事実を整える

Nathan(ねーさん) 法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

ニューズウィークがトランプ大統領に関する暴走記事を連発:タイトルもこっそり変更

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ニューズウィークが暴走しています。

ニューズウィークがタイトルをこっそり変更

冒頭画像の記事は当初はこのようなタイトルでした。

トランプはどこまで重症化するのか──ひた隠しにしてきた医療記録が障害か
Only State-of-the-Art Medicine—and Luck—Can Save Trump Now

2020年10月5日(月)18時00分
ローリー・ギャレット(米外交問題評議会グローバルヘルス担当シニアフェロー)

それが、以下に変わりました。

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新型コロナ感染、トランプはボリス・ジョンソン(重症)化するのか
Only State-of-the-Art Medicine—and Luck—Can Save Trump Now

2020年10月5日(月)18時00分
ローリー・ギャレット(米外交問題評議会グローバルヘルス担当シニアフェロー)

大幅なタイトル変更であるにもかからわず配信時間に変化がなく、修正した旨の説明もありません。なお、記事本文には何ら変更はありませんでした。

「ひた隠しにしてきた医療記録が障害か」⇒医療記録は公開されないのが当たり前

当初のタイトル「ひた隠しにしてきた医療記録が障害か

これがどれだけ異常なのかは見た瞬間に分かるでしょう。

個人の健康に関する診療記録を公開するべき要請などどこにもありません。たとえそれが大統領という公職者の極致であっても。

仮にそのような要請があるとするならば、主張している診断結果に疑義が生じるような場合であって、開示要求があったような場合ですが、そのような疑義が生じるべき証拠は示されていません。

しかも、この記事ではトランプ大統領が要求を受け「医療記録を隠していた」事実の指摘がまったくありません。

どうしてこのタイトルが付けられたのか不可解です(執筆者が付けたのか、編集部が付けたのか、合意に基づいていたのかは不明)。

「トランプは薬で正常ではない、戦争を始めかねない」というツイートをなぜか紹介

トランプは大統領に戻れる状態ではない
Stanford Prof Questions Trump's Ability to Lead While on Dexamethasone

2020年10月5日(月)12時06分
スコット・マクドナルド
 (魚拓

英語の元記事があります。

'He's Incapacitated': Stanford Prof Questions Trump's Ability to Lead While on Dexamethasone, Recalls Own Experience
BY SCOTT MCDONALD ON 10/4/20 AT 7:36 PM EDT

いずれの記事にも以下の内容があります。

新型コロナウイルスに感染し、ドナルド・トランプ米大統領に投与されたのと同じステロイド薬「デキサメタゾン」を投与されたことがあるスタンフォード大学の教授が、トランプの精神は薬のせいでまともではなくなっており、とても執務に戻れる状態ではないと警告している。

「私がデキサメタゾンを処方されていた時には猫の面倒さえ見られなかった。トランプも大統領の職務に復帰するなど許されるべきではない。下手をすれば戦争を始めかねない。トランプは正常ではない」と、スタンフォードで法律と社会学を教えるミシェル・ダウバーは日曜の午後のツイートに書いた。

「私は脳の手術の後にデキサメタゾンを与えられた。これは精神を侵す薬だ。早く止めたかったが、この薬はいっぺんにやめられず、徐々に減らさなければならないので時間がかかる。トランプもそうだろう」

以下がそのツイート。ツイートの順に並べています。ニューズウィークは順番を入れ替えて紹介しています。

法律と社会学の教授による薬の話をなぜ紹介するのか?

引用されているミシェル・ダウバー氏は、「法律と社会学」の教員ですが、なぜ、デキサメタゾンという薬の影響について語る資格があるのでしょうか?

ニューズウィークは、なぜ薬の専門家ではなく、こういう人物のツイートを引用したのでしょうか?

本当にそのような副作用はあり得るのでしょうか?

あり得るとしても、トランプはそのような状態なのでしょうか?

そうであると推認される事実について、検証しているのでしょうか?

どうも、記事にすると「面白い」内容だから、都合よく取り上げただけにしか映りません。

トランプのツイートは暴走しているが…

トランプの退院後のツイートでは短文を連続するスタイルで投稿ラッシュが続いていました。これは、スマホを取り上げられていたからではないか、という指摘もありますが、真相は分かりません。

5日の午後9時8分のツイートからは通常通りになりました。

こういう事情はあるものの、「執務に戻れないほど薬によって無気力状態になっている」のような事実は、未だに見ることがありません。

ニューズウィークに「報道機関の矜持」など最初から求めていませんが、知らなかった人は「そういうメディア」なんだということくらいは知っておくべきですよねと。

以上

日本学士院は日本学術会議の「OB組織」ではない

日本学士院と日本学術会議、OB組織ではない

日本学士院は日本学術会議の関係については注意が必要です。

日本学士院会員名簿は公開:学術会議の「OB組織」ではない

日本学術会議法

(組織)
第二条 日本学士院は、日本学士院会員(以下「会員」という。)で組織する。
2 会員の定員は、150人とする。

(会員)
第三条 会員は、学術上功績顕著な科学者のうちから、日本学士院の定めるところにより、日本学士院において選定する。
2 会員は、終身とする

日本学士院会員一覧魚拓

日本学士院の会員の名簿は公開されています。

しかも、物故会員=鬼籍に入られた方の名簿も、すべて掲載されています。

これをみると、とてもではないですが、3年で105名が入れ替わる日本学術会議の「OB組織」とは言えません。もしもそうであれば、戦後だけでも75年で25期のメンバーが居るわけですが、2000人以上の名簿が無ければおかしい

定員も決まっている上に終身制ですから、欠員が出ないと選ばれません。

日本学士院の会員は、研究業績が優れている方のみが選ばれるのであって、その時期も晩節になってからです。

したがって、それまでに日本学術会議の委員になっている可能性もあり、そこから多く選出されているとしても疑似相関になっている可能性があります。

 

日本学士院は日本学術会議に付置されていたが独立

日本学士院会員は国家公務員法2条3項12号、日本学術会議会員は同12号の2に規定されている特別職国家公務員です。

ただし、日本学術会議は内閣府設置法40条3項で規定されている国家行政組織法上の内閣府の特別の組織たる行政機関ですが、日本学士院は文部科学省の特別の機関です。

文部科学省設置法

第三節 特別の機関
(設置)
第九条 本省に、日本学士院を置く。

日本学士院はかつては日本学術会議に付置されていましたが、昭和31年の法改正によって分離・独立しました。(それ以前の制度も変遷があった)。

日本学士院と日本学術会議の関係

https://www8.cao.go.jp/cstp/tyousakai/gakujutsu/haihu03/siryo1.pdf


日本学士院は日本学術会議の「OB組織」という認識になる者が出てくるのは、こういう組織構造・沿革も影響しているものと思われます。

もっとも、日本学術会議の委員経験者が日本学士院の会員になりやすいのではないか?という疑問については、実態を調べる必要があると思います。

もしもそういう実態があるならば、日本学士院の会員に終身年金が支給されていることが一気に問題視されることとなります。

日本維新の会の足立康史議員が10月7日の閉会中審査で質問する予定です。

 

お互いの構成員が構成員を選考する関係

日本学術会議法 

附 則 (平成一六年四月一四日法律第二九号)

第四条  一部施行日から施行日の前日までの間、日本学術会議に、施行日以後最初に任命される会員(以下「新会員」という。)の候補者の選考及び推薦を行わせるため、日本学術会議会員候補者選考委員会(以下「委員会」という。)を置く。
2 委員会は、政令で定める数を超えない範囲内の数の委員をもって組織する。
3 委員は、学識経験のある者のうちから、次に掲げる者と協議の上、日本学術会議の会長が任命する。
一 内閣府設置法(平成十一年法律第八十九号)第二十九条第一項第六号に掲げる総合科学技術会議の議員のうちから総合科学技術会議の議長が指名するもの
日本学士院の院長

日本学士院会員選定規則

(候補者の推薦)
第三条 日本学士院会員候補者の推薦をなし得る者は次のとおりとする。
一 学術機関(大学の各学部及び研究所を含む。)及び学会(学術機関及び学会を以下「学術団体」という。)
二 日本学士院会員
三 日本学術会議会員
2 前項の推薦資格者は、各学術団体又は各個人ごとに候補者一名を推薦することができる。
3 日本学士院会員と日本学術会議会員との二つの資格を有する者が候補者を推薦する場合には、日本学士院会員の資格をもってこれを行うものとする。
4 日本学士院会員は、その所属する分科の候補者に限り推薦することができる。
5 日本学術会議会員は、その所属する部に相当する分科の候補者に限り推薦することができる。

日本学術会議と日本学士院は、お互いの構成員が構成員を選考する関係にあります。

よって、「OB組織」とまではいかないまでも、日本学術会議の委員になればその人脈によって、終身年金がもらえる日本学士院の委員になる可能性が高くなる、そういう実態があるのではないか?という疑問が出てくるのは自然なことだと思います。

 

以上

北大名誉教授「学術会議幹部が北大総長室に押しかけ船の抵抗を減らす研究を辞退させた」

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https://www.facebook.com/tadashi.narabayashi

北大名誉教授から「日本学術会議による学問の自由の侵害」の実態が暴露されました。

北大名誉教授「学術会議幹部が北大総長室に押しかけた」

【第724回】学術会議こそ学問の自由を守れ « 今週の直言 « 公益財団法人 国家基本問題研究所

実例を一つ挙げる。北大は2016年度、防衛省の安全保障技術研究推進制度に応募し、微細な泡で船底を覆い船の航行の抵抗を減らすM教授(流体力学)の研究が採択された。この研究は自衛隊の艦艇のみならず、民間のタンカーや船舶の燃費が10%低減される画期的なものである。このような優れた研究を学術会議が「軍事研究」と決めつけ、2017年3月24日付の「軍事的安全保障研究に関する声明」で批判した。学術会議幹部は北大総長室に押しかけ、ついに2018年に研究を辞退させた。

国家基本問題研究所のHPにおいて、同理事の北大名誉教授、奈良林直教授が「学術会議幹部が北大総長室に押しかけ船の航行の抵抗を減らす研究を辞退させた」という経緯を暴露しました。

これこそ「学問の自由の侵害」ですね。

日本学術会議は内閣府の特別の機関たる行政機関であり委員は特別職国家公務員です。

※追記

【訂正】
 当初の原稿では「学術会議幹部は北大総長室に押しかけ、ついに2018年に研究を辞退させた」としましたが、学術会議幹部が北大総長室に押しかけた事実はありませんでしたので、「学術会議からの事実上の圧力で、北大はついに2018年に研究を辞退した」と訂正します。

北海道大学教授の反応

北海道大学教授の永田晴紀氏はこのような実害を被っていたことをツイート。

その他、事情を知ってそうな人の反応

中国の軍事研究との関係には無頓着な日本学術会議

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日本学術会議が中国科学技術協会と協力覚書:長尾たかし議員「中国国防部の傘下の中国工程院と提携」 - 事実を整える

どういう内容の提携なのかは日本学術会議のページからは不明です。

※追記:10月9日に覚書がUPされました。

日本学術会議と中国科学技術協会間の協力覚書が公開:大西隆元会長時代に署名

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上図を見るとわかりますが、全国組織が張り巡らされ、工場・企業・高等教育機関・街道・郷・鎮レベルにも下部組織が設置されていると書かれています。

こんなの、共産党組織に紐づいていないと不可能です。

さらに、中国科学技術協会は中国国防部傘下の中国工程院と提携しているとの指摘。

千人計画に関与している中国科学協会

甘利明「日本学術会議は中国の千人計画に協力」学問の自由を侵害してるのは誰か - 事実を整える

甘利明議員が言う「日本学術会議は中国の千人計画に協力」という表現は微妙ですが、少なくとも日本学術会議は、大学に対して軍事研究どころかそれに至らない軍事的安全保障研究に関して制限を求めているにもかかわらず、チャイナの軍事研究に寄与するおそれの高い千人計画に関与してしまうことについて無頓着であるということは言えます。

千人計画には中国科学技術部、中国科学協会が関与し、中国科学院及び中国工程院の院士への道とされています:「千人計画」 | SciencePortal China

上記ページでの触れ込みは単に「海外ハイレベル人材招致」を目的としていますが、アメリカにおける実態は各界の主要人物を買収して機密情報を盗む動きであり、輸出規制など法規制も無視した行為が行われています。

たとえばFBI長官の演説のトランスクリプト。

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FBI長官演説「中国は悪意に満ちたわいろ、恐喝、裏取引を使った外交をする」

10億円にとどまらない影響力も:4兆円の予算に影響

学術会議会員は特別国家公務員 研究予算配分に影響力 (写真=共同) :日本経済新聞

同会議は政府の4兆円の研究予算配分に一定の影響力を持つ。学術会議は大型研究プロジェクトに関する方針「マスタープラン」を策定する。文部科学省はこれを参考にしながら優先的に進める研究計画を決める

さらに、日本学術協会はその予算の10億円にとどまらない影響力が指摘されてます。

こうした組織(委員は特別職国家公務員の行政機関)は、運営の透明性を確保するべきでしょう。

以上

日本学術会議が中国科学技術協会と協力覚書:長尾たかし議員「中国国防部の傘下の中国工程院と提携」

日本学術会議が中国科学技術協会と協力覚書

日本学術会議が中国科学技術協会と協力覚書を署名していることについて。

日本学術会議が中国科学技術協会と協力覚書

その他の二国間交流|日本学術会議魚拓

平成27年9月7日、中国科学技術協会(中国・北京)において、大西隆日本学術会議会長と韓啓徳中国科学技術協会会長との間で、両機関における協力の促進を図ることを目的とした覚書が締結されました。

日本学術会議が中国科学技術協会と協力覚書を署名していることは日本学術会議のHPからも分かることです。

この中国科学技術協会の性質については以下指摘があります。

中国科学技術協会は中国国防部の傘下の中国工程院と提携

チャイナにはアカデミー機関として中国科学院・中国社会科学院・中国科学技術協会がありますが、中国科学技術協会は民間組織です。

参考:各国アカデミー等調査結果

ただ、チャイナのことなので、民間組織であっても共産党中央政府の影響力が及ぶことがあるということは常識でしょう。民間企業であってもそうなのですから。

上図を見るとわかりますが、全国組織が張り巡らされ、工場・企業・高等教育機関・街道・郷・鎮レベルにも下部組織が設置されていると書かれています。

こんなの、共産党組織に紐づいていないと不可能です。

日本学術会議の場合は7地域と都道府県レベルで地区会議がある程度です

参考:地区会議|日本学術会議

で、長尾たかし議員は以下指摘しています。

中国科学技術協会は、事実上、中国国防部の傘下である中国工程院と提携と。

 

日本政府、文科省や他国も協力覚書

文部科学省における科学技術外交の近年の事例について 「日本-中国国際共同研究イノベーション拠点構築に関する協力覚書」に署名

そして、日本政府・文科省もチャイナ側と研究分野に関する協力覚書を署名したりしています。同様のことはイギリスなど海外諸国も行っています。

「科学技術革新協力覚書」に中国と英国が署名--人民網日本語版--人民日報

本質論:テクノロジーの流出を防げるか

この話の本質論は、国家防衛にとって重要なテクノロジーの流出を防げる体制になっているか否かであって、相手がチャイナだからといってその交流自体を責めるのは筋が悪すぎるのではないでしょうか?

日本学術会議のダブルスタンダード

もっとも、日本学術会議は軍事研究の禁止を謳い、さらにはそれに至らない軍事的安全保障研究に関しても、大学等の各機関に対し、「軍事転用されないように気を付けろ」と制限を設けるよう事実上の要請をしています。

日本学術会議のこうしたダブルスタンダードは見直されるべきであり、その限りで中国科学技術協会との関係性を責めるのであれば、それは十分正当な主張だと思います。

以上

自治労が支持基盤の立憲枝野氏、日本学術会議法「首相が判断できない書き方」⇒労組法裁判例「総理の広汎な裁量」

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自治労が支持基盤の立憲枝野氏、それで大丈夫か?

立憲枝野氏、日本学術会議法「勝手に首相が判断できない書き方」

日本学術会議法は会員について、学術会議の推薦に基づいて首相が任命すると規定しており、枝野氏は「勝手に首相が判断できない書き方になっているのは明確だ」と語った

立憲民主党の枝野幸男議員が、日本学術会議法は「勝手に首相が判断できない書き方になっているのは明確だ」と言っています。

そんな法令解釈で大丈夫か?

日本学術会議法「推薦に基づいて内閣総理大臣が任命する」

 日本学術会議法

第七条 日本学術会議は、二百十人の日本学術会議会員(以下「会員」という。)をもつて、これを組織する。
2 会員は、第十七条の規定による推薦に基づいて、内閣総理大臣が任命する。

第十七条 日本学術会議は、規則で定めるところにより、優れた研究又は業績がある科学者のうちから会員の候補者を選考し、内閣府令で定めるところにより、内閣総理大臣に推薦するものとする。

日本学術会議法の関連規定はこちら。

〇〇の推薦に基づいて△△が任命する」 という書きぶりの法律は他にもあります。

労働組合法上の推薦に基づく総理・知事の任命権

「推薦に基づいて任命」について司法試験法と労働組合法から考える|Nathan(ねーさん)|note

労働組合法の19条の3と19条の12では以下書かれています(かっこ書が長いので関連部分を抽出)。

  1. 中央労働委員会の使用者委員は使用者団体の推薦に基づいて、労働者委員は労働組合の推薦に基づいて内閣総理大臣が任命する
  2. 都道府県労働委員会の使用者委員は使用者団体の推薦に基づいて、労働者委員は労働組合の推薦に基づいて都道府県知事が任命する

さらに、労働組合法施行令20条1項・21条1項において「内閣総理大臣は/都道府県知事は…に対して候補者の推薦を求め、その推薦があつた者のうちから任命するものとする。」とまで規定されています。

この場合の任命裁量について争われた裁判例があります。

自治労(全日本自治団体労働組合)を支持基盤とする枝野弁護士なら、当然知っているはずの裁判例のはずです。

東京高裁「内閣総理大臣の広汎な裁量」

東京高裁平成10年9月29日判決 平成9(行コ)76 中央労働委員会労働者委員任命処分取消等請求事件

</要旨> 国の行政府の長である内閣総理大臣が、労働組合の推薦する候補者の中からいかなる者を労働者委員として任命するかは、その広汎な裁量にゆだねられたものというべきであって、その裁量権の行使に当たっては、労組法の立法趣旨はもとより、労働者委員の果たしてきた、また果たすべき役割や労働界の実情等さきに詳細に認定した諸般の事情を十分に斟酌することが期待されるものではあるが、労組法の予定するその裁量権の制限が右に説示したとおりであることに照らせば、その任命に当たり、労組法が規定する労働組合から推薦された候補者を当初から審査の対象から除外したり、あるいはこれを除外したと同様の取扱いをするなど、右推薦制度を設けた趣旨を没却するような特別の事情が認められない限りは、その任命の当否について内閣総理大臣の政治的責任が問われることがあっても、裁量権の濫用ないし逸脱があるとして民事法上の違法の問題が生じる余地はないものと解するのが相当である。

中央労働委員会の委員の推薦ー任命について争われた事案の東京高裁では、「内閣総理大臣の広汎な裁量」 を認めています。

この際、推薦された候補者を最初から審査の対象外にしたなどの特別事情が無い限り、違法の問題が生じる余地は無いとしています。

単に「政治的責任」が問われうるにとどまるとされています。

大阪地裁「推薦に基づいて任命する場合の任命権者には、裁量権が与えられており」

都道府県労働委員会の委員の推薦に関する知事の任命裁量についても争われました。

大阪地裁昭和58年2月24日判決 昭和57(行ウ)31 大阪地労委委員任命処分取消事件

これらの規定の趣旨は、候補者の推薦をした労働組合に対し、その推薦をした候補者が知事から必ず任命されることまでも保障したものでないことは、推薦の性質上当然である。
 しかし、知事は、労働組合の推薦を受けていない者を労働者委員に任命することはできないから、その意味では、推薦は、被告の任命行為を拘束する性質をもつとしなければならない。すなわち、労働組合が候補者を推薦することは、知事が任命行為を行う際の単なる一資料にとどまるものではなく、それによつて、右候補者が、推薦を受けた候補者全員の中の一人として、知事が任命を行う際の対象となるのである。したがつて、労働組合の推薦した候補者が、正当な事由がないのにこの対象から除外され、又はこれと同視しうる扱いを受けたときには、その任命手続は違法であるといわなければならず、そのような労働組合の推薦による効果は、前記法条によつて与えられているものであるから、それは、推薦をした労働組合にとつて法律上の利益というべきである。同原告がいう、被告の任命権行使の過程において、推薦した候補者が公正で差別なき判断を受け、適切な考慮の対象となつていることを求めるとは、この趣旨に解せられる。
 そのうえ、労働委員会の制度は、憲法が保障している労働者の労働基本権を擁護し実現する目的で設けられたものであり、同委員会の委員の構成には公益委員のほかに利益代表委員としての労働者委員と使用者委員の参加を求めており、法令の定めによつて労働者委員の任命は労働組合から推薦された候補者の中からのみ行うものとされていること及び労働組合は、組合員の利益を擁護するだけではなく、組合固有の法上の利益を享受していることに照らすと、本件のような推薦制度のもとでは、推薦された候補者に対してのみ任命処分が適法になされることを争いうる地位を保障するだけではなく、候補者を推薦した労働組合に対しても、任命処分が違法になされたときにはこれを争いうる地位を保障し、推薦の効果が任命手続に反映されるように法的に保護していると解するのが、労働委員会や労働組合の本質に合致するのである。

中略

したがつて、知事は、推薦があつた候補者の中から労働者委員を任命しなければならず、労働組合から推薦されなかつた者を労働者委員に任命することは裁量権の範囲を逸脱したものとして許されない。
 また、前に説示したように本件推薦制度の趣旨に照らし、労働組合から推薦された者全員を審査の対象にしなければならないから、推薦された者の一部をまつたく審査の対象にしなかつた場合にも、推薦制度の趣旨を没却するものとして、裁量権の濫用があつたとしなければならない。
 しかしながら、推薦は、指名とは異なるから、推薦に基づいて任命する場合の任命権者には、裁量権が与えられており、推薦された者が審査の対象とされた以上、推薦された候補者が労働者委員に任命されなかつたからといつて、直ちに裁量権の濫用があつたとするわけにはいかない

  1. 推薦された候補者のみならず推薦した労働組合も任命処分を争う地位がある
    ※追記:控訴審の大阪高裁判決 昭和58年10月27日 昭和58(行コ)12 昭和58(行コ)12にて労働組合の訴えの利益は否定された。
  2. 推薦をした候補者が知事から必ず任命されることまでも保障したものでないことは、推薦の性質上当然
  3. 推薦に基づいて任命する場合の任命権者には、裁量権が与えられている
  4. 労働組合から推薦されなかつた者を労働者委員に任命することは裁量権の範囲を逸脱したものとして許されない
  5. 推薦された者の一部をまつたく審査の対象にしなかつた場合にも、推薦制度の趣旨を没却するものとして、裁量権の濫用があつたとしなければならない

大阪地裁も「推薦に基づいて任命する場合の任命権者には、裁量権が与えられており」と判示しています。

こうした裁判例がある中では「〇〇の推薦に基づいて△△が任命する」と書いてあるということは首相が判断できない書き方だ、と言うことは非常に困難でしょう。

少なくとも何らかの説明が必要でしょう。

しかも、日本学術会議はさらに異なる事情があります。

日本学術会議は行政機関

日本学術会議の推薦に対する任命拒否に関する法解釈上の論点整理 - 事実を整える

ここでは日本学術会議が内閣の特別の機関たる行政機関であること、憲法72条で内閣に行政各部の指揮監督権があること、内閣法で内閣総理大臣が主任の大臣を務める内閣官房では国家公務員の人事行政に関する事務(他の行政機関の所掌に属するものを除く。)をつかさどることとなっていることなどを指摘しています。

たしかに日本学術会議は「独立した機関」と言われることがありますが、それは日本学術会議法に基づいた話であって、法律上は以下の規定ぶりです。

第三条 日本学術会議は、独立して左の職務を行う
一 科学に関する重要事項を審議し、その実現を図ること。
二 科学に関する研究の連絡を図り、その能率を向上させること。

人事権についても完全に独立して決められると言えるでしょうか?

こうした構造である以上「日本学術会議法上の内閣総理大臣の任命裁量はまったく無く、単なる形式的なものである」という主張は相当の論証が必要でしょう。

なお、過去の国会答弁は民間団体たる学協会からの推薦に基づいていた頃のものであって、現在は妥当しないと考えられ、政府見解は「変更」されたのではなく過去の答弁とは無関係であることにつき以下でまとめています。

日本学術会議の委員は総理大臣の形式的任命という過去の政府見解について - 事実を整える

以上

アメリカが共産党員やその関係者の移民を禁止に

アメリカが共産党・独裁政党員とその関係者は特別許可がない限り移民を禁止に

 

アメリカが共産党員やその関係者の移民を禁止にしました。

アメリカ移民局の共産党員禁止ポリシー

Policy Manual | USCIS

October 2, 2020 PA-2020-16
Policy Alert
SUBJECT: Inadmissibility Based on Membership in a Totalitarian Party

In general, unless otherwise exempt, any immigrant who is or has been a member of or affiliated with the Communist or any other totalitarian party (or subdivision or affiliate), domestic or foreign, is inadmissible to the United States. This ground of inadmissibility only applies to aliens seeking immigrant status, such as aliens inside the United States applying to adjust status to that of a lawful permanent resident.

10月2日に公表されたアメリカ移民局のポリシーによれば、原則として特別の許可が無い限り、米国内外において共産党や全体主義政党(その支部も含む)の党員やその関係者である又はそうであった者は、移民受け入れを不許可とすることとなりました。

この不許可理由は、米国内の外国人が合法的な永住者のステータスを得るために申請する場合など、移民ステータスを求める者にのみ適用されます。

日本共産党も対象に

日本共産党も対象になるということです。

ですから、共産党員になった者はアメリカに移住して移民ステータスを得ることは基本的にできなくなりました。

大使館員やビジネス・観光目的で入国することは可能

この書きぶりだと、チャイナの大使館員やビジネス・観光目的での入国は依然として可能であると理解できます。

とはいえ、移民ステータスを得る際に共産党員やその関連組織であるかどうかをチェックするという運用が取られることが明確化されたということはアメリカの国防政策上、非常にインパクトが大きいでしょう。

中国人移民による都市の乗っ取りが無くなるか

アメリカ西海岸の都市などではチャイナタウンができていますが、この政策によってそうした特徴のある都市は消滅していくのではないでしょうか?

以上