本学術会議の推薦理由の書類が提出されていないことが分かりました。

足立康史議員質疑:日本学術会議は推薦理由の資料を提出していない

足立 焦点になっているもう一つの論点。総合的俯瞰的ということでありますが、これは単なる人事では無くて、まさに独立性の高い公の組織の任命行為なんです。そうれであれば、推薦側であれ任命側であれ、理由を国民に開示していく。民主的統制というのはまさに国民に説明できるからこそ民主的統制なんだから。この国会の場でもいいですよ。理由はやっぱり日本維新の会ははっきりしていったほうがいいんじゃないかなと、こう思っているわけですが、内閣は理由は言わないと言っている。内閣府側或いは学術会議側は推薦理由は公にしてるんですか

福井局長 日本学術会議の会員の任命につきましては、8月31日、日本学術会議から会員候補推薦書が内閣総理大臣へ提出され、10月1日付で任命が行われたものでございます。日本学術会議会員候補者の内閣総理大臣への推薦は、日本学術会議会員候補者の内閣総理大臣の推薦手続を定める内閣府令に基づきまして、任命を要する期日の30日前までに当該候補者の氏名及を記載した書類を提出する、これによって行うものとされております。この推薦書類につきまして内閣総理大臣推薦手続の中において推薦理由の書類は添付されておりません

足立 そもそも推薦側が理由を開示していないんだよね、これはおかしいよね。

日本学術会議は推薦理由の資料を提出していないことが判明しました。

日本学術会議会員候補者の内閣総理大臣への推薦手続を定める内閣府令

日本学術会議法

第十七条 日本学術会議は、規則で定めるところにより、優れた研究又は業績がある科学者のうちから会員の候補者を選考し、内閣府令で定めるところにより、内閣総理大臣に推薦するものとする。

この「内閣府令」が以下のものです。

平成十七年内閣府令第九十三号
日本学術会議会員候補者の内閣総理大臣への推薦手続を定める内閣府令

日本学術会議法(昭和二十三年法律第百二十一号)第十七条の規定に基づき、日本学術会議会員候補者の内閣総理大臣への推薦手続を定める内閣府令を次のように定める。
日本学術会議会員候補者の内閣総理大臣への推薦は、任命を要する期日の三十日前までに、当該候補者の氏名及び当該候補者が補欠の会員候補者である場合にはその任期を記載した書類を提出することにより行うものとする。

この法律、本文に書いてあるのはこれだけです。

「氏名と任期を記載した書類」を提出することにより行うとしか書かれてません。

なんというか、ある意味では当然というか自明の理というか。。。

内閣府令に手続として推薦理由を書いた書類の提出が書かれていないのがそもそも問題であるということは言えると思いますが、では、推薦理由を問われた際にどう説明するのでしょうか?

それは想定しておくべき話なのでしょうか?

日本学士院と日本学術会議の会員の選考手続について

日本学士院会員選定規則

(候補者の推薦)
第三条 省略

6 推薦者は、次の事項を記載した推薦書を、日本学士院長に提出しなければならない。
一 被推薦者の氏名、本籍(都道府県名のみ記す。)及び住所
二 所属すべき分科
三 履歴(概要でよい。)
四 主要な学術上の業績(その大要を記載する。)
五 主要な著書及び論文の目録(簡単な解説を附する。)
7 推薦書は、別記の書式により、推薦者(学術団体の場合にはその代表者とし、その代表者の団体における地位、役名等を記す。)の署名を必要とする。

中略

(被推薦者)
第四条 推薦される候補者は、学術上功績顕著な科学者でなければならない。その資格の判定は選考委員会の審査による。

中略

第十五条 選考委員会は選考に際し、次の基準に従うよう注意しなければならない。
一 候補者の選考には、専ら学術上の功績に重点をおき、学術行政上の功績の有無にかかわらないこと。
二 学識経験及び人格を充分に考慮すること。
三 候補者は、これを学界の各方面に物色し、一方に偏しないよう留意すること。
四 候補者の選考は慎重を期し、必ずしも直ちに補充するを必要としないこと。

日本学術会議ではなく、日本学士院の方は(同じく国家公務員だが文科省の特別の機関)、推薦・選考手続について一定の基準が明示されています。「人格」も考慮するとあるので、研究業績などの成果物に限られず、各所での発言内容も考慮対象となると言えます。ただ、書類に推薦理由を記載する旨は書かれていません。

日本学術会議の方は、この点が法17条の「規則で定めるところにより、優れた研究又は業績がある科学者」しかありません。

「規則」には以下書かれています。

日本学術会議会則

(会員及び連携会員の選考の手続)
第八条 会員及び連携会員(前条第一項に基づき任命された連携会員を除く。以下この項、次項及び第四項において同じ。)は、幹事会が定めるところにより、会員及び連携会員の候補者を、別に総会が定める委員会に推薦することができる。
2 前項の委員会は、前項の推薦その他の情報に基づき、会員及び連携会員の候補者の名簿を作成し、幹事会に提出する。
3 幹事会は、前項の会員の候補者の名簿に基づき、総会の承認を得て、会員の候補者を内閣総理大臣に推薦することを会長に求めるものとする。
4 幹事会は、第二項の連携会員の候補者の名簿に基づき、連携会員の候補者を決定し、その任命を会長に求めるものとする。
5 幹事会は、前条第一項に基づき任命される連携会員の候補者を決定し、その任命を会長に求めるものとする。
6 その他選考の手続に関し必要な事項は、幹事会が定める。

この中での「推薦」において推薦理由が書かれた書類の提出はあるのでしょうか?

「幹事会が定めるところ」 については日本学術会議のHP上では見つけることができません。選考委員会において決定するようですが、選考委員会の運営要綱はあるものの、具体的な中身については書かれていません。

日本学術会議は推薦理由の情報開示をするべきでは

学術会議に情報開示求める 京都大学長「一種の政府機関」 | 共同通信

京大学長の湊長博氏は学術会議側に「推薦した理由」を求めています。

税金を使って運営する組織の国家公務員を任命するにあたってはその理由を説明すべきと言える余地がある一方、「税金が使われることのない、任命を拒否された者」についてはその要請が働く余地は少ないと言えます。

もっとも、公務員だからと言って人事の理由を公にするべきか否かは一つの考え方でしょう。現時点での菅内閣はこの態度です。

しかし、少なくとも「任命拒否の理由を言え」と言うのであれば「推薦した理由を言え」と国民の側が言うことには妥当性があるでしょう。

この話は「任命拒否の理由を言え」と言ってきたから始まったのだから。

以上

中国の千人計画は単なる「人材呼び戻しプログラム」ではない:日本学術会議の議論にて

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中国共産党の「千人計画」にまつわる「説明方法」について。

千人計画を「人材呼び戻しプログラム」とする説明

誰とは言いませんが、中国の「千人計画」を「人材呼び戻しプログラム」とする説明を見ると得も言われぬ違和感を覚えます。

これを言っている人の中には他の発信において有益なことを主張している人も居るのですが、どうも、引っかかります。

なぜなら、そんなことは当の中国共産党も既に言っていないからです。

中国の千人計画は国籍を問わない

「千人計画」 | SciencePortal China

「海外ハイレベル人材招致」として、対象は「国籍問わず、原則上55歳以下、海外で博士号を取得している者。」と記述があります。

中国語のソースを知りたいなら例えば以下。

江西省安福県人民政府千人計画実施法(※文字化けするため表記は日本語に寄せた)

ここには以下の記述があります。

第III章はじめにプロジェクトと条件
第8条人材紹介に関しては、長期イノベーションリーダー、短期イノベーションリーダー、起業家リーダー、外国人専門家、高レベルのイノベーション・起業家精神チームを含む5つのプロジェクトが設立されます。

中国の千人計画は国籍を問わないということが分かります。

確かに、2008年当初には「人材呼び戻しプログラム」とする説明がありました。

しかし、現在では既にそういう説明ではないということです。

ここまではチャイナ側も認めている事実です。

問題はここから先です。

アメリカ政府の千人タレント計画"Thousand Talents Plan"の認識

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Threats to the U.S. Research Enterprise : China’s Talent Recruitment Plans

In recent years, federal agencies have discovered talent recruitment plan members who downloaded sensitive electronic research files before leaving to return to China, submitted false information when applying for grant funds, and willfully failed to disclose receiving money from the Chinese government on U.S. grant applications.

ここでは、アメリカ連邦政府機関が、中国に帰国する前に機密性の高い研究の電子ファイルをダウンロードしたことや、助成金を申請する際に虚偽の情報を提出したり、米国の助成金申請に際して中国政府から金銭の受け取りをしていたことを故意に開示しなかった人材採用計画のメンバーを発見したことを報告しています。

スパイ工作、機密情報・テクノロジーの窃取

Dr. James Patrick Lewis, of Fairview, West Virginia, has admitted to a fraud charge involving West Virginia University, the Department of Justice announced.

Lewis, age 54, pleaded guilty to a one-count information charging him with “Federal Program Fraud.” From 2006 to August 2019, Lewis was a tenured professor at West Virginia University in the physics department, specializing in molecular reactions used in coal conversion technologies. In July 2017, Lewis entered into a contract of employment with the People’s Republic of China through its “Global Experts 1000 Talents Plan.” China’s Thousand Talents Plan is one of the most prominent Chinese Talent recruit plans that are designed to attract, recruit, and cultivate high-level scientific talent in furtherance of China’s scientific development, economic prosperity and national security. These talent programs seek to lure overseas talent and foreign experts to bring their knowledge and experience to China and reward individuals for stealing proprietary information.

ウェストバージニア州フェアビューのジェームズ・パトリック・ルイス博士は、ウェストバージニア大学が関与した詐欺罪を認めたと司法省が発表した。

ルイス(54歳)は、「連邦プログラム詐欺」に関する訴因の1つに対して有罪を認めました。2006年から2019年8月まで、ルイスはウェストバージニア大学の物理学部の終身教授であり、石炭変換技術で使用される分子反応を専門としています。2017年7月、ルイスは「Global Experts 1000 Talents Plan」を通じて、中華人民共和国と雇用契約を締結しました。中国の千人計画は、中国の科学的発展、経済的繁栄、国家安全保障を促進するために高レベルの科学的才能を勧誘し、採用し、育成することを目的とした最も著名な人材採用計画の1つです。これらの人材プログラムは海外人材・外国人専門家を惹きつけ、彼らの知識や経験を中国に引き渡し、専有情報を盗んだことに対して個人に報酬を与えるものです。

どう表現するべきかはそれぞれだと思いますが、アメリカ政府は千人計画を、知的財産、テクノロジー機密情報等を窃取するスパイ活動であると認識している、と言ってよいでしょう。

こうした情報はアメリカの他の政府機関(FBIなど)も指摘しているし、報道もされています。

FBI長官演説「中国は悪意に満ちたわいろ、恐喝、裏取引を使った外交をする」

日本学術会議の議論に99%の真実に1%の誤魔化しが入る

日本学術会議に関連して千人計画が取りざたされるようになりましたが、たとえば日本学術会議と日本学士院との関係について正確な情報を発信している者が、千人計画については「人材呼び戻しプログラム」などと実態からかけ離れた説明をしていることに、私は強い違和感を覚えます。

そうした態度の人、他にいないでしょうか?

注意すべきだと思います。

以上

松宮教授「アカデミーは民間組織であってはならない」⇒学術会議自身の報告書で欧米は民間組織と記述

グッとラック松宮教授がアカデミーは民間組織であってはならないと発言

日本学術会議の任命を拒否された松宮教授がとんでもないことを言い放ちました。

10月5日グッとラックで「アカデミーは民間組織であってはならない」

10月5日放送のTBSグッとラック!で松宮孝明教授が「アカデミーは民間組織であってはならない、学術会議が要らないとなれば日本はアカデミーを持たない国と思われる」と発言しました。

これは日本学術会議が現在は内閣府の特別の機関たる行政組織であるところ、そこから外れて民間組織になった場合のことを想定して発言している趣旨です。

ところが、日本学術会議自身の報告書で以下のものがあります。

松宮孝明教授は日本学術会議の報告書を見ていないのか

http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-18-t996-9.pdf

諸外国のアカデミーと日本学術会議の違い|Nathan(ねーさん)|note

日本学術会議 提言・報告等【対外報告】

日本学術会議が各国のアカデミー等を調査した結果をまとめた報告書があります。

欧米各国の代表アカデミーは、ほぼすべてが非営利団体・法人などの非政府組織である。これとは対照的に、日本を含めたアジア諸国のアカデミーの大半は政府機関の中に位置づけられている。

このように記述し、例外なのはポーランド・イタリア・タイであり、特殊すぎて比較できないのが中国のアカデミー機関であるとしています。
※もっとも、民間であっても関連予算が国庫と紐づいているものがあるなど、運営形態はさまざま。概ね、政府や州から予算が出ています。

松宮孝明教授の主張「アカデミーは民間組織であってはならない」は、日本学術会議自身の報告書・事実からすれば失当である発言ということになります。

「千人計画など聞いたことが無い、デマでは?」

動画の後半では松宮教授が「中国の千人計画など聞いたことが無い、デマではないでしょうか?」などと言い放っているのが分かります。

これは大問題でしょう。

まず、「千人計画」というものが存在しているのは厳然たる事実です。

「千人計画」 | SciencePortal China

そのうえで、その中身の話ですが「高度人材の招致」を謳っているものの、その実態は海外の研究者、外国人専門家を買収して技術や機密情報を盗む動きのことであり、FBI長官の演説等でもたびたび出現している言葉です。("Thousand Talent Program"なので「千人タレント計画」という表記のところが多い)

FBI長官演説「中国は悪意に満ちたわいろ、恐喝、裏取引を使った外交をする」

こうした話を全く知らないというのは世間知らずもいいところです。

日本学術会議は軍事的防衛研究を制限しておいて千人計画を助長することに無頓着

松宮教授のような態度は日本学術会議にも見られます。

日本学術会議は、大学に対して軍事研究どころかそれに至らない軍事的安全保障研究に関して制限を求めているにもかかわらず、チャイナの軍事研究に寄与するおそれの高い千人計画に関与してしまうことについて無頓着であるということは言えます。

甘利明「日本学術会議は中国の千人計画に協力」学問の自由を侵害してるのは誰か

そのダブルスタンダードは見直されるべきです。

松宮教授の発言にはまだまだ問題点があるので後刻別エントリをUPする予定です。

追記:選考・推薦・任命の際の判断要素の無理解について

以上

立憲民主党の真山勇一議員が国勢調査に対する統計法違反の画像に「怒りに100%同感」

立憲民主党真山勇一議員が国勢調査に対する統計法違反画像に「同感」

真山勇一議員が国勢調査に対する統計法違反の画像に「怒りに100%同感」

その趣旨は…?

立憲民主党の真山勇一議員「怒りに100%同感」

魚拓

立憲民主党の真山勇一議員が、国勢調査の調査票に黒塗り回答をしている画像に対して「怒りに100%同感」とツイートしました。

基幹統計調査たる国勢調査に対する統計法違反

統計法

(報告義務)
第十三条 行政機関の長は、第九条第一項の承認に基づいて基幹統計調査を行う場合には、基幹統計の作成のために必要な事項について、個人又は法人その他の団体に対し報告を求めることができる。
2 前項の規定により報告を求められた個人又は法人その他の団体は、これを拒み、又は虚偽の報告をしてはならない。

第六十条 次の各号のいずれかに該当する者は、六月以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
一 第十三条に規定する基幹統計調査の報告を求められた個人又は法人その他の団体の報告を妨げた者
二 基幹統計の作成に従事する者で基幹統計をして真実に反するものたらしめる行為をした者

第六十一条 次の各号のいずれかに該当する者は、五十万円以下の罰金に処する。
一 第十三条の規定に違反して、基幹統計調査の報告を拒み、又は虚偽の報告をした個人又は法人その他の団体(法人その他の団体にあっては、その役職員又は構成員として当該行為をした者)

国勢調査は統計法上の「基幹統計調査」であり、違反者には刑事罰が規定されてます。

したがって、調査票を黒塗りにして返送するという行為は少なくとも「報告を拒み」に該当します。

また、同世帯の家族分についても、家族に知らせずに黒塗りしていた場合には、「報告を妨げた」に該当する可能性があります。

要するに統計法違反の画像なわけです。

真山勇一議員のツイート画像の元ツイは別人のもの

魚拓

ちなみに、真山勇一議員がツイートした画像の元ツイは別の者によるものなのですが…

魚拓

過去には「官僚の統計誤魔化し」を批判していました。

基幹統計というのは国家の戦略を練る前提となる事実を構成するので、その統計の精度が下がる行為をしているというのは、日本国民にとって不利益です。

だからこそ違反者には刑事罰が課されているのです。

もっとも、この罰則規定は形骸化していると言われていますが…

立憲民主党の真山勇一議員は行為には賛同していないハズ

立憲民主党の真山勇一議員は「怒りに同感」とは言いましたが、統計法違反となる行為について是認している趣旨なのかは判然としません。

まさかそういう趣旨ではないと思いたいです。

以上