事実を整える

Nathan(ねーさん) 法的観点を含む社会問題についても、事実に基づいて整理します。

ウーバーイーツ配達員の団体交渉が拒否:労働組合法上の労働者性はあるのか

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ウーバーイーツユニオンを名乗る集団がウーバージャパン社に対して団体交渉を求めましたが拒否されました。

これは妥当な結果なのでしょうか?

過去の判例と比較してみます。

Uber Japanがウーバーイーツユニオンの団体交渉を拒否

ウーバーイーツの団体交渉拒否文書

団体交渉=団交というのは、任意の交渉要求ではなく、法的な根拠のある要求です。

労働組合法上の交渉権限

日本国憲法

〔勤労者の団結権及び団体行動権〕

第二十八条 勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利は、これを保障する。

労働組合法

第二条 この法律で「労働組合」とは、労働者が主体となつて自主的に労働条件の維持改善その他経済的地位の向上を図ることを主たる目的として組織する団体又はその連合団体をいう。 以下省略

(交渉権限)
第六条 労働組合の代表者又は労働組合の委任を受けた者は、労働組合又は組合員のために使用者又はその団体と労働協約の締結その他の事項に関して交渉する権限を有する。

労働組合に交渉権限があり、使用者には交渉に応じる義務があるというのは、憲法28条を受けて労働組合法で定めがあるからです。

憲法上の「勤労者」とは「労働者」と同義であり、使用者に対する従属的地位のゆえに、労働基本権の保障なしには経済的地位の向上に実質的に関与しえない者*1などと言われることがあります。

これは労働基準法上の労働者の定義よりも広いとされています。

しかし、ウーバーイーツユニオンは現時点では法律上の労働組合ではないようです。

ウーバーイーツユニオンは現時点では労働委員会の認定を受けていない

労働組合法

(労働組合として設立されたものの取扱)
第五条 労働組合は、労働委員会に証拠を提出して第二条及び第二項の規定に適合することを立証しなければ、この法律に規定する手続に参与する資格を有せず、且つ、この法律に規定する救済を与えられない。但し、第七条第一号の規定に基く個々の労働者に対する保護を否定する趣旨に解釈されるべきではない。

労働組合法を見てもわかるように、労働組合として団体交渉を行うためには「労働者」で組織されていなければならず、且つ、労働委員会に認定を受けなければならないのです。

したがって、今回ウーバーイーツユニオンが団交拒否されたのは、(妥当性は措いておくとして)法的には当然、ということになります。

労働委員会は都道府県に設置されるので、この場合は東京都のページを見てみます。

労働委員会による労働組合の資格審査

労働組合の資格審査|東京都労働委員会

労働組合の資格審査
 労働組合を設立したことを会社や官公署に届け出る必要はありません。
 ただし、以下の場合には、その都度、労働委員会において、労働組合法で定めた要件を備えている労働組合であるかどうかについて、審査を受ける必要があります。
・ 不当労働行為の救済を申し立てるとき
・ 法人として登記するために必要な資格証明書の交付を受けるとき
・ 労働者供給事業を行う許可を申請するとき
・ 労働委員会の労働委員候補者を推薦するとき

不当労働行為」は労働組合法7条で禁止されている行為で、「使用者が雇用する労働者の代表者と団体交渉をすることを正当な理由がなくて拒むこと」などが定められています。

ウーバーイーツユニオンは現時点では労働委員会に認定されていませんが、今回の団交拒否が不当労働行為であるとして争う場合に労働委員会に審査を申し出る可能性があります。

さて、ウーバーイーツの配達員らは、「労組法上の労働者」なのでしょうか?

任意の「交渉」=改善要求は妨げられていない

なお、ウーバージャパン社は法律上の根拠のある団体交渉は拒否しましたが、アプリを通じて連絡するように、とは書いてありますが、任意の交渉=改善要求まで妨げられているわけではありません。

労働組合法に関する最高裁判例

労働組合法上の労働者の定義

労働組合法上の労働者の判断指標を提供している最高裁判例としては、新国立劇場事件INAXメンテナンス事件ビクターサービスエンジニアリング事件があります。

これらの判例から導き出される実務上の労働者性判断の指標が厚生労働省の労使関係法研究会報告書で分析されています。

  1. 事業組織への組み入れ
  2. 契約内容の一方的・定型的決定
  3. 報酬の労務対価性
  4. 業務の依頼に応ずべき関係
  5. 指揮監督下での労務提供・一定の時間的場所的拘束
  6. 顕著な事業者性

1~3は基本的判断要素、4,5は補充的判断要素、6は労働者性を否定する特段の事情として扱われています。

では、果たしてウーバーイーツにはこれらが認められるのでしょうか?

ウーバーイーツの仕組みの図解

ウーバーイーツの仕組みを理解しないと始まりません。

マッチングアプリの役割

ウーバーイーツの仕組みの図解

 

ウーバーイーツはマッチングアプリの役割です。

  1. 食事を取り寄せたい注文者
  2. 食事の配達をしたいレストラン等の店舗
  3. 配達の仕事で稼ぎたい配達員

この3者のニーズを満たす仕組みを提供していると言えるでしょう。

注文・調理・配達と報酬

ウーバーイーツの仕組みをわかりやすく説明

ウーバーイーツアプリを介してやりとりが行われます。

  1. 注文者がメニューから食事を選択して注文
  2. 注文に該当する商品を作っている登録レストランパートナーが調理
  3. 登録配達パートナーがピックアップしてお届け

注文者は食事代、配達員には配達報酬が支払われます。

レストランに対しては料理代が支払われますが、ウーバーイーツを介して注文を獲得できたことに対するサービス料がかかります。売り上げに対して一定の割合がかかるようになっています。

ウーバーイーツ配達員の証言と「雇用」実態

ウーバー社と配達員は労組法上の労働者なのか?

時間的拘束が無い出前

出前サービスはその店舗で働いている人が行いますが、ウーバーイーツは、そもそも好きな時に働けるので、仕事を受けたくない日はまったく何もしなくともよいという自由があります。

時間的場所的拘束が無いということです。

応答拒否もキャンセルも可能

アプリにログインしていても、応答拒否・配達キャンセルが可能です。

応答した後に地図上の場所を見てみたら、集荷場所と配達場所が遠方であるとかその他諸々の事情でキャンセルすることがあるようです。

配達員の主観としても応答しないことがありうるということが明らかですから、判例の言う「業務の依頼に応ずべき関係」があると言うのは難しいでしょう。

なお、コミュニティガイドラインでは、配達員の応答率とキャンセル率は、地域の平均よりも大幅に悪化している場合にはアプリへのログイン停止やアカウント停止のペナルティがあると記載されています。

受けたくない場合には「アプリにログインしない」を選択するべきと書かれています。

米労働関係委員会:Uberドライバーは「従業員ではない」

Uberドライバーは「従業員ではない」と米労働関係委員会が裁定 – TechCrunch Japan

「ドライバーは自分の車、作業スケジュール、および作業場所に関する事実上完全な自由を有し、Uberの競合他社で働く自由があり、大きな起業機会も与えられている」と文書に書かれている。「任意の日の任意の空き時間に、UberXドライバーは自らの経済目標に最適な行動を選ぶことができる。アプリ経由で乗車リクエストに答えることも、競合するライドシェアリングサービスに従事することも、まったく異なる事業に挑戦することもできる。Uberが乗客の要求に答えるために利用しているサージプライシングなどの経済的インセンティブは、Uberの「無干渉」なアプローチを反映しているだけでなく、ドライバーの起業機会をいっそう促進するものである」。

アメリカの労働関係委員会は、その働き方の自由さからUberドライバーを「従業員」ではないと認定しました。

裁判になったらどうなるかは未だ読めないですが、日本における判断を予測する上では重要でしょう。

まとめ:配達員の稼働実態は事業者か

細かい検討は抜きにして判例とウーバーイーツ配達員の稼働実態を見ると、労働組合法上の労働者と認定されるかというと、疑問に思わざるを得ません。

配達員の稼働実態は事業者であり、その事が不都合を生じさせているのであれば配達員からの改善要求は妨げられていませんのでどんどん指摘すればいいと思います。

現状では不当な結果になってしまうのであれば、労組法を改正したり特別法を立法するべきではないかと思います。

以上

*1:労働組合法第3版 西谷敏

饗宴の儀のネット中継視聴ページ

即位礼正殿の儀

即位礼正殿の儀の後に執り行われる饗宴の儀のネット中継ページを紹介します。

皇居での饗宴の儀のネット中継視聴ページ

即位礼正殿の儀とは変わって饗宴の儀をネット中継するところは限られています。

THE PAGE

THE PAGEでは18時45から中継することなっています。

ニコニコ生放送

ニコニコ生放送は18時35分から放送開始です。

こちらはタイムシフト予約がありますが、登録が必要です。

政府インターネットテレビや首相官邸は中継無し

即位礼正殿の儀をライブ配信していた政府インターネットテレビや首相官邸YouTubeチャンネルは、饗宴の儀については中継しないようです。

即位礼正殿の儀のアーカイブ視聴ページ

首相官邸YouTubeチャンネル

首相官邸YouTubeチャンネルのライブ配信ページがそのまま使えます。

天皇皇后両陛下がお出ましになるのは26分くらいからです。

THE PAGEのYouTubeライブ配信のページ

THE PAGEのYouTubeライブ配信のページは、参列者が到着する様子を見ることができます。

天皇皇后両陛下がお出ましになって儀式が始まるのは2時間25分あたりからです。

ANNは儀式の部分をノーカットでアーカイブ

ANNは儀式の10分間だけを配信しています。

以上

即位礼正殿の儀のアーカイブを視聴する方法

即位礼正殿の儀

10月22日13時頃から執り行われた即位礼正殿の儀

アーカイブ視聴できるページのリンクを貼っておきます。

即位礼正殿の儀をアーカイブ視聴する方法

即位礼正殿の儀は10月22日の13時頃から開始されました。

その前に天皇皇后両陛下が賢所大前の儀を執り行ったり、各国・各界の参列者の参集の様子などを配信しているところがあります。

首相官邸YouTubeチャンネル

首相官邸YouTubeチャンネルのライブ配信ページがそのまま使えます。

THE PAGEのYouTubeライブ配信のページ

THE PAGEのYouTubeライブ配信のページは、参列者が到着する様子を見ることができます。

天皇皇后両陛下がお出ましになって儀式が始まるのは2時間25分あたりからです。

ANNは儀式の部分をノーカットでアーカイブ

儀式自体は10分程度でお開きになったので、ANNはその部分だけを配信しています。

テレ東NEWSでは参列者が皇居に到着する様子を配信

このページでは即位礼正殿の儀は映されていませんが、その前の各国・各界の参列者が皇居に到着する様子を見ることができます。

賢所大前の儀

天照大神が祀られている賢所において、これから即礼正殿の儀を執り行うことを報告するという儀式、賢所大前の儀(かしこどころおんまえのぎ)が先んじて行われていました。

皇居での饗宴の儀もネット中継

ニコニコ生放送やTHE PAGEでは饗宴の儀もネット中継するようです。

時間はそれぞれ18時35分、18時45からとなっています。

以上

女性宮家創設は天皇陛下・上皇陛下の御意思・御意向なのか

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 「女性宮家創設が天皇陛下・上皇陛下の御意思である」 という言説が振り撒かれていた時期がありました。

そのようなことが示されたということはありませんので事実関係を整理します。

女性宮家創設は天皇陛下、上皇陛下の御意思・御意向なのか

女性宮家創設は天皇陛下の御意思なのかについては政府答弁があります。

「羽毛田宮内庁長官が女性宮家創設の方針」という報道

○有村治子君 民主党政権になってからのこの二年半、先ほども同僚の世耕議員が指摘されました、皇室に対する数々の非礼が報道されるたびに、私たち自由民主党は民主党に是正を申し入れてきました。
 先月から皇室制度に関する有識者ヒアリングが始まりましたが、皇室に対する尊敬の念、基本的知識すら、官房長官すら持たない方、そんな人たちが皇室制度をいじろうとしていることに国民の危惧が上がっています。
 そこで、宮内庁に伺います。昨年秋、宮内庁長官が、女性宮家創設によって皇族方の減少を食い止めることが喫緊の課題だと総理に伝えたことを読売新聞がスクープしています。一方で、週刊朝日は、長官がこれを否定する旨の記事が出されています。一体どちらが真実ですか。

当時の宮内庁長官である羽毛田信吾氏について、「長官は天皇陛下の意向を受けて発信している」という報道がこの時期、多くありました。

その中で、読売新聞が女性宮家創設が喫緊の課題であると報道しました。

読売新聞の報道内容を否定する週刊朝日の記事

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https://web.archive.org/web/20111127093758/http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20111125-OYT1T00085.htm

読売新聞の上記記事はネット上では消されていますが、魚拓があります。

しかし、『週刊朝日』平成23年12月30日号の掲載記事の中で、岩井克己記者は「女性宮家は天皇陛下のご意向であることを、羽毛田長官が強く否定している」旨、明言しています。

さらに、風岡典之宮内庁次官も事実関係を否定しています。

風岡典之宮内庁次官、「陛下の意思」を完全否定

第180回国会 参議院予算委員会 6号 平成24年03月12日

○有村治子君 では、女性宮家創設は陛下の御意思なのですか
○政府参考人(風岡典之君) ただいま申し上げましたように、宮内庁としては特に具体策についてお願いをしているわけでございません。こういう現状の中で、課題がありますので、それについては政府の方で御検討をお願いしていると、こういうことでございます。
○有村治子君 答えになっていません。陛下の御意思かどうかを聞いています。
○政府参考人(風岡典之君) 陛下は、憲法上、国政に関する権能を有しないというお立場でございますので、制度的なことについては特に発言をしておりません。
○有村治子君 そのとおりです。女性宮家創設は陛下の御意思ではないということが国会答弁で明確になります。陛下の御意思ではありません。陛下の御意思という言葉がまことしやかに使われ、独り歩きすることのないよう、政府は引き続き真実に対して忠実であっていただきたいと思います。

このように国会答弁で明確に否定されましたので、騙されないようにしてください。

このような流言が出てくるほど、女系天皇とそれに繋がる形での女性宮家の創設を推し進める者が居るのだという現状を認識しなければなりません。

実は、それ以前も女性宮家創設に向けた動きがいくつもありました。

悠仁さまご誕生前の皇室典範に関する有識者会議

女性宮家の創設の話は、悠仁親王殿下がお生まれになる前の【皇室典範に関する有識者会議】に遡ります。「女性宮家」については検討の跡が無いが、女系天皇や女性天皇など、それに繋がる議論がなされています。

この会議が平成17年に出した報告書とその資料所々に女系天皇容認論への誘導が含まれており、悪質です。

女系天皇・女性天皇の議論は、当時は悠仁さまがお生まれになる前の話なのでやむを得ない面があったのは確かですが、それでも旧皇族の復帰等を優先的に検討しない理由にはなりません。

どうも、女系天皇を誕生させようと意図的に画策している者が居るようです。

参考:【女系天皇・女性天皇・女性宮家】皇室典範に関する有識者会議の報告書のデタラメぶり

民主党政権下の平成24年の皇室典範に関する有識者ヒアリング

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その後、女性宮家の創設が公に提唱されるようになったのが民主党政権下の平成24年の【皇室典範に関する有識者ヒアリング】です。

皇室制度に関する有識者ヒアリングを踏まえた論点整理では、皇位継承問題と皇族の減少問題を切り離し、後者の解決策として女性宮家の創設を検討するという方針が示されました。

これが【天皇の退位等に関する皇室典範特例法 法律第六十三号(平二九・六・一六)】(天皇の譲位について定めた法律)が成立するにあたって、衆参両議院においてなされた附帯決議につながります。

天皇の退位等に関する皇室典範特例法案:参議院

衆議院附帯決議(平成二九年六月一日)参議院附帯決議(平成二九年六月七日)

一 政府は、安定的な皇位継承を確保するための諸課題、女性宮家の創設等について、皇族方の御年齢からしても先延ばしすることはできない重要な課題であることに鑑み、本法施行後速やかに、皇族方の御事情等を踏まえ、全体として整合性が取れるよう検討を行い、その結果を、速やかに国会に報告すること。

「安定的な皇位継承を確保するための諸課題、女性宮家の創設等について」

というふうに、別々の問題として扱うことが文言としても表現されています。

「菅官房長官の意向」というフェイクも

こういった経緯、つまり法律の付帯決議に「女性宮家を議論する」と書いてあるため、現政権もむげには扱えないというだけの話であり(しかもこの付帯決議は野党側の要請だった)、現政権の誰かの思惑によって決まっているということではありません。

しかし、菅官房長官が女性宮家を推進しているというなどという言説がネット上で振りまかれるなど、この話は常に嘘情報が拡散されています。

今後もこの類の話が出てくる可能性が高いため、報道に飛びつくのはやめたほうがよいでしょうね。

以上

【もう一つの9条】旧宮家男子の皇室への養子縁組と歴史上の前例

皇位継承問題(後継ぎの不足)に対応するため、旧皇族(旧宮家)の男系男子を皇室に養子縁組するという方法が考えられています。

その歴史上の前例と法的な障害について簡単に整理します。

皇室の養子縁組・猶子の歴史上の前例

皇族の「養子」に関する史的考察 所功を参考にしていきます。

猶子(ゆうし)・実子とはどういう意味か

皇族の養子は「猶子」(ゆうし)とも言います。

また、「実子」という言葉も「実の子と同じ扱い」という意味であり、養子と猶子と同じ意味で使われていました。

皇族の養子・猶子の歴史上の事例

 

皇室における養子は大別すると以下の場合になります。

  1. 皇位の直系継承を擬制することを目的として、養子をするもの。
  2. 親王宣下を目的として、養子をするもの。
  3. 世襲親王家や寺家等の家の継承を目的として、養子をするもの。
  4. 天皇・上皇が、特別の恩寵により、皇族を養子とするもの。

ここでは1,2番目のみを取り上げます。

皇位継承の目的で養子をする例

皇族の養子に関する歴史上の例

皇族の「養子」に関する史的考察 所功 88頁

代表的な例として後花園天皇(彦仁王)と光格天皇(兼仁親王)があります。

いずれも血縁で見れば先代の天皇から7親等離れています。朝廷内の権力争いや近親者の病死によって後継ぎ問題が生じていたために遠縁の皇族を天皇の養子にして皇位継承の正統性を与えようとしたことがわかります。

親王宣下を目的とした養子

親王宣下を受けることを目的として,養子となる例

  • 921年,宇多上皇(第 59 代宇多天皇)と藤原褒子の間に生まれた皇子(雅明)は、宇田上皇が出家後に誕生したため、醍醐天皇の子として親王宣下
  • 1019年,敦明親王の王子・王女を敦明親王の父に当たる三条上皇(第67代三条天皇)の子として親王宣下
  • 1455年,第94代後二条天皇の5世孫邦康王を後崇光上皇(貞成親王)の猶子として親王宣下

親王宣下(しんのうせんげ)とは、皇族の子女に親王・内親王の位を与えることです。

親王と王とでは位の違いはありますが、皇位継承権の有る無しの話ではありません。

現行皇室典範第六条では、「嫡出の皇子及び嫡男系嫡出の皇孫は、男を親王、女を内親王とし、三世以下の嫡男系嫡出の子孫は、男を王、女を女王とする」とあるように、「三世」という基準を設けています。

皇族の養子になっただけでは皇籍復帰はしない?

あの悪名高い平成17年の皇室典範に関する有識者会議報告書参考資料では「養子になっただけでは皇籍復帰せず、別に親王宣下を蒙れば皇籍復帰する」と書かれているところがあります。

しかし、醍醐天皇は仁和3年(887年)、父の皇籍復帰と即位(宇多天皇)に伴い、皇族に列することになった3年後の寛平元年12月28日(890年1月22日)に親王宣下を受けているので、皇籍復帰と親王宣下は連動していません。

そもそも親王宣下は親王の位を授ける行為なので、「皇族たる王」が皇族ではないことになるのでおかしい。

一般国民たる男子が皇族の養子になれば皇族になるわけではないというのは、確かに概念上はそうなのかもしれません。しかし、実際には「皇籍復帰」が伴うため、考える必要のない事項でしょう。

むしろ、現代では別の問題があります。

もう一つの9条

現行皇室典範の規定は、養子を禁止しているのです。

 

現皇室典範9条の規定

皇室典範

第九条 天皇及び皇族は、養子をすることができない。

したがって、旧皇族の男子を皇族の養子とするためには、皇室典範9条を改正しなければなりません。

もう一つの9条」と呼ばれたりしています。

旧皇室典範42条も養子を禁止

旧皇室典範

第四二条「皇族ハ養子ヲ為スコトヲ得ス」

伝統的に皇室で養子が行われていましたが、明治以降、養子が禁止されました。

その経緯について皇族の「養子」に関する史的考察 所功から抜粋します。

明治以降、養子が禁止された経緯

旧典範の立法趣旨を振り返ると、起草の途中段階までは親王宣下や庶子継承に伴う養子(猶子)などの是非も論議されていたようです。

しかし、養子・猶子は「古の典礼に非ざる」沿習(因襲)にすぎないとみて、 「宗系紊乱」つまり中国的な宗族(父系同族集団)の系統(同祖子孫秩序)が乱れることを防ぐために禁止したとあります。

その背景をみると、旧典範の制定当時、幕末維新を機に「近代宮家」が次々と創立され、皇族男子の数が段々と多くなっていたことや、皇室典範では「永世皇族制」を認めたため、現に多い皇族が今後ますます増えていくと見込まれていたようです。

それゆえ、養子縁組までして宮家を存続させる必要がなく、むしろそれによって生じがちな混乱を防ぐ必要があった、と考えられています。

憲法2条「世襲」にも抵触しない

日本国憲法

第二条 皇位は、世襲のものであつて、国会の議決した皇室典範の定めるところにより、これを継承する。

世襲」の意味は歴史上、天皇が一定の血縁関係にあるものにより継承されてきたことを指しています。その上で皇室典範で決めると書いてあり、皇室典範第一条では「皇位は、皇統に属する男系の男子が、これを継承する。」とされています。

ですから、「皇族であり」「(歴代天皇の血筋を引く)男系男子」であれば、たとえ養子縁組であったとしても、憲法の規定に抵触しないということになります。

「世襲」に女系が含まれるのかどうかについては戦後の帝国議会等で新憲法制定前に議論がされています。

参考:憲法2条「皇位は世襲のもの」と大日本帝国憲法の「万世一系」の定義・意味とは

「もう一つの9条」改正の必要性と許容性と合理性がある

古の皇室はそのときどきの皇族の数を適切に保つように調節してきたということは、皇族世表にも書かれています。

あまりに多くの皇族が居ると財政的に持たないため、皇室の品格を維持するために3世、4世でもバンバン臣籍降下させていました。

翻って、現在の皇室の状況はどうでしょうか?

「皇族の数が減少している」というのは養子を禁止した趣旨と逆の状況ですから、「もう一つの9条」を改正する必要と合理性はある、つまりは立法事実は確実に存在するでしょう。

自民党有志の提言

旧宮家男子の皇族復帰を可能に 自民有志の提言案 - 産経ニュース

安定的な皇位継承に向け、自民党の保守系有志議員による「日本の尊厳と国益を護(まも)る会」(代表幹事・青山繁晴参院議員)がまとめた提言案が20日、分かった。例外なく父方に天皇がいる男系の継承を堅持し、旧宮家の男子の皇族復帰を可能とする皇室典範の改正か特例法の制定が柱。23日に正式決定後、安倍晋三首相や自民党幹部に直接手渡す方針だ。

そして、令和元年10月20日には、青山繁晴氏らを中心とする自民党の有志が、養子縁組を認めることを含める提言案をまとめました。

内容は大別して3つです。

旧皇族の男系男子の皇籍復帰

これは現在の旧皇族の男系男子が、養子縁組をせずとも皇籍復帰をすることができるようにすることを意味します。

なお、旧皇族の家系がそのまま皇籍復帰するパターンと、男系男子が個人単位で皇籍復帰するパターンが考えられます。

旧宮家男子の天皇・皇族への養子縁組

これが本稿で論じてきた内容です。

運用としては、成人した男子も対象にするのか、それとも皇族としての教育をするために幼少期に皇族として迎え入れるのか、という議論はあるでしょう。

なお、養子縁組は先例に従って正統性を確保する行為なので、皇籍復帰を伴う行為のはずです。

女性宮家創設の否定

旧宮家男子の皇族復帰を可能に 自民有志の提言案 - 産経ニュース

提言案では、女性皇族が結婚後も皇室にとどまる「女性宮家」の創設について、婚姻した民間人男性が皇族となり、男系継承の伝統が途切れる女系天皇の呼び水になりかねないことから、否定的な見解を示す。

女性宮家だと何が問題なのか?

女性宮家創設の問題点と小室圭でまとめていますが、先例が無い上に、女系天皇に繋がりかねず、皇室の乗っ取りが起こるということが問題です。

即位の礼の後に活発化する議論やフェイクに備えよう

安倍総理や菅官房長官は10月の即位の礼の儀式が済み次第、皇位継承問題についての議論を開始すると言っています。

平成17年の皇室典範に関する有識者会議の資料を見てもわかるように、デタラメな説明が横行していた時期があります。

今回もそれ以上にいろんなフェイクが飛び交うことが予想されますが、歴史上の事実をベースに論じている人間こそが、間違いのない説明をしているのだと認識していくべきでしょう。

以上

在韓米大使公邸に親北大学生団体が乱入:警察傍観でウィーン条約違反か

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10月18日、在韓米大使公邸に親北大学生団体が乱入してデモを行いました。

警察も実質的に傍観しており、ウィーン条約違反が濃厚なのでアメリカが国際司法裁判所に提訴するかが注目されます。

在韓米大使公邸に親北大学生団体が乱入:韓国警察傍観

米大使公邸に親北大学生団体が乱入、韓国警察は傍観-Chosun online 朝鮮日報魚拓

 ソウル・南大門警察署は18日、「韓国大学生進歩連合(以下『大進連』)メンバー19人を、米国大使公邸に侵入した容疑など(共同住居侵入、『集会および示威に関する法律』違反など)により現場で全員逮捕した」と発表した。大進連は今夏、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)委員長を称賛する大会をソウルで開いた団体だ。大使公邸はウィーン条約に基づき、韓国警察が保護すべき「特別な義務」を有している。しかし現場警備に立っていた義務警察(兵役の代わりに警察で勤務する警察官)は、デモ隊の乱入を積極的に阻止することはなかった

警察が居たのにデモ隊の乱入を阻止せず、内部でのデモ活動を実質的に容認していたとの報道があります。

これが事実であれば、韓国はウィーン条約に違反しているといえます。

外交関係に関するウィーン条約

外交関係に関するウィーン条約

外交関係に関するウィーン条約には公館の保護義務があります。

「公館の安寧・威厳を守る特別の責務」

外務省: 条約検索 外交関係に関するウィーン条約

第二十二条

2 接受国は、侵入又は損壊に対し使節団の公館を保護するため及び公館の安寧の妨害又は公館の威厳の侵害を防止するため適当なすべての措置を執る特別の責務を有する

韓国警察の怠慢・不作為は、この義務に違反しているでしょう。

ウィーン条約22条2項が問題となったケースとしては1979年の在テヘラン米国大使館員人質事件「United States Diplomatic and Consular Staff in Tehran (United States of America v. Iran)が挙げられます。

国際司法裁判所判断が出ています。

在韓公館に関する事件

韓国では公館の安寧を脅かしかねない事件が多発してます。

在韓日本大使館ビル前で自爆ガソリンテロ未遂

2019年7月19日には在韓日本大使館前で車内のガソリンに火をつけて自爆した事件がありました。ビルの中に入っている日本大使館には被害はなかったようです。

在韓日本大使館前の数々のデモ

こちらはGoogleマップのストリートビューを見ると、警察の大型車両が旧日本大使館の敷地前の歩道に並べられており、警官の監視もあるようでした。

韓国法では大使館前100メートル以内のデモであっても、それが「集会が大規模に拡散する恐れがなければ」可能という裁判所の判断が出ていました。

ただ、それは通常のデモの場合であって、「旭日旗を切り裂く行為」に対しては許されてよいのか、疑問です。

その他

日本大使館の敷地内に韓国人の学生が侵入した事件や、韓国ソウル市内にあるフジテレビの事務所に侵入して旭日旗を破るパフォーマンスをするなどがありました。

そして数年前には米国大使のリッパート氏が切りつけられるという事件がありました。

とんでもない事件が多数起こっているといえるでしょう。

ウィーン条約違反でアメリカは提訴するか

アメリカは過去にもウィーン条約22条2項違反で相手国を提訴している事案があるので、今回も提訴する可能性が考えられますが、学生の侵入ということで軽微な事案の扱いにとどめるかもしれません。

以上